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真祖に嫁入り~どうしてこうなった~

怖いけど頑張った!! ~面白い娘、そして愛しの妻~

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 真祖はルリをじっくりと見つめる、品定めするように。
「ふむ、年齢と見た目が一致せぬが悪くない、髪も好みの黒だだが短いのが勿体ない。目はよい青色だ、宝石にも劣らぬ、見た目は私の好みだ、問題は性格だが、用意させた資料を見る限り性格にも問題は見えなかった」
 じっと顔を見つめ、髪を触り、目の部分を指でなぞるように撫でる。
 ルリは色々と頭がパンクしそうになっていたのでされるがままだ。
 いつもならそんなことをする輩には男だろうと女だろうと拳で制裁していたが、現在それができない。
 相手は真祖なのだ、自分の住んでいた国と色々あって、二千年の間に文明、文化、科学などの発展でも圧倒的な差をつけて、今では自分の国がお零れを預からせてもらっている国の王だ。
 人間だったら、恐怖と緊張で漏らしていた、この時ばかりは自分が不死人になってて良かったと思った。
 だが、汗は止められない、汗がじわっと体からにじみ出ているのが分かる。
「あ、あの……他の人を待つとか、他の人が出たら交換とかは、無い、ですか?」
「無い。私はお前が気に入った」
 ルリは自分の逃げ道は完全になくなっていることを悟る。
 しかし、何をされるか分からないという状況は非常に好ましくない。
「……私の意見とかも聞いてくれますか?」
「内容にもよるが、許す。話すがいい」
 自分の意思を完全に無視するわけではないようだ。
 まぁ、自分のやんわりとした妻になりたくないという意見を一蹴されたのは困ったが。
「私は恋愛経験が全くありません、そういう意味で誰かを好きになったこともつまりありません、ですから先に言わせていただきます。私は貴方を好きになるかどうかわかりません、というか色々あった為好きになる自信がありません」
 ルリははっきりと言った、これで機嫌を損ねたなら別の誰かが来るだろう、そんな願いも込めて正直に言った。

 ルリには恋愛経験がないのだ。
 父親が過保護だったからか、それとも違う何か理由があるかはわからないが、ルリは生まれて一度も恋愛的な意味で誰かを好きになったことはない。
 それに、ルリは誰かに恋愛的な意味で「好き」と言われた事もない、だから恋愛は彼女には縁がない物だった。
 友達が恋愛の話をしているのを聞いて「へーそうなのか」と思う程度だった、特に憧れもなかった。
 恋愛のゲームもあったが、彼女は全く興味が無かった。
 彼女は、産まれて一度も誰かを恋愛的な意味で愛したことはない、好きになった事がない、だからこそ言わなければならなかった。
 妻だから愛して当然と言われるなら、自分にはできない可能性が高いとルリは思っていたからだ。
 真祖が自分の事を愛する女性を求めているなら、自分はそれができない、真祖の為にも、自分の為にも、はっきりさせておかなければならなかった。
 それが、真祖の機嫌を損ねることになっても――ルリはそう思ってはっきりと述べた。

「……ふ、はは、ははははは!!」
「……」
 急に笑い出した真祖を、ルリは少し遠い目――冷めたような、引いてるような目で見つめた。
「こんな愉快な娘は初めてだ!! 私の『妻』かそれに次ぐ位を与えられたいと、多くの者達が私に愛の言葉を吐き出すというのに、お前は『愛せない』かもしれないと言ったのだ、他の者が聴いたら激怒するだろうが、私には良い!」
 真祖の言葉に、ルリは段々と嫌な予感がしてきた。
「いいだろう、それで構わぬ!! 私を愛していないお前が誰を愛するのか興味がある、それに私にもお前が私を愛するようにさせる、という一つの楽しみができた」
「え、えー……いや、その、私が真祖様以外の人好きになったらどうするんですか……」
 ルリは真祖の言葉に困惑したまま問いかけた。
「別に構わぬ、どうせお前が会うのは私の配下くらい――……ああ、奴が来る可能性があるな、まぁ奴でも構わぬか」
「奴?」
「お前はまだ知らなくてもよい、いずれ会うだろう」
 ルリは混乱しつつも、次に言わなくてはならないことを必死に頭の中から引っ張り出す。
「真祖様が、それでいいのならよいですよもう……えっとそれと、恋愛経験とかないの分かったと思うのと――多分血で分かった可能性があるのですが、私は経験がありません」
「経験――ああ分かったとも、処女であることなら」
「……まぁいいや、はい、私は処女です、ですので――成人しておりますが、性行為をしたいと言われてもちょっとその……困ります、色々と、はい正直に述べます、怖いんです。心の準備何もできてません、ですので性行為は私の心の準備ができるまでしないでいただきたいです」
 ルリはきっぱりと言った、これも重要だったからだ。

 恋愛経験がなくても、性行為などの経験がある同年代を知っている。
 だが、ルリはそういうタイプの存在ではなかった。
 性行為は本や知識として幾分か知っているが、実践するというのには何一つ興味が湧かない。
 正直そういうことをやる勇気も興味も今のところない、できることなら心構えがでるまで、そっとしておいて欲しい。
 本で読んだことはあるが、だが実際やるのは別問題、夫婦になったからやらなきゃいけないと言われてもそもそも古い言い方で言えば自分的にこの状態は政略結婚みたいなものだし、話を聞く限り世継ぎは現状の所求めているとは聞いていないとのことなので、そうでもないのなら、性行為は当分先送りにしてほしかった。

――うん、体格差的に厳しい、性行為いきなりするとか言われたらマジで逃げよう――

 ルリは逃げれる自信は無かったが、逃げ出したら多分諦めてくれるだろうという感じで考えていた。
 そう望んでいた。

「――そうか、なら仕方あるまい、我慢しよう」
 真祖の言葉にルリは安堵した、これでするとか言われたら急いで逃亡する気だった。
「しかし私ばかり我慢するのはいささか不公平ではないか?」
「……いや、その私の人権とか意思ガン無視で妻にさせられてるんですが、それはどうなんでしょう」
「まぁ、それはそうだな」
 ルリの言葉に納得しているように見える真祖、しかし本当にそうなのか全く分からない。
 初対面の存在の心理や性格を把握するなどできないのが普通であり、その普通の中に入っているルリに、遥か昔から生き続けているこの真祖の心を理解するなど無理だとルリ自身が自覚していた。
 だから、真祖の言葉には気を付けて耳を傾けていた。
「だが、お前には守ってもらわねばならぬことがある」
「なんでしょうか?」
「城の外へ出るな」
「いやちょっと、私ひきこもり生活嫌いじゃないですけど、外出たい時は出たいんで出してくれませんか?」
 監禁宣言にルリは流石に嫌だと反論した。

「下手に外に出たらそこら中の吸血鬼がお前の血を求めて襲ってくるぞ」

「――待って、どうしてそうなるんです⁇」
 ルリの言葉に対する真祖の言葉にルリは耳を疑った、そんな話聞いていないからだ。
「お前を連れてきた配下は今お前の匂いに当てられて正気を取り戻すため吸血の最中だ」
「は?」
「聞かされておらぬようだな、不死人の血は吸血鬼にとって処女や童貞の清らかな血など比べ物にならないほどの極上の代物。それにお前は不死人なりたてで弱いが、時間が立てば強くなる匂いにやられる程度の吸血鬼などそこら中にいる。最近の研究では血のつながりのない人間も匂いにやられて襲おうとする輩が出たそうだ」
「はー?!」

――待った、それ私実家に帰るのも無理になってない?――

「まぁ、この城で過ごすのは問題ない、後お前の身内に会うだけなら問題ない、それ以外に会うと貞操以外の面でも危険にさらされるぞ」
 真祖の言葉は、ルリがある意味とんでもない存在になったことを再度理解させた。
「よいな、だから城からは出るな」
「は、はぁ……」
「他に私に言いたい事はないか?」
「……色々あり過ぎてちょっと言い切れないので今後少しずつ言わせてください」
「良かろう、では部屋へ案内しよう」
 真祖がルリを抱きかかえると、周囲を闇が包み込んだ。

 闇がはれると、広い部屋が目に入った、ガスコンロなどが無いことを除けば、テレビで見る有名人が住んでいそうな雰囲気もある広い部屋だ、壁、天井などは闇の色をしているが。
「此処が今日からお前の部屋だ好きにくつろぐといい」
 真祖はルリを立たせる。
「……うわ、広い」
「ならば良かった、さてこれから此処で暮らすことになるのだが、お前に世話役を用意した」
「え、さっき私身内以外は会うの不味いような発言聞いた気がするんですが」
「お前の身を害することは無い者だ、案ずるな」
「は、はぁ……」
 ルリが不安そうな顔をすると、真祖はルリの頬を撫でる。
「何かあれば私に言うがいい」
「は、はい……」
 ルリは上手く困惑したまま、答えた。

「アルジェント、ヴィオレ」

 扉の方を見て、真祖が何者かの名前を呼ぶ。
 ルリが扉を見ると、扉が開き、綺麗なメイド服を身に着けた紫の髪の女性と、紋様が入ってて何処か神秘性のある衣服に身をつけた、銀灰色の髪の男性が入ってきた。
 女性の方は何となく、口からわずかにのぞき見えた牙で吸血鬼と分かった、男性はそういうのがないので年が割と近そうな人間に見えた、雰囲気はともかく。
「お前の世話はこの二人に任せる、何かあれば言うがいい」
「は、はぁ……わかり、ました」
「では私は戻る、後は任せたぞ」
「畏まりました真祖様」
「仰せのままに」
 真祖が居なくなると、ルリは緊張感で立っていた体が支えが無くなったようにその場にへたり込んだ。
 女吸血鬼が足音もなく素早く近づいてきた。
「奥方様、大丈夫ですか?」
「あ……はい」
 男性も近づいてきて、ルリを姫抱きした。
「うわ!?」
「アルジェント、もっと優しく抱きかかえなさい!」
「申し訳ございません、ヴィオレ様。奥方様、大丈夫ですか」
「……あ、は、はい、少し腰が抜けました……」
 男性――アルジェントはルリをベッドの所まで連れていき、そっと座らせる。
 ルリはふうと息を吐いた。

 なんとか会話をしていたものの、本当は怖くて仕方なかったのだ。
 会話していた相手は吸血鬼の国の王だ。
 よく、とんでもない内容と思われかねない会話をしたとルリは自分で思った。
 だが、言っておかなければ何か後々こじれそうな予感がしたのだ。

「……あの、奥方様ってちょっとなんか嫌だから止めて欲しいのですが……」
 ルリはちらりと二人を見ていった。
「では、なんとお呼びすれば」
「ルリでいいです、えっと……」
「私はヴィオレです、ルリ様」
「私はアルジェントと申します、ルリ様」
「……まぁ妥協します……」
 ルリは「様」づけ呼ばわりに変な感じを覚えたが、自分の今の立場は「真祖の妻」ということなので、呼び捨てができないのだろうと納得した。

 ルリはちらりとアルジェントを見た、ヴィオレは自分の傍にいるが、アルジェントは出入口である扉の前に立っている。
 ヴィオレとは違う、何か妙な視線を感じるが、ルリは気のせいと思う事にした。



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