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泣き虫令嬢の幸せ
しおりを挟むデイヴィットは、真実の裁判の間にエステルを連れてきた。
拘束されているエリオット・オルコット、アデル・ガーネットが、罵詈雑言をエステルに向けているが、エステルは聞かぬふりをしている。
内心傷ついているのではないかと心配だった。
また、犯罪者の両親であるオルコット伯爵と、ガーネット伯爵は顔面が蒼白になっている。
「黙るがよい」
兄たる国王陛下の魔法で、犯罪人二人は黙らせられる。
「エリオット・オルコット、アデル・ガーネット。汝らはアッシュベリー伯爵一家を殺すために火をつけ、凶器を持っていたな?」
「当たり前だ!! こいつ等の所為で僕等はこんな目にあってるんだ!!」
「そうよ、そうよ!!」
『その言葉、真なり』
自棄になっているような二人に、デイヴィットは内心ため息をつきたくなった。
「――感情任せに行動するところは変わってないのですね。だからエリオット、貴方はアデルの『浮気』に気づかなかったのよ」
「う、浮気?!」
「う、嘘よ、浮気なんて――!!」
『その言葉、虚偽なり』
「あら、知らなかったの? 独身で壮年の貴族の方々とそういう事をしていたの、有名だったみたい……私も知ったのは貴方方と別れてからだけども」
『その言葉、真なり』
「アデル……?!」
父たるガーネット伯爵も初めて聞いた内容らしく、膝をついている。
デイヴィットも知っている噂だが、前回あえて言わなかった事を、エステルは言っている。
「御令嬢がそんな事をするなんて……ねぇ」
エステルは冷たい視線をアデルに向けている。
「陛下、彼女はこのような方ですから、どうです。最下層の娼館で働かせては?」
デイヴィットはそう提案した。
「い、いやよ最下層の娼館なんて!!」
「――よかろう、アデル・ガーネット。其方は最下層の娼館の娼婦として売り飛ばす。その金額をアッシュベリー一家への賠償に充てる。また、其方が稼いだ金の一部をアッシュベリー一家への賠償に充てる以上だ」
「いやよ、いや、助けてエリオット!!」
連れていかれるアデルを、エリオットは呆然として見ていた。
非常にショックだったのだろう。
「エリオット、貴方は酷いわね。そんな女と浮気をして、挙句私達を殺そうとだなんて……」
「ち、違うんだ、エステル!! 僕は――」
「今更いい訳? さっき私達の所為でこうなったから殺すとか言っていたくせに?」
エステルは静かにエリオットを見据えていた。
「こんな外道な男、見たことないわ。ドリスさんの元婚約者もここまで酷くはなかったわ」
エステルは静かに言い放った。
「貴方も、アデルと一緒で好色――性欲旺盛だものね、貴方と別れた後、噂で聞いたわ、娼館に出入りしてたって、貴方も相当ね」
『その言葉、真なり』
「……でもどうしましょう、貴方への罰が思いつかないわ……」
「エステル、貴方に聞かせるのもアレですが男娼というものもあるのですよ。男版の娼婦、と思ってくだされば。どうです、先ほどの罪人と同じように色欲塗れの末路にはふさわしいでしょう?」
「……」
エステルは静かに頷いた。
「では、陛下」
「うむ、エリオット・オルコット、其方は男娼館へ男娼として売り飛ばす、他は先ほどと同様だ」
「待ってくれ!! 嫌だ!! 助けてくれエステル!!」
叫ぶ罪人が連れ去られた後、静かになった裁判所で、エステルはぽろりと涙を流した。
「エステル?」
「……ごめんなさい、いいですか……」
デイヴィットは兄である国王の顔を見ると、国王は静かに頷いた。
「いいですよ」
「~~~~何で二人とも家族を傷つけるような行為ばかりするの!! 私はもうデイヴィット様がいらっしゃるから二人の事でどうこう傷つかないけど、何でご両親や兄弟の事を考えられないの馬鹿ああああああああ!!」
『その言葉、真なり』
真っ青になっていた、オルコット伯爵と、ガーネット伯爵の顔色が戻り、おろおろとし始めた。
兄である国王はぽかんとしていた。
デイヴィットは――
罪人に対する感情はもうどうでもよく、罪人の身内に対する不安をぶちまけていた彼女の優しさに歓喜していた。
――ああ、私の目は間違いではなかった――
デイヴィットは生まれつき嘘偽りや感情を見抜く能力を持っていた。
だから、人の偽りに耐えられなかったがそれのないエステルに心から惹かれていた、だから自分の婚約者にできたことを心から喜んでいた。
「陛下、私の婚約者がこういっておりますので、オルコット伯爵とガーネット伯爵への罰は無しでお願いします、見ての通り、私の婚約者は心優しいのですよ」
「ごごろやざじぐないでず……」
ぐすぐすと泣くエステルの顔をデイヴィットはハンカチで拭った。
「優しいですよ、エステル。私の可愛い婚約者」
『その言葉、真なり』
「ええい、デイヴィット!! ここでそういうのろけはやめよ!」
「これは失礼しました陛下」
デイヴィットはそう言ってエステルと共に部屋から退出させた。
エステルの願い通り、オルコット伯爵家と、ガーネット伯爵家の罰は無しとなったが。
それでは気が済まないと、アッシュベリー伯爵家とフォスター公爵家に両家から大量の贈り物が毎年届くようになった。
一度目の婚約破棄から2年後、私とデイヴィット様は結婚しました。
式はとても偉い方々や王族の方々が集まり緊張しましたが、デイヴィット様のおかげでなんとかなりました。
ただ、王族の方々から「よくぞデイヴィットと結婚してくれた!!」と感謝されました。
どうやら、デイヴィット様、結婚したくないから国内情勢を把握と称して商人をしていたそうです。
デイヴィット様は変わり者と呼ばれていたそうです、商人に身分を偽ってそこまでするとか変すぎると。
そのデイヴィット様が商人になるのも、私と結婚してからは無くなり、王族の方々は一安心しているようです。
でも、商人のフリをしていたデイヴィット様と私はお会いできたのだから、良かったと思います。
エリオットと結婚せずに済んだし。
もしくは婚約破棄とかであれこれなることもなかったですし。
「あの、デイヴィット様」
「どうしたんだい、エステル」
「その……少し恥ずかしいです」
膝の上に座らせていただき、抱きしめられている私はとても恥ずかしかったです。
デイヴィット様の息遣いとかを感じられて、とても緊張してしまって――
「そう言えば、オルコット伯爵家と、ガーネット伯爵家から贈り物が届いていたよ?」
「今年もですか? んん……もう気になさらないでといいましたのに……」
「仕方ないさ、本来なら爵位没収じゃあ済まない事態を追放されたとはいえ子がやらかしたんだから」
「……あれからあの二人は脱走もできず、でしたっけ?」
「ああ、そうみたいだよ。やれやれ、前の場所で真面目に罪を償えばよかったのにね」
「そうですね……」
嘗ての婚約者と幼馴染に何も思いを抱かない訳ではありませんが、せっかく改心する権利を与えられたのに投げ捨てるのは、悪い事をやった意識がないからなのでしょうと、思ってしまいます。
「エステル」
「はい、何でしょう……」
考え事をしていて、声に反応して顔を上げると、額に口づけをされました。
「深く考えなくていい、彼らの事はもう終わった事だ」
「……そうですね」
私は頷きます。
「エステル、愛しい妻」
「デイヴィット様……」
「君がいれば、私はそれで十分だ」
「有難うございます、デイヴィット様」
そう言って顔を見合わせてから、そっと唇を重ねました。
優しい口づけでした。
口づけを終えてから私は笑いあいました。
嬉しくてちょっとだけ涙が零れました。
泣き虫エステル、泣き虫だった私。
泣き虫は完全には治らないけど、貴方は素敵な人に愛されるわ。
裏切られて傷つくけども、素晴らしい人に出会うわ。
泣き虫だった私に、まださよならはしないけれども――
貴方が泣き虫だったことは決して悪い事じゃないから。
泣き虫エステル。
貴方は、私は、とても幸せよ――
END
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