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裁判、そして秘密とされたこと
しおりを挟むデイヴィットは静かにお茶を飲み、落ち着いた表情をしているエステルに安堵した。
エステルには話せないからだ――
それは、裁判があった日の事。
オルコット伯爵とその嫡男、ガーネット伯爵とその娘、アッシュベリー伯爵、エイムズ侯爵と国王、デイヴィットが「真実の裁判」に立ち会った時の事――
「アッシュベリー伯、其方の娘エステルの申した事は誠か?」
国王が問う。
「真実かと。婚約者が熱を出したと聞いて、娘は見舞いの品を持っていくのを確かに見ました、そして帰ってきた時娘の言った内容は『婚約者エリオット・オルコットと、幼馴染であるアデル・ガーネットが性的行為を行っていたのを見て耐えきれなくて帰ってきた』との事です」
国王は自分の後ろにある、白亜の女性像を見る。
『虚偽にあらず、その言葉、真実である』
女性像から声がした。
「では、オルコット伯、ガーネット伯に問う。其方らは自分の子らがそのような関係だったと知っていたのか?」
「い、いいえ!! 全く!!」
「い、いいえ、知りませんでした。此度の件で初めて」
女性像は答える。
『虚偽にあらず、その言葉、真実である』
重い沈黙がその場を包む。
「――エリオット・オルコット。アデル・ガーネットとの件は此度がはじめてか? そしてどのような関係だ?」
国王の言葉に、エリオットは真っ青になりながらしどろもどもに答える。
「は、はじめてで――」
『虚偽なり』
「真実を述べよ!」
女性像の言葉を聞き、国王は圧を持って答える。
「……に、肉体関係を結んだのは半年ほど前で……12歳の頃からその……」
『虚偽にあらず、真実なり』
「エリオット?! それはエステル嬢と婚約をする前からか?!」
「……はい」
『虚偽にあらず、真実なり』
我が子の言葉に、オルコット伯爵は倒れそうになった。
「何故そのような事をした?」
「わ、私はその……エステルの泣く癖が苦手で……その事をアデルに話したら、そういう風に、なりました……」
「……エリオット・オルコット、私の娘と婚約した時に言った言葉と違うではないか!! しかも婚約は貴方方の方から申し出たのですぞ!!」
『その言葉、真なり』
「……」
デイヴィットは腸が煮えくり返る思いだった。
彼が見てきたエステルは確かに泣き虫だが、それだけではなかった。
喜びを分かち合い、悲しみを分け合い、辛さを共有し、涙を流す。
そういう優しい性質から来ているのを見てきた。
「エリオット、まさかお前エステル嬢を陥れる為に婚約をしたのではないのか? アデルと共謀して?!」
「そ、そんなこと、は」
『その言葉虚偽なり』
「エリオット!! お前という奴は!!」
「私の娘の件でも大層お世話になったエステルちゃんに対してそのような事をしていたのですね、オルコット伯の嫡男と、ガーネット伯の娘は」
いわれのない婚約破棄をされた娘の味方をして、娘を良縁へと導いてくれたエステルに恩があるエイムズ侯爵は明らかに怒りを隠せていない。
オルコット伯爵も、息子がそのような考えをしていたなどと思ってもおらず怒り心頭だ。
ガーネット伯は顔面蒼白になっている。
「さて、陛下。明らかになった事でどのような罰をお考えですか?」
「うーむ、かなり悩ましいがお前が持ってきた内容だ、それなりに罰を与えないと……」
「では私の方から案を」
「何だ?」
デイヴィットは兄である国王にこう言った。
「オルコット伯とガーネット伯は両親ともに、知らなかった故無罪、ですが子の監視が疎かだったことは否めない。なので選んでいただきましょう」
「選ばせる、何をだ?」
「爵位没収か、それとも問題を起こした子等を追放かの二択で」
「――何か考えがあるようだな、述べよ」
「アッシュベリー伯のご息女、エステルを私の婚約者にさせていただきたい」
「「「?!?!」」」
「つまり婚約解消して、私と婚約をし直す。解消理由は婚約者の不義。その不義の罰として先ほどの二択を」
「なるほど」
国王は頷いた。
宮中伯の息子が不貞を働いたでは、息子を廃嫡すればいいだけだ。
だが、息子が不貞を働き、婚約者が婚約解消した結果国王の弟であるデイヴィットと婚約したとなるならば、罪はより重くできる。
デイヴィット基王族の面子を保つために。
「それならば、爵位没収の上監視が良いのでは?」
「お言葉ですが陛下、エステル嬢は其処迄重い罪を求めていません。ですが、二人には二度と会いたくないでしょう」
「成程」
国王はオルコット伯爵と、ガーネット伯爵を見据える。
「さて、どうする?」
「「……」」
「私は二人の追放を求める」
そこへアッシュベリー伯爵が口をはさんだ。
「アッシュベリー伯?」
「貴方達がそうしろと命じたなら私は爵位没収や取り潰しを求めたが、二人だけの悪事ならばそれ以上は求めない。エステルもそうだろう」
「よろしい、では二人の追放だが――」
「ま、待ってください!! あ、あれはその気の迷いで――!!」
『その言葉虚偽なり』
「なんなのこの石像!! 私だって、そんなつもりは――!!」
『その言葉虚偽なり』
「その二人を連れて行け!!」
どうにもならなくなったと理解した二人はエステルへの暴言を吐き続けた。
それに対して、父親たるアッシュベリー伯爵がキレかけたが、それ以上にキレたエイムズ侯爵の方をなだめるのに忙しくなった。
暴言の内容はあまりにひどくてエステルには聞かせられないし、教えられないという事で暴言内容は秘密という事になった。
最初から「婚約破棄」をして傷つける為だけの婚約だと知ったら、エステルは深く傷つくのが分かっているから、デイヴィットは何も言えなかった。
だから、そんなことをしようとした男の事は忘れてもらおうと思うことにした。
ただ、今回の件でオルコット伯爵の立場が若干危うい状態なので、オルコット伯爵の次男はかなり厳しい教育をされるだろう。
ガーネット伯爵もかなり危うい状態になりかけているので大変だろうが。
「エステル、今日は時間はありますか?」
「では、買い物に行きましょう」
「は、はい……」
彼女は体を強張らせながら、私の手を取った。
私は目の前の美しいドレスに呆然としてました。
私の家では一生買えないようなドレスです。
「貴方が気に入ったものを一着プレゼントをさせていただきたい」
デイヴィットの言葉に私は困惑し首を振ります。
「こんな高い物いただけませんわ」
「ご安心ください、一着だけですから」
そう言われても困ります。
私はなるべく値段が低そうなものを選ぼうと努力しましたが、どれも美しくて高そうでわかりませんでした。
その中で一着、とても好みなドレスがありました。
きらびやかではないけれども、美しいレースや刺繍の入った薄い青い色のドレス。
私はつい見惚れてしまいました。
「お気に召したようですね、これにしましょう」
気づけば、デイヴィット様がお買い上げなさっていました。
「で、デイヴィット様!!」
「ふふ、良いのですよ」
「ですが……」
「これを着て私と一緒に踊って欲しいのです」
「えっ」
デイヴィット様の言葉に耳を疑います。
「ともに夜会に出て欲しいのです」
急な展開に私は混乱するばかりでした。
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