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泣き虫令嬢と変わり者な公爵
しおりを挟む翌朝、お父様とお母様の姿が見えず私は一人困惑しておりました。
もしかして応接室にいるのかとおもいたずねようとすると声が聞こえました。
私は扉に耳をそばだてます。
「フォスター公爵の趣味は聞いていたが、実際目にするとビビったよ……」
「でも貴方、そのおかげで私達は何事もなく無事だったのでしょう?」
「無事なものか、カール陛下が仲介人となってフォスター公爵とエステルの婚約が決まってしまったんだぞ」
――フォスター公爵?――
聞いたことがあります、変わりものと呼ばれていらっしゃるとか。
「昨日今日だから、エステルには言いづらいし……」
私は扉を開けました。
「お父様、それは本当ですか?」
「え、エステル?!」
お父様は驚いていました。
「ど、どうしてここが?」
「だって、お父様とお母様の姿が見えなくて……聞いてみたところ、執事や侍女も知らないと……だから探して……」
「……しまった……適当に理由つけておけばよかった……」
「貴方……」
お父様、たまーに失敗をするのが欠点です。
わりと失敗の内容が大きいとお母様のフォローも大変です。
――今回は……どうなのでしょう?――
「どうしてフォスター公爵様が?」
「その……公爵様がお前を気に入ったらしい」
「え? 私、お会いした事がありませんわ」
「……まぁ、お前からすると今はそうだろうなぁ」
お父様は言葉を濁します。
「貴方、確かにフォスター公爵は年が離れているし、変わり者かもしれないけど陛下の信頼の厚い御方よ。心配しなくても大丈夫よ」
「いやその……うん、そうだな、そうだな!」
お父様は若干自棄になった感じで自分に言い聞かせていました。
「フォスター公爵様……」
――一体どのような御方なのでしょうか?――
「フォスター公爵様は、7日後にこちらに来るそうだ、それまではエステル、大人しくしているんだ」
「はい」
私は静かに家にいる事にしました。
玄関が少し賑やかだなと思いながら見てみると、あの商人さんがやってきていました。
「エステル様、この方フォスター公爵と知り合いの商人様らしくて、フォスター様より送りものを届けに来てくださったそうです」
「え……」
商人さんはニコリと笑います。
「改めて、私はデーヴィッド・サイファー。商人です。フォスター公爵様よりエステル様へ贈り物を」
美しい顔を微笑ませて言う、商人さんに、思わず私の顔が赤くなります。
――だめだめ、私はフォスター公爵様と婚約したのよ?――
――あの二人みたく裏切る行為はしたくないわ――
「贈り物とは、何でしょうか?」
「『7日後私が貴方にお会いする時に身につけて欲しい』と」
そう言って、サイファーさんは、私に青い美しいドレスを見せてくれました。
「まぁ……!!」
以前は元婚約者の頼みでピンク等の色の服を着ていましたが、私の好きな青い服を着せてもらえるなんて、と。
感激している私に、サイファーさんが囁きました。
「後『よかったらサイファーから貰ったあの指輪をはめて欲しい』と」
「フォスター公爵様は、指輪の事を知ってらっしゃるのですか?」
「はい、何よりあれはフォスター公爵様の贈り物ですから」
サイファーさんからの祝いの品でないことにがっくりしつつも、フォスター様がどのような方か、とても気になりました。
「あの、サイファーさん」
「何でしょうか、エステル様」
「フォスター公爵様とはどんな御方でしょうか?」
「エステル様がお会いしたらびっくりするような方ですよ」
「?」
にこにこと笑っているサイファーさんの意味が分かりませんでした。
7日目、私はドレスを身に着け、お化粧もしてもらい、フォスター公爵様がいらっしゃるのを待ちます。
ロビーで待っていると扉が開きました。
フォスター公爵様は鍔広の帽子を目深に被っておりました。
「お招きいただき光栄です、アッシュベリー伯爵殿」
そう言って帽子を取って会釈をして私の視界に映った顔は――
「さいふぁー……さん」
あの商人――サイファーさんのお顔でした。
フォスター公爵様は茶目っ気に笑い、私にウィンクをするとこういいました。
「改めて名乗りましょう。私はデイヴィット・フォスター。デーヴィッド・サイファーは私が身分を隠している時の名前なのですよ。エステル嬢」
開いた口がふさがりません。
「本当はあの時名乗るのも手だったのですが、下手に名乗ると御令嬢はより何もしゃべれなくなってしまうと思い、偽名で通させていただきました、エステルさん、どうかお許しください」
そう言ってサイファーさん――フォスター公爵様は私の前で膝をつきました。
「そ、そんなことはありません!!」
でも、戸惑いが隠せませんでした。
「……エステル、お前には今まで黙っていたが、お前が公爵様に事情を話した結果、元婚約者と浮気相手を追放できたんだ」
「え?!」
「ええ、嘘をつけぬ裁判所にまで引きずり出して裁判をし『このような不貞をする輩を宮中伯として跡継ぎに相応しいでしょうか?』等という話を出した結果、二人は家から追放となりました」
「あの、追放というのは何処に……」
「逆恨みしてこないように、もう既に元婚約者様は鉱山労働、浮気相手は修道院へ行かされましたよ、おそらく戻ってこれないかと」
「……」
フォスター公爵様の言葉に、ほっとしたと同時に、また涙が出てきました。
やっぱり私はあの二人に裏切られたんだなと思うと涙が止まりません。
「エステルさん、辛かったでしょう。でも、安心してください」
「私は貴方の伴侶として、貴方を裏切る行為はしません。ただ最初経歴詐称したのはどうかお許しを」
私の涙をぬぐって、フォスター公爵は少しだけ罰が悪そうに言うのに、私は余計泣いてしまいました。
「泣いてもいいんですよ、エステルさん。涙が流せないのはとても辛いですから」
そう言われて、私は救われた気分になりました。
『泣き虫だなエステルは』
『本当、エステルは泣き虫ね』
ただ、その直後、幼い頃あの二人に言われた言葉を思い出してしまいました。
『泣き虫令嬢』
そう私をからかう人もいました。
本当に、そんな私がフォスター公爵様の婚約者でいいのでしょうか?
「思い出して悲しいのですね、泣いていいんですよ」
そう言って私が泣き止むまでフォスター公爵様は涙をぬぐってくれました。
「では、次は私の屋敷で、宜しいでしょうか?」
「はい……」
泣き止み、少しお話をしてお茶をした後、フォスター公爵様はお帰りになられました。
帰るとき「いつか笑顔もたくさん見せてくださいね」と言われて嬉しくて泣いてしまいましたが。
私は今度はちゃんとやっていけるでしょうか?
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