上 下
17 / 18

水の厄災~そういうの早く言ってよ~

しおりを挟む



『今代の鎮めの乙女……』
「はいーなんですかー」
 美咲は黒い空間でリフレインと対話していた。
『貴方の予想通り、私が完全に鎮めたはずの六つの厄災が解放されてしまいました』
「げ」
『つまり貴方は残り十一の厄災を鎮める必要があります』
「ちょっとまってー‼ 私まだ死にたくないー‼」
『安心してください』
「へ?」
 涙目になっていると、リフレインは困ったように微笑んで美咲の頭を撫でる。
『出現する間隔は長いです。問題は向こうが貴方を処女と認識していること』
「なんでそんなの分かるんですか」
『分かります、私はその為に世界と一体になったのですから』
「ちょ……凄くないですか」
『ただ、この事実は伏せておいて、私が完全に鎮めた六つの厄災が解放されたというのを夢で私から聞いたと話してください』
「リフレインさんから直接話すのは駄目なんですか?」
『鎮めの乙女同士繋がっているから話しやすいのですが、そうでないと負担が増すので……ともかく、それを伝えてくださいね!』
「ちょ、ま──」

「なんじゃそりゃああ⁉」

 美咲は夢から目覚めた。

「……はぁ、言わなきゃ駄目か」

 美咲は龍牙と王牙に来て欲しい旨を伝えた。
 癒やし部屋でその間お茶を飲んでいると──
「よぉ、美咲ちゃん。話ってなんじゃ?」
「美咲、この爺も交えて話しとは?」
「えっと、昨晩夢でリフレインさんが出てきたんですが……」
「ほぉ」
「どんなだ」
 二人が食いつく。
「……リフレインさんが完全に鎮めた六つの厄災が解放されたと」
「何だと?」
「やはりか」
「おい、爺気づいてたのか?」
 王牙の言葉に龍牙が問いかける。
「おそらく鎮めの乙女を完璧な状態で手に入れたいんじゃろう。そのために鎮めきった残り六つを無理矢理起こした」
「完璧な状態で手に入れても不老不死は得られんというのにな」
「そうだとしても、敵はそこまで気づいていない」
「あのー……つまり私は残り十一の厄災を鎮める必要があるんですよね?」
「そうなるのう」
「おい、爺ふざけるなよ」
「間隔は空いておる、負担になるようなことはないだろう、間隔を狭めてリフレイン様のように過労死させるつもりはないんじゃろ」
 美咲はふぅと安堵のため息をつく。
「安心するのは早いぞ美咲ちゃん」
「はひ?」
「奴らの狙いが君なのは変わりない」
「そうなんですよね……」
「全てが終わるまで君には軟禁生活を強いることになるが大丈夫かの?」
「あ、大丈夫です、買い出しには行ってくれる人がいますし……」
「それならいいんじゃがな」
「どこに潜んでいるか未だ分からないからな」
「そう、お前さんとこと、儂のとこは洗い出しが住んだが世界規模では洗い出しが終わってはおらぬ」
「せかいきぼ」
 美咲はぽかんと口をあける。
「そうじゃ、世界規模で奴らの仲間──支援者がいる」
「どこにいるかは分からんが、見つけ次第対応すればいいのだろう?」
「そういう事じゃ」
 会話をしていると王牙の携帯がなる。
「あー儂じゃが……分かった、すぐ向かう」
 通話を終えると王牙は美咲を見た。
「美咲、厄災が一つ近づいている。水の厄災じゃ」
「うへぇ」
「着替えはこちらで用意する、お主達はここに来てくれ」
 指定された場所は観光で有名なビーチだった。
「水の厄災……一体どんな」



「これ、水の厄災というか波と嵐の厄災じゃないですかー⁈」
 厚手のダイビングスーツに、酸素ボンベと特注のマスクをつけ、黒炎にしがみついていた。
 黒炎達はどうやってか水をはじいていた。
「さて、どうする?」
 鵤が黒炎に問いかける。
「なるはやで鎮めたいから近づいてー可能ならー!」
「OK!」
「承知した」
 黒炎と鵤は水の壁へと突っ込んでいった。
 美咲はがっちりとしがみついていたし、黒炎も美咲を抱きしめていた。

 しばらくすると、巨大なウミガメのようなものが姿を見せた。
 甲高い声をあげ、目からは涙を流していたが美咲の姿を見ると静まり、頭を下げた。
「美咲」
「ちょ、ちょっと待って下さいね!」
 美咲は慌ててダイビングスーツ類を脱ぎ、黒炎の補助もあって、その巨大生物の頭に自分の額を合わせた。




『何をそんなに泣いているの』
『奴らが貴方を好き勝手にしようとするのが悲しくて』
『大丈夫、味方がいるわ』
『それに海を荒らす輩が多いの』
『それは私達が一人一人解決意識を持って対応していくわ』
『本当?』
『ええ、皆に伝えるわ』




 厄災はすぅと姿を消して、美咲は黒炎の腕の中に落っこちた。
「大丈夫か美咲?」
「う、うん。えっとね、海を荒らす輩が多いから、その対応をして欲しいんだって」
「分かった。龍牙様とWGのトップに伝えよう」
「そう? ふぁ……眠いや……お休み……」
 黒炎の腕の中で美咲は眠りについた。




「──だそうです」
「海散々食い荒らしてきたからな」
「お前さん、反省せーよ」
「する」
「儂の方で各国に海の資源やその他諸々の保護を伝えよう、厄災が目覚めぬようにな」
「そうだな、それは兄者にしかできんことだ」
「それにしても、美咲ちゃんは肝がすわっとるぉ」
 すやすやと黒炎の腕の中で眠っている美咲を指刺して王牙は言う。
「普通の女性なら、お前さん達にびびってもおかしくないぞ」
「それもそうだな、ヴィランの組織で命がけで癒やし係をやっている時からもう、腹をくくっていたのかもしれん」
「命がけって……何させとるんじゃ?」
「俺はしてない、部下がかじりたがったり、首を欲しがったり、心臓触りたがったりとアレなもんでな」 
「今すぐ美咲ちゃんをこっちに来させたくなったわ」
「まぁ、今は安全だ、黒炎と結婚したのをしっているから、皆冗談で我慢している」
「冗談でも言わん方がいいんじゃないかの?」
「確かに」


 龍牙に言われてすぐ、ドラゴンファングの本拠地に戻り、美咲の部屋に入り、美咲を寝かせる。
「……」
 少々顔色が悪くなっている美咲の頬を撫でる。
 少し冷たくなっていた。
 そんな美咲の唇に、黒炎はそっとキスをして、毛布をかけて部屋を後にした。




『厄災はあと十、何とか頑張って』
「頑張りますけどもー!」
 美咲は自棄になって言う。
「あの時龍牙さん達と話してたじゃないですか、なんで私に夢の中で?」
『実はあれ、無理してたの。二人を止めるためにはああするしか無かったの』
「はぁ……」
 美咲は龍牙とWGのトップの長年の軋轢を感じた。
 だが、それほど二人にとってリフレインの存在が大切なのも理解した。
「まぁ、頑張りますよ」
『お願いよ?』
「へいへい」
 後、十個の厄災、どうやって止めるべきだろうかと美咲は考えた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

天満堂へようこそ 4

浅井 ことは
キャラ文芸
♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚ 寂れた商店街から、住宅街のビルへと発展を遂げた天満堂。 更なる発展を遂げ自社ビルを持つまでに成長した天満堂だが…… 相変わらずの賑やかな薬屋には問題が勃発していたが、やっと落ち着きを取り戻し始めた天満堂で働く者達に新たなる試練が? 試練の先にまた試練。 住宅街にある天満堂では、普通のお薬・日用品をお求めください。 人外の方は天満堂ビル横のBER TENMANのカウンターまでお越しください。 ※どんなお薬でも作ります。 ※材料高価買取。 ※お支払いは日本円でお願い致します。 ※その他応相談。 ♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

こちら夢守市役所あやかしよろず相談課

木原あざみ
キャラ文芸
異動先はまさかのあやかしよろず相談課!? 変人ばかりの職場で始まるほっこりお役所コメディ ✳︎✳︎ 三崎はな。夢守市役所に入庁して三年目。はじめての異動先は「旧館のもじゃおさん」と呼ばれる変人が在籍しているよろず相談課。一度配属されたら最後、二度と異動はないと噂されている夢守市役所の墓場でした。 けれど、このよろず相談課、本当の名称は●●よろず相談課で――。それっていったいどういうこと? みたいな話です。 第7回キャラ文芸大賞奨励賞ありがとうございました。

処理中です...