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第六章:こんなハーレムいいですか?
宴の始まり~トラブル何て本当ごめんですよ!~
しおりを挟む「……」
婚約発表の宴が始まる日の昼頃、私はめちゃめちゃ憂鬱になっていた。
マリッジブルーではないとは思う。
どちらかと言うと招いていない参加者の事が不安なのと、顔を合わせた記憶がない各国の王様と顔合わせするのが非常に面倒くさいのだ。
「ダンテ、面倒なのは分かるが。我慢をしてくれ」
エドガルドが私の髪の毛を編み込みながらそう言う。
本来は執事のフィレンツォの仕事なのだが、エドガルドが代わることを求めたのでこうなっている。
「我慢しているというか、何か今日嫌な予感がするんですよね?」
「なんだ、ヴァレンテ陛下の事か?」
「はい?」
「……覚えてないのか。フィレンツォの話では、お前は幼少時ヴァレンテ陛下とお会いした時、ヴァレンテ陛下に『次期国王じゃないならこの子僕の伴侶にしていい?』と言われて大騒動を引き起こしたらしいぞ、向こうが」
「は?」
エドガルドの言葉に耳を疑う。
そして記憶を探り出す。
「あ」
該当する記憶があった。
なんかチャラそうな人に抱きかかえられてそう言われた記憶があった。
――マジかーヴァレンテ陛下チャラ男かー……嫌だな会いたくない――
思い出した事でよりげんなりした。
「そういえばそんな事ありましたね……父上とフィレンツォの形相のすさまじさに忘れてました……」
「……今だから言えることだが、裏で私はヴァレンテ陛下の顔面に拳を喰らわせた」
「は?!」
「『私の弟に何する』と暴れてやった事だから不問にされたがな……」
その話を聞いて、ヴァレンテ陛下はチャラ男かもしれないが、かなり寛大な人物かもしれないと思った。
「まぁ、あの時は色々あったな……」
エドガルドがそう言って手を止めたので、振り向くと遠い目をしていた。
「……あの何があったのですか?」
「カリーナ陛下はまだ国王になったばかりだったので、状況に呆然としてて、アウトゥンノ王国前の国王……処刑されたアレだ、アレは私の事をあざけるような発言をして父上と母上の怒りを盛大に買っていた……」
「……」
――もしかして、あんまりにも情報量多くて思考停止してた、その時の私?――
『正解だ、いやはや覚えてなくて良かったな』
神様に正解と言われても、全く嬉しくなかった。
「……今日の祝宴で何かあったら私は胃袋に穴が開きそうです」
私は憂鬱の吐息を吐き出した。
第一神様に言われた招かれざる訪問者、参加者、四大守護者が姿を変えてまでやってくるのだ。
――リラックスさせてくれ誰か!!――
――このままだと私はげろる!!――
――リバースする!!――
そんなことを一人考える。
「ダンテ」
「何です……」
呼ばれて振り返ると、エドガルドにキスをされる。
触れ合う程度のキスだけれども。
その後抱きしめられて、頭を撫でられる。
「宴が終わったらゆっくり休もう、それまでは私達が支えるから」
微笑んで言うエドガルドに、私は少しだけ気が楽になった。
「……ありがとうございます、エドガルド」
「気にするな」
祝辞とかは割とお決まりだったので、まぁなんとかなった。
が、それが終わって宴本番に入ったら――
予想斜め上だった。
「いやぁ、あの美少年がこんな美青年になるとは僕の目は節穴じゃなかったね!!」
バンバンと背中を叩いてくる、見た目アラサーで美形の銀色と桜色のグラデーションの髪に、真紅の目の血色の良い肌の男性――ヴァレンテ・プリマヴェーラ。
ヴァレンテ陛下に絡まれて私の精神的な負担はマッハで上がっていく。
――陽キャは苦手なんじゃ!!――
と心の中で叫んで、表では取り繕う。
「ヴァレンテ陛下。あまりダンテ殿下に絡まないで頂きたい。ダンテ殿下は貴方のような方が苦手なのですから」
エドガルドが眉間にしわを寄せて、ヴァレンテ陛下から私を引き離した。
「えーそうなのかぁ、ちょっと残念だなぁ。てっきり四人も伴侶を作って、比翼副王もいるから僕と似たような感じだと思ったんだけども」
「真逆です、ダンテ殿下はヴァレンテ陛下とは真逆なのです」
「そっかーそれなら仕方ないねぇ」
陽キャは陽キャのまま去っていき、今度は父に絡み始めた。
父は非常に鬱陶しそうにしていた。
父には悪いが終わるまで相手をしてもらおうと思った。
「ダンテ殿下。改めてご婚約おめでとう」
見た目二十代半ばの真っ青な髪に、日に焼けた肌に碧色の目の女性が近づいてきてそう言った。
カリーナ・エステータ陛下だ。
「有難うございます、カリーナ陛下」
「それにしてもすまんな、お前にアナベル伯爵家とシネン男爵家の件を任せて」
「いえ、任せていただけたのでこちらとしては助かりました」
最初はくそ面倒臭いと思ったが、今では良かったと思っているので私はそう返す。
「いや、すまんな。ジラソーレ伯爵家に関してのごたつきと、お前が保護したプリマヴェーラ王国のヴィオラ家の三男の件、うちの所にも波及しててそれでかなり手一杯だったのだ」
「あー……」
そこまで大事になっていたのに今気づき、そりゃ少しでも任せれる相手に任せたいと思うなと思ってしまった。
「ところで、あの両家の跡継ぎの予定の二人と婚約したのだ、何か考えがあるのだろう?」
「ええ、王族特権という奴で、二人の願いを尊重して次の跡継ぎを指名させていただこうかと」
「ふむ、少し聞かせてもらおうか」
「はい」
カリーナ陛下にたずねられ、私は自分の知り得る両家の事と、アルバートとカルミネが跡継ぎに指名したい二人の事について説明をした。
事細かに。
「ふむ、アナベル家の跡継ぎは長女のアナトリア。シネン家の跡継ぎは三男のエネーアを望むと……二人も了承済みだと」
「はい、後はカリーナ陛下が両家におっしゃってくだされば……」
「構わぬ、で次男と叔父等の輩達はどうする?」
「叔父二人に関しては処刑で構いませんが、次男達に関しては労働監獄行きでお願いします」
「わかった。それにしても、お前は良く色んな家の厄介ごとに巻き込まれるな、ダンテ殿下……」
呆れと同情の言葉に私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「何と言うか、貴殿が関わっていくというより、貴殿に厄介ごとが吸い寄せられている気がしないでもない。そういう気質なのだろうか……」
「はははは……さ、さぁ、どうでしょう?」
半分事実、半分首を突っ込みなので私は空笑いでごまかすしかなかった。
で、正直近づきたくない氷点下状態の兄弟。
エルヴィーノ陛下と、クレメンテだけの空間はマジで誰も近づこうとしない。
じと目のクレメンテに、今までとは違う真面目な目つきのエルヴィーノ陛下。
正直首を突っ込みたくないが、神様から事前に「首を突っ込め」と言われたので突っ込むしかない。
「クレメンテ」
そう呼べば、じと目ではなくなりはにかむような笑顔のクレメンテがこちらを向き近寄ってきた。
「ダンテ!! 他の国王様達とのお話は終わったのですか?」
「勿論です」
そう言って、私はクレメンテの頬を撫でる。
彼は幸せそうな表情を浮かべていた。
それがとても心地よい一方で――
エルヴィーノ陛下の視線が凄まじく痛い。
――やるしかないか――
私は心の中でそう決意し、エルヴィーノ陛下を見据えた。
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