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第五章:結ばれた縁と謎

私はずるい人なのか?!(ずるいと言うか、鈍いだけだなfrom神様)

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 エリアが私の寝室に来た翌朝の朝食後、アルバートとカルミネを呼びに行くまで時間があるからと屋敷の応接室にフィレンツォに連行された。

「ダンテ様、本当に何もなさってないのですね?」
「いや、だから添い寝して欲しいって言われたからしただけだよ。兄上が精神的に病んでいた時やってたのと似た感じで」

 若干圧のある怖い表情をしているフィレンツォに正直に言うと、フィレンツォは呆れたように言って何か呟いた。
「どうしたんだい、フィレンツォ」
「……何でもございません。もうそろそろアルバート様とカルミネ様をお迎えに行く時間ですので、行ってまいります」
「私は行かなくていいのかい?」
「はい、それが良いのです、では」
 応接室を出ていくフィレンツォを見送ってから私も応接室を後にした。


 今のソファに座り、明日行くロッソ火山とその周辺について載っている書物に目を通す。

 エステータ王国最大の鉱山地帯でもあり火山地帯でもある場所。
 火口付近を、その一帯の主である暴炎竜が住処にしている。
 炎の生物は情熱的であり、また闘争心の塊でもある。
 故に、彼らから素材を欲したり、珍しい鉱石を手に入れるなら彼らに認められる必要がある。


「ダンテ、何を見て……ああ、明日行くロッソ火山について調べてたんですね」
 クレメンテが覗き込んで書物を見た途端、私が何をしているか理解してくれた。
「ええ、今年はロッソ火山らしいですから……なんでこんな難易度の高い火山に一年生の若造たちを連れて行くと考えたんでしょうね本当」
「比較安全な場所もありますし……」
 クレメンテは苦笑した。
「クレメンテ……おそらくだけども、私は難所に行くと思う。その場合君達を守る自信はあるけれど、君達が嫌ならフィレンツォに護衛を任せて安全な場所で採取をしてもらうつもりではある、どうする?」
「何故……?」
 私の言葉にクレメンテは驚いている。
「馬鹿男……っごふん、ジラソーレ伯爵家の嫡男殿がおられるだろう、私に因縁をつけた。私は彼に大切な兄を馬鹿にされたのです、自尊心をへし折り続けてやると誓いました」
「……もし、私達が彼に馬鹿にされたら?」
「さらにへし折る度合いを上げますよ。大切な方達を馬鹿にされて平然としてる精神なんて持ち合わせておりませんからね」
 私の言葉に、クレメンテの口元が少し緩んだように見えた。
「ああ、本当、ずるい人です、貴方は」
「はい? え、ちょ?!」
 急に抱き着かれ混乱する。
「エリア、いるんでしょう? 君もこっちに来なさい。このずるいお人にいじわるをしないと」
 誰かいるというか、私とクレメンテのやり取りを見ていたエリアが少しおろおろしてから、クレメンテに混じって私に抱き着いてきた。

「ちょ、二人とも!!」
「本当、優しくてずるい人です、貴方は」
「ふぃ、フィレンツォ様はに、鈍いって……おっしゃって……」
「……それもありますね」

 ぎゅうぎゅう、ぎゅむぎゅむ。
 抱きつぶされるとはこういう事かと思いながら、扉の音を聞いて私は声を上げた。
「フィレンツォ!! 助けてくれ!! 私がやると二人が怪我をしてしまう!!」
 叫ぶように言った直後、私に抱き着いていた二人がフィレンツォに引き離され、向かいのソファにぽすんと座らされていた。
 フィレンツォはふぅと息を吐いた。
「クレメンテ殿下、悪ふざけが過ぎます。エリア様、もう少し自己主張できるよう努力いたしましょう、拒否しても良いのですから」
「ダンテ殿下があまりにもずるすぎるんです」
「その、あの、すみません……」
 フィレンツォは二人にお説教をしていた。

 お説教が終わると、私の方を見て酷く真面目の顔をした。
「ダンテ殿下、貴方様が誰かれ構わずそのような態度を取るような御方でなくて心の底から安心いたしております」
「待ってください、それどういう意味ですか?」
「そのままです。おっと、そうです応接室に案内しなければ。お待たせし申し訳ございません」
 部屋の入口に、ぽかーんとした間の抜けた顔をしているアルバートとカルミネに向かってフィレンツォは何でもないようにいい、二人と私を応接室に案内した。


 応接室のソファーに腰を掛けると、柑橘茶が出され、私は香りを嗅ぎながら、今日のはレモナとオランジュ(前世で言う蜜柑とオレンジの中間の果物)のかと思いながら口にする。
 甘みと酸味が程よくて良い。 
「御二人ともどうぞ」
「では……」
「ありがとうございます」
 私が口をつけているのを見て二人もカップに口をつけた。
 ゆっくりとお茶を飲み、落ち着いたのを見計らって私は問いかける。
「今回お話しいただけることは何でしょうか?」
 私の問いかけに、二人は顔を見合わせて頷き、カルミネが口を開いた。
「あの事件が起きた原因です」
「分かりました、どうか御聞かせください」
 私は、姿勢を正して、二人をしっかりと見据えた。
「――あの事件が起きたもともとの原因は、私とアルバート様が跡継ぎになりたくない事にあるのです」
「成程、跡を継ぎたくないと……」
「ええ、聞いた時は驚きました。まさかあの名家を継ぎたくないと言い出すなんて、と」
 私が確認するように言うと、フィレンツォがそう口をはさむ。
「フィレンツォ、どんな理由であれ、跡継ぎになりたくない方もいるものですよ」
「そうですね、そうかもしれませんね」
 フィレンツォに遠回しに黙っててくれと合図を送り、フィレンツォが肯定したので私は二人を見る。
「どうぞ、続けてください」
「ただ、これは公にはなっていません」
「……では、何故?」
「父と伯爵様は留学中に考えが変わるものと思っています、ですが変わらなかったら私達が次の跡継ぎを指名できます」
「なるほど、つまり貴方達に何かあったら自動でお二人の弟が跡継ぎになると」
「その通りです」
「ですがお二人は弟を跡継ぎにだけはしたくないと」
「はい、どちらも問題行動が多く……私の叔父と、アルバート様の叔父が何かあったら助言すると言っていたのですが……」
 カルミネは深いため息をついた。

――そりゃそうだ、その二人にも命狙われたんだからな――

「二人は心変わりすることは今後ありますか?」
「ありません」
「わかりました、それだけで十分です」
「「え……?」」
 私のその言葉に、アルバートとカルミネが声を発した。
「待ってください、理由を、聞かないのですか?」
「何となくですが、今の私は聞かない方がいいと思ったのです」
 私の言葉に、何処か落胆したような表情を二人は浮かべた。
「お恥ずかしい事に、私はお二人ともっと仲良くなりたいと思ってしまってましてね、ですからその、よろしければ今後行動を共にしていただけないでしょうか? そちらの方が身の安全も確かでしょう」
 その台詞に二人の表情が落胆から喜色へと変化する。

 驚きと喜び。
 その二つに染まっていた。

「ですから、より仲良くなってから、御聞かせ願いたいのです。とりあえず現状は主犯格である両家の叔父と次男を監視、軟禁もしくは監禁する方向で進めつつ、お二人の希望に沿って動きたいのです」
「――有難うございます、ダンテ殿下」
「お心遣いありがとうございます。ダンテ殿下」




「――いいのですか?」
 二人を送り返し、戻ってきたフィレンツォが自室で紅葉茶を口にする私に問いかける。
「何がです?」
「理由を聞かなくても」
「……何と言うか、今聞けば世にも恐ろしい事態になりそうな予感がするのです」
「でしょうね」
 私の返答に、フィレンツォが冷めた声で反応した。
「……ですが、それがダンテ様ですから仕方ないのでしょうね」
「どういう意味か分からないけど、私は私だよ?」
「分かっております、だからなのです」
 フィレンツォは呆れの息をフゥーっと吐き出した。

 何か言った気がするが聞こえなかったので、問いかけないことにした。

「ところで、明日の講義の件ですが」
「ああ、ロッソ火山へ素材採取の実践講義だろう?」
「はい、何処に行きますか?」
「うん、それなんだけど。ジラソーレ伯爵家の嫡男殿の自尊心バキバキにへし折りたいから――」

「ロッソ火山とその一帯を支配する主、暴炎竜ロッソの所に向かおうと思うんだ」

 私のその台詞を聞いたフィレンツォは目を見開き、自分の耳を疑うような顔をした。
 己の主の正気を疑うような顔をしていた。

「正気ですか?!」
 我に返ったフィレンツォは私にそう言った。
「正気だよ、それに――」

「何故か分からないが、行かないと多分いけないんだ」

 私が真剣に言うと、フィレンツォ目を見開いてから、静かに頷いた。
「――ダンテ様がそこまで言うなら、何か理由が、お考えがあるのでしょう。ならば私は止める理由はありません」
「すまないね」
「ですが、クレメンテ殿下やエリア様達はどういたしますか?」
 フィレンツォの言うう通り、そこが私の懸念だ。
 クレメンテにはああ言ったが、正直言うと来てほしいわけではない。

 暴炎竜ロッソなんて、前世でゲーム中名前が軽く出てきたくらいしかわからないし、こちらでもまだ未遭遇の存在だし、闘争心が高いというなら危険にさらされる可能性がある。

――やっぱり、説得するべきかなぁー―
『安心しろ、ロッソとは戦わないと言っただろう。お前ひとりがとある厄介な存在と戦うことで、全員素材を採取できるし、お前は所謂超レア素材をゲットできるのだしな』
――ならいいんですけどね――

 神様の言葉にそう返してからまた「戻り」フィレンツォを見る。
「彼らの意思を尊重して欲しい。私は全力で守るつもりだからね」
「――畏まりました、私も全力で補助いたします」
「ありがとうフィレンツォ」
 私がそう感謝すると、フィレンツォは穏やかにほほ笑み静かに頭を下げた。




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