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第四章:ちょっと波乱すぎない?!
甘える「友人」~自己管理できず自己嫌悪~
しおりを挟む夕食を取る時間の少し前に、クレメンテは目を覚ました。
「クレメンテ殿下、お目覚めになりましたか?」
寝起きのまだおねむ状態な表情で、私を見上げる。
「……」
「クレメンテ殿下?」
「……ずるいです」
「はい?」
クレメンテの言っている意味が分からず、変な「はい?」という声を出した途端首の後ろに手を回されて――まぁ、抱き着かれた。
「で、殿下?」
「私も、彼のように呼んで欲しいです」
「か、彼?」
「……貴方の『客人』であるエリアのように」
「いや、そのしかし――」
「……私の事を『友』と言ってくださったのでしょう? なら……どうか……」
懇願するような声。
私は心の中でため息をつく。
――これは私の負けだな――
「分かりました、クレメンテ。ならば貴方も私の事を『ダンテ』と呼んではいただけないでしょうか?」
「……はい、ダンテ」
嬉しそうな声に聞こえた。
「……ダンテさ――……ダンテ殿下、クレメンテ殿下何をなさっているので?」
何処か冷めたフィレンツォの声が聞こえた、視線が痛い。
「クレメンテが起きた途端抱き着いてきたので私は何もしてませんよ?」
「……寝ぼけて抱き着いたようです、すみません……抱き心地が良くて……」
「フィレンツォ、私は今から食事制限するべきでしょうか?」
クレメンテのごまかしの言葉に、私は真顔になってフィレンツォにたずねる。
「ご安心ください、ダンテ殿下。ダンテ殿下は健康的ですので食事制限をする必要はありませんから。運動量も極度に増やす必要もありません」
「本当ですか?」
フィレンツォの言葉を疑う。
「……すみません、少しおさわりして宜しいでしょうか?」
フィレンツォも何か自信がちょっと無くなったのか私に近づいてきた。
「構わないですよ」
「では」
触られる感触、何か皮引っ張られている感じがしてちと痛い。
「……ダンテ殿下」
「ど、どうしたのですフィレンツォ……」
「残りの講義は三つ、休日まで三日、ですので一日一つの講義で終わらせて下さい。ダンテ殿下の肌が、荒れていらっしゃいます」
「へ?」
「申し訳ございません、クレメンテ殿下」
フィレンツォはそう言ってクレメンテと私を離すと、私の手首を掴んで部屋へと連行していった。
部屋で二人きりになると座らせられ、顔を両手で軽く叩くように包まれた。
「何で我慢してるんですか?!?!」
「え、えー?! フィレンツォ、私は特に我慢してないぞ?!」
「ダンテ様は、我慢をするとすぐ体調に現れますからね!! しかもダンテ様自身は無自覚ですから質が悪いのです!!」
フィレンツォは噛みつくように私を叱る。
「他の方の前だから肌が荒れているで済ませましたが、かなり体調崩しておりますよ?! 今のままだとおそらく「完全な休日」になった途端に噴き出て倒れるのが目に見えている程です!!」
フィレンツォの言葉に反論できない。
事実なのだ。
前世からの悪癖や悪い体質はそう簡単には治ることはない。
私は我慢をし続ける癖がある。
安全圏で翌日が何もない日という条件を満たしていない限り、知らぬ人物は皆私が元気に活動していると思っている。
まぁ、実際は無理をしているので、先ほどの条件を満たした途端私は倒れて死んだように眠り続けたり、それまで抑えていた不調が一気に出て苦しむ等よくあった。
前世ではソレのおかげで苦労した。
小学生の頃にはもう出来てたので、今も治らずにいる。
今は大体フィレンツォが不調なのを察して、休憩させてくれるから助かる。
甘えているのは分かるのだが、ずっと治せなかった癖を治すのは大変なのだ。
これでも少しは善処してるつもりなのだけども……知っている人であるフィレンツォからすると「全然駄目」という感じなのだろう。
「ダンテ様、もう少し御身を大事にしてください」
「いや、大事にはしてる……つもり、なんだけど、なぁ……」
しているつもりだけど、うまくいかない。
虚弱体質ではない、寧ろ前世よりも健康的だ。
でも、健康であっても、無理をすれば倒れるのは知っている。
エナジードリンクと言った類のモノをがぶ飲みして、健康の前借をして健康だった体を壊すなんて、前世では良く聞いた話だ。
その結果死ぬという最悪の事態もある。
「念のため、お体に負担をかけず、栄養価のある食事を作っておいて正解でした。ダンテ様は無理をなさらないように」
「ああ、うん」
「ただでさえ貴方様は――……」
フィレンツォが何か言おうとしたが最後まで言わなかった。
「フィレンツォ?」
「いえ、何でもございません。ともかく、無理をなさらないように!」
「わ、わかった……そう、するよ……」
「……此処は城ではないのです、ですから執事である私を今は頼ってください。ダンテ様は無理をなさるんですから……」
「……ごめん、フィレンツォ……」
城なら母国なら、どうにでもできる。
でも、此処は違う場所なのだ、違う環境なのだ。
「少しお休みを……」
「分かった……そうする」
私は椅子から立ち上がり、ベッドに横になる。
横になった途端、どっと疲れが出てきた。
本当、質が悪い。
――こんなんで本当に大丈夫なのか?――
瞼が重くて、私はそのまま目を閉じた。
目を覚ますと大体11時ちょっと前。
「……寝すぎたか」
ため息をついて二度寝をしようと思ったが、空腹感を我慢はできず台所に向かうことにした。
――まぁ、軽食か何か残してくれてるだろう――
――なかったら作ればいいか、怒られそうだけどしかたない――
そう思いながら向かう途中、食堂に灯りがついていた。
「ダンテ様、お待ちしておりましたよ」
食堂から声が聞こえた。
私は食堂へと向かう。
フィレンツォが居た。
「フィレンツォ」
「何年貴方の執事をしていると思っているのですか、座って待っていてください。すぐ持ってきますので」
フィレンツォに言われるままに私は椅子に腰を掛けた。
そしてすぐ、胃に優しそうな料理が出された。
ハーブと香辛料、それに柔らかく煮込まれた鶏肉が入ったお粥のような料理――ポリァジャだっけか確か。
それと、とろりとした少し甘い飲み物、甘酒の様な栄養価があるけど、甘酒よりも飲みやすい。
名前は甘雪茶。
――前々から思ってるけど、料理名とかお茶とか妙な所で日本系とカタカナ系混じってるよなこの世界、おかしいの――
まぁ、そこらへんはいいか。
器と、カップに触ると、熱すぎない温度なのが分かる。
スプーンを手に持ち、口につける。
「美味しい……ああ、フィレンツォ。お前の料理はいつも美味しいよ」
「有難うございます」
「……そしていつもすまない、自己管理が全くできない主人で」
申し訳なくなる。
なおらない、なおせない、できないのだ。
知らぬ間に無理を重ねすぎてた所為か、いまだに自分の「限界」を理解できないのが辛い。
精神的にも肉体的にも、未だに自己管理ができないのだ。
断るという事に関しては何とかできるようになったが、こういう自分の「限界」を理解せずに、無理をしてしまうのはどうにもできない。
自分で管理も認知も知覚もできないのだ、今も。
――嫌になる――
「ダンテ様」
フィレンツォが穏やかな表情を浮かべて私を呼ぶ、執事と言うよりも「親」の顔をしている。
「ダンテ様がどうして精神的、あるいは肉体的な限度を超えてまで無理をしても気づかないのは今も私には分かりません、だからこそ、私は少しでもそれが良くなるようお仕えします」
「フィレンツォ……」
「きっとこの四年間の間に、ダンテ様に良いことが起きると私は思っております、きっと無理をしすぎるのも改善されるはずです」
優しく言うフィレンツォの言葉に私はどう返せばいいか分からなかった。
――私は変われるのかな……――
そう思う事しかできなかった。
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