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第四章:ちょっと波乱すぎない?!
確保、拷問、気まずい空気
しおりを挟む「フィレンツォ、悪いのですがお二人を安全な場所へ」
「――畏まりました、ではクレメンテ殿下、エリア様。こちらへ」
「え、で、でも……」
「……何故?」
困惑する二人を、フィレンツォが連れて行ったのを確認する。
探索魔術と遠見魔術で二人がブリジッタさんと治安維持の人達に連れていかれるのを確認する。
三人が安全な場所に移動したのを確認し、フィレンツォが戻ってくるのを少し待つ。
少し待つと、フィレンツォが来た。
「治安維持長から許可は頂いております」
「流石、フィレンツォ」
私は笑いかけると、フィレンツォは渋い表情をする。
「本来ならば貴方様がするべきことではないのですが……」
「うん、ごめんよ。でも我慢できないんだ」
「分かっております」
「気を付けるけど、不味そうなら止めてくれ」
「畏まりました」
フィレンツォとの会話を一旦終えると、私は愚者へと視線を向ける。
多分こんな表情を見るのはコイツが初めてだろう。
基本祖国の犯罪を犯した民に対しても此処迄冷たい表情はしない。
まぁ、笑っているけど笑ってない、いわゆる氷の笑み、を浮かべているけどね。
ついでに、此処迄殺気を出すのは久々。
エドガルドの時以来だ。
「素直に言うとは思ってない」
私は男にそう言って首を掴んで一旦立ち上がる。
「私は、同性でもこういうのは躊躇しないんだ、残念だったな」
男にはこれが手っ取り早い。
まぁ、言ってしまえば。
玉を、思いっきり握った。
「~~~~?!?!?!」
声にならない絶叫とはこんな感じだなぁと思いながら私は、続ける。
正直握りたくはないが、まぁ手っ取り早い手段だし。
弱点は容赦なくつくべし、これ基本。
「喋らない? それなら」
相手の反応を待つことなく、私は其処に容赦なく電撃魔術を使用する。
まぁ、堪ったもんじゃないだろう。
――これでコイツが種なしになっても私は責任取るつもりはないので遠慮もありません!――
「ダンテ様」
「ん?」
「もう、気絶してます」
フィレンツォの言葉に私は男を見ると、男は白目をむいて泡を吹いて気絶していた。
「あ――……加減間違ったかなぁ?」
「自白は治安維持の方々にお任せしましょう、ダンテ様。今は加減ができないようですから」
「ん――そうだね、仕方ない。あーばっちぃ」
私はポイっと男を後ろに放り投げるとフィレンツォが男をうまくキャッチし、担いでいた。
「ダンテ様、行きましょう」
「そうだね」
私はハンカチで手を拭きながらフィレンツォの後をついていく。
――情報引き出したかったんだけどなぁ――
『それこそ高望みしすぎだ。今のお前はまだまだうまく自分を制御できんし、そういうのはやらん方がいいやめておけ』
――はーい――
まぁ、世の中早々うまくいかないかと納得しながら、私は予定通り治安維持所へと向かった。
治安維持所の特別室――まぁ、国家を揺るがしかねない犯罪の時に使われる部屋。
部屋の装飾も他の部屋と違い、かなり品の良い作りになっている。
何より、基本転移魔術での移動ができないようにされているこの都市で数少ない転移魔術を使用できる場所と繋がっている。
「ダンテ殿下……」
「クレメンテ殿下、お待たせしました」
私がそういうと、彼は首を振った。
「あの、エリアが……」
「この件はクレメンテ殿下の事だからと、深入りしないようにしたのですね?」
「はい」
「エリア様は別室でお待ちいただいております」
「有難うございます」
流石にこの件をエリアに現段階でこれ以上深入りさせるべきではないと思っていたのでありがたかった。
ガチャリ
転移魔術が使用できる部屋から、姿を現したのは――
クレメンテとは違い、黄色の髪に先端が赤くなっている長めの髪に、橙色の目に証がはっきりとあるのが見えた。
肌の色はクレメンテと似ているが、顔つきは凛々しい。
クレメンテと似ているが、クレメンテはどちらかと言うと綺麗な感じ。
私は立ち上がり、頭を下げる。
「エルヴィーノ殿下、お忙しい中来てくださり有難うございます」
「ダンテ殿下、礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございます」
クレメンテの兄――エルヴィーノはそう言って私に頭を下げる。
「……兄、上」
クレメンテは声を絞り出してそう言った。
クレメンテにとっては血の繋がりはあるけれども、関わった事がほとんどなく、自分と違い次期国王として扱われてきた、兄。
周囲に期待されて守られてきたエルヴィーノと、両親に愛されなかったクレメンテ。
――口を出す所はちゃんと見極めないとね――
『その通りだ』
神様の言葉に私はより気を使わなければと思った。
前世でクレメンテのルートで、エルヴィーノは確かに出てきた。
ただ、私が通ったルートではほんの僅かだけ。
クレメンテと話すことはなくただ「ダンテ」に対して「弟を大事にしていただきたい」とだけ言って彼は立ち去った。
――悪いがそれで終わらす気はねぇぞ、今の私は――
「……」
クレメンテが酷く居心地が悪そうに感じているのが分かる。
「――まずは情報と状況の把握、共有をいたしませんか?」
兄弟間の話を先してほしいが、その為にはまず現在どうなっているのかを把握しないといけない。
「それが良いでしょう、では私から」
エルヴィーノはそう言って口を開いた。
「我が父、ジューダは王たる証を喪失しました。故にアウトゥンノ王国の現国王は私となりました」
予想はしていた。
私とフィレンツォは別に動じることはないが、クレメンテは体を震わせている。
怯えているように見える。
ただ、ブリジッタさんが傍にいるので、何とかまだ保っていられるように見える。
「父母が何者かに命令をしたという事は分かっています」
「――その内容はクレメンテ殿下の暗殺。けれどもクレメンテ殿下の殺害は私に阻まれ、実行者たちは全員捕えられた、そうですね」
「はい、ダンテ殿下の術のおかげで、全員を自白させることができました」
治安維持所の長がそう答える。
「彼らはジューダ元国王達からクレメンテ殿下の暗殺を命じられたと、成功すれば恩赦を出すと」
「……なるほど、つまり罪人達に命令した、と……ところでエルヴィーノ陛下。元国王達は、どうしております」
「城で見張りを付けて部屋に閉じ込めています。何か不穏な動きを見せたら処刑しても良いと、私は見張りの者達に命令を」
「……」
――さて、どうしたものか――
私は思案しながら様子を見る。
クレメンテは何かを言いたいが何を言いたいのか自分でも分からなくなってしまっているように見える。
それと落ち着いているように見えるエルヴィーノだが、私から見れば明らかに困り果てているのが丸わかりだ。
長い間、外的要因で接触しないようにさせられ続け、差別されて育った兄弟。
――あー……実際会って分かった――
『何がだ?』
――クレメンテは兄達への感情は愛情を欲しがっているわけじゃないけど、エルヴィーノの方はブラコン、つまりクレメンテが可愛くて仕方ないのが分かった――
『……良く分かったな』
――嫌だって、さっきから、何度も俯いているクレメンテ見ては、口元なんかすっごい小さくもごもご動いてるし、視線も何と言うか……――
『……何でここまでそのような観察力はあるのに……いや、その方がいいか』
――ちょっと?!――
――不穏な言い方やめてくれません?!?!――
相変わらず神様は私を不安にさせる。
一体どういう意味だ?!
エドガルドとかフィレンツォが言っていた『腹心』『片腕』に関してまださっぱり分かっていない私に「気にするな」で不穏な雰囲気を出す神様は心の底から怖い。
けれど、知ろうとすると、多分――
『難易度そこそこあるアクションゲームが即死ゲームになる可能性があるがいいのか?』
――だからそこで思考を読むなー!!――
『分かってるなら、そういう所はお前はそのままでいい。まぁ他人に頼るとかは少しずつ覚えて行けばいいがな。ただ今は寧ろ貸しをつくる位で行け』
――はいはい、分かりました!!――
どうあれ、私の目的は変わらないのだ。
ならば「神様の言う通り」にしようじゃないか。
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