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第二章:エドガルド、自分、そして──
変わっていく「私」~迫る時と、煽る神様~
しおりを挟む私は、長年続けてきた「断って面倒になるから断らない」という事を、少しずつ止める事にした。
とはいえ、早々簡単に止めるというのも難しい問題だ。
一人だったなら。
エドガルドとフィレンツォが傍にいてくれた。
私が内容を聞いてそれをやんわりと拒否するところから始まってそれで納得してくれるならよし、そうでない場合はエドガルドとフィレンツォが出てくる。
主である私が受けると言ってしまえば、仕えているフィレンツォは余程の事がない限りそれに文句を言えない。
が、私が断るのなら、いくらでも口出しをできる。
執事のフィレンツォと、王子であるエドガルドにも言われたのならば相手は引き下がらざる得ない。
父に至っては、母にこってり絞られたらしい。
普段は父の傍で、父を支えている母だが――
父は母には頭が上がらないとか。
理由は単純に、惚れた弱みと言う奴でもある。
王族や貴族が結婚相手を見つけるパターンは大きく分けて二つ。
同じ国出身の貴族の子どもと顔合わせ――いわゆる社交界デビューや、親しい間柄の貴族と顔合わせをして婚約を結ぶ。
ただし、この場合相手の年齢が子どもである程婚約破棄がしやすいらしい。
そこが私の持つ知識とはちょっと異なる。
特に大人都合で婚約させられた場合は、どっちからでも婚約破棄ができるのだ。
逆に婚約破棄があまりないのが16歳以降で、二人の意思を尊重した場合はあまりない。
まぁ、昔政略結婚とかがあまりにも多すぎたりあれこれし過ぎて問題が起きた時の名残だった気がする、正直めんどいので今は思い出したくない。
話を戻して、父は母と出会ったのは子どもの頃、そして父は母に一目ぼれして結婚を申し込んだ。
父の母親――基当時の国王である祖母はかなり反対したそうだ。
身分とかそういうのじゃなくて、早すぎると。
早い段階からそう言うのを決めるのが当たり前、というか物語とかだとそういうのが多かった気がする。
けれどこの世界はそうではないらしい。
早く次期国王と婚約した為に、母のやりたいことなどが制限されてしまいかねないと。
祖母は父をたしなめたがいう事を聞かなかったが、そんな祖母に母がこう言ったらしい。
『やりたいことはいつからでもできます、それにじぇらるどでんかはわたしのことをあいしてくださってるのでしょう? うらぎらないのでしたら、わたくしもおつかえたします』
歳不相応の発言に、祖母は面食らったそうだ。
で、婚約が決まり、母は妃教育を受けながらも合間を見つけて自分のやりたいことをやっていたらしい。
おっとりとした性格の中にしっかりとした強かさを持つ母を、祖母はたいそう気に入ったそうだ。
やがて父母共に18歳に近くなると、凄い揉めたそうだ。
婚約破棄?
いいや違った。
留学先の学院だ。
婚約している場合、誰かに粉をかけられたりしないように、本人達が異性愛者であることが確定している場合は勉学がおろそかにならない様に、男性のみの学院と、女性のみの学院に分かれて入学するのだが、父が再びごねた。
『幾ら護衛がついていても信頼ならぬ!! アデーレの美しさをお前達だって知っているだろう!! 私はアデーレと同じ学院でなければ嫌だ!!』
という感じでごねたそうだ。
祖母が言っても聞く耳持たぬ状態。
なので母が――
『ええ、構いません。ですが、ジェラルド殿下。勉学を疎かにするようなことがあれば……私、キャロ・ディ・ルーナ学院へ転入いたしますので。決して勉学などを疎かになさらないので下さいね』
で、エドガルドの行ったガラッシア学院に二人して入学。
父は母から引き離されないように勉強にも励みつつ、母に近寄る連中を追い払ったそうだ。
最も、父が追い払う前に大抵母が追い払ったらしいが。
普段の、父に尽くす母の姿からは感がられないエピソードだ。
さて、こんな母のエピソードを聞いた私は危機感を抱いた。
何となくだが、母はおそらく父と違って兄の異変に気付いていたのではないか?
だが、それを解決するのは自分ではないと思ったから何も言わなかった。
そんな気がする。
そしてそれ以上にだ。
兄がその……私以外を「愛せない」事を実は薄々感づいてるのではないかだ。
もっと詳しく言えば、私とエドガルドの何とも言えない関係に気づいているんじゃないかなーと思うと……
体が震える、いわゆる「ガクブル」状態だ。
それを母に聞くなんてできない。
もし知っていたら怖いし、知らなかったら別の意味で怖い。
なのでこれは「触らぬ神にたたりなし」と言うあのことわざ通り、私はそういう内容は母には聞かない事にした。
私が留学するまで、もうすぐ残り一年になる所まで時間は経過した。
美鶴の時治そうとしなかった「断ることで弊害が起きるのが面倒で断らない」という事柄はかなりマシになった。
というかそうせざる得なかったというか。
私がはっきり断らないとエドガルドとフィレンツォが出てきて別の意味で色々面倒だったし、後でフィレンツォにお説教喰らうし。
――断るべき時は、きちんとはっきりと断ろう――
今更ながら私はそう思った。
美鶴の時に治せるならさっさと治しておくべきだったとさえ思った。
『まぁ、それ本来ならお前さんが生きてたら治るもんだったしなぁ』
――っておい!!――
ここ一年、ほっとんど何も言わなかった神様の声に思わず反応してしまう。
――久しぶりに聞いたんですが?――
『まぁ、お前の問題に私が口だすのもどうかと思ってな、それこそ「家族」の問題でもあるだろう? ならば私よりも適役がいると口をださずに見守ることにした』
――口八丁な神様め……――
『さて、お前が留学するまであと一年という所まで来たな』
――はい、そうですよ!!――
『私からはいう事は……まぁ、そうだな』
――何か?――
『エドガルドに、手紙を出すと伝えておくと言い。今のエドガルドなら、ちゃんと返事をよこすだろう』
――ああ、うん、手紙なら出すつもりだったけど――
『そうか、では言おう。詳細に書け、隠し事はするな』
――んな無茶な?!?!――
久方ぶりの神様からの無茶ぶりに私は悲鳴をあげた。
そりゃそうだ。
私の目標である全員幸せにするには、ゲーム的に言うハーレムエンドで最も良い状態のに私はたどり着かないといけないのだ。
いっちゃ悪いが五股するようなもんだ。
それを隠さずというのは一体どういう意味なのか?!
――どこかのゲームで何股かしてバレンタインにバレて女性陣にふるぼっこされるというのを私は見たことがあるぞ!!――
――そんなのは御免だ!!――
『……』
――ちょっと神様ー?!?!――
無言になった神様に私は再び叫ぶ。
『あー……以前言った事を覚えているか?』
――以前言った事?――
『そう「お前が幸せにしたい連中とうかつに肉体関係結んだら、その時点でアウトだからな。というかゲーム的に言えば攻略できない奴らとかモブとかともするな」という内容だ、覚えているか』
――あー……はい、覚えているからエドガルドとも一線超えるような事は一切してないじゃないですか……――
『確かにな』
私が後一年後に留学し、学院に入学する事はどの国でも知られている。
ただ、私がガラッシア学院とルチェ・ソラーレ学院のどちらに入学するのかは公にはされていないのと、私が男性を恋愛対象とするか、女性を恋愛対象とするかなどは全く明かされていないので、貴族達は婚約者のいない娘をガラッシア学院に、息子をガラッシア学院かルチェ・ソラーレ学院に入れようとしている。
――まぁ、私が入学するのルチェ・ソラーレ学院だから男性の方なんだよね!!――
――それと既に近づきたい相手は決まってるので私にお近づきになりたい方々すまんな!!――
『その前にお前が目的の相手にちかづ……まぁ、それは大丈夫だろうな』
――いや、その……不安をあおる言い方止めてくれません??――
『まぁ、来る時を待てばいい。嘗てのお前の世界にはこういう言葉があっただろう?』
――?――
『「待て、しかして希望せよ」とな』
――それだと今後困難が待ち受けてるみたいじゃないですか、ヤダー!!――
『成程、お前はそう言う解釈か。まぁ、あながち外れてないからそれでいいか』
――ヤダー!!――
どうあがいても、全員幸せにするという目標を立てている時点で困難なのは理解している。
だが、神様からはっきり言われると困る!!
心の準備が出来てないとは言わないが、それはそれとして別なの!!
『相変わらず心配性だな……』
――仕方ないでしょうがー!!――
刻々と迫ってくる、その時に向けての覚悟はしたいのだけども。
神様が不安煽るから中々できない、いい加減にして――!!
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