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第二章:エドガルド、自分、そして──
悪事判明~裏切り者は許しません~
しおりを挟む仕方ないので、エドガルドに私の部屋で待ってくれるよう頼んだ。
フィレンツォはその間護衛を兼ねて信頼できるらしきメイドを呼び、エドガルドの傍で何か起きたらすぐ連絡するように言っていた。
――もしかしなくても、これ、かなーり緊急事態??――
『まぁ緊急事態と言えばそうなるが、お前はいつも通りにしてればいいぞ』
――へーい――
呼び出された場所は会議室、非常に重い空気。
父はすごく険しい表情。
――にげたいー!――
と、心の中では思うもののそんなことをしたら不味いのは重々承知なのでフィレンツォに言われるまま、椅子に腰を掛ける。
「――父上、兄上の事で何があったのです?」
とりあえず、呼ばれた経緯と判明した事とかそう言うのをさっさと知りたい。
「その通りだ。所で、ダンテ。エドガルドの方にアレから何か異変は見られなかったか?」
父の問いに、少し考える「ふり」をする。
異変を全て上げることはできない、けれど気になる点を口にすることにした。
「フィレンツォに私が言った事以外、ただ気になる点が一つ」
「何がだ? 言ってみるがいい」
「兄上と先ほどお茶を飲んでいたのですが兄上は『普段紅雪茶を飲んでいた』という事は別に気にならなかったのですが『紅雪茶が苦すぎた』と言っていたのです。あのお茶は其処迄苦いものではないはずです」
私の言葉に父は額に手を当ててため息をついた。
部屋の空気が重くなる。
「ダンテ殿下こちらを」
フィレンツォが私の目の前に小瓶を出した、中には赤い透明な液体が入っている。
「これは、何かの薬?」
「インスタビレと呼ばれる薬の一種です。正確には薬というより毒です、精神を病ませる」
「何でそんな危険――まさか」
精神を病ませるという言葉とエドガルドの今までの状態で理解した。
「ダンテ、お前のお目付け役基執事としてフィレンツォを任命した後、エドガルドのそれまでの執事が体調を崩し、その執事の弟がエドガルドの執事をすることになった」
「……」
私は言葉を飲み込み父達の話を聞く。
「その執事は、ダンテ殿下に嫉妬しているエドガルド殿下に取り入りやすくする為に茶にその薬を混ぜていたそうです。エドガルド殿下の前の執事は有能だった故、その身内がそのような事をするとは思わなかった私共の不手際です」
唇を噛みたかったが、それを堪えて自分の手を強く握るだけで我慢した。
「城にいる間は微量でしたが、留学――学院での生活中は、その執事一任となる為、薬の量を増やしていったそうです」
「……その薬はどのような作用が?」
「エドガルド殿下が飲まされていた薬は酷く『悪意』に敏感になり、それによって精神が不安定になるものです。学院生活はあまりよくなかったのと、薬の効果もあり、エドガルド殿下は、周囲の悪意を何倍にも感じ取ってしまいそれに病んでおられたのかと」
――つまり、エドガルドが苦しむ原因は、本人の性格と同時に薬にもよるものだった?――
『その通りだ。薬が増幅させた、と言っても良い』
神様の言葉に私は理解した、周囲の「悪意」と自分の中の「悪意」に、彼は耐えて、耐えて耐え続けて――その結果があの行動だと。
『その考えで間違ってはいない』
「――何故、その『執事』はそのような事を?」
「エドガルド殿下に自分の娘を娶らせて王家との繋がりを作ろうと」
開いた口がふさがらないとはまさにこのことだ。
不安定な人の心に付け込んで、権威を得ようとは何て馬鹿げている。
――いや、私の、美鶴だった時の世界でも良くあることだ――
――最も、あちらは「弱者」等を特に「食い物」にしているが――
「……父上、もしかして、その『執事』は兄上に自身の娘を会わせたり等していましたか?」
「――ダンテ、本当にお前は頭の回転が速いな、その通りだ。エドガルドが留学中に幾度も会わせていたそうだ」
私は父の言葉に嫌な予感というか、まさかこういう事があったのではないかと思い確認する。
「父上、あまりこのような事を言いたくはないのですが……」
「その執事の娘、兄上を誘惑したりするような事をしていたりしませんでしたか?」
「……その通りだ、何故そう思った?」
「私は女性へそういった欲求をあまり抱かないのは既にご存じでしょう、ですが兄上は明確にしていない上私とは異なります、ことに及び身ごもってしまえば――兄上事です、愛していなくとも、妻にするでしょう。そういう行為をしたのは自分だと責めて」
「成程……確かにそうなるな」
――そういう事もあってエドガルドは、近親の場合は祝福のある私でも身ごもることがないからこそ、精神が不安定ゆえに、周囲が異常に穢れて見えていたからこそ私を犯そうとしたのだろう――
――一度手を付けてしまえば、逃れられない、そう思って――
ただでさえ、苦しんでいるエドガルドをより苦しめ、追いつめていたその連中に私は怒りを覚えた。
薬物の「毒」と人の悪意と欲と言う「毒」がエドガルドの心をより苦しめていたのが分かり、怒りしかわかない。
その「毒」がエドガルドがあのような行動をさせたと同時に、その効果もあって心の内を吐き出した。
心の内を吐き出させたのだけはまぁ、許せるがそれ以外全く許せない。
「父上、処罰の方と再発防止の方はどうするおつもりですか?」
私は父に訊ねる。
「処罰の方は今決めているところ――」
「ならば主犯である元執事は処刑するのが妥当かと」
皆が驚愕の表情で私を見る。
『構わん構わん、言ってしまえ』
――あざっす――
「王族にどんな性質のものであれ、毒を飲ませるなど許してはならない。ましてや執事として主の信頼を裏切る行為をしたのです。兄上がそれでどれ程苦しんだことか」
私は続ける。
「そして手慣れているように思えます。おそらく似たことをその男はやっていたのでしょう」
「……確かに、調べなおす必要があるな」
「兄上を苦しめた愚者と関わる者達全てから事情聴取を、洗いざらい吐かせましょう。再発防止はそれと並行して。処刑に関しては全てが明らかになってからで良いと思われます」
私は淡々と続ける。
「このような愚行に気づかなかったのは、私達の不手際。二度とこのような事態を引き起こさぬようにしなければなりません」
「このような『病巣』は残らず取り除かなければ――」
『普段の物腰柔らかなお前とは違うから周囲は驚いていたな』
――フィレンツォは驚いてないけどね――
『父親は少し面食らっていたな』
――まぁ、城下でたまにするのは見てないからしゃーないですよ――
『で、どうするんだ?』
――一応私が「出しゃばっても」個人的にはいいんだけど、今回は大人しく他の人に任せる、必要があったら手を貸すけどね即座に――
『成程』
――というか、ああいうのいるんだって初めて知ったよ――
『まぁ、アレはエドガルドの強姦防いだ上でゲーム的に言えば好感度等が高くないと判明しない奴だからな』
――マジですか――
『マジだ。まぁネタバレになるが今回の騒動は関係者系統は全員判明して処罰受けるからお前はこれ以上関わらんでもいいぞ』
――えー少し残念――
『何でだ』
――ぶん殴りたいから関係者一同――
『そこは我慢しろ。主犯兼実行犯は死刑なんだからそれで妥協しろ』
――ちくせう、ところでこれ防ぐのできないんですか?――
『防いでたらエドガルド自死ルート直行だが?』
――不条理!!――
『人生そんなもんだ』
神様に不平不満を言っても仕方ない。
言う通りにしておこう。
エドガルドをより苦しめる「毒」を与え続けた輩の死刑は確定済みなんだ。
それに、私は後二年後に留学する。
それまでエドガルドの傍にいなければ。
ずっと人に言えず、苦しみ、耐え続けていた健気で可愛い実兄を、エドガルドを甘やかしてあげなければ。
父と母では意味がない。
私がやらないと意味がないから。
部屋で待っているであろう、エドガルドの所に早く戻りたくて、私は早足で通路を歩いた。
「ダンテ様、エドガルド殿下の事が心配ですか?」
「それは当然にきまってるじゃないか。大切な兄上だからね」
フィレンツォに何でもないように返す。
「本当に、ダンテ様はエドガルド殿下を大切に思っているのですね」
フィレンツォは微笑ましそうな表情をしている。
私が言った「大切」の意味を、フィレンツォが本当に理解していないのがその表情から分かる。
兄弟愛なんてくくりじゃないんだよ。
家族愛なんて範囲じゃ収まらないの。
でも、教えないよ。
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