上 下
34 / 46

第34話 騒ぎの後の仲間達

しおりを挟む
 居心地の良い我が家とは暖かな家族との会話がある場所のことだろう。自宅に着くなり、オレはソファに座り漠然とそんなことを思う。

「結局、無事だったのか。まぁ、おまえはもう既に死んでいるけどさ」

 オレは目の前で仲良くアラクネとおしゃべりをしているシルメリアを見ながらそう呟く。

「サイゾウ様、私のことを心配してくださったのですね。シルメリアは感激です」

 オレの独り言が聞こえたのだろう。そんなことを言ってシルメリアがこちらを見るなり、急に涙ぐんで抱きついてきた。

「おい、おい、オレは男に抱きつかれる趣味は…」

 あれ? なんか胸部に変な感触があるけど。いや、なんかそんなに大きくない子供の拳サイズの…

「サイゾウ様、お気付きになりましたか? 私は女性になることもできるようになったのです」

「ええ!? 女性になったのか…」

 すばらしいと言って、オレは彼女をいやらしい目をしながら抱きしめる。

「柔らかい!! すばらしい」

「や、やめてください。お願いします。まずは私の話を聞いてください。サイゾウ様!!」

 オレがそんな風にシルメリアの言葉を無視して彼女の体を堪能していたら、アラクネが突然にフライパンで殴ってきた。

「痛い!? アラクネ、フライパンは勘弁してください」

「サイゾウ、あなたは節操のない可哀想なオスね。シルメリアの話を最後まで聞きなさい」

「わかった。聞くから。聞きますから!! だから、フライパンを構えないでくれ!!」

 本当はこんな暴力を振るいたくないのにサイゾウがアホなことばかりするからと言ってキッチンに去っていった。オレはアホな行動などやってないだろう? 男として当然の行動をしているだけだ! 暴力反対!

「アラクネ様、大丈夫です。サイゾウ様には直ぐわかるようにしますからゆっくりとキッチンで夕食を作ってください。さてと、ここを触らせた方がサイゾウ様には理解が早いでしょうね」

 そう言ってオレの手を股の方に持っていき、オレに衝撃を与えた。

「女になったんじゃないのかよ! しかも、オレのよりも立派!?」

「そ、そんなことを言わないでください。それよりも、もうサイゾウ様は察しておられると思いますが私は性別を自由に変えられるようになったのです」

 うん? 待てよ。そういえばシルメリアはさっき女性になることもできるようになったといっていたな。そういう意味だったのか…

「吸血鬼のデミトンの所為かよ! シルメリア、吸血の影響でデミトンと同じにことができるようになったのか?」

「はい、吸血の影響でしょうね。だから、今は一生懸命に我慢しているんです」

 なにかに耐えているように体を震わせて目をそらすシルメリア。嫌な予感しかしないんですけど…

「我慢ってなにを?」

「サイゾウ様についた美味しそうな血糊が吸血欲を誘うんですぅ」

 そう言って、オレにシルメリアが飛びかかってきた。

「ま、待って!?」

 ソファに押し倒されるオレ。シルメリアに乗りかかれられた姿勢。これは大変に刺激的です。股間にあるモノがなければ…

「ちょっとで良いのでサイゾウ様、吸わせていただけませんか?」

「イヤじゃ!! そんな懇願されるような目で見てもイヤじゃ!!」

 オレはシルメリアを無理やり引き剥がして起き上がる。

「サイゾウ様、私に吸血されて性別が自由になれば女風呂にだって入れて楽しみたい放題ですよ?」

「オレは男のままでも、女性の裸が見たければ勝手に入るわ! だから、絶対に吸血をオレにするな!!」

 いや、犯罪になるからそんなことはしないけどね。

 大体、オレはどっちにもなれるっていう中途半端なコウモリみたいなことをしたくない。折角、男に生まれたんだ。お天道様のもとで男の人生を満喫したいんだ。もちろん、女に生まれたらそれはそれでその人生を謳歌するけどね。

「でも、もう我慢できそうにないのです。お願します」

 そんな上目遣いで頼まれたってできないモノはできないの。こうなったら、さっさと元凶である血糊を落としてくるか…

「風呂入って流してくるわ!!」

「あん、サイゾウ様のイケズ」

 オレはシルメリアの発情したような気持ち悪い声から逃げるように風呂場に駆け込む。

「ゾンビで吸血鬼って吸血ゾンビかよ。怖いわ」

 しかし、冷静に考えると不味いよな。吸血鬼を退治したと思ったら身内が吸血鬼になったって大問題だよな。アイツが別の吸血鬼を増やす前にどうにか対策を考えないとな…

「まぁ、難しいことは風呂から出て考えるとするか」

 オレは衣服をすべて脱ぎ終えて脱衣所から風呂場に向かう。そして、風呂場の入り口の扉を開ける。

「よう、サイゾウ。先に風呂に入らせてもらっているからな。だから、我がでるまで待っていな」
 
 オレが扉を開けると筋肉バカがいた。それも裸で!! いや、風呂だから裸は普通なのか。いや、いや普通じゃないよね。だって、ここはオレの家だよ!!

「それとも一緒に入るか?」

「入るか! バカやろう!! なに勝手にオレの家の風呂に入っているんだ!!」

 なんでムサ苦しい男同士で風呂に入らないといけないんだよ。

「なんだよ。なにをそんなに怒っているんだ? ああ、わかったぞ。この逞しい筋肉が羨ましいのか? でも、おまえも中々に素敵な筋肉だぞ。我は興奮してきた!!」

 変態野郎、勝手に興奮してこっちを触るな。

「さ、触るな!! 大体、おまえは死んだんじゃなかったのか!!」

「我は至高なる神に仕える身。何度でも蘇るのだ!!」

「…もう、質問しない。まともな回答が返ってくる気がしないから」

 ダメだ。まったく会話になってない。筋肉バカはこれだから…

「そうか。そうか。一時は敵対したとは言っても互いに拳を交えた仲だ。我とは凄まじい友情が芽生えているだろう? これも神が…」

 頼むからオレの話を聞いてくれよ。そうか、そうかって、全く人の話を聞かずに言って良い言葉じゃないだろ。しかも、おまえとオレに友情なんて芽生える訳ないだろ!!

「黙れ! オレの家から出ていけ!!」

 オレは不法侵入した変態を捕まえると風呂場から追い出す。

「ま、まだ、服すら着ていないのに…」

「おまえは裸族だろ! 裸を見られて興奮する変態がなにを言っているんだ!」

「そんなに褒めるなよ!!」

 誰が褒めるかとオレがデミトンを家から追い出すために玄関まで連れて行くと、

「サイゾウ様、いったなにがあったのですか?」

 と言って、シルメリアが応接間から出てきた。彼女はデミトンを見るなり、悲鳴をあげる。

「しまった。シルメリア、大丈夫か!?」

 自分を襲った化け物が目の前に現れて怖かったのだろう。彼女の顔が驚愕に染まる。

「フーフー、男同士の耽美な世界が私の前に…」

 いや、違った。こいつは頭も腐ったゾンビだった。

「我が眷属よ。君からも、言ってやってくれないか? 我はこの家に住む権利があると!」

「ハー、ハー、もちろんです。デミトン様はサイゾウ様と幸せにここで暮らす権利があります!!」

 そう力強く言うシルメリア。ないからね。そんな腐った権利なんて!!

「おまえに家主の意見を無視して他人を住まわす権限なんてないだろう!!」

「どうしたの。騒がしいわね」

 オレがバカ共に怒鳴り散らしているとエプロンをつけたアラクネがキッチンから現れた。

「アラクネ!!」

「…ごめんなさい。すぐにこの家からでていきます。サイゾウ、今までありがとう」

 オレとデミトンの脱衣済みの姿を見るなり、彼女は顔を真っ赤にして玄関から出て行く。

「ああ、アラクネ。おい、おまえらの所為でアラクネが誤解したぞ!? しかも、絶対に変な誤解だ!」

「フ、女人の扱い方もしらないのか。我のことはほっといてすぐに彼女を追うと良い」

「サイゾウ様には本当に困ったものです。アラクネ様が可哀想です」

 好き勝手に言いやがって! 本当に頭にくるわ。ひとまず、アラクネを急いで追いかけないとな。
 
「だが、その前におまえらは出ていけ! ここはオレの家だ!!」

 そして、オレはバカ共を捕まえて外にはりつけにした。アラクネが帰ってきた後に叫び声が家中に響いてうるさいと言われたがそんなことはどうでもよかった。

 その時のオレにとっては、アラクネの誤解をとくこと以外はすべてどうでも良いことだったからね。だから、奴らが外でどれだけ喚こうが知ったことではなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

行・け・な・い異世界マジック

涼紀龍太朗
ファンタジー
荻窪田健児は、校内カースト下位にくすぶる冴えない高校三年生。異世界に行ってチート能力を得て勇者になることを夢見て、今日も異世界への入り口を探索中。 親友の美吉綺羅星、幼馴染の滝澤優紀の手を借りるも、一向に異世界へは行ける気配すらない。 しかしそんな折、学校一の美少女・葉月七瀬が、意外にも荻窪田と同じく異世界への扉に興味があることがわかる。そして七瀬は荻窪田を応援するという。 果たして、荻窪田は念願叶って異世界に行けるのだろうか行けないのだろうか?! 荻窪田の異世界はどっちだ?! (多分)世界初!? 異世界行けない異世界転移小説!(まぁ行くんですけど)

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

魔具師になったら何をつくろう?

アマクニノタスク
ファンタジー
いつもありがとうございます。 ☆お気に入りも3500を突破しました☆ ~内容紹介~ ある日、雷にうたれた事をきっかけに前世の記憶が目醒めました。 どうやら異世界へ転生してしまっているようです。 しかも魔具師と言う何やら面白そうな職業をやっているではないですか! 異世界へ転生したんだし、残りの人生を楽しもうじゃないですか!! そんなこんなで主人公が色んな事に挑戦していきます。 知識チートで大儲けしちゃう? 魔導具で最強目指しちゃう? それともハーレムしちゃう? 彼が歩む人生の先にはどんな結末が待っているのか。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...