上 下
12 / 46

第12話 聖女討伐依頼

しおりを挟む
「サイゾウ、新しい依頼だぜ?」

 ハンターギルドに入るなり、受付に座っている男がオレに声をかけてきた。

「いやだよ。他の奴に当たれ」

 オレは即座に断る。わざわざオレにこの男が依頼を頼む時は本当に碌な仕事じゃない。街に現れた黒龍の討伐、森林を飲み込まんばかりに増え過ぎたスライムの駆除。今、思い出してもひどい仕事ばかりだ。

「そう言うなよ。ゲイルさんとサイゾウの仲じゃないか。そうだろ?」

「なにがゲイルさんとサイゾウの仲だよ! オレは忙しんだ。他の奴を使えよ」

 相変わらず大きな声で馴れ馴れしい奴だ。この受付の大男はゲイルと言って、元凄腕のハンターだった。だけど、とある事件のために片腕を失い、ハンターを引退した。現在、そんな彼はこのギルドの受け付けをしているという訳さ。

「いや、そこをなんとか頼むよ。相手がおまえを指名していてさ。頼むぜ!」

 この通りだと言って手を合わせて頭を下げてきたがオレにはコイツの願いを聞いてやる義理などない。

「わかるだろう? オレは面倒な仕事はしたくないんだよ」

 基本的に楽な仕事がしたいんだ。だって、美少女モンスターと関わらない仕事をしてもやり甲斐がまったくないだろ? 当たり前のことだけどさ。

「教会からの依頼だから是非ともやって欲しいんだよね」

 鷹の目のような鋭い視線でオレを睨んできたゲイル。そんなので、歴戦のハンターであるサイゾウさんがびびるとでも思ってるのか?。

「そんなに睨んでもオレはやらないぞ? この前の王国からの緊急依頼を受けたばかりで疲れているんだ。勘弁してくれ」

 もちろん、それは建前だ。本音は教会の仕事に美少女モンスターなんて基本的にいないからな! やってられん。

 そもそも教会や国などの大きな団体から出された個人指名の仕事は基本的に難易度が高い。教会も国も組織の規模が大きい。そんな大組織は自らで、ほとんどの問題を解決できるのだ。ワザワザ、こんなギルドを使うような仕事は面倒くさいこと以外にないのだ。

「仕方ないな。そう言うとは思って、オレはこんなのを手に入れておきました」

 にっこりと笑うゲイルの瞳は全然笑ってない。

「おい、なんだよ。それ?」

 ゲイルの表情も気になるが、それよりも奴の手にある書類はなんだ。その書類にはオレのサインが書いてあるように見えるんだけど…

「ああ、これか? サイゾウの家の借用書だよ。ギルドマスターが仕事をサボるやつ対策に大金を積んで手に入れたんだよ」

 オレの表情が凍る。豚姫がオレの家に毎日くるようになったため、新しい家をアラクネと一緒に探し、購入したのだ。アイツは新婚みたいで楽しいと言っていたが、その時に作成した借用書が命取りになるとはな。

「ワザワザ、オレの借用書を見せてどうしたんだ?」

「ギルドで買い取らせてもらいました」

 爽やかな笑顔が恨めしい。これだから、リア充でイケメン野郎はイケ好かない。借用書を使ってオレを無理やりこき使う魂胆だな。

 くそ、絶対に働いてやらねぇ! 美少女モンスターがいない仕事は絶対イヤだ!!

「あの金貸しめ! 債権を勝手に売りやがって!! ちくしょう、例え借用書が取られていようともオレは働かないぞ!! 労働者をなめるなよ!」

 美少女がいない限り、絶対に働かない。断固たる決意だ!! これだけは絶対に譲れない。

「利息が倍になるのか。かわいそうに」

 哀れみを持った目でこっちを見るなよ。なんだよ。利息が倍ってお前は悪徳高利貸しかよ。そんな理不尽には絶対に抗ってやる。

「…っく、不当な要求に断固反対!!」

「借入金を返す見込みがない者からは不当な取り立てと金額の増額を許可する。法令第25条より…」

「悪法だ! 庶民を助ける法律をください!!」

 誰がこんな酷い法律を作ったんだよ。ありえないだろう。

「今すぐにローンを返せるならこの仕事を受けなくてもいいぞ?」

 権力には勝てなかったよ。もう、最悪だ。

「今回の依頼はなんだよ?」

「ウェステリアの聖女って知っているか?」

「ああ、美人で評判の心やさしき女神のような聖女様のことだろ」

 それくらい知っているよ。彼女は地球で言うところのトップアイドルみたいなものだろう? みんなを元気付けるために各地を慰問しているんだから、世情に疎いオレだって知っているさ。

「実はここからは大きな声で言えないが、聖女はフォニックスの町の反乱軍に捉えられていてな」

 な、なんだって? それは…

「つまり、聖女に関する依頼って、囚われた彼女を助ければ良いのか?」

 反乱軍の中から聖女を救出ってハンターの仕事じゃないだろう。

「いや、違う。それに今回は極秘の指令だ。内密に頼む」

 ゲイルはそう言った後、急に真面目な顔をしてこちらを見てきた。いったい、なんだ? そんな突然、改まって…

「サイゾウ、実はな。今回の依頼内容は彼女を助けることじゃないんだ」

 それは先ほど聞いたよ。早く言えよ。勿体振もったいぶるなよ。

「…聖女シルメリアの処分だ」

 え!? 処分だって? あの伝説級の聖女をオレが殺害するのかよ。やばいだろう。そんな仕事はハンターがやることじゃないぞ? 暗殺ギルドの仕事じゃん! 無理、絶対無理だよ!!

「いいか、彼女をこの世から完全に消し去ることが依頼だ」

 頼んだぞと言ってゲイルは強引にオレに書類を渡した後、受付の仕事に戻っていく。オレは渡された依頼書を見て息を飲む。

 こんな年端もいかない女の子を殺すのか? 嘘だろう。ああ、オレは一体、どうすれば良いんだ!? オレは混乱する頭を抱えてギルドから出て行くのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界の剣聖女子

みくもっち
ファンタジー
 (時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。  その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。  ただし万能というわけではない。 心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。  また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。  異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。  時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。  バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。  テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー! *素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

行・け・な・い異世界マジック

涼紀龍太朗
ファンタジー
荻窪田健児は、校内カースト下位にくすぶる冴えない高校三年生。異世界に行ってチート能力を得て勇者になることを夢見て、今日も異世界への入り口を探索中。 親友の美吉綺羅星、幼馴染の滝澤優紀の手を借りるも、一向に異世界へは行ける気配すらない。 しかしそんな折、学校一の美少女・葉月七瀬が、意外にも荻窪田と同じく異世界への扉に興味があることがわかる。そして七瀬は荻窪田を応援するという。 果たして、荻窪田は念願叶って異世界に行けるのだろうか行けないのだろうか?! 荻窪田の異世界はどっちだ?! (多分)世界初!? 異世界行けない異世界転移小説!(まぁ行くんですけど)

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...