8 / 19
第二章
小さな星屑 第七話
しおりを挟む蒼太が真矢とダンスを始めてから一週間が経った。朝練が終わった後、蒼太はふと疑問に思っていたことを真矢に投げかけた。
「ところで俺たちは、一体何に向かって練習しているんだ?」
これまでは真矢が練習していたダンスを蒼太が教わっていたのだが、振りも覚えて二人で合わせることも出来る様になってきた。日本中を元気にすることが夢だとはいっても、明確な目標はあった方が良い。
「それがまだ決めてないんや。目標があった方がええのは分かってるんやけど、まだまだ練習足らへんし。それにコンテストに出るにしても、もうちょい人数欲しいとも思うしなぁ」
「人数か…」
蒼太は腕を組み少し考えた。
「一人誘いたいやつがいるんだ。同じ中学でずっと一緒に行動していた奴がいて。音楽のことにも詳しいし、メンバーに入れたいなぁって」
「おぉ‼︎ほな、早速誘いに行こうや‼︎」
二人は屋上を後にして、蒼太が言うメンバー候補がいるクラスへと向かった。
「それでどいつや?」
真矢は連れられて来た2年A組のドアのそばで蒼太に尋ねた。
「ほら、あそこでヘッドフォンして音楽聴いてるやつだよ」
そう言うと蒼太は、窓際でヘッドフォンをしながら音楽を聴いている、少しクセ毛で髪の長い男子に近づいていった。
「よう純、元気か?」
蒼太のことに気が付いた早乙女 純(さおとめ じゅん)は、ヘッドフォンを外して振り向いた。
「蒼太君、どうしたの?」
「ちょっと純に話があるんだ。突然だけど、俺たちと一緒にダンスしないか?」
「えっ?」
あまりに突然の問いかけに純は驚いた様子だった。そんな純の様子にもお構いなしに蒼太は話を続けた。
「ダンスだよダンス。純、音楽とかエンタメとか好きだろ?」
「…無理だよ。確かにダンスは好きだけど、僕運動苦手だし…」
「そんなこと言うなよ、一緒にやろうぜ‼︎」
「出来ないって」
「大丈夫だって。俺らも一緒に練習するからさぁ」
「出来ないって」
「出来るって。俺、お前と一緒に…」
「だから出来ないって言ってんじゃん‼︎」
しつこく誘ってくる蒼太に、純は思わず机を叩いて大声を出してしまった。驚いた蒼太や周りの様子を見て、純はふと我に返った。
「…ごめん、次教室移動しなきゃいけないから」
純はそう言って、気まずそうに教科書を持って立ち上がると、足早に教室から出て行ってしまった。
「おい、純‼︎」
蒼太は呼び止めたが、構わず純は行ってしまった。
「どうやら勧誘失敗やな」
「畜生…何でだよ純…」
蒼太たちが純をダンスに勧誘している頃、隼人と比奈は教室に居た。
「蒼太、ダンス始めたみたいだね」
「そうみたいだな。ったく、素直じゃないんだからあいつは」
隼人はあの朝、楽しそうに踊っていた蒼太の姿を思い出しながらクスッと笑った。
「隼人君は?一緒にやらないの?」
「ん?あぁ…俺は良いかな」
隼人は比奈から目線を外すと、何かを考えるように遠くを見ながら言った。
「やっぱり、あのことが…」
「それは関係ない…第一、気にしてるのなら親友にダンスしろなんて言わないよ」
隼人はすぐさま否定をしたが、二人の間にはほんの少しだけ重い空気が漂っていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
足跡を辿って
清水さわら
青春
桜宮雪路は苦悩の夜を過ごす。
中学を卒業し、ラノベを書き始めて三日でスランプに陥った彼はそれでも一か月もの間、夜から明け方にかけての時間を執筆に捧げた。
しかし、物語という化け物を御し切ることは出来ず。高校へ進学した桜宮は文芸部に入って停滞した状況を打破しようとする。
そこへ現れたのは同じ入部希望者の一人の少女。白鳥迦夜だった。
高校在学中に商業作家デビューを果たすと宣言する白鳥と、未だ苦悩の夜から抜け出せない桜宮が織りなす青春物語。
……のはず。
Y/K Out Side Joker . コート上の海将
高嶋ソック
青春
ある年の全米オープン決勝戦の勝敗が決した。世界中の観戦者が、世界ランク3ケタ台の元日本人が起こした奇跡を目の当たりにし熱狂する。男の名前は影村義孝。ポーランドへ帰化した日本人のテニスプレーヤー。そんな彼の勝利を日本にある小さな中華料理屋でテレビ越しに杏露酒を飲みながら祝福する男がいた。彼が店主と昔の話をしていると、後ろの席から影村の母校の男子テニス部マネージャーと名乗る女子高生に声を掛けられる。影村が所属していた当初の男子テニス部の状況について教えてほしいと言われ、男は昔を語り始める。男子テニス部立直し直後に爆発的な進撃を見せた海生代高校。当時全国にいる天才の1人にして、現ATPプロ日本テニス連盟協会の主力筆頭である竹下と、全国の高校生プレーヤーから“海将”と呼ばれて恐れられた影村の話を...。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
素敵な彼女とオタクの僕のイベリス
梅鬼
青春
年齢=彼女なしの自分だったのだが...高校入学をして、とある女性を助けたら何故か1人の美少女に好かれていた!?僕こと松井秀(まついしゅう)はあの可愛い彼女こと鈴木命(すずきめい)の彼氏として恥じないために努力をしていった....
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
これはなんだ?
はれるや
青春
あどうも初めましてはれるやです。
すんごいはじめてでてんやわんやです。どもども。
パクリでもなんでもないオリジナルです。よろしおす。
追記:短編ですので、5で完結します。読んでくださった方、閲覧ありがとうございました。
所詮友情されど友情
ひらひら
青春
マイペースでめんどくさがりな主人公ユキと、自分とは真反対な性格の数少ない友達カオリ。3年生で同じクラスになれたものの、教室は地下にあり生徒は8人しかいない。そこには、校長を名乗る人物が『友情』を確かめるためのゲームをするという。そんな非現実的な状況の中でユキたちを待ち受ける結末とは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる