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第十八話 からくり少女の大きなお遊び
からくり少女の大きなお遊び 五
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その日、ぼくらは田舎町の民宿に泊まった。
風景として、おもしろいものはとくにない。文化的にもぼくの国とそう変わりないし、そもそも田舎だから、これといった娯楽施設もない。
それでも役人はしっかりしてるようで、ノーマさんは特別な許可証により、民宿に町民が近寄らないよう厳令させた。
「今夜、この宿にはわたしたちしかいません」
彼女はぼくらの立場をわかってくれている。レオが世間に顔を見せたくないことも、魔の森に魂売りの館があることも、バレないようにと気遣ってくれている。
「猫ちゃんがそう言ってましたから」
彼女はシェルタンに導かれてレオを訪ねたらしい。ぼくらは民宿の食堂で夕餉を囲い、これまでの経緯を聞いていた。
「わたし、研究に行き詰まっちゃいまして、どうにかして良質な魂を確保したいと思ったんです。そうしたら先日、夢に黒猫が出て、魔の森にいる魂売りのレオ様を頼ればいいって教えてくれたんです」
「なるほどな……」
レオはどこにでもある肉料理をつまみながら言った。
「しかし、いままで魂はどうしてたんだ?」
「主に罪人の魂を使っていました」
「そうか、それなら問題ないかもしれん。だが宗教的に大丈夫だったのか?」
レオが言うには、世の中にはいろんな死後の概念があって、死者の肉体を欠損させたり、魂を捕えたりすることは、ときに大きな問題になるという。
「そこは、国が優先させました」
「発展第一……ということか」
「それさえも罰——ということかもしれません」
「……罪人だからこそ、か」
レオはどこか煮え切らない顔をしていた。魂の扱いが気に入らないのだろう。
馬車での道中、彼女はバリアー装置を見ながらこんなことをぼやいていた。
「これでは苦しいだろう」
レオが気にしたのは魂の容れ物だった。
機械に取り付けた銀の箱は、隙間なく閉じられている。これは最も効率的な保存方法だという。
「密閉すれば、魂は外に漏れずに済む。うちみたいに保管庫に魔力を充満させて、魂が漏れないよう処置せずとも、蒸発せずに残ってくれる」
魂は魔力で閉じておかないと、じわじわ大気に溶けてしまう。だからいま馬車に積んである魂も、魔法と呪術を組み合わせたレオの秘技によって漏れにくくなっている。
「だがあれでは風通しがよくない。あんな小さな暗闇に閉じ込めておけば、質は悪くなるし、なによりかわいそうだ」
レオはこう見えてやさしい。ひと様のいのちをなんとも思ってないし、モラルも終わってるけど、こころを穢すことだけは好しとしない。
「わたしが箱でなくかごを使うのは苦しませないためだ。おなじ閉じ込めるのでも、箱とかごでは雲泥の差がある。それに、わたしは魂を眠らせるしな」
どうやらノーマさんの魂の扱いはあまりよくないらしい。そのあたりのことも現場に着いたら教えてやろう、とレオは言っていた。
「明日は早朝から出発します」
食事を終え、ノーマさんは言った。
「そうすれば昼前には着きますから、よろしくお願いします」
というわけでぼくらは就寝した。ぼくは早起きが苦手だし、夜もまだ浅かったから、お酒をたっぷり飲んで無理やり眠った。
起きてたら絶対レオが誘ってくるからね。こんなときに寝不足はいやだ。
おかげで予定通り一番鶏で目が覚めたよ。ただ、どういうわけかすごい疲れてて、パジャマを着てたはずなのに下だけ脱げていたけど……暑かったのかな?
まあいいや。ぼくは「まだ眠い」とグズるレオを引っ張り起こし、朝食を食べた。そして朝焼けの空を仰ぎ見て、馬車は出発した。馬車の中でレオは「昨夜は疲れた。ひとりで動くのは大変だな」と、わけのわからないことを言ってまた眠ってしまった。
彼女がなにをしていたのか不明だが、ぼくも眠いのでいっしょに眠った。どうやらアルテルフも元の姿で寝ているようだった。
やがて、
「起きてください」
「ん……」
「着きましたよ」
ぼくらはノーマさんに揺すられ目を覚ました。ホロの背が開いており、そこから青い空が見える。
「ううむ……着いたか」
レオは起き上がり、
「では早速、発明品を見せてもらうとして、その前にまず“顔を覚えられない魔法”をかけよう。そうしなければ、おもてには出られんからな」
そう言って魔法をかけようとすると、
「いえ、その必要はありません」
ノーマさんは言った。
「ここにはだれもいませんから」
「なに? どういうことだ?」
「入国したときに、早馬でここを無人にしておくよう伝えさせました。だから顔を晒していても大丈夫です」
「そうか……それは都合がいい」
相変わらず彼女はすごい権限を持ってるんだなぁ。やっぱ只者じゃないや。
とりあえずぼくらは馬車を降りた。周囲を見回すと、どうやら森の中にいるらしい。周りはぐるりと濃い森で、その中に貴族の館ぐらいの大きさの、広いのっぺりした建物がある。
壁はすべて白いレンガ造りで、屋根はゆるいかたむきの一枚板が広がっている感じだ。高さは二階建てほどで、窓は距離を開けて等間隔に並び、馬車の向く方に大きな鉄の引き戸がある。
看板や立て札はない。
「それではいま開けますので」
ノーマさんは扉の横についてくるよう言った。早速見せたいものがあるという。
「レオさん、これに触ってみてください」
扉の取っ手の横に、丸い小さな板があった。どうやら扉の中から出ているらしい。
「こうか?」
レオは指を当てた。すると、
「むっ?」
「わかりますか?」
「わずかだが、魔力が吸われている」
「そうです。これは昨日お見せしたライターにあったのとおなじ、吸引口です。ただこれは、ちょっと特殊でして……」
ちょっといいですか、と言われ、レオは指を離した。そしてこんどはノーマさんが円に触れた。すると、
——ガコッ。
扉と壁の隙間から重たい音が鳴った。
「これで鍵が開きました」
「ほう! どういう仕組みだ!」
「魔法の力でギアを回すんですが、この吸引口は特定の人間でしか反応しないようできてるんです」
「なに? ひとを区別できるのか?」
「はい。人間はみんな、微妙に魔力のかたちが違います。模様というか、性質というか……だからひとによって、得意な魔法、不得意な魔法が違うんです」
「はぁ……知らなかった。わたしも勉強不足だな」
「知らなくて当然です。最新の研究結果ですから。あ、もちろんこれも秘密でお願いしますよ」
「フッ、自信がないな。こんなおもしろい話、聞くんじゃなかった」
レオは腕を組み、皮肉を言った。ノーマさんはクスクス笑ったが、レオは内心興奮している。その証拠に、彼女の右足が細かくタップを刻んでいた。
「ではまず魂を保管します」
ノーマさんは大扉を開け、馬車から荷台を外し、中に入れた。ぼくらはその流れで中に入った。
「うわあ、すごいなぁ」
中はめちゃくちゃ広かった。壁のない巨大な広間で、そこらじゅうに制作途中と思わしき機械が間を置いて並んでいる。小さなもの、大きなもの、さまざまあり、荷車や台車に乗せてあるものや、タイヤのついた背の高い橋みたいのからチェーンで吊られているものもある。
ところどころに棚があり、工具や金物がケースにぶち込んであった。壁際には台車などが並び、白線で区切られた広いスペースに多様な木材がこれでもかと積まれたりしていた。
水場がある。
炉がある。
奥の方にはいくつか扉がある。
床はすべてレンガ造りで、火を落としても燃え広がらないようにとの配慮だろう。
その広大な設備を眺めていると、
「ごめんなさい、ちょっとだけ手伝ってもらってもいいですか?」
とノーマさんに言われ、ぼくらは彼女のあとを追った。向かう先は、奥の方にある金属製の扉だった。
そこを開けると、
「おっ、これは……」
レオが声を漏らした。
そこは魂の保管庫だった。
中は淡い光が充満している。レオの商品倉庫とおなじような感じだ。
そしてやはり、魂の入った銀のかごが、棚にたくさん並んでいた。
「地下の魔力か?」
「はい。この放出があるから、ここに施設があると言ってもいいでしょう」
「なるほどな……」
レオはあごをつまみ、ふふと笑った。
「どうやら魂の扱いもわかっているようだな。わたしは心配だったぞ。もしやすべて箱で密閉してるんじゃないかとな」
「さすがにそれはないですよ。質も悪くなるし、なにより好ましくありません。魂にもこころはあるのですから」
「そうだな」
「ただ……使うときはどうしても、いやなことをしてしまいますけどね」
どうやらノーマさんは魂を密閉するのがよくないと知っていた。
「本当なら魂なんて使いたくないくらいです。わたしもひとの子ですから」
「そうか……安心した」
そう言ってレオは顔をほころばせた。彼女はひとの不幸をよろこぶ悪女だけど、その反面、だれも不幸にならないでほしいと願うところもある。ちぐはぐなようだけど、彼女の中にはある種の線引きがあり、とくに無抵抗のものが苦しめられるのは気に入らないという。
「しかしどれもこれも色の悪いものばかりだな。悪党とクズしかおらんではないか」
レオは保管されている魂を見て言った。魂の質は、色合いと明るさでわかる。罪人の魂を使わせてもらってると言っていたが、なるほど、どれも薄暗かったり、色味がドス黒かったり、ろくなもんじゃなかった。
「使えるだけでもありがたいんですけどね。質が悪いとどうしても魔力効率が悪かったり、性質が偏っちゃって、いいものを使いたかったんです」
それではお願いします、とノーマさんに言われ、みんなで魂を納品した。重さはさほどでもないが、金額で見ればとんでもなく重い。
金貨三枚あればひと月たっぷり贅沢できる現代において、ダイヤモンド金貨三枚——価値にして金貨三百枚を払っての買い物だ。
落としたところで銀のかごは壊れやしないが、それでもかなり慎重に扱った。いつもならガサツなレオも、わーわー騒ぐアルテルフさえも、このときばかりは丁寧だった。
それなのにノーマさんときたら、
「あ、これはわたしが持ちます! 割れたら大変ですから」
と、ぼくのあげたボトルシップを生まれたての赤ん坊みたいにやさしく扱っていた。莫大な金のかかった貴重品より、一文にもならない素人の下手な作り物を大事にしていた。
風景として、おもしろいものはとくにない。文化的にもぼくの国とそう変わりないし、そもそも田舎だから、これといった娯楽施設もない。
それでも役人はしっかりしてるようで、ノーマさんは特別な許可証により、民宿に町民が近寄らないよう厳令させた。
「今夜、この宿にはわたしたちしかいません」
彼女はぼくらの立場をわかってくれている。レオが世間に顔を見せたくないことも、魔の森に魂売りの館があることも、バレないようにと気遣ってくれている。
「猫ちゃんがそう言ってましたから」
彼女はシェルタンに導かれてレオを訪ねたらしい。ぼくらは民宿の食堂で夕餉を囲い、これまでの経緯を聞いていた。
「わたし、研究に行き詰まっちゃいまして、どうにかして良質な魂を確保したいと思ったんです。そうしたら先日、夢に黒猫が出て、魔の森にいる魂売りのレオ様を頼ればいいって教えてくれたんです」
「なるほどな……」
レオはどこにでもある肉料理をつまみながら言った。
「しかし、いままで魂はどうしてたんだ?」
「主に罪人の魂を使っていました」
「そうか、それなら問題ないかもしれん。だが宗教的に大丈夫だったのか?」
レオが言うには、世の中にはいろんな死後の概念があって、死者の肉体を欠損させたり、魂を捕えたりすることは、ときに大きな問題になるという。
「そこは、国が優先させました」
「発展第一……ということか」
「それさえも罰——ということかもしれません」
「……罪人だからこそ、か」
レオはどこか煮え切らない顔をしていた。魂の扱いが気に入らないのだろう。
馬車での道中、彼女はバリアー装置を見ながらこんなことをぼやいていた。
「これでは苦しいだろう」
レオが気にしたのは魂の容れ物だった。
機械に取り付けた銀の箱は、隙間なく閉じられている。これは最も効率的な保存方法だという。
「密閉すれば、魂は外に漏れずに済む。うちみたいに保管庫に魔力を充満させて、魂が漏れないよう処置せずとも、蒸発せずに残ってくれる」
魂は魔力で閉じておかないと、じわじわ大気に溶けてしまう。だからいま馬車に積んである魂も、魔法と呪術を組み合わせたレオの秘技によって漏れにくくなっている。
「だがあれでは風通しがよくない。あんな小さな暗闇に閉じ込めておけば、質は悪くなるし、なによりかわいそうだ」
レオはこう見えてやさしい。ひと様のいのちをなんとも思ってないし、モラルも終わってるけど、こころを穢すことだけは好しとしない。
「わたしが箱でなくかごを使うのは苦しませないためだ。おなじ閉じ込めるのでも、箱とかごでは雲泥の差がある。それに、わたしは魂を眠らせるしな」
どうやらノーマさんの魂の扱いはあまりよくないらしい。そのあたりのことも現場に着いたら教えてやろう、とレオは言っていた。
「明日は早朝から出発します」
食事を終え、ノーマさんは言った。
「そうすれば昼前には着きますから、よろしくお願いします」
というわけでぼくらは就寝した。ぼくは早起きが苦手だし、夜もまだ浅かったから、お酒をたっぷり飲んで無理やり眠った。
起きてたら絶対レオが誘ってくるからね。こんなときに寝不足はいやだ。
おかげで予定通り一番鶏で目が覚めたよ。ただ、どういうわけかすごい疲れてて、パジャマを着てたはずなのに下だけ脱げていたけど……暑かったのかな?
まあいいや。ぼくは「まだ眠い」とグズるレオを引っ張り起こし、朝食を食べた。そして朝焼けの空を仰ぎ見て、馬車は出発した。馬車の中でレオは「昨夜は疲れた。ひとりで動くのは大変だな」と、わけのわからないことを言ってまた眠ってしまった。
彼女がなにをしていたのか不明だが、ぼくも眠いのでいっしょに眠った。どうやらアルテルフも元の姿で寝ているようだった。
やがて、
「起きてください」
「ん……」
「着きましたよ」
ぼくらはノーマさんに揺すられ目を覚ました。ホロの背が開いており、そこから青い空が見える。
「ううむ……着いたか」
レオは起き上がり、
「では早速、発明品を見せてもらうとして、その前にまず“顔を覚えられない魔法”をかけよう。そうしなければ、おもてには出られんからな」
そう言って魔法をかけようとすると、
「いえ、その必要はありません」
ノーマさんは言った。
「ここにはだれもいませんから」
「なに? どういうことだ?」
「入国したときに、早馬でここを無人にしておくよう伝えさせました。だから顔を晒していても大丈夫です」
「そうか……それは都合がいい」
相変わらず彼女はすごい権限を持ってるんだなぁ。やっぱ只者じゃないや。
とりあえずぼくらは馬車を降りた。周囲を見回すと、どうやら森の中にいるらしい。周りはぐるりと濃い森で、その中に貴族の館ぐらいの大きさの、広いのっぺりした建物がある。
壁はすべて白いレンガ造りで、屋根はゆるいかたむきの一枚板が広がっている感じだ。高さは二階建てほどで、窓は距離を開けて等間隔に並び、馬車の向く方に大きな鉄の引き戸がある。
看板や立て札はない。
「それではいま開けますので」
ノーマさんは扉の横についてくるよう言った。早速見せたいものがあるという。
「レオさん、これに触ってみてください」
扉の取っ手の横に、丸い小さな板があった。どうやら扉の中から出ているらしい。
「こうか?」
レオは指を当てた。すると、
「むっ?」
「わかりますか?」
「わずかだが、魔力が吸われている」
「そうです。これは昨日お見せしたライターにあったのとおなじ、吸引口です。ただこれは、ちょっと特殊でして……」
ちょっといいですか、と言われ、レオは指を離した。そしてこんどはノーマさんが円に触れた。すると、
——ガコッ。
扉と壁の隙間から重たい音が鳴った。
「これで鍵が開きました」
「ほう! どういう仕組みだ!」
「魔法の力でギアを回すんですが、この吸引口は特定の人間でしか反応しないようできてるんです」
「なに? ひとを区別できるのか?」
「はい。人間はみんな、微妙に魔力のかたちが違います。模様というか、性質というか……だからひとによって、得意な魔法、不得意な魔法が違うんです」
「はぁ……知らなかった。わたしも勉強不足だな」
「知らなくて当然です。最新の研究結果ですから。あ、もちろんこれも秘密でお願いしますよ」
「フッ、自信がないな。こんなおもしろい話、聞くんじゃなかった」
レオは腕を組み、皮肉を言った。ノーマさんはクスクス笑ったが、レオは内心興奮している。その証拠に、彼女の右足が細かくタップを刻んでいた。
「ではまず魂を保管します」
ノーマさんは大扉を開け、馬車から荷台を外し、中に入れた。ぼくらはその流れで中に入った。
「うわあ、すごいなぁ」
中はめちゃくちゃ広かった。壁のない巨大な広間で、そこらじゅうに制作途中と思わしき機械が間を置いて並んでいる。小さなもの、大きなもの、さまざまあり、荷車や台車に乗せてあるものや、タイヤのついた背の高い橋みたいのからチェーンで吊られているものもある。
ところどころに棚があり、工具や金物がケースにぶち込んであった。壁際には台車などが並び、白線で区切られた広いスペースに多様な木材がこれでもかと積まれたりしていた。
水場がある。
炉がある。
奥の方にはいくつか扉がある。
床はすべてレンガ造りで、火を落としても燃え広がらないようにとの配慮だろう。
その広大な設備を眺めていると、
「ごめんなさい、ちょっとだけ手伝ってもらってもいいですか?」
とノーマさんに言われ、ぼくらは彼女のあとを追った。向かう先は、奥の方にある金属製の扉だった。
そこを開けると、
「おっ、これは……」
レオが声を漏らした。
そこは魂の保管庫だった。
中は淡い光が充満している。レオの商品倉庫とおなじような感じだ。
そしてやはり、魂の入った銀のかごが、棚にたくさん並んでいた。
「地下の魔力か?」
「はい。この放出があるから、ここに施設があると言ってもいいでしょう」
「なるほどな……」
レオはあごをつまみ、ふふと笑った。
「どうやら魂の扱いもわかっているようだな。わたしは心配だったぞ。もしやすべて箱で密閉してるんじゃないかとな」
「さすがにそれはないですよ。質も悪くなるし、なにより好ましくありません。魂にもこころはあるのですから」
「そうだな」
「ただ……使うときはどうしても、いやなことをしてしまいますけどね」
どうやらノーマさんは魂を密閉するのがよくないと知っていた。
「本当なら魂なんて使いたくないくらいです。わたしもひとの子ですから」
「そうか……安心した」
そう言ってレオは顔をほころばせた。彼女はひとの不幸をよろこぶ悪女だけど、その反面、だれも不幸にならないでほしいと願うところもある。ちぐはぐなようだけど、彼女の中にはある種の線引きがあり、とくに無抵抗のものが苦しめられるのは気に入らないという。
「しかしどれもこれも色の悪いものばかりだな。悪党とクズしかおらんではないか」
レオは保管されている魂を見て言った。魂の質は、色合いと明るさでわかる。罪人の魂を使わせてもらってると言っていたが、なるほど、どれも薄暗かったり、色味がドス黒かったり、ろくなもんじゃなかった。
「使えるだけでもありがたいんですけどね。質が悪いとどうしても魔力効率が悪かったり、性質が偏っちゃって、いいものを使いたかったんです」
それではお願いします、とノーマさんに言われ、みんなで魂を納品した。重さはさほどでもないが、金額で見ればとんでもなく重い。
金貨三枚あればひと月たっぷり贅沢できる現代において、ダイヤモンド金貨三枚——価値にして金貨三百枚を払っての買い物だ。
落としたところで銀のかごは壊れやしないが、それでもかなり慎重に扱った。いつもならガサツなレオも、わーわー騒ぐアルテルフさえも、このときばかりは丁寧だった。
それなのにノーマさんときたら、
「あ、これはわたしが持ちます! 割れたら大変ですから」
と、ぼくのあげたボトルシップを生まれたての赤ん坊みたいにやさしく扱っていた。莫大な金のかかった貴重品より、一文にもならない素人の下手な作り物を大事にしていた。
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