魂売りのレオ

休止中

文字の大きさ
上 下
79 / 178
第十一話 悪徳! 海の家

悪徳! 海の家 五

しおりを挟む
 それからぼくらはキャンサーと使い魔を連れて海沿いのレストランへと向かった。海の幸をふんだんに使った最高の店だという。
「あんなに忙しそうなのに抜けて大丈夫なのか?」
「へえ。今日の日当を倍にすると言ったらヤツらよろこんで見送りやした。それより今日はあっしがおごりやすから好きなもの食ってくだせえ」
「そうか。じゃあありがたくいただくとしよう」
 そうしてぼくらはバンガロー風のレストランに入った。そこは海水浴客をターゲットにしており、水着のまま食事をするひとが多い。ぼくらも水着のままだった。
「それにしても魔法は不思議でやんすねえ。いつもなら店員にひと声かけられるのに、”顔を覚えられない魔法”のおかげで一見客みたいな扱いでやんす」
 そう、ぼくらはキャンサーも含めて魔法をかけてある。魔法は矛盾に弱いから、いちど女装水着で目立ってしまったぼくはかからないかと思ったけど、男物の水着に着替えたおかげでなんとか魔法の枠に入ることができた。
 いまのぼくらは、ほかの人間からは”だれでもないだれか”でしかない。
 だから、こんな美女集団なのにだれも目に止めない。
「いやあ、目のやり場に困っちまいやすねえ。どこを見ても美女ばかりでやんすよ」
 とキャンサーがおだてたが、おそらく本心だろう。円卓を囲んで向かい合うぼくらは三人の美女とふたりの美少女を含んでいる。しかも水着ときたもんだ。改めて意識すると、ぼくのトランクス水着の中に飼っている亀が首を持ち上げそうになり、しどろもどろしてしまった。
「あれれー、アーサー様顔赤いよー。もしかしてあたしのかわいい格好見て興奮しちゃったー?」
「ち、違うよアルテルフ! ぼくはなにを食べようかなって考えてただけで……」
「へー。あたしじゃないんだー。じゃあレグルスのおっぱい?」
「ち、違っ!」
 な、なんてこと言うんだ! そんなこと言われたら目が行っちゃうじゃないか!
「あ、アーサー様……あまり見られると恥ずかしいです……!」
「違うよ! 見てないよ!」
 ぼくは慌てて前に出した手を振って否定した。レグルスは性的なことが苦手だから、胸を見られたなんて聞いたらそれだけで泣いてしまうかもしれない。
 が、なぜかレグルスは目を伏せ、大きな胸を持ち上げるようしんなりと腕を抱え、
「そ、そうですか……そうですよね。わたくしのような蛮族にアーサー様のおこころが止まるはずないですから……」
 あれ? なんだかちょっと残念そうだぞ? 見られた方がいいのかな?
「いや、見てるよ! よーく見てる!」
「そ、そんな! こんなところでわたくしめの体をいやらしい目で……ひぃん!」
 ちょっと、どっちさ!
「ふふふ、おまえたち胸ならデネボラが一番でかいじゃないか」
 とレオが言った。そのせいでやっぱりぼくは視線が動いてしまい、
「やぁん、見ないでくださぁい」
 と隠そうとするも腕では隠しきれないたわわな果実のとりこになりかけた。
「あれえー? アーサー様もしかしておっきくしてるー?」
 ちょっと! テーブルの下覗かないでよ!
「手で隠してももう見ちゃいましたよー。これからごはん食べるっていうのに、やっぱりいやらしいですねー」
「ううっ!」
 ひええ、なんて子だ。おかげで使い魔みんながぼくを赤い顔で見てる。レグルスは泣きそうな顔ではわはわ言ってるし、デネボラはほほに手を当て「あらまぁ」ってつぶやいているし、ゾスマは……ひたすらメニューを見てる。この子ホントに自分の世界から出ないなぁ。これだけ騒いでれば少しくらい興味持ってもいいんじゃない?
「あっはっは。まったく、しょうがないヤツだな」
 隣に座るレオがぼくの肩を抱き、
「これだけ美女に囲まれればそうなるのも無理はない。好きなだけ興奮しろ」
 なにを言ってるんだ!
「そうでやんす。男として健康な証拠でやんすよ」
 キャンサーまで!
「ほら、メニューを持ってきてやったぞ。いっしょに料理を選ぼうじゃないか」
 そう言ってレオは自分の胸の近くにメニューボードを置き、ぼくをぐいっと引き寄せた。
 ああもう、谷間がすぐ傍でこれじゃ文字なんか読めないよ! ほほとほほをピッタリくっつけて、しっとりした手でぼくの肩を抱いて、いいかげんにしてくれー!
 と、そんなふうにちょっかいを出されて大変だったけど、どうにかこうにか料理を選び、みんなで注文した。
 やがて食事がはじまると、もうだれも卑猥ひわいな話なんかしなかった。
 とれたての魚介をふんだんに使った料理はどれも絶品で、料理のこと以外話せなくなるほどすばらしかった。ふだん魚を好まないアルテルフさえ「夜もここで食べたーい」と言う始末で、なんとグルメなゾスマから、
「星四つだね」
 との評価が下された。彼女が星をつけるなんんてめずらしい。しかも四つときた。それで値段が高価というわけではないから、安く仕入れた食材を腕で極上に仕上げているのだろう。
「どうやらみなさん満足したようでやんすね」
 と、こんなところでわざわざビーフステーキを食べたキャンサーが言った。せっかく新鮮な魚が食べられるのに、肉を食べるなんてもったいないなぁ。それにただでさえ高いビーフがここではもっと高い。こんなんじゃすぐに金欠になるだろう。
「ところで、レオさんにちょっと相談があるんでやすが……」
 キャンサーが高級ワインを飲みながら言った。
「なんだ?」
「よかったら周りの海の家をぜんぶ破壊してくれやせんか?」
「はあ!?」
 これにはさすがのレオも目を剥いて驚いた。いくらレオが悪党を好むとはいえ、内容がブッ飛んでいる。
「いやあ、あっしもだいぶ稼いではいるんでやすが、もっと稼げないかと思いやしてね。それには他店をブッ潰すのが一番だと思ったでやんす」
「そんなことできるわけないだろう!」
「おや、レオさんにもできないことがあったでやんすか」
「バカ! わたしがやろうと思えばこの辺り一帯を消し炭にできる!」
「ならお願いしやすよ。お礼ならしやすから」
「おまえなぁ……」
 レオは呆れていた。たしかに彼女は悪行あくぎょうを好むが、自分からはあまりしない。やるにしてもいたずら程度のもので、世間をおびやかすような本当の悪行は絶対にしない。
 だがキャンサーはそうではなかった。
「あっしはてっぺんに行きたいんでやんすよ」
「てっぺん?」
「大金を得てからの日々はすばらしいものでやんした。毎日毎日、豪華絢爛ごうかけんらん、肉欲全開、贅沢三昧、酒池肉林。だれもがあっしにペコペコ頭を下げて、気に入らないヤツはあごで”クイッ”でやんす。あっしはあれが忘れられないでやんすよ」
「それでなぜ他店を破壊するんだ」
「まともにやってたらてっぺんなんて行けないでやんす。そのためだったらあっしはどんな恐ろしいことでもするでやんす。それにはまず金がいるでやんす。金と権力さえあればどんなヤツも逆らえなくなるでやんす。だからまずは浜辺の客を独占し、ここで大きく稼いでひと財産作るでやんすよ」
 なるほど……とんでもない男だ。はじめて会ったときからなにかおかしいと思っていたけど、これは本当に異常者だぞ。
「まあ、気持ちはわからないでもないが……」
 レオは眉をひそめ、言った。
「そうまでしててっぺんに立ちたいのか?」
「立ちたいでやんす」
 キャンサーはきっぱり言った。
「男子として生まれたからには、ただ生きるなんてできないでやんすよ」
 うっ……
 そのひとことはぼくの胸に刺さった。
 ——男子として生まれたからには。
 ぼくはかつて都の軍にいた。父さんが王の側近の近衛兵長で、その先祖もそうで、ぼくもそうなるはずだった。
 もちろん家柄だけじゃない。ぼくは強いし、結果も残していたし、ほとんどの仲間が認めていた。ぼく自身だれにも負けない自信があった。
 それが、いまは落ち延びて”ひも”をしている。
 毎日だらだら過ごし、レオの膨大な貯金で好き放題させてもらっている。
 ……これが男子のすることだろうか。
 ぼく、キャンサーのこと”おかしいヤツ”って思っちゃったけど、そんなことないんじゃないのか? やることは悪いけど、明確な目的を持って前に進もうとしてる彼は、きっとぼくなんかよりずっと……
「どうした、アーサー」
「えっ?」
 ぼくはレオに声をかけられハッとした。
「体調でも悪いのか?」
「い、いや……ちょっと考えごと。それにしてもすごいなーキャンサーは! ぼくはそんな大胆なこと考えられないよー!」
 いけないいけない。たのしい席だっていうのにひとりで落ち込んじゃった。レオにも心配かけちゃったし、明るくしなくっちゃ!
「そうか……ならいいが」
 レオはため息のような瞳を閉じ、フッとキャンサーに向き直った。
「ともかく、そんないかれたまねはできん」
「そうでやんすか……残念でやんす」
「が、かつてなんども高級品とみやげ話を届けてくれた友人に手を貸さんわけにもいかん。まっとうな方法で手伝ってやろう」
「本当でやんすか!」
「ああ。わたしの天才的頭脳があれば犯罪などせんでも簡単に売上げを激増させられる。おまえをこの浜の王にしてやるぞ」
「へええー! やっぱりレオさんは頼りになるでやんすよー!」
「見るがいい、わたしの手腕を。もっとも、やりくちは犯罪などよりよっぽどタチが悪いがな」
 そう言ってレオはフッフッフ、と悪巧わるだくみをするときの不穏な笑みを見せた。
 いったいどうするつもりなんだろう。犯罪よりもタチが悪いことなんてあるんだろうか。
 ただ、これだけは言える。
 レオが笑っている以上、どう転んでもろくなことにはならない。間違いなく地獄が生まれる。
 せめて、だれも苦しまないといいなぁ……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...