勇者ヴィスタは諦めない

衣更月

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勇者ヴィスタは諦めない

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 ばい~ん、ばい~ん、と水風船が弾むがごとくにお姉ちゃんのおっぱいが揺れている。
 真っ赤な生地に金の装飾を散りばめたビキニ。
 括れたウエストにはバラのタトゥー。
 両腕に巻き付けるように纏うストールは絹だろうか。ビキニとお揃いの赤で、靴は革を鞣したサンダルを履いている。
 踊り子スタイルの美女は、妖艶に微笑み、武器となるセクシーな体をくねらせながら夕暮れの町を急ぐ男たちを誘惑する。誘惑された男たちが吸い込まれるように入って行くのは、お子様立ち入り禁止の大人のパラダイスだ。
 手練手管のお姉ちゃんたちが甘言を囁き、たまに初心な顔を見せつつ頬にキスを落とし、バカ高い酒を注いで来る。
 店の暗がりには強面の野郎が目を光らせているのだけど、酔っぱらった助平に冷静な判断なんてつかない。深夜になる頃には、素寒貧になって店の外に放り出されるのだ。
 まるで蟻地獄のような店だ。
 そんなことは承知で、男というのはバカだから簡単に釣られてしまう。
 かくいう俺も釣られたい。
 ばい~ん、ばい~ん、と弾むおっぱいに合わせ、自然と俺の頭も上下する。
 と、俺の癒しのひと時を邪魔するが如く、小娘が立ちはだかった。
「こら!」と、いっちょ前に仁王立ちだ。
 なんとなだらかな平原か。
 思わず冷ややかな顔つきになったのに気づいたのか、小娘は顔を真っ赤にして俺の頭を小突いた。
 痛くはない。
 が!初対面で手を上げるとは許すまじ!
「何すんだ!クソガキ!」
「クソガキはあんたでしょ!私は16歳。立派な大人の淑女レディよ」
 法律上は16歳で成人だが、その体で大人とは笑わせる。
 平原を山脈にして出直して来いと言いたい。
「まったく保護者は何処よ。子供は家にいる時間でしょ。こんな所をうろついてたら、奴隷商に攫われるんだから」
 こんな所というのは、大人のパラダイスが乱立する飲み屋街のことだ。
 犯罪の温床ともなる区域ながら、どこの町にも存在する。王都ですら存在するのだから、崇高な面したお貴族様もやることはやっている。
「まさか、あんた、その体で風俗してんの?」
 ぺちゃは好きじゃないが、幼児体型を好む野郎は一定数いる。
 特に貴族。
 うげげぇ、と平たい胸を指さす俺の頭に、2発目の拳骨が落ちた。
「暴力女!」
 頭を押さえて歯噛みすれば、小娘は「恐ろしいエロガキね…」と身震いしている。
「聞いて驚いて。私は冒険者を目指してんの」
 驚かねぇよ。
 なのに得意満面に、平原な胸を突き出して踏ん反り返っている。
 てか、こいつは恰好から入るタイプだな。
 目指しているだけなのに、恰好だけは一丁前に冒険者っぽい。
 クリーム色のパンツスタイルに、革の編み込みブーツ。腰のベルトには片手剣ショートソードを携えているが、柄頭に埋め込まれているのは、聖なる石とされるラピスラズリだ。幾つかの魔法付与の痕跡もある上に、星空を閉じ込めたような見事な石は、恐らく平民には生涯年収を積んでも手が出ない逸品。
 まぁ、青味がかった黒髪は肩にかかるほどに切っているが、こまっしゃくれた顔つきと澄んだ水色の瞳には、平民にはない品と知性がある……ように思う。
 きっと、どこぞの令嬢なのだろう。
 そんなお嬢様が貴重な宝石を見せて歩いているなんて、鴨ネギとしか言えない。
「この宿場町は規模が小さいから、ちょっと歩いたら飲み屋街。しかも健全と不健全が一緒くたになってる。もう宿に戻ろうってところで、あんたを見かけたの」
 特大のため息で、「で?」と俺の顔を覗き込む。
「ご両親は?」
「いねぇ」
 そう言えば、小娘は目に見えて狼狽える。
 孤児とでも思ったのかもしれない。
 先の大戦で、多くの孤児が出た。国が必死に救援しているが、財源は限られている。孤児院に入れれば御の字。入れない子供の多くは冬を越せない。
 俺は涙ぐんだ。
 涙は出なかったが、両手で顔を覆う。
「母さんが恋しくて…おっぱいを見ちゃうんだ…」
 しくしく…。
「エロガキ」
 絆されなかったらしい。
 拳骨一発落とされて、「その根性、私が叩きのめしてあげるわ!」と高らかと宣言された。


 小娘の名はイェリーナ・マクニコルと言うらしい。
 ふんぞり返って堂々と名乗っていたが、マクニコルといえば由緒正しい公爵家として名を馳せている。平民に貴族社会のことは分からないだろうと高を括ったのか、後ろ盾をアピールする為なのか、単なるバカなのか、イェリーナは胸を張って家名を名乗った。
 たぶん、バカなのだろう。
 先の大戦で活躍した勇者ヴィスタの冒険譚に憧れ、家を飛び出し、冒険者になるために拠点とするギルドをどこにするかを見繕っている道中…らしい。
 無計画すぎるだろ。
 王都ならデカいギルドがあるだろと言えば、利便性に富んだ微温湯ギルドは冒険者として相応しくないという。
 偏見じゃね?
 あと実家に近いからだろ?
 公爵家に連れ戻されていないところ見ると、よほど手を焼いていたのだろう。好き勝手させているのが分かる。
 なにしろ、イェリーナに引っ張り回されること10日の間に、ちらちらとこちらの様子を窺う男女と何度か目が合ったからだ。変装しているけど同じ奴らだ。4人くらいがローテーションを組んで、こちらを観察している。公爵家の護衛なのは、身綺麗な様子から分かった。
 俺がちょっとイェリーナを貶して泣かせると、威嚇のナイフが飛んで来るから血の気が多い。
 投擲が得意とは、公爵家は暗殺者を護衛に雇っているのか?
 幼気いたいけな子供にナイフ飛ばすとか、頭がイカれてるだろ?
 当のイェリーナはイカれた護衛に気付かず、上手く平民に化けていると思っている。砕けた口調ながらに、所作が生粋のお嬢様なのだから平民に紛れるはずもない。
 少なくとも2度、攫われそうになっている。
 まぁ、護衛がヤバいから、誘拐犯は今頃天に召されていそうだ。
 あと片手剣の宝石や見るからに高価そうな革製の旅行鞄を狙うスリや置き引き未遂が多数。
 そんな鴨ネギ令嬢は、「お姉さんに任せなさい!」が口癖だ。
 口癖ってだけで基本、何も出来ない。些細なことカルチャーショックで狼狽え、感動し、気を抜くと語尾に「ですわ」を付ける。
 そのうち「お~ほほほ」とか笑うんじゃないだろうか。
 夜になれば、子供を寝かしつけるように”勇者ヴィスタの冒険”を滔々と語る。暗記するほど読んだらしい。
 本の中で、勇者ヴィスタは神から遣わされし神子とされている。
 そんなわけない。
 大家族の次男坊だ。
 勇者ヴィスタ率いるパーティーは魔術師ジョセフィーン、治癒士サイモン、剣士シドから構成される。
 チーム名は”黄昏の豚”。
 冒険者として優秀な彼らは、17年前に千年の眠りから目覚めた混沌竜カオスドラゴンを討つべく立ち上がる。
 混沌竜は魔王と称されるほどヤバい。
 溢れる魔力は各地の魔物を活性化させ、スタンピードを起こすほどだ。
 降魔戦争と命名された恐ろしい大戦を制し、混沌竜を斃したのが”黄昏の豚”…という物語である。
 ちなみに、”黄昏の豚”に意味はない。
 語感がカッコイイと”黄昏”が最初につき、当時流行っていた動物の名をつけたのだ。虎や狼、竜に鷹なんかが溢れかえる中、それ以外の動物をと4人は浴びるように酒を飲んで考えた。考え疲れた末、酒場の”とんとん亭”の豚の絵を見て決まった。
 4人が正気に戻った時、”黄昏の豚”は冒険者ギルドによって正式に受理されていた。
 思い出しても泣ける話だ。
 ちなみに俺が、イェリーナが崇拝するレイモンド・ヴィスタ様である。
 教えねぇけど。
「レイはまだ生まれてないから知らないわよね。終戦したのが私の赤ちゃんの頃の話よ」
 その言葉が凶器のように胸に刺さる。
 思わず胸を鷲掴みにしながら、がたごとと揺れる荷車に積まれたカボチャに突っ伏す。
 周囲は牧歌的な風景が続いている。だだっ広い麦畑だ。民家どころか第一村人も見当たらない。
 ヒヒィンとロバが鳴き、手綱を握るじいさんが「レイモンドが鳴いとる」と笑う。
 ロバに人の名を付けんじゃねぇよ!
「おじいさん。ロバの名前が勇者ヴィスタ様と同じなんですね!」
 なぜ喜ぶ?
「力強そうじゃろ?」
「はい!でも、そこは豚につけてほしかったです」
 殺すぞ!
「レイモンドの名付け親は、ジョセフィーン様なんじゃよ。諸国漫遊記を執筆しようとしてるらしくて村に立ち寄ったんじゃ」
「なに!?」
 イェリーナを押し退けて勢いよく立ち上がる。
 御者台のじいさんに飛びつき、「ジョーが来たのか!」と声を荒立てる。
 荒立てたところで、じいさんにとっては孫かひ孫くらいのキュートボーイだ。迫力ゼロ。
 朗らかに笑って、「さすが聖女様。子供にも人気じゃ」と麦わら帽子のつばを持ち上げた。
 あれが聖女なものか!
 あいつは魔女だ!
 うっかり女湯の仕切りに覗き穴を作ってしまった俺に、「あなたの辞書に反省はないようね」とため息混じりにガキになる呪いをかけたんだぞ!
 パンツの中を覗いた時の絶望たるや!
 男のシンボルが芋虫サイズに変わり果て、ショックのあまりに気絶した。目が覚めた時、「清廉潔白な男になって土下座すれば魔法を解いてあげる」というメモだけが残されていた。
 サイモンとシドに泣きついたがダメだった。「可哀想だが自業自得だ。諦めろ」とサイモンは目を逸らし、「おそらく引き金はジョーに”絶壁ぺちゃは邪魔だ退け”と言ったことだ。普段なら雷撃一発だろうが、積もり積もって大噴火したんだろうな」とシドは冷静に分析していた。
 それは反省する。
 でも、うっかり口が滑るんだから仕方ないだろ?
 てか、口が滑る度に俺は制裁を受けている!風魔法で吹っ飛ばされた時は、足と肋骨を折って全治4カ月の大怪我を負ったんだぞ!俺じゃなければ死んでた!
 お袋、丈夫に産んでくれてありがとう。
 て、そうじゃない!!
「あのあま、挙句の果てに畜生にレイモンドだと…」
 ふふふ、ふ、ははは…と腹の底から笑いが込み上げる。
「ちょっとレイ。何をぶつぶつ言ってんの?ジョセフィーン様をジョーなんて愛称で呼んでるし。そんなに好きになったの?」
 私の布教活動の成果ね、とイェリーナは満足げだ。
 お前の頭はどうかしている。
「ジョセフィーン様は、それはそれはお美しい方じゃかならな」
「そんなにお美しいんですか?」
「金色の髪をした女神様のような人じゃよ。きっとどこぞの姫君なんじゃなかろうか」
 イェリーナは胸の前で両手を握り、「お姫様」ときらきらと瞳を輝かせている。
 確かに見た目は、俺が会った美女の中で5本の指に入る。が、中身は中年のオヤジだ。甘味が嫌いで、好きなのは酒と魚の臓物で作った塩辛いアテ。酒豪ながらに、すぐくだを巻く。喧嘩っ早くて、血の気が多い。
 本人に会ったら理想と現実に泣き崩れるだろうな。あ、いや、あいつは猫被りが得意だからボロは出ないか…。
「おじいさんは他の方たちにも会ったことはあるんですか?」
「遠目からちらっと見たくらいじゃよ。当時はあちこちに魔物がおったから、勇者様たちは国中を駆け回っててな。勇者様は銀髪の少年で最年少。そんな子が…と驚くというより悲しくなった記憶がある」
 13とか14の頃だったからな。
 当時から巨乳好きと思うと、なかなか年季が入っている。
 昔はジョーの性格なんて知らなかったから、「揉んでデカくしてやろうか」と言ってボコられた。
「レイも銀髪だから、大人になればきっと勇者様みたいにカッコ良くなるかもね」
 そうなんだよ…。
 俺はカッコイイんだよ!イケメンで長身!
 ついでに勇者の称号まで得てんだよ!
「おっぱい揉みたい!」
 違った!
 と思った瞬間には、拳骨が落ちてた…。
「本当にエロガキね!」
 くそ…。
 うっかり心の叫びが飛び出てしまった。
「カカカッ、その年で女好きとは困ったもんじゃな。将来が恐ろしいわ」
 じいさんの歯抜けた笑い声と、イェリーナのクソ長い説教を聞きながら、俺はジョーを呪いまくった。

:::

 ちまちまと薬草採取に腰が痛くなる。
 ようやっと拠点となるギルドに腰を据えたかと思えば、張り切って冒険者登録したイェリーナは、魔力量は豊富ながらコントロールが死んでいた。
 試験の結果、経験不足もあって最下位のDランクスタートとなった。
 てか、筆記試験で赤点の時点で、冒険者には向いてないだろ?
 平民なら生きてるだけで平均点を出すというのに、生粋のお嬢様には森で迷った時の方角確認とか水確保とか無理問題なんだろうな。
 Dランクは調薬に必要な材料採集が主な任務になる。
 薬草やキノコなんかの基礎知識を学んだ後、最初の3日はギルドのスタッフ指導の下で実践訓練だ。4日目からは自力で薬草を採取しなければならない。
 採取したものはギルドで換金されるが、近場で採れる薬草なんて雀の涙。
 貴重で高額取引される薬草は、森の奥へ行くしかない。奥へ行けば大型捕食動物がうろつく。魔物も出るので、Bランク以上は危険とされる。
 なので、Dランクは森の入り口辺りをうろつくしかない。
 結果、稼ぎは少なく経験値も雀の涙。
 薬草採取って草むしりみたいで地味すぎるのに、イェリーナはばかすか引っこ抜いては背負った竹籠に放り込んでいる。「きっと勇者様たちもここから始まったのね!」という歓喜の声を聞くたびに、あいつのモチベーションのヤバさに鳥肌が立つ。
 てか、そろそろ俺は離脱したい。
 薬草採取ではなく、イェリーナとの冒険者ごっこをだ。
 ジョーを捜すのを優先事項として掲げたいのに、思うようにいかないのは、見た目が7歳のガキだからだろう。
 イェリーナを撒いてみたものの、すぐに大人に声をかけられた。保護者を訊かれ、曖昧に言葉を濁すと衛兵の詰所へと連れて行かれるのだ。迷子のフリしては、イェリーナの下へ戻されるというのを4回ほど繰り返している。
 今までにない失態続きは、公爵家の護衛が絡んでいるはずだ。
 ジョーのような魔女なら転移魔法が使えるんだが、俺に最上級ハイクラス魔法は使えない。
 なんで子供なんだ…。せめて16にしてくれよ…。
 パンツの中を覗いては涙が出る。
 ポークビッツ!!
「なぁ、もうちょっとランク上の依頼を請けようぜ」
「なに言ってるの。D ランクは薬草採取が中心よ」
 おバカのくせに生真面目なんだよな…。
 生真面目ってか正義感の塊。バカ正直で熱血漢。そんなのが空回りしているから質が悪い。
「それより、見てよ。私の成果!」
 イェリーナは喜色満面で竹籠を下ろした。
 なみなみとキノコや木の実、薬草が入っている。
 得意気に、「私、薬草採取の天才じゃない?」なんて言ってるが、普通に毒キノコが入ってるんだが…。
 黒々とした脳みそみたいなキノコ、出会った瞬間にアウトだろ!?
 ピンク色に青い斑点の薬草って何!?
 見るからにヤバい。
「講義を受けたんだろ?あんた致死性の何かでも精製すんの?」
 あの護衛を見ると妙な説得力もありそうだが、ギルドは毒物は買い取らない。
 ぽいぽい、と毒キノコに毒草、得体の知れない木の実を捨てていけば、竹籠の中は半分にも満たないほどになった。
 俺が投げ捨てた毒の方が多いってどうよ?
「お前、死ぬぞ?」
 そう言えば、イェリーナは羞恥で頬を染める。
 唇を尖らせ、ほんのちょびっと潤んだ瞳で見つめられると、ほんのちょびっとだけドキリと胸の奥が震えた。
「…力強そうな色だから、力強そうな薬が出来るかなって思うでしょ?」
 ああ、力強そうな致死性の毒が出来るな。
「ちゃんとさ、習った物だけ採取しようぜ?」
「…うん。反省した」
 したのか。
 ぇな!反省!
 もっとじっくり反省しようぜ!
「あ~…今んとこ、お前の手持ちで食っていけてるから切羽詰まった状況じゃねぇけど。逆にそれがダメなんじゃねぇの?」
「ダメって?」
「食うに困る状況下だったら死ぬ気で覚えるだろ?生きる為に、何が食えて、何が食えねぇのかって。あんたにはそのハングリー精神が足りねぇんじゃね?」
「そっか…」と、イェリーナは沈鬱な表情で黙り込む。
 お嬢様だから金には困ってない。
 金が尽きそうなったら、隠れてる公爵家の暗殺部隊ごえいがそっと金を追加している。
 金が尽きないのは楽だが、酒も飲めない、女も抱けない。規則正しい生活をしているだけ…。何が楽しいんだ?
 女がダメなら、せめて酒を飲みたい!
 この体でどれだけ飲めるかは知らないが、度数の低いエールならイケるだろ!
 こいつの金が当てにできないなら、自分で稼ぐしかない。
 まぁ、俺も持ち銭はあるよ?
 あるにはあるが、この姿になってからは収入ゼロ。混沌竜討伐の報奨金は既にない…。
 冒険者登録は12歳からだが、薬草採取は子供の小遣い稼ぎとして登録してなくても換金が出来る。だが、薬草なんてちまちましたものじゃなくて、どど~んと!危険度レベル5の魔物を仕留めての一攫千金が理想だ。
 魔物のレベルは1から5に振り分けられている。
 5は災害クラスだ。竜とかだな。混沌竜みたいなのはレベル分けされず、魔王とか死神とか言われる。
 俺はそんな魔王を斃した勇者だぜ?体はガキでも竜は狙えるだろ。
 ちまちま薬草採取じゃなく、一攫千金は夢じゃない!
 ちょっと規格外の子供が登場ってことで、Sクラスの魔物を換金してくれるんじゃないか?ちょびっと世間を賑わせるかもだが、注目には慣れてる。
 たんまりと金が溜まれば、屋敷でも買って、ボインちゃんばかりのメイドに囲まれて過ごすのもアリだな。
 それってハーレムじゃね?
 子供だから風呂とか一緒に入って、体とか洗ってもらって、夜は添い寝…。
 アリだろ!
 いや、むしろそれ以外に何があるんだってくらいの完璧人生設計!
 体はガキだが、経験値は勇者!
 剣は得意だ。魔法も中級程度なら扱える。凶暴ジョーの攻撃を耐えられるくらいには体が頑丈で、自己治癒能力に長けている。
 オールマイティーにイケる!
 はははっ…。
 元に戻っても31。イケおじって言ってもおっさんじゃん。でも、今は7才くらい。成人が9年後と先だが、俺は意外と発育が良かった。5年くらいで、モテ期が来たはずだ。
 やべぇ…。
 俺のハーレムライフ突入の予感!
絶壁ぺちゃのジョー!ざまぁ!!」
 がははははっ、と高笑いした瞬間、俺の周囲に青白い光が走った。
 二重の魔法陣が高速で組み上がって行く。
 は!、と空を見上げたと同時に、耳を劈く雷鳴を轟かせ、一直線に雷光が俺を襲った。
 イェリーナの悲鳴を聞きながら、俺は崩れ落ちた。
 マジ…俺じゃなきゃ死んでるからな…。
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