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父と子
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青砥真治郎から礼状が届いたのは、僕たちが撤収して10日も過ぎた頃だ。
あの後、泰心が5日ほど泊りがけで鎮魂に勤しんだらしい。離れ跡に遺骨を埋葬し、墓石を建て、微々たる念も遺さぬように経をあげてもらったのだと、手紙に記されていた。
今では鬼も出ず、炎に恐れを抱くこともないのだという。
まさぢ食堂も再開したそうだ。
めでたし、めでたし、というやつなのだろう。
僕としては、全然めでたくはない。あの鉧は、忌み物という言うには力が弱すぎた。加護を受けた痕跡はあるのだが、もはや微々たる気配しか残されていない。あれは直に消える。
恐らく、その他の憑き物の方が高値で売買されるだろう。
「さてと」
手紙を封筒に戻し、座卓に放り投げる。
のんびりと立ち上がると、屋敷の奥から「ぎゃ!」と不細工な叫び声が聞こえた。続けて、けたたましく茶器の割れる音と、盆が床に弾む音が響く。
何事かと駆けつけるまでもない。
「望海!」と、三紗の叱責の声が聞こえれば十分だ。
あいつは女中に向かない。
再三伝えているはずなのに、なぜか働きたがる。ここに住ませ、凶悪な妖怪から守る対価ではあるが、あいつが働けば働くほど僕の損失は膨らむ。
騒々しいやり取り声を無視して、庭へと降りる。
今日は冷える。
つい先日までは上着がなくても平気だったのに、一気に冬の空気だ。
望海がうちに来た時は、庭木が赤く色づいていた。掃いても掃いても落ち葉が散っていたが、今では疎らな葉が北風に抗っている。枝にとまった雀も、丸々とした福良雀だ。リクエストしていた縁台は、些か季節外れの竹づくりだが、敷かれた臙脂色の座布団が深秋の情趣を添えている。縁台に腰かけて池を覗けば、錦鯉が寒さが堪えるとばかりに緩慢に泳いでいる。
なんとはなしに紅白の錦鯉を眺めていると、不意に不快な気配が門前に現れた。
松の剪定をしていた庭師たちが、そそくさと家の奥へと引っ込んで行く。急いたように玄関から出て来た八十吉は、平素のポーカーフェイスが消えている。
焦りと緊張。
珍しく手の汗を拭っているのを見て、僕は八十吉を呼び止めた。
「勝手に入って来るから無視して構わない」
家の中に入っていろと手を振れば、八十吉は深々と頭を下げ、逃げるように家の中へと戻って行く。
門へと視線を馳せれば、召合錠が勝手に解錠した。
カラカラと戸が開き、顔を覗かせたのは長身の男だ。3ピースのネイビーストライプのスーツに、オールバックの黒髪。銀縁のメガネは伊達だろう。
切れ長の双眸は榛色で、思慮深くも狡猾さが透けて見える。口元には軽薄な笑みが浮かび、実に不信感を煽る気配が立つ。
悍ましいことに、見てくれは僕と良く似ている。人間に準えれば、僕を15ほど老けさせると、きっとあんな感じだ。
「やぁ、惟親。邪魔するよ」
こちらが無視したところで、勝手に門を潜って来る。
後ろ手で戸を閉めると、小芝居でもするように周囲を見渡した。腰に手を当て、「相変わらず使用人がいないなぁ」と驚いて見せる。
「門前から威を振るうような神を、畏れるなと言うほうが無理がある。気まぐれに殺されかねない」
「辛辣だな。可愛い息子の世話をするモノを殺すほど、私は無慈悲ではないよ?」
そう嘯く男の名は大国主神。
神の中では、比較的穏健派に属する。
気性の荒さはあるが、短気ではない。出会い頭に攻撃して来ることはないので、一応は穏健派なのだ。それでも、気に食わないと判断を下せば、笑いながら相手を殺すタイプなのを忘れてはならない。
そんな厄介極まりない男が、僕の父だ。
軽快な足取りで歩んで来る親父に気が滅入る。
何をしに来たのかは知らないが、早々に要件を言って帰って欲しいというのが本音だ。
「そのメガネはなんだ?」
「ああ、これか?」と、親父は伊達メガネの蔓を抓む。
「メガネ男子というやつだ。私がかけると、色気が増すらしくてね。なかなかの高評価だ」
つまり、女を釣るための餌の一つというわけだ。
あまりの下らなさにため息が出る。
「惟親」
すっ、と差し出された物を反射的に受け取る。
名刺だ。
「大神主?なんだこれは?」
「私の現世の名前」
ふふふっ、と笑って、僕の隣に腰かける。
「OMC?」
「大神マネジメントコンサルティングの略だね」
「は?」
瞠目して、まじまじと名刺を見れば、代表取締役となっている。
「あんたが社長?」
「暇潰しだよ。社長職はモテるしね」
と、これまた演技がかった仕草で、伊達メガネの位置を整えた。
「なにより、人脈を広げたいんだ」
「人脈ねぇ…」
怪訝な顔つきで親父を見据えれば、親父はにかっと白い歯を見せた。
「人脈を広げれば須久奈が見つかるかもしれないだろ?こちらで暇を潰す者は多いからね」
今度は冷ややかな、「は?」という声が出る。
須久奈とは須久奈比古命と言う。国造りに際し、こいつと共に国の基礎を築き、人間にあらゆる知識を授けて回った神だ。
だが、国造りの最中、須久奈比古命はこいつの性根の悪さに嫌気が差し、爆発し、仕事を放棄してとんずらしたのだ。
以来、死んだとも、雲隠れしているのだとも言われている。
「神直日神がね、須久奈のことを話していたのを耳にしたんだ。親友だとか言うから笑うよね」
あははは、と口では笑い声を上げつつ、目は笑っていない。
「須久奈の居場所を訊こうとしたら逃げるんだ。腹が立つだろ?仕方なく他の者にも訊くけど答えない。年神とかは知ってるはずなのに口を割らないんだよ。パパ困っちゃうよ」
唇を尖らせて、可愛い子ぶってみせる。
実に腹立たしい顔つきだ。
「あんたは嫌われてるんだ。仕方ないだろ」
親父は「失礼だな」と笑う。
「須久奈比古命様にも嫌われているんだろ。そっとしておいてやれ」
「何を言ってるんだ!須久奈とはマブダチだよ?ツーとカー!今頃は私に会いたがっているはずなんだ。でも、彼は恥ずかしがり屋だからね。自分から出て来れないんだろう。ならば、私から会いに行くのが親友の務めだと思わないか?」
なんという楽観主義者だ。
何千年も全力で逃げ回っているからこそ、周囲の神が口を噤んでいるのだと、なぜ分からないのだろうか。仲直りしたいのなら、親友だと豪語する神直日神が仲介に立っているはずだ。
「今さら捜してどうするんだ?」
「須久奈は驚くほど顔が良くてね。一緒にいると綺麗どころが勢揃いするんだ。宴が華やぐのは、とても好ましいだろ?」
「そんな理由で捜してるのか?」
「そんな理由とは失礼だな。須久奈は私の相棒なのだから、一緒にいてこそ魅力が上がるんだよ。須久奈が一緒なら、須勢理も何も言わないしね」
言わないのではなく、言えないのだ。
須久奈比古命に意見できる者など、そう多くはない。
須久奈比古命にも、須勢理毘売命にも同情する。
そもそも、こいつは性格が破綻しているのだ。現世でこいつが有名なのは、出雲大社の祭神ということもあるが、因幡の白兎の話が大きい。そのせいで、人間たちは大国主神を偉大な神だと思っている。現実は、性根の腐ったクズ男だ。
特に女癖は最悪だ。
須勢理毘売命は須佐之男命の娘なのだが、出会った初日で行為に耽り、須佐之男命に「殺す!」と激昂されている。
まぁ…須佐之男命も大概だが…。
須佐之男命を人間に例えるなら、こいつの高祖父の祖父に当たる。こいつは須佐之男命の6世の孫だ。須佐之男命の父が伊邪那岐神だから、不義理にもほどがある。
さらにこいつは、須勢理毘売命を娶った後も、各地に現地妻を作り続けた。須勢理毘売命の姉妹にも手を出している。貞操観念というものがないので、独身だろうが人妻だろうが、とりあえず好みの女がいたら手を出す。孕めば逃げる。そんなことを繰り返し、山のような恨みを買った。
産ませた子供は180柱。
僕はその末席だったが、今はもっと増えているだろう。
そんな男の相棒として傍にいた須久奈比古命の苦労はいかばかりだろうか。きっと計り知れないトラブルに巻き込まれたに違いない。
噂では、国造りに際し、大国主神の補佐をするように命じた高皇産霊神を逆恨みしているとも聞く。2柱は父子だ。それも高位の神だ。
伊邪那岐神は神世七代の七代目。つまりは末席。
片や高皇産霊神は造化の三神が1柱で、天地開闢の折、2番目に生まれ、天を造った創造神だ。格が違う。
そんな偉大な神の父子を、この男は分断させたということだ。
「で、多忙な社長が何の用だ?」
名刺をシャツのポケットに入れれば、親父はにこにこと手を擦り合わせた。
「一応、会社を立ち上げていると伝えておこうと思ってね」
「それを言うためにわざわざ来たのか?」
「息子に会いに来るのに理由は不要だろ?惟親は半神で、私たちとは違うけれど、兄弟の中で私の血が一番濃いのは惟親だからね。やはり情が湧くし、世話もしたくなる。現世で暮らすとなれば、こちらで一定の地位を築いた私は、息子にとっては頼り甲斐のある父親になるだろ?」
実に嘘臭い。
腹の探り合いになるのだろうかと身構えた所で、カチャカチャと茶器の擦れ合う音が聞こえた。
音の方へと目を向ければ、望海がこちらに茶を運んで来ている。危なっかしい手つきで盆を持ち、相変わらず着物に不慣れな歩き方だ。
親父を畏れないという点だけで、望海が抜擢されたのだろう。
転ばない確率はいかほどか。
「あれは…人間の女の子かな?」
親父が顎を撫でつつ目を眇めた。
「手は出すなよ」
「なんだ。惟親の女か。さすがに息子の相手に手を出すほど、今のパパは飢えてないよ」
からからと笑いながらも、狩人のような目で望海を見ている。
「社長にもなると、美女からやって来る。現代は避妊方法も多岐に渡るから遊び放題……と言いたいけど、社長って意外と多忙なんだよ」
「どうせ美人秘書を揃えてるんだろ」
「さすが私の息子。よく理解している。でも、あまり派手に遊ぶと須勢理が激昂するからね。次に子を作ったら離縁だと言うんだ」
参った、と頭を掻いているが、今まで愛想を尽かされなかったのが不思議でならない。
「離縁されても構わないだろ。他に妻がわんさといるんだ」
一夫多妻だ。
須勢理毘売命は第一夫人にすぎない。妻の中には須勢理毘売命の姉妹もいる。さらに愛人は星の数だ。
親父を見れば、親父は憮然とした表情をしていた。
「惟親。私はね、色々と遊びはするが、優先順位は昔も今も変わらない。須勢理が一番なんだよ」
「順位があるのか?」
驚いたと目を丸めれば、親父は「いや」と首を傾げる。
「須勢理以下に順位はない。みんな平等に愛している」
こいつが言う愛ほど軽いものはないな。
僕の嘆息に重なるように、「失礼します」と、望海が親父の傍らに立った。そこからが分からないのだろう。ここにテーブルはない。
望海は戸惑いながら僕たちの顔を見比べ、羞恥に頬を染めながら盆ごと突き出した。
「粗茶ですが、どうぞ」
思わず空を仰いだ僕の横で、親父は肩を震わせている。
「粗茶と知って粗茶を出すか」
豪快な笑い声だ。
片や望海は涙目になりながら、突き出した盆を引っ込めた。
「ここに置け」
僕と親父の間を指させば、「はい…」とか細い声が返る。
怖ず怖ずと盆を置いて、ぎこちなく頭を下げた時だ。親父が望海の手を掴んだ。
「お嬢さん。後ろで頭を下げても、私には見えないよ?」
なんとも意地の悪い笑みで体を捩じり、軽々と望海を掬い上げた。あっという間に、望海の体は親父の膝の上に乗った。
突如横抱きになって、理解が追い付けないと呆けが顔が僕を見ている。
「お嬢さん。なかなか面白いな。気に入った」
そう言って、望海の首筋に鼻を近づけると、くんくんとニオイを嗅ぐ。
「なんだ。惟親の女かと思えば、処女じゃないか。だったら私が摘まんでも構わんだろ?」
「あんたのタイプじゃないだろ」
腰を上げて、望海の腕を手に取ると、少し強引に引っ張る。
望海がつんのめるように、僕の胸に倒れて来た。驚きに声を上げたくらいで、非難の声を上げないから、頭が混乱しているのだろう。
「確かに、私は派手目の知的美人が好きだけれど、初々しいのも摘まみたい派だね」
なんともナチュラルに望海の尻を撫でる。
望海は「ぎゃ!」と色気のない悲鳴を上げた。抵抗しようにも、未だに着慣れぬ着物が自由を奪っているのだろう。身を硬直させるに終わる。
僕は親父の手を払い、望海を解放する。
「こいつは近々僕が楽しむ予定だ。手を出すな」
「美光媛には程遠いが、この時代にしては、そこそこ良い目を持っている。私は人間はさほど好きではないが、良い目を持っている子は好きだよ」
口元に笑みを刷きつつ、雰囲気が僅かに翳った。
弓なりに撓った双眸には、相手にプレッシャーを与えるに十分な威光がある。それを真正面から受けた望海の顔からは、見る間に血の気が失せた。身を竦ませ、びっしりと脂汗を掻き、浅い呼吸を繰り返している。まるで呼吸困難だ。
気を失って池に落ちる前に、望海の腰に腕を回す。
「女を嬲る趣味でも出来たのか?」
「まさか!私は全ての女性の味方だよ。例え妖怪だろうと、人間だろうとね。可愛い子は平等に好きだよ。そうでなければ、美光媛は私の寵愛を受けていなかったし、お前は産まれていない。あれは守りたいほどの目を持つ、良い女だった」
軽薄な笑顔が、先までの緊張感を霧散させる。
少し冷めた茶を飲み、紅葉をイメージした練り切りを頬張る。
「ただね、惟親。これは親心での忠告だ。私は優しいけど、そうでない者もいる。躾をしていないと、手酷い目に遭うのはお嬢さんだ。惟親のニオイがついているのなら、多少の牽制にもなるだろうがね」
親父は一気に茶を煽り、徐に立ち上がった。
「私は末っ子を溺愛している。と、噂がある。後ろ盾としては十分だろ?」
「末っ子?誰のことだ?」
「そう捻くれずに、素直に利用すればいい」
にたり、と僕を見下ろす眼光に、肌が粟立ちそうになる。
これで穏健派だと言うのだから、他の神の危険性が良く分かる。
「見返りはなんだ?」
「見返りなんてあるはずないだろ。強いて言うなら、お願いかな?」
親父は舌なめずりをして、悦に入った顔をする。
「あの鉧。凄い穢れで驚いたよ」
まるで新しい玩具を悦ぶ子供のように、親父は手を叩く。
「鉧には確かに加護を受けた痕跡があったけど、強烈なものじゃない。忌み物としては弱い。だが、あそこまで穢れを加速させたのは、人間の持つ才能だよ。まぁ、ハズレではあるけど、それが却って幸運だった」
「どういう意味だ?」
「あの鉧は私が買い取ろうと思う」
思わず絶句する。
「忌み物であれば、保管庫で管理しなければならないが、あれは管理の必要がない。ならば、私が買い取ろうと思ったわけだ」
「趣味が良いとは言えないな」
こいつは須久奈比古命と共に禁厭を作り上げただけに、どうにも不気味な考えが頭を擡げる。
何かしらの呪詛に使うのかもしれない。
「別に悪事に使うようなことはない。だからね、今後もあれのような物を回収したら、まずは私に連絡をするんだ」
お願いというより、命令口調だ。
僕を見下ろす双眸が、静かに威している。
「僕の旨味は?」
これに親父が高らかに笑う。
笑ってはいるが、泰心の哄笑とは違う。笑いの裏に、畏怖を抱かせる圧がある。
望海が限界だ。全身が小刻みに震え、僕の支えがなければ頭から池に落ちてしまいそうだ。それを知ってか知らずか、親父は目玉をぐるりと回して門へと視線を馳せた。
門の前に、気配が一つ立つ。
神の気配だが、行儀良く親父を待つ様子から、親父の部下なのだろう。
「外に車を待たせているんだ。久方ぶりの息子との会話だと言うのに、無粋な奴だよ」
親父が嘆息する。
さして乱れていないスーツの襟を正し、親父は僕に視線を落とした。
「惟親の旨味になるかは分からいが、それなりの色を付けると約束しよう」
「それは楽しみだ」
僕が笑みを向ければ、親父も微笑する。
「それじゃあ、パパは行くよ」
ひらひらと手を振り、親父は去って行った。
門戸が閉まると同時に、望海がすとん、と地面の上に腰を落とした。
「お…大神さんの…お父さん…ですか?」
青い顔が僕を見上げる。
「ああ、親父だ。泰心よりも女癖が悪い上に、容易に逆らえる相手でもない。性格も破綻しているから質が悪い」
僕は冷めた茶を飲み、ふぅ、と息を吐く。
「今は暇潰しに、大神主と名乗っている。会社の社長をしているらしい」
袂から名刺を取り出し、望海に差し出す。
望海が躊躇いがちに名刺を手にした。
「主で…”ちから”…」
「今後、あいつが訪ねて来ても、お前は出て来なくていい。僕が対処する」
そう言えば、望海はかくかくと何度も頷く。
その顔は恐怖で引き攣り、目には薄っすらと涙の膜が張っている。名刺を持つ手も震え、ぐずり、と鼻が鳴った。
「まぁ、お前にしては堪えた方だ」
悲鳴を上げず、号泣しなかったのは褒めるべきだろう。
「よ」と立ち上がり、座り込んだままの望海を米俵のように肩に担ぐ。
「…え?え?」
戸惑いの声を上げる望海の尻をひと撫ですれば、「ひっ」と体を硬直させる。
「あいつの言いなりは不愉快だが、的を得ているのは確かだ」
「お、大神さん!?」
ばたばたと暴れたところで、所詮は人間の力だ。
僕が歩き出せば、玄関から恐る恐ると新や三紗、八十吉が顔を覗かせる。あいつが帰ったのを確認して胸を撫で、八十吉は使用人たちに指示を飛ばし始めた。
「三紗。閨の準備をしてくれ」
言えば、三紗は両手を叩いて笑顔になった。
「では、お赤飯を用意するようにコグレに伝えておきます」
ぺこりと頭を下げ、珍しく小走りで去って行く。
新が空を仰ぎ、「こんな時間から?」と暢気に首を傾げる。
「僕のニオイがついた方が、牽制になるらしい」
「まぁ…そうだろうけど…。あまり無理をさせては駄目だよ?」
「分かってる」
にやり、と笑う。
「ちょ、ちょっと待って下さい!なんの話ですか?そもそもネヤってなんです?ネヤってなんですか!?」
望海の絶叫に耳鳴りを覚えながら、どやって泣かせようかと、楽しい想像に笑みが零れた。
※天地開闢
天と地が出来た世界の始め
※造化の三神
天地開闢の折、最初に生まれた3柱(創造神)
↓
その後、さらに2柱が誕生←別天津神(造化の三神を含む最初の5柱)であり神世七代
神世七代(10柱)が誕生←夫婦の神なので5組
あの後、泰心が5日ほど泊りがけで鎮魂に勤しんだらしい。離れ跡に遺骨を埋葬し、墓石を建て、微々たる念も遺さぬように経をあげてもらったのだと、手紙に記されていた。
今では鬼も出ず、炎に恐れを抱くこともないのだという。
まさぢ食堂も再開したそうだ。
めでたし、めでたし、というやつなのだろう。
僕としては、全然めでたくはない。あの鉧は、忌み物という言うには力が弱すぎた。加護を受けた痕跡はあるのだが、もはや微々たる気配しか残されていない。あれは直に消える。
恐らく、その他の憑き物の方が高値で売買されるだろう。
「さてと」
手紙を封筒に戻し、座卓に放り投げる。
のんびりと立ち上がると、屋敷の奥から「ぎゃ!」と不細工な叫び声が聞こえた。続けて、けたたましく茶器の割れる音と、盆が床に弾む音が響く。
何事かと駆けつけるまでもない。
「望海!」と、三紗の叱責の声が聞こえれば十分だ。
あいつは女中に向かない。
再三伝えているはずなのに、なぜか働きたがる。ここに住ませ、凶悪な妖怪から守る対価ではあるが、あいつが働けば働くほど僕の損失は膨らむ。
騒々しいやり取り声を無視して、庭へと降りる。
今日は冷える。
つい先日までは上着がなくても平気だったのに、一気に冬の空気だ。
望海がうちに来た時は、庭木が赤く色づいていた。掃いても掃いても落ち葉が散っていたが、今では疎らな葉が北風に抗っている。枝にとまった雀も、丸々とした福良雀だ。リクエストしていた縁台は、些か季節外れの竹づくりだが、敷かれた臙脂色の座布団が深秋の情趣を添えている。縁台に腰かけて池を覗けば、錦鯉が寒さが堪えるとばかりに緩慢に泳いでいる。
なんとはなしに紅白の錦鯉を眺めていると、不意に不快な気配が門前に現れた。
松の剪定をしていた庭師たちが、そそくさと家の奥へと引っ込んで行く。急いたように玄関から出て来た八十吉は、平素のポーカーフェイスが消えている。
焦りと緊張。
珍しく手の汗を拭っているのを見て、僕は八十吉を呼び止めた。
「勝手に入って来るから無視して構わない」
家の中に入っていろと手を振れば、八十吉は深々と頭を下げ、逃げるように家の中へと戻って行く。
門へと視線を馳せれば、召合錠が勝手に解錠した。
カラカラと戸が開き、顔を覗かせたのは長身の男だ。3ピースのネイビーストライプのスーツに、オールバックの黒髪。銀縁のメガネは伊達だろう。
切れ長の双眸は榛色で、思慮深くも狡猾さが透けて見える。口元には軽薄な笑みが浮かび、実に不信感を煽る気配が立つ。
悍ましいことに、見てくれは僕と良く似ている。人間に準えれば、僕を15ほど老けさせると、きっとあんな感じだ。
「やぁ、惟親。邪魔するよ」
こちらが無視したところで、勝手に門を潜って来る。
後ろ手で戸を閉めると、小芝居でもするように周囲を見渡した。腰に手を当て、「相変わらず使用人がいないなぁ」と驚いて見せる。
「門前から威を振るうような神を、畏れるなと言うほうが無理がある。気まぐれに殺されかねない」
「辛辣だな。可愛い息子の世話をするモノを殺すほど、私は無慈悲ではないよ?」
そう嘯く男の名は大国主神。
神の中では、比較的穏健派に属する。
気性の荒さはあるが、短気ではない。出会い頭に攻撃して来ることはないので、一応は穏健派なのだ。それでも、気に食わないと判断を下せば、笑いながら相手を殺すタイプなのを忘れてはならない。
そんな厄介極まりない男が、僕の父だ。
軽快な足取りで歩んで来る親父に気が滅入る。
何をしに来たのかは知らないが、早々に要件を言って帰って欲しいというのが本音だ。
「そのメガネはなんだ?」
「ああ、これか?」と、親父は伊達メガネの蔓を抓む。
「メガネ男子というやつだ。私がかけると、色気が増すらしくてね。なかなかの高評価だ」
つまり、女を釣るための餌の一つというわけだ。
あまりの下らなさにため息が出る。
「惟親」
すっ、と差し出された物を反射的に受け取る。
名刺だ。
「大神主?なんだこれは?」
「私の現世の名前」
ふふふっ、と笑って、僕の隣に腰かける。
「OMC?」
「大神マネジメントコンサルティングの略だね」
「は?」
瞠目して、まじまじと名刺を見れば、代表取締役となっている。
「あんたが社長?」
「暇潰しだよ。社長職はモテるしね」
と、これまた演技がかった仕草で、伊達メガネの位置を整えた。
「なにより、人脈を広げたいんだ」
「人脈ねぇ…」
怪訝な顔つきで親父を見据えれば、親父はにかっと白い歯を見せた。
「人脈を広げれば須久奈が見つかるかもしれないだろ?こちらで暇を潰す者は多いからね」
今度は冷ややかな、「は?」という声が出る。
須久奈とは須久奈比古命と言う。国造りに際し、こいつと共に国の基礎を築き、人間にあらゆる知識を授けて回った神だ。
だが、国造りの最中、須久奈比古命はこいつの性根の悪さに嫌気が差し、爆発し、仕事を放棄してとんずらしたのだ。
以来、死んだとも、雲隠れしているのだとも言われている。
「神直日神がね、須久奈のことを話していたのを耳にしたんだ。親友だとか言うから笑うよね」
あははは、と口では笑い声を上げつつ、目は笑っていない。
「須久奈の居場所を訊こうとしたら逃げるんだ。腹が立つだろ?仕方なく他の者にも訊くけど答えない。年神とかは知ってるはずなのに口を割らないんだよ。パパ困っちゃうよ」
唇を尖らせて、可愛い子ぶってみせる。
実に腹立たしい顔つきだ。
「あんたは嫌われてるんだ。仕方ないだろ」
親父は「失礼だな」と笑う。
「須久奈比古命様にも嫌われているんだろ。そっとしておいてやれ」
「何を言ってるんだ!須久奈とはマブダチだよ?ツーとカー!今頃は私に会いたがっているはずなんだ。でも、彼は恥ずかしがり屋だからね。自分から出て来れないんだろう。ならば、私から会いに行くのが親友の務めだと思わないか?」
なんという楽観主義者だ。
何千年も全力で逃げ回っているからこそ、周囲の神が口を噤んでいるのだと、なぜ分からないのだろうか。仲直りしたいのなら、親友だと豪語する神直日神が仲介に立っているはずだ。
「今さら捜してどうするんだ?」
「須久奈は驚くほど顔が良くてね。一緒にいると綺麗どころが勢揃いするんだ。宴が華やぐのは、とても好ましいだろ?」
「そんな理由で捜してるのか?」
「そんな理由とは失礼だな。須久奈は私の相棒なのだから、一緒にいてこそ魅力が上がるんだよ。須久奈が一緒なら、須勢理も何も言わないしね」
言わないのではなく、言えないのだ。
須久奈比古命に意見できる者など、そう多くはない。
須久奈比古命にも、須勢理毘売命にも同情する。
そもそも、こいつは性格が破綻しているのだ。現世でこいつが有名なのは、出雲大社の祭神ということもあるが、因幡の白兎の話が大きい。そのせいで、人間たちは大国主神を偉大な神だと思っている。現実は、性根の腐ったクズ男だ。
特に女癖は最悪だ。
須勢理毘売命は須佐之男命の娘なのだが、出会った初日で行為に耽り、須佐之男命に「殺す!」と激昂されている。
まぁ…須佐之男命も大概だが…。
須佐之男命を人間に例えるなら、こいつの高祖父の祖父に当たる。こいつは須佐之男命の6世の孫だ。須佐之男命の父が伊邪那岐神だから、不義理にもほどがある。
さらにこいつは、須勢理毘売命を娶った後も、各地に現地妻を作り続けた。須勢理毘売命の姉妹にも手を出している。貞操観念というものがないので、独身だろうが人妻だろうが、とりあえず好みの女がいたら手を出す。孕めば逃げる。そんなことを繰り返し、山のような恨みを買った。
産ませた子供は180柱。
僕はその末席だったが、今はもっと増えているだろう。
そんな男の相棒として傍にいた須久奈比古命の苦労はいかばかりだろうか。きっと計り知れないトラブルに巻き込まれたに違いない。
噂では、国造りに際し、大国主神の補佐をするように命じた高皇産霊神を逆恨みしているとも聞く。2柱は父子だ。それも高位の神だ。
伊邪那岐神は神世七代の七代目。つまりは末席。
片や高皇産霊神は造化の三神が1柱で、天地開闢の折、2番目に生まれ、天を造った創造神だ。格が違う。
そんな偉大な神の父子を、この男は分断させたということだ。
「で、多忙な社長が何の用だ?」
名刺をシャツのポケットに入れれば、親父はにこにこと手を擦り合わせた。
「一応、会社を立ち上げていると伝えておこうと思ってね」
「それを言うためにわざわざ来たのか?」
「息子に会いに来るのに理由は不要だろ?惟親は半神で、私たちとは違うけれど、兄弟の中で私の血が一番濃いのは惟親だからね。やはり情が湧くし、世話もしたくなる。現世で暮らすとなれば、こちらで一定の地位を築いた私は、息子にとっては頼り甲斐のある父親になるだろ?」
実に嘘臭い。
腹の探り合いになるのだろうかと身構えた所で、カチャカチャと茶器の擦れ合う音が聞こえた。
音の方へと目を向ければ、望海がこちらに茶を運んで来ている。危なっかしい手つきで盆を持ち、相変わらず着物に不慣れな歩き方だ。
親父を畏れないという点だけで、望海が抜擢されたのだろう。
転ばない確率はいかほどか。
「あれは…人間の女の子かな?」
親父が顎を撫でつつ目を眇めた。
「手は出すなよ」
「なんだ。惟親の女か。さすがに息子の相手に手を出すほど、今のパパは飢えてないよ」
からからと笑いながらも、狩人のような目で望海を見ている。
「社長にもなると、美女からやって来る。現代は避妊方法も多岐に渡るから遊び放題……と言いたいけど、社長って意外と多忙なんだよ」
「どうせ美人秘書を揃えてるんだろ」
「さすが私の息子。よく理解している。でも、あまり派手に遊ぶと須勢理が激昂するからね。次に子を作ったら離縁だと言うんだ」
参った、と頭を掻いているが、今まで愛想を尽かされなかったのが不思議でならない。
「離縁されても構わないだろ。他に妻がわんさといるんだ」
一夫多妻だ。
須勢理毘売命は第一夫人にすぎない。妻の中には須勢理毘売命の姉妹もいる。さらに愛人は星の数だ。
親父を見れば、親父は憮然とした表情をしていた。
「惟親。私はね、色々と遊びはするが、優先順位は昔も今も変わらない。須勢理が一番なんだよ」
「順位があるのか?」
驚いたと目を丸めれば、親父は「いや」と首を傾げる。
「須勢理以下に順位はない。みんな平等に愛している」
こいつが言う愛ほど軽いものはないな。
僕の嘆息に重なるように、「失礼します」と、望海が親父の傍らに立った。そこからが分からないのだろう。ここにテーブルはない。
望海は戸惑いながら僕たちの顔を見比べ、羞恥に頬を染めながら盆ごと突き出した。
「粗茶ですが、どうぞ」
思わず空を仰いだ僕の横で、親父は肩を震わせている。
「粗茶と知って粗茶を出すか」
豪快な笑い声だ。
片や望海は涙目になりながら、突き出した盆を引っ込めた。
「ここに置け」
僕と親父の間を指させば、「はい…」とか細い声が返る。
怖ず怖ずと盆を置いて、ぎこちなく頭を下げた時だ。親父が望海の手を掴んだ。
「お嬢さん。後ろで頭を下げても、私には見えないよ?」
なんとも意地の悪い笑みで体を捩じり、軽々と望海を掬い上げた。あっという間に、望海の体は親父の膝の上に乗った。
突如横抱きになって、理解が追い付けないと呆けが顔が僕を見ている。
「お嬢さん。なかなか面白いな。気に入った」
そう言って、望海の首筋に鼻を近づけると、くんくんとニオイを嗅ぐ。
「なんだ。惟親の女かと思えば、処女じゃないか。だったら私が摘まんでも構わんだろ?」
「あんたのタイプじゃないだろ」
腰を上げて、望海の腕を手に取ると、少し強引に引っ張る。
望海がつんのめるように、僕の胸に倒れて来た。驚きに声を上げたくらいで、非難の声を上げないから、頭が混乱しているのだろう。
「確かに、私は派手目の知的美人が好きだけれど、初々しいのも摘まみたい派だね」
なんともナチュラルに望海の尻を撫でる。
望海は「ぎゃ!」と色気のない悲鳴を上げた。抵抗しようにも、未だに着慣れぬ着物が自由を奪っているのだろう。身を硬直させるに終わる。
僕は親父の手を払い、望海を解放する。
「こいつは近々僕が楽しむ予定だ。手を出すな」
「美光媛には程遠いが、この時代にしては、そこそこ良い目を持っている。私は人間はさほど好きではないが、良い目を持っている子は好きだよ」
口元に笑みを刷きつつ、雰囲気が僅かに翳った。
弓なりに撓った双眸には、相手にプレッシャーを与えるに十分な威光がある。それを真正面から受けた望海の顔からは、見る間に血の気が失せた。身を竦ませ、びっしりと脂汗を掻き、浅い呼吸を繰り返している。まるで呼吸困難だ。
気を失って池に落ちる前に、望海の腰に腕を回す。
「女を嬲る趣味でも出来たのか?」
「まさか!私は全ての女性の味方だよ。例え妖怪だろうと、人間だろうとね。可愛い子は平等に好きだよ。そうでなければ、美光媛は私の寵愛を受けていなかったし、お前は産まれていない。あれは守りたいほどの目を持つ、良い女だった」
軽薄な笑顔が、先までの緊張感を霧散させる。
少し冷めた茶を飲み、紅葉をイメージした練り切りを頬張る。
「ただね、惟親。これは親心での忠告だ。私は優しいけど、そうでない者もいる。躾をしていないと、手酷い目に遭うのはお嬢さんだ。惟親のニオイがついているのなら、多少の牽制にもなるだろうがね」
親父は一気に茶を煽り、徐に立ち上がった。
「私は末っ子を溺愛している。と、噂がある。後ろ盾としては十分だろ?」
「末っ子?誰のことだ?」
「そう捻くれずに、素直に利用すればいい」
にたり、と僕を見下ろす眼光に、肌が粟立ちそうになる。
これで穏健派だと言うのだから、他の神の危険性が良く分かる。
「見返りはなんだ?」
「見返りなんてあるはずないだろ。強いて言うなら、お願いかな?」
親父は舌なめずりをして、悦に入った顔をする。
「あの鉧。凄い穢れで驚いたよ」
まるで新しい玩具を悦ぶ子供のように、親父は手を叩く。
「鉧には確かに加護を受けた痕跡があったけど、強烈なものじゃない。忌み物としては弱い。だが、あそこまで穢れを加速させたのは、人間の持つ才能だよ。まぁ、ハズレではあるけど、それが却って幸運だった」
「どういう意味だ?」
「あの鉧は私が買い取ろうと思う」
思わず絶句する。
「忌み物であれば、保管庫で管理しなければならないが、あれは管理の必要がない。ならば、私が買い取ろうと思ったわけだ」
「趣味が良いとは言えないな」
こいつは須久奈比古命と共に禁厭を作り上げただけに、どうにも不気味な考えが頭を擡げる。
何かしらの呪詛に使うのかもしれない。
「別に悪事に使うようなことはない。だからね、今後もあれのような物を回収したら、まずは私に連絡をするんだ」
お願いというより、命令口調だ。
僕を見下ろす双眸が、静かに威している。
「僕の旨味は?」
これに親父が高らかに笑う。
笑ってはいるが、泰心の哄笑とは違う。笑いの裏に、畏怖を抱かせる圧がある。
望海が限界だ。全身が小刻みに震え、僕の支えがなければ頭から池に落ちてしまいそうだ。それを知ってか知らずか、親父は目玉をぐるりと回して門へと視線を馳せた。
門の前に、気配が一つ立つ。
神の気配だが、行儀良く親父を待つ様子から、親父の部下なのだろう。
「外に車を待たせているんだ。久方ぶりの息子との会話だと言うのに、無粋な奴だよ」
親父が嘆息する。
さして乱れていないスーツの襟を正し、親父は僕に視線を落とした。
「惟親の旨味になるかは分からいが、それなりの色を付けると約束しよう」
「それは楽しみだ」
僕が笑みを向ければ、親父も微笑する。
「それじゃあ、パパは行くよ」
ひらひらと手を振り、親父は去って行った。
門戸が閉まると同時に、望海がすとん、と地面の上に腰を落とした。
「お…大神さんの…お父さん…ですか?」
青い顔が僕を見上げる。
「ああ、親父だ。泰心よりも女癖が悪い上に、容易に逆らえる相手でもない。性格も破綻しているから質が悪い」
僕は冷めた茶を飲み、ふぅ、と息を吐く。
「今は暇潰しに、大神主と名乗っている。会社の社長をしているらしい」
袂から名刺を取り出し、望海に差し出す。
望海が躊躇いがちに名刺を手にした。
「主で…”ちから”…」
「今後、あいつが訪ねて来ても、お前は出て来なくていい。僕が対処する」
そう言えば、望海はかくかくと何度も頷く。
その顔は恐怖で引き攣り、目には薄っすらと涙の膜が張っている。名刺を持つ手も震え、ぐずり、と鼻が鳴った。
「まぁ、お前にしては堪えた方だ」
悲鳴を上げず、号泣しなかったのは褒めるべきだろう。
「よ」と立ち上がり、座り込んだままの望海を米俵のように肩に担ぐ。
「…え?え?」
戸惑いの声を上げる望海の尻をひと撫ですれば、「ひっ」と体を硬直させる。
「あいつの言いなりは不愉快だが、的を得ているのは確かだ」
「お、大神さん!?」
ばたばたと暴れたところで、所詮は人間の力だ。
僕が歩き出せば、玄関から恐る恐ると新や三紗、八十吉が顔を覗かせる。あいつが帰ったのを確認して胸を撫で、八十吉は使用人たちに指示を飛ばし始めた。
「三紗。閨の準備をしてくれ」
言えば、三紗は両手を叩いて笑顔になった。
「では、お赤飯を用意するようにコグレに伝えておきます」
ぺこりと頭を下げ、珍しく小走りで去って行く。
新が空を仰ぎ、「こんな時間から?」と暢気に首を傾げる。
「僕のニオイがついた方が、牽制になるらしい」
「まぁ…そうだろうけど…。あまり無理をさせては駄目だよ?」
「分かってる」
にやり、と笑う。
「ちょ、ちょっと待って下さい!なんの話ですか?そもそもネヤってなんです?ネヤってなんですか!?」
望海の絶叫に耳鳴りを覚えながら、どやって泣かせようかと、楽しい想像に笑みが零れた。
※天地開闢
天と地が出来た世界の始め
※造化の三神
天地開闢の折、最初に生まれた3柱(創造神)
↓
その後、さらに2柱が誕生←別天津神(造化の三神を含む最初の5柱)であり神世七代
神世七代(10柱)が誕生←夫婦の神なので5組
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