王族ですが何か?

衣更月

文字の大きさ
上 下
13 / 19

BL妄想撲滅します

しおりを挟む
 談話室のソファで、夏場のチョコレートのように溶け切った父上は、母上の膝枕でうたた寝中だ。母上は至福の表情で父上の頭を撫で続けている。
 何の時間?って疑問に思うよね。
 これは家族団欒の時間なのよ…。
 うちは父上の家族愛が強烈だからね!
 どんだけ愛が強いのかと言うと、朝と夜の食事は全員揃ってが当たり前。以前、うっかり2度寝で朝食抜いた時は、謁見室に呼ばれた。マジよ?
 んで、夕食後は談話室で最低1時間の会話を楽しむことを推奨している。
 ちなみに、伯父上も結婚するまでは強制参加だった。伯父上の顔は無だったけどね。
 父上の家族愛は、ちょっと常軌を逸している。
 普通、成人した王族は、別の宮へ移るんだよ。父上はそれすら良しとしなかった。
 結果、宮がいっぱい余ってる。
 他国の話を聞くとさ、王様が住む宮、王妃や側妃たちが住む宮、王太子が住む宮、王子が住む宮、王女が住む宮と、家族ばらばらのところもあるんだって。それはそれで寂しくない?せめて兄弟姉妹は一緒の宮にしようよ。
 うちは仲良しこよしで王族にありがちなギスギス空気もない。
 まぁ、そんな空気を醸し出そうものなら、父上が悲しみ母上の雷が落ちるよね。
 それにしても、勝手に談笑タイムなんて作っておきながら、すやすや寝ている父上は何なのかな。
 不満に思っているのは俺だけじゃないはず。
 視線を転じ、退屈そうに座る兄弟たちを順繰りに見る。
 第2王子のキャンベルは、父上をじっと見ては満足そうに頷いている。
 あれを参考にしちゃダメよ?
 末っ子で第3王子のマーシャルは欠伸を掻いて、オレンジジュースをちびちびと飲んでいる。
 腹黒だけどさ、母上譲りの藤色の瞳をしばしばさせて睡魔と戦っている姿はかわゆす!
 第1王女のディヴィヤは蜂蜜色の髪を摘まんで、枝毛がないかチェックしている…ように見せかけた、退屈なんですけどアピールだ。
 第2王女のキャサリンはじっと俺を見ている……。
 俺を見てるよね?
「キティ、どうしたのかな?」
「リロイお兄様。恋人を探されていると聞きました。本当ですか?」
 11才ながらに耳聡いな。
 これくらいの女の子ってあれでしょ?お兄ちゃんを取られちゃうみたいで、恋人とか許容できなかったりするんでしょ?
 なにそれ、超かわゆす!
「出会いがあればいいね、と思ってるだけだよ」
 ふふ、と微笑めば、学園でクールビューティーと人気を博しているらしいディヴィヤが頭を上げた。
 こちらもじっと俺を見てくる。
 え?
 なに?
 ちょっと無言で見るの止めて。母上似の顔で凝視されると超怖いんですけど…!
 ディヴィヤは枝毛チェックを取りやめて、すっと目を眇めた。
「お兄様。その出会いというのは男性と女性、どちらのことでしょうか?」
「女の子の方だよ!!」
 思わず渾身の雄叫びを披露してしまった。
 マーシャルが眠気を吹き飛ばしたように目を丸め、きょろきょろと周囲を探っている。
 母上が鋭い目つきでこっちを見てるけど、父上が起きてないのでセーフだ。
「ヴィー。それは一体、どういうことかな?」
 お兄ちゃんは怒んないから、情報源を教えておくれ。
 鉄槌を下してくれる!
 キャンベルは首を傾げているけど、キャサリンは噂を知っているかのように肩を竦めた。
「有名ですわ」
 ディヴィヤは言って、ちょんと自身の右耳を指さした。
「私もお茶会でお友達に訊かれました。遠まわしですけど」
 キャサリンが嘆息交じり言う。
「あの…何の話ですか?」
 怖ず怖ずと、キャンベルが口を開く。
「カムお兄様。ピアスの話ですわ。男性がピアスをしているのは同性愛者のアピールなんですって」
 ストレート!!
 キャサリン、ストレートすぎますよ!
 見て?キャンベルとマーシャルの顔を見て!?
 2人ともお目々が零れ落ちそうなほど丸々と見開いてるだろう?
 もうちょっとさ、オブラートに包むように!
 お兄ちゃんも辛いのよ…!
「兄上…。血を次代に繋ぐのは王族の務めですよ?」
「僕は別にリロイ兄様の好きにすればいいと思うよ?リロイ兄様は、既に王族の務めを背負ってるんだもん。恋愛くらいは好きにすればいいよ。スコットでもシュリークでもいいけどさ」
 マ~~シャル!!
 お前という子は、非かわゆすが出てますよ!
「マル、そこでなぜにジョゼフとマットなのかな?」
「だって、リロイ兄様がその2人以外と一緒にいるところ見たことないもん」
 そこでお前たちは頷くんじゃありません!
「あの2人、性格が正反対でしょう?寡黙で真面目なスコットと、粗忽そうなのに隙がないシュリーク。しかも2人とも顔が良いから、登城する令嬢たちに密かな人気なのよ」
 なんと!?
「で、お兄様も見目が良いでしょう?」
 ディヴィヤがじっとりと俺を見てくる。
 まぁ、控えめに言っても銀髪の美青年だとは思うよ。だから、ピアスが似合いすぎて、ピアスの意味なんて調べもせずに愛用しちゃったんだけどね…。
「ヴィーが褒めてくれるのは嬉しいね」
「その容姿とピアスが仇となっているのですわ」
 ん?
 弟たちと一緒に首を傾げてしまったけど、キャサリンは心当たりがあるのか困ったように微笑して紅茶を口にしている。
「お兄様とスコット、シュリークは良い餌になってますわ」
 えさ?
「あなたたち、リロイをイジメるのはおよしなさい。ピアスの件は聞いています。そのピアスはジェレミーから贈られたお守りなのです。ジェレミーもリロイもピアスの意味を知らずにつけ、そして知らずに令嬢たちから遠巻きに見られ、噂されていただけです」
 母上は言って、深々と息を吐いた。
 弟妹たちが順繰りと「なぁんだ」「父上か」と納得していく。
 唯一、キャンベルだけが「安心しました」と天使の笑顔だ。かわゆす。
「あの、母上。噂とはなんでしょうか?」
「マルが言ったように、スコットとシュリークとの噂ですよ。ヴィーが言った”餌”というのは、令嬢たちに耽美な話題を提供していることです」
「タンビ?」
 意味が分からず片言になっちゃったよ。
 ヴィーが嘆息する。
「お兄様を主役とした、スコットとシュリークの愛の物語、という意味ですわ。概ね、お兄様を受け・・とした三角関係のお話が、娯楽の一種として面白おかしく広まっています」
「ウケとはなんですか?」
 マーシャルが眉宇を顰め、俺とキャンベルが頷く。
「受けとは女性役という意味ですわ」
 肩を竦めたディヴィヤに3兄弟で固まっちゃったよ!
 おい、不敬だろ!
 王族をネタに耽美R18を想像してるんじゃない!
 これじゃあ、一生独身だよ!俺の流れ弾で、ジョゼフとマットまで道連れじゃないか…。
 ぎりぎりと歯軋りしたいところを我慢して、改めて母上に向き直る。
「母上。実はその件でご相談したいと思っていたのです」
 ピアスを軽く撫でて、ため息ひとつ。
「父上は伯父上にもピアスを贈っていたそうなのです。しかし、伯父上はピアスの意味を知っていたらしく、ネックレスに変更したのです。私もネックレスに変更しても良いでしょうか?」
 父上に言うと、絶対に悲しそうな顔をするもんなぁ…。
 伯父上は押しの一手なんだろうけど、俺には出来ないのよ。悲しげな父上の顔を見ると、その後ろに仁王立ちした母上の幻覚が見えちゃうのよ…。
 だったら母上に相談したほうが利口でしょ?
 ちょっぴり上目遣いに、キュートな顔で母上を見る。
「リロイ。その情報は2年前に欲しかったです」
 つまり、今更ってこと?
 ですよね~。
 この2年間、俺は王族の広告塔としてフリフリの傘を差して各地に赴いてる。シンプルなピアスなら髪に隠れて目立たなかったかもしれないけど、俺のはぶら下がってんのよ。目立つのよ。
 もう殺してくれよ!
 いや…死なないけどさ。
「お兄様。そう悲観せずとも大丈夫ですわ。我が国では男性のピアスは同性愛者の印ですが、国が変われば文化も変わります。国交はありませんが、イルヴィス公国では富の象徴として、男性もピアスをつけていると本で読みました。神聖ウッドヴァイン皇国では、既婚者が互いの瞳の色のピアスを贈る風習があるそうですわ」
「ヴィーは俺に国を出ろと…?」
「いいえ。お兄様は人柱ですわ。人柱は国外へ出ることは禁止されています。ですので、私とカムがお兄様のピアスはお父様からの贈り物であり、他国の風習を真似ているのだと噂を広めましょう。もちろん、お兄様がマジョリティであることも、さりげなく学園で流しておきますわ」
「なるほど!父上の無知が俺に不幸を齎したと知られないナイスな手だな!それでなくとも結婚とは縁遠かったのに、父上のせいで危うく独りぽっちで老いさらばえていく人生かと思ってたよ」
 さすが我が妹だ!
 わぁ~っと感動の拍手を送っているのに、俺以外の弟妹が次々に俯き始めた。
 なにごと?
「リロイ」
 地の底を這うような低音ボイスと共に、ベキッ、不穏な音。
 恐る恐るに母上を見れば、鬼の形相!
 母上!扇子が折れてらっしゃいますよ!というか、片手でへし折ったの!?
 怖っ!!
 と心で叫びつつ、間違い探しを見つけたよ?
 母上の膝枕で、胸の上で手を組んでスヤスヤ寝ていたはずの父上が、「無知でごめんよぉ…」と両手で顔を覆ってしくしく泣いてる…。
 あれ起きてたの…?
 俺、死んじゃう感じ?
 てへ、っと笑った俺の額に、へし折れた扇子がクリーンヒットした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

ただあなたを守りたかった

冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。 ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。 ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。 両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。 その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。 与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。 令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。 ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。 だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。 領地にいたティターリエが拐われたというのだ。 どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。 婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。 表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。 ただティターリエの身を案じて。 そうして明らかになっていく真実とはーーー ※作者的にはハッピーエンドにするつもりですが、受け取り方はそれぞれなので、タグにはビターエンドとさせていただきました。 分かりやすいハッピーエンドとは違うかもしれません。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

獣王国の外交官~獣人族に救われた俺は、狂狼の異名を持つ最強の相棒と共に、人間至上主義に喧嘩を売る!~

新橋 薫
ファンタジー
 とある王国の文官、レイモンド・ベイリーはベイリー家という人間の貴族の三男で――転生者だった。  ある日。獣王国の侵攻によって、レイモンドが所属している王国は滅亡の危機に陥いる。  レイモンドは国王の側近の一人である、今世の父親からの命令……という名の脅迫により、外交官として獣人族との交渉を押し付けられてしまった。  記念すべき初外交が、超ハードモード&無理ゲーとなってしまったレイモンド。  そんな彼は、狂狼の異名を持つ狼の獣人、アドルフと運命の出会いを果たす。  獣人族に救われた主人公は、獣人、魚人、鳥人、魔族……果ては神とその眷属と絆を結び、やがて強大な敵――人間至上主義を掲げる邪宗との戦いに、身を投じることになる。  これは、一人の人間と異種族。そして、そんな彼らを守護する神とその眷属が――人間至上主義と、人間を愛する神に全力で抗う物語だ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※タイトルとあらすじを変更しました!旧タイトル「獣王国の外交官~狂狼の異名を持つ心友と共に~」 ★感想募集中!一言でも構いませんので、コメントを頂けると嬉しいです!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...