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ハーブティー
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実験というと言葉は悪いかもしれない。
2号棟で密やかに始めた朝夜のハーブティー試飲は、希望者のみを募って情報を取らせてもらっている。
実験を始めた理由は簡単。
団員たちが、慢性的な疲労と睡眠不足を抱えていたからだ。
ハードな訓練を積む団員たちは、獣人だからか訓練後も元気を持て余す人が多い。
その余った体力をどうするのかといえば、お酒へと向けられる。可能であれば、キレイな女性が相手をしてくれるそういう店に行きたいらしいことを耳にしたけど、駐屯地の近くには盛り場どころか民家もない。
結果、限度を知らない飲酒で睡眠は浅くなり、疲れを翌朝に持ち越す。
なのに、午後から元気が爆発して、訓練で発散できなかった分をお酒に…という悪循環に陥っているのだ。
全ての団員というわけではないけど、睡眠と疲労回復は重要案件だった。
そうして始めた実験に、初日から参加してくれているのがアーロン・サンドとジョアン・ペトリだ。
アーロンは第2騎士団の中では小柄で、混血の風属性魔導士。短く刈った涅色の髪に、壮年の渋みが出て来た30代後半の働き盛りである。
片や栗毛のジョアンは、大柄で、逞しい体躯をしている。クマの獣人らしく、年齢は18才と私と近い。そのせいか、ジョアンはアーロンに比べて仕草に幼さが残る。
パワー系の獣人なのに、ふにゃりと相好を崩してハーブティーを啜る様は、どうしても可愛く見える。
年上なのに、弟がいたらこんな感じだろう…と、本人が知ったら怒りそうなイメージが拭えない。
「イヴのハーブティーを飲むと、夜は良く眠れるようになったし、疲れも残らないんだ。朝飲むとパワーが漲る感じだね~」
「それは良かったです」
我が家伝来のハーブティーは、ハーブの力を最大限に活かせるように工夫している。他所様に出したことがないので、効能については身内での評価でしかなかった。
それが、この1週間の実験で手応えを得ている。
1号棟で振舞えるように調整しても良いかもしれない。
「ハーブティーは酸っぱくて苦手なんだが、これは飲みやすい」
アーロンが口元を綻ばせると、大人の男性の魅力に引き込まれそうになる。
なんという美中年!
「カモマイルとマテ、セージのブレンドなんです。それに蜂蜜を入れてるだけですよ」
この蜂蜜がポイントだ。
カルセオという花の蜜だけを集める蜂の蜂蜜で、流通していない入手困難品なのだ。豊かな風味と甘味。何よりストレス緩和や倦怠感を解消する作用があるので、我が家では好んで使用していた。
但し、流通していないので自分たちで採取する必要がある。
これは、先日行った森でキース副団長たちの手を借りて採取に成功したのだ。
ちなみに、あの時のボーガンを貸してくれたのがアーロンである。
「このハーブティー、疲労回復と筋肉や脳の活性化。倦怠感の解消なんかの効果があるようにブレンドしてるんですよ。で、ハーブにちょっぴり聖属性の魔力を注いでます」
「効果抜群じゃん!」
ジョアンが笑う。
「夜もカモマイルじゃなかったか?同じハーブ?でも風味が微妙に違うし、安眠出来てる気がする」
アーロンが不思議そうにカップに残ったハーブティーを見つめる。
「夜はカモマイルとリンデン、蜂蜜です。甘くて良い香りでしょ?カモマイルはリラックス、安眠にも効果がある万能ハーブなんですよ」
「はぁ…カモマイルって凄いっすね~」
ジョアンは呟き、残りを一気に飲み干す。
「蜂蜜の方が好きっすけど」
にかっと笑う顔は、まさに想像の中の弟だ。
「ところで、2人はのんびりしていて大丈夫なんですか?」
他の団員は騒々しく朝食を平らげると、ハーブティーを飲み干し、訓練に遅れないように駆けて行った。
「今日は休みなんだよ」と、厨房からピーター・リンクの声が飛んで来る。
ピーターはマリアと婚約中の料理人だ。今はマリアと2人で、大量の食器を洗っている。
私も手伝おうとしたところ、マリアから「イヴは治癒師でしょ」と笑われた。私から見れば手が足りないように見えるのに、この慌ただしさが普通だという。「手に負えなくなったら手伝ってね」と言われてしまい、私の仕事はあまりない。
ここで怪我をする人は殆どいないからだ。
だからこそ、ハーブティーを提供するようになったというのもある。
「アーロンとジョアンは町に行くんでしょ?」と、マリアがエプロンで手を拭きながらカウンターから顔を出した。
「食材の買い出しを兼ねてだな」
食材の買い出しは大量で、馬車が必要になる。商人に頼もうにも、営舎は”魔女の森”を切り拓いて作っているので、万が一にでもはぐれ魔物が出ないとも限らない。
ということで、買い出しは休みの日に団員が行っているのだ。
今日はアーロンとジョアンらしい。
「あの。私も一緒に行っちゃダメですか?」
「イヴも?」
「まだ町に行ったことがないので、どんな薬草や素材が売られているのか見て回りたいんです」
「ちょっと難しいかもなぁ…」
マリアの横からピーターも顔を出した。
長身痩躯の麦わら色の髪をしたピーターは、少し汚れた黒いエプロンを着けている。首の後ろで髪を束ねた男性で、マリアと7つも年の差がある。
「こっちに薬草屋はなかったはずだ」
「お店、ないんですか?」
「人族の国は分からないが、こっちは治療院が個々に仕入れるんだよ。普通は買いに行かないし、医者や薬師以外には売ってもらえないから店はないんだ」
「人族は誰でも魔法が使えて、聖属性持ちも少なくない。だから普通の者も気軽に薬草を買って調合するからな。薬草屋は珍しくないんだろうが、こっちは聖属性どころか魔導師自体が稀少なんだ。薬草屋を開いても、買いに来る客は治療院の関係と限られる。開くだけ無駄なんだ」
アーロンの説明に、3人が驚いている。
「人族は普通の人が薬を作るの?」とマリア。
「作りますよ。でも、それを他の人に処方したり売ったりすることはダメ。あくまでも家族間での使用が許されているだけです」
処方するには資格が必須だ。
医者が最たるものだけど、学校に行けない人たちは冒険者登録でBランク以上を目指す。そこを目指しながら、独学で薬師の知識を詰め込み、Bランク取得と同時に薬師の試験を受けることになる。
基本、Bランクを取得した人たちは、薬師の試験に合格する。
冒険者の薬師合格率が高いのは、ランクを上げるには薬草や魔物の基本的知識を要するからだ。生薬の調合補佐の依頼もゼロではないので、自ずと知識は蓄えられる。
ただ、薬師は医者ではないから、薬師の処方する薬で改善が見られなければ治療院へ行くことになる。貧しい者は医者にかかるにはハードルが高いので、まずは自分たちで処方するというわけだ。それでダメなら薬師にかかり、最終的に治療院と、平民は段階を踏んで治療にあたる。なので、薬草屋は身近な店だ。
それを説明すれば、みんなが「なるほど」と頷く。
「イヴは年齢でBランクに行けないんでしょ?つまり、それ以外は問題ないってこと?」
「試験を受けたわけじゃないけど、受かる自信はありますよ。うちは代々薬師の家系だったから」
「それなのに国を離れなきゃならなかったって…なんだか世知辛いわね」
マリアの言葉に、思わず苦笑する。
「俺はイヴの味方っすからね」
ジョアンが人懐っこく笑い、ぎゅっと手を握り締めてくる。
「俺、あんま人族と接したことないから分かんねぇけど、イヴのことはめっちゃ好き!」
「私も獣人と接したことなくて、不安いっぱいでここに来たけど、みんなのこと大好きですよ」
えへへ、と笑えば、ジョアンも頬を染めて破顔する。
騎士というだけで近寄り難く、怖い印象だったけど、騎士団のみんなは気のいい人たちだ。宴会とかで羽目を外すと怖いけど、素面の時は優しいから安心感がある。
ジョアンは弟みたいで、アーロンはお父さんみたい…と言ったら怒られそうだけど、ここは居心地が良い。
「一応、ジャレッド団長に許可を取ってくれ。OKが出たら町に連れて行こう。薬草屋があるかは分からないが」
「団長は執務室にいるはずっすよ」
ジョアン曰く、訓練場の正面に建つ司令塔に、ジャレッド団長は籠ることが多いという。
私は早速、外出許可を得る為にジャレッド団長に面会に行った。
そして、早々に後悔した。
「あ”?」
凶悪な顔貌が、輩みたいな声で私を睨んでいるから恐ろしい。
ジャレッド団長は公爵家の紋が縫われた団旗を背に、艶やかなウォールナットの執務机に座っている。手にしていたペンを投げ置き、腕を組んで私を見据える様は、まるで絵本の魔王だ。
「あ…えっと…ですから……外出許可を……」
「町に行ってどうするんだ」
「どう?えっと…アーロンさんが、団長が許可してくれたら一緒に行ってくれるって…。薬草屋がないか探してみようかなって…」
剣呑な目つきを前に、しどろもどろになる。
「…私は休みではないんですけど…町の薬草屋の品ぞろえが知りたくて」
「なるほど」と、ジャレッド団長が器用に片方の眉を跳ね上げた。
「無謀にも森に突撃しないだけでも成長したと褒めるべきか」
しつこい。
あの時は、森で採取に夢中になって帰宅時間の計算を誤ってしまった。私の足では夕暮れに間に合わないと思ったジェレミーが荷物を抱え、ロッドは私を抱っこし、全速力で森を駆け抜け、日が暮れる前に営舎に滑り込んだという経緯がある。
キース副団長が取り成してくれたけど、ジャレッド団長の説教は小一時間も続いた。
ますますジャレッド団長が苦手になった。
あと20cmくらい身長が縮んだらいいのに!
「言っておくが、町に薬草屋はない。薬草の取り扱いは認可証のある商会が、注文に合わせて卸すんだ」
「で、でも!それだとこちらが提示した素材がなければ、断られて終わりですよね?」
「だな」と、ジャレッド団長が頷く。
「あらかじめ業者が取り扱っている商品を知っておくのは必要だと思うんです。ない商品は、取り寄せ可能か知っておきたいですし…。それもダメなら、森で採取しておけます」
「また森に行くつもりか?」
「今度は1人では行きません。キース副団長たちが付き合ってくれるそうなので」
彼らは優しいから、事前にお願いしておけばスケジュールを取ってくれるはずだ。
ふふ、と頬を緩めた先で、ジャレッド団長の顔が恐ろしいことになっていた…。
「商会はクロムウェル公爵家が経営している。3日後を空けておけ。俺が連れて行く」
ありがたい申し出なのだけど、ジャレッド団長の顔が怖くて言葉の代わりに涙が滲んだ。
マリアの言った「獣人の男はフェミニストが多いの」には、ジャレッド団長は含まれていないらしい…。
2号棟で密やかに始めた朝夜のハーブティー試飲は、希望者のみを募って情報を取らせてもらっている。
実験を始めた理由は簡単。
団員たちが、慢性的な疲労と睡眠不足を抱えていたからだ。
ハードな訓練を積む団員たちは、獣人だからか訓練後も元気を持て余す人が多い。
その余った体力をどうするのかといえば、お酒へと向けられる。可能であれば、キレイな女性が相手をしてくれるそういう店に行きたいらしいことを耳にしたけど、駐屯地の近くには盛り場どころか民家もない。
結果、限度を知らない飲酒で睡眠は浅くなり、疲れを翌朝に持ち越す。
なのに、午後から元気が爆発して、訓練で発散できなかった分をお酒に…という悪循環に陥っているのだ。
全ての団員というわけではないけど、睡眠と疲労回復は重要案件だった。
そうして始めた実験に、初日から参加してくれているのがアーロン・サンドとジョアン・ペトリだ。
アーロンは第2騎士団の中では小柄で、混血の風属性魔導士。短く刈った涅色の髪に、壮年の渋みが出て来た30代後半の働き盛りである。
片や栗毛のジョアンは、大柄で、逞しい体躯をしている。クマの獣人らしく、年齢は18才と私と近い。そのせいか、ジョアンはアーロンに比べて仕草に幼さが残る。
パワー系の獣人なのに、ふにゃりと相好を崩してハーブティーを啜る様は、どうしても可愛く見える。
年上なのに、弟がいたらこんな感じだろう…と、本人が知ったら怒りそうなイメージが拭えない。
「イヴのハーブティーを飲むと、夜は良く眠れるようになったし、疲れも残らないんだ。朝飲むとパワーが漲る感じだね~」
「それは良かったです」
我が家伝来のハーブティーは、ハーブの力を最大限に活かせるように工夫している。他所様に出したことがないので、効能については身内での評価でしかなかった。
それが、この1週間の実験で手応えを得ている。
1号棟で振舞えるように調整しても良いかもしれない。
「ハーブティーは酸っぱくて苦手なんだが、これは飲みやすい」
アーロンが口元を綻ばせると、大人の男性の魅力に引き込まれそうになる。
なんという美中年!
「カモマイルとマテ、セージのブレンドなんです。それに蜂蜜を入れてるだけですよ」
この蜂蜜がポイントだ。
カルセオという花の蜜だけを集める蜂の蜂蜜で、流通していない入手困難品なのだ。豊かな風味と甘味。何よりストレス緩和や倦怠感を解消する作用があるので、我が家では好んで使用していた。
但し、流通していないので自分たちで採取する必要がある。
これは、先日行った森でキース副団長たちの手を借りて採取に成功したのだ。
ちなみに、あの時のボーガンを貸してくれたのがアーロンである。
「このハーブティー、疲労回復と筋肉や脳の活性化。倦怠感の解消なんかの効果があるようにブレンドしてるんですよ。で、ハーブにちょっぴり聖属性の魔力を注いでます」
「効果抜群じゃん!」
ジョアンが笑う。
「夜もカモマイルじゃなかったか?同じハーブ?でも風味が微妙に違うし、安眠出来てる気がする」
アーロンが不思議そうにカップに残ったハーブティーを見つめる。
「夜はカモマイルとリンデン、蜂蜜です。甘くて良い香りでしょ?カモマイルはリラックス、安眠にも効果がある万能ハーブなんですよ」
「はぁ…カモマイルって凄いっすね~」
ジョアンは呟き、残りを一気に飲み干す。
「蜂蜜の方が好きっすけど」
にかっと笑う顔は、まさに想像の中の弟だ。
「ところで、2人はのんびりしていて大丈夫なんですか?」
他の団員は騒々しく朝食を平らげると、ハーブティーを飲み干し、訓練に遅れないように駆けて行った。
「今日は休みなんだよ」と、厨房からピーター・リンクの声が飛んで来る。
ピーターはマリアと婚約中の料理人だ。今はマリアと2人で、大量の食器を洗っている。
私も手伝おうとしたところ、マリアから「イヴは治癒師でしょ」と笑われた。私から見れば手が足りないように見えるのに、この慌ただしさが普通だという。「手に負えなくなったら手伝ってね」と言われてしまい、私の仕事はあまりない。
ここで怪我をする人は殆どいないからだ。
だからこそ、ハーブティーを提供するようになったというのもある。
「アーロンとジョアンは町に行くんでしょ?」と、マリアがエプロンで手を拭きながらカウンターから顔を出した。
「食材の買い出しを兼ねてだな」
食材の買い出しは大量で、馬車が必要になる。商人に頼もうにも、営舎は”魔女の森”を切り拓いて作っているので、万が一にでもはぐれ魔物が出ないとも限らない。
ということで、買い出しは休みの日に団員が行っているのだ。
今日はアーロンとジョアンらしい。
「あの。私も一緒に行っちゃダメですか?」
「イヴも?」
「まだ町に行ったことがないので、どんな薬草や素材が売られているのか見て回りたいんです」
「ちょっと難しいかもなぁ…」
マリアの横からピーターも顔を出した。
長身痩躯の麦わら色の髪をしたピーターは、少し汚れた黒いエプロンを着けている。首の後ろで髪を束ねた男性で、マリアと7つも年の差がある。
「こっちに薬草屋はなかったはずだ」
「お店、ないんですか?」
「人族の国は分からないが、こっちは治療院が個々に仕入れるんだよ。普通は買いに行かないし、医者や薬師以外には売ってもらえないから店はないんだ」
「人族は誰でも魔法が使えて、聖属性持ちも少なくない。だから普通の者も気軽に薬草を買って調合するからな。薬草屋は珍しくないんだろうが、こっちは聖属性どころか魔導師自体が稀少なんだ。薬草屋を開いても、買いに来る客は治療院の関係と限られる。開くだけ無駄なんだ」
アーロンの説明に、3人が驚いている。
「人族は普通の人が薬を作るの?」とマリア。
「作りますよ。でも、それを他の人に処方したり売ったりすることはダメ。あくまでも家族間での使用が許されているだけです」
処方するには資格が必須だ。
医者が最たるものだけど、学校に行けない人たちは冒険者登録でBランク以上を目指す。そこを目指しながら、独学で薬師の知識を詰め込み、Bランク取得と同時に薬師の試験を受けることになる。
基本、Bランクを取得した人たちは、薬師の試験に合格する。
冒険者の薬師合格率が高いのは、ランクを上げるには薬草や魔物の基本的知識を要するからだ。生薬の調合補佐の依頼もゼロではないので、自ずと知識は蓄えられる。
ただ、薬師は医者ではないから、薬師の処方する薬で改善が見られなければ治療院へ行くことになる。貧しい者は医者にかかるにはハードルが高いので、まずは自分たちで処方するというわけだ。それでダメなら薬師にかかり、最終的に治療院と、平民は段階を踏んで治療にあたる。なので、薬草屋は身近な店だ。
それを説明すれば、みんなが「なるほど」と頷く。
「イヴは年齢でBランクに行けないんでしょ?つまり、それ以外は問題ないってこと?」
「試験を受けたわけじゃないけど、受かる自信はありますよ。うちは代々薬師の家系だったから」
「それなのに国を離れなきゃならなかったって…なんだか世知辛いわね」
マリアの言葉に、思わず苦笑する。
「俺はイヴの味方っすからね」
ジョアンが人懐っこく笑い、ぎゅっと手を握り締めてくる。
「俺、あんま人族と接したことないから分かんねぇけど、イヴのことはめっちゃ好き!」
「私も獣人と接したことなくて、不安いっぱいでここに来たけど、みんなのこと大好きですよ」
えへへ、と笑えば、ジョアンも頬を染めて破顔する。
騎士というだけで近寄り難く、怖い印象だったけど、騎士団のみんなは気のいい人たちだ。宴会とかで羽目を外すと怖いけど、素面の時は優しいから安心感がある。
ジョアンは弟みたいで、アーロンはお父さんみたい…と言ったら怒られそうだけど、ここは居心地が良い。
「一応、ジャレッド団長に許可を取ってくれ。OKが出たら町に連れて行こう。薬草屋があるかは分からないが」
「団長は執務室にいるはずっすよ」
ジョアン曰く、訓練場の正面に建つ司令塔に、ジャレッド団長は籠ることが多いという。
私は早速、外出許可を得る為にジャレッド団長に面会に行った。
そして、早々に後悔した。
「あ”?」
凶悪な顔貌が、輩みたいな声で私を睨んでいるから恐ろしい。
ジャレッド団長は公爵家の紋が縫われた団旗を背に、艶やかなウォールナットの執務机に座っている。手にしていたペンを投げ置き、腕を組んで私を見据える様は、まるで絵本の魔王だ。
「あ…えっと…ですから……外出許可を……」
「町に行ってどうするんだ」
「どう?えっと…アーロンさんが、団長が許可してくれたら一緒に行ってくれるって…。薬草屋がないか探してみようかなって…」
剣呑な目つきを前に、しどろもどろになる。
「…私は休みではないんですけど…町の薬草屋の品ぞろえが知りたくて」
「なるほど」と、ジャレッド団長が器用に片方の眉を跳ね上げた。
「無謀にも森に突撃しないだけでも成長したと褒めるべきか」
しつこい。
あの時は、森で採取に夢中になって帰宅時間の計算を誤ってしまった。私の足では夕暮れに間に合わないと思ったジェレミーが荷物を抱え、ロッドは私を抱っこし、全速力で森を駆け抜け、日が暮れる前に営舎に滑り込んだという経緯がある。
キース副団長が取り成してくれたけど、ジャレッド団長の説教は小一時間も続いた。
ますますジャレッド団長が苦手になった。
あと20cmくらい身長が縮んだらいいのに!
「言っておくが、町に薬草屋はない。薬草の取り扱いは認可証のある商会が、注文に合わせて卸すんだ」
「で、でも!それだとこちらが提示した素材がなければ、断られて終わりですよね?」
「だな」と、ジャレッド団長が頷く。
「あらかじめ業者が取り扱っている商品を知っておくのは必要だと思うんです。ない商品は、取り寄せ可能か知っておきたいですし…。それもダメなら、森で採取しておけます」
「また森に行くつもりか?」
「今度は1人では行きません。キース副団長たちが付き合ってくれるそうなので」
彼らは優しいから、事前にお願いしておけばスケジュールを取ってくれるはずだ。
ふふ、と頬を緩めた先で、ジャレッド団長の顔が恐ろしいことになっていた…。
「商会はクロムウェル公爵家が経営している。3日後を空けておけ。俺が連れて行く」
ありがたい申し出なのだけど、ジャレッド団長の顔が怖くて言葉の代わりに涙が滲んだ。
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