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まれびとの社(二部)
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頭を抱え、深々とため息を吐いたのは年神様だ。
昨夜、高木神様とのあらましを聞き終えての反応である。
「須久奈。人間というのは、とても脆弱なんだよ。風邪を拗らせれば死ぬし、打ち所が悪ければ転んでも死ぬ。小さな棘が刺さって死ぬこともあるし、極度の恐怖で心臓が止まってしまうこともあるんだよ」
そこまで人は弱くないとは思うけど、実際に亡くなる人もいるので反論は出来ない。
ちらりと須久奈様を見れば、猫背になって腕を組み、むすりと不貞腐れた顔をしている。
「年神様は人に詳しいんですね」
「年神は人間の生活に寄り添っている神だからな~」と、神直日神。
「須久奈のように現世に駐在しているわけではないけど、少なくとも須久奈よりは人間のことを理解しているつもりだよ」
須久奈様はひと月と少し前までは引きこもりだったのだ。出歩くのは、私たちが寝静まった夜間だけ。人の気配がすれば押し入れに飛び込み、窮屈そうに体を丸めて閉じこもっていた。
今は押し入れに引きこもることはなくなったし、こうして外に出るようになったけど、人との隔たりは大きい。常識も違えば、価値観も違うのだ。
たぶん、昨夜、なぜ私が卒倒したのかもよく分かっていない。
「とにかく、須久奈は力加減を学ばなくてはいけない。人間には圧死、窒息死というのもあるのだから」
「わ、分かってる!あの時は…ちょっと間違えたんだ…」
「間違えたからと言って、人間はリセットしないんだよ」
リセットの意味が分からないのか、須久奈様が首を傾げた。
「前の状態に戻すってことです。つまり、私が須久奈様の手で死んじゃっても、生き返らすことができないってことですよ」
「そ…そ、そういうことか」
かくかくと頷き、組んでいた腕を解きながら私の顔を覗き込んで来る。
「い…一花…その…もう大丈夫なのか?痛くない?あ…あれくらいで…気絶するとは思わなかったんだ…」
「大丈夫ですよ。昨夜のは酸欠で倒れただけです。もう力任せは止めて下さいね」
「知ってるか?抱きしめるってのはハグって言うが、卒倒させるのはベアハッグって言うプロレスの締め技だぜ?」
にたにたと神直日神が言う。
この神様の知識欲は素直に凄いと思う。普通に知らなくても問題ないことまで知っている。
そして、私は須久奈様にプロレスの締め技をキメられていたらしい。
「須久奈様は馬鹿力すぎるんです」
「須久奈の力は抜きん出てるよな~」
神直日神の言葉に、年神様も大きく頷いている。
神様も認める怪力に締め技をキメられてたなんて…。遅ればせながら、ぞぞぞっと背筋に冷たいものが走る。
よく生きてた…。
「ところで、高御産巣日神様は確かに”忌み物”と言ったんだね?」
「ああ。回収しろと」
「んで、物はなんだって?」
神直日神の問いに、須久奈様は「聞いてない」とそっぽを向く。
「高木神様も分かんないって言ってましたよ。ただ、最上級の忌み物だって」
緊張と恐怖で記憶が飛び飛びだけど、そんなことを言っていた気がする。
須久奈様も訂正しないので、合っているらしい。
重苦しい沈黙が落ちた中、「失礼します」と母と百花がやって来た。廊下で膝をつき、須久奈様たちに頭を下げる。傍らには盆に乗せたお酒と肴だ。
本来なら私も母たちを手伝わなきゃいけないけど、母曰く、私の役目は須久奈様の傍にいることだという。要はご機嫌伺いだ。
私は配膳を手伝うべく、くるりと母たちに向き直ると肴の乗った盆を手にする。「これはよろしくね」と百花は言って、急いで台所へと戻って行った。
他にも料理があるのだろう。
私がお手拭きとお箸の配膳を終えると、母がお酒の用意を始める。興味津々にデキャンタを見据えるのは神直日神だ。
「なんの酒だ?」
「夏酒になります」
母の答えに、神直日神は上機嫌に口角を上げる。
私は未成年だしお酒の味は分からないけど、須久奈様曰く、夏酒は低温貯蔵していた日本酒で、ほどよい甘さと酸味を持っているらしい。氷を入れてもバランスの良さが崩れないから、夏に相応しい酒なんだとか。
ちなみに、秋には熟成された”ひやおろし”と”秋あがり”がある。
母が青い切り子グラスにお酒を注ぎ、神様の前に配膳する。私が小鉢のキュウリと茄子の浅漬け、カツオの酒盗を並べている間に、百花も盆を手に戻って来た。
追加の料理はカマンベールチーズ、鶏レバーの甘辛煮、アサリの酒蒸しだ。
全てが揃うと、須久奈様はお酒を嗜み、年神様は浅漬けから箸をつけ、神直日神はアサリとお酒を交互に味わい始めた。
「…弟はどうした?」
須久奈様が母を一瞥し、母は怖ず怖ずと須久奈様に向き直る。
「誓志は町内会の手伝いに行っています。盆が終われば夏祭りが始まりますので、その会場の設営準備に駆り出されているのです」
「誓志がどうかしたんですか?」
私が訊けば、須久奈様は首を傾げるようにして私を見下ろす。
「い、一花じゃなくて…弟に回収させればいいだろ…」
「誓志に…その忌み物?というのを取って来いって言うんですか?」
驚きと呆れが入り混じり、思わず口がへの字に曲がる。
「誓志に行かせるくらいなら、私が行きます」
須久奈様の加護を受けているのだから、私が行った方が安全だ。
「じゃ…じゃあ、直日。お前が取って来い」
まるで犬だ。
なのに、神直日神は怒るわけでもなく、「ん~」と考え込んでいる。
「あの。申し訳ありません。その忌み物といういうのは何でしょうか?」
母が訊く。
そういえば、忌み物の説明は聞いていない。まぁ、神様が忌避する物らしいのでお察しだ。
「い…忌み物は…常世の物だ」
短い説明を補足するように、年神様が口を開いた。
「常世から現世に間違って流れた物だよ。神や妖怪の手が加えられた物で、忌みという字の如く、穢れを受けた禁忌の代物だ。分かりやすく例えるなら、鬼の金棒のようなものかな」
「でも、神様が手を加えた物も忌み物なんですよね?」
私が首を傾げれば、年神様は困ったように眉尻を下げた。
「全ての神が穢れとは無縁ではないんだよ。穢れを好む神もいる。一花ちゃんも知っているだろ?」
邪悪な黒い子供だ…。
「西洋には明確に悪魔と言う言葉があるが、こちらにはないからね。紙一重なんだよ」
「…あれ?邪神っていうのは…西洋ですか?」
「いや。災いを為す神のことだけど、西洋の悪魔と邪神は少し違うんだよ。人間にとっては災いを為すから悪魔と同義かもしれないけどね。邪神とは、従わない神のことを揶揄して言っているに過ぎないんだ。人間にもいるだろ?反抗ばかりして服従しない者が」
「不良みたいな感じですか?」
そう言えば、年神様が朗らかに笑う。
「一花ちゃんが分かりやすければ、そう表現しよう。邪神だね。そして、禍津日神でさえ、絶対悪の”悪魔”とは言われないんだよ」
善も悪も関係なく、”神”と名につくものには畏敬の念を込める必要があるのだろう。
私は「分かりました」と頭を下げる。
分かったと言っても、神様と人との価値観には大きな隔たりがある。頭で理解できても、心で納得することはできない。
何しろ、梅雨の悪夢はエクソシストも真っ青なホラーで狂気だった。
あれですら悪魔とは言わないのか…と思うと、胸の奥がもやもやするのも事実だ。
「んなことより。お前は車の運転ができるのか?」
カマンベールチーズを噛み千切りながら、神直日神が「お前」と私を指さす。
「できませんよ?免許すら持ってません。自転車なら乗れます」
そう答えれば、神直日神が特大のため息を落とした。
「お前は、チャリの荷台に須久奈を乗せて行くっていうのか?」
「え?無理です。須久奈様みたいな大きな人…というか神様ですけど、2人乗りは出来ません。たぶん、漕ぎだす前に転倒します」
誓志を乗せることすら無理なのに、須久奈様はハードルが高い。
試すまでもなく、ひと漕ぎもできずにコケる。
「というか…どういうことですか?」
首を傾げれば、年神様が「ああ」と頷く。
「川守村に行く足の話だね」
「そういうこと~」
「川守村は遠いんですか?」
私が訊けば、「知らん」と3柱が口を揃えた。
「…早百合は知らないのか?」
須久奈様が母に目を向ければ、母は身を強張らせながらも微かに首を傾げた。
「申し訳ございません。聞き覚えがない村名です」
「あ!兼継さんなら知ってるんじゃない?」
「誰だ?」
と、神直日神。
「田邊醸造所の先代になります。今は長男が跡を継ぎ、兼継さんは隠居なさっています。とは言っても、町内会や老人会などに精力的に活動をされていますが…」
母が説明し、困惑気味な視線を私に飛ばす。
「どうして兼継さんなの?」
「薬袋さんに聞いた。昭和20年の台風でここに避難して来た村人の1人と、兼継さんが友達になったんだって」
「そのお友達を訪ねればいいんじゃない?」
「その人は亡くなってるって聞いた。それにね…」
自然と眉間に皺が寄る。
「ここに避難して来た人たちは差別されて、すぐに引っ越して行っちゃったんだって。だから近くに川守村出身者はいないと思う」
「なぜ差別されたの?」と百花。
「得体の知れない神様を連れて来るなって…。村八分状態だったんじゃない?他所の土地に越したくらいだから…」
「得体の知れない神様?川守村の人たちは神様が見えたの?」
百花が首を傾げ、私は「違う」と頭を振る。
「川守村の謎の風習…笹舟流しを、こっちでもやってたのがダメだったらしいよ。えっと…クワ、クワ…なんとか流し」
「クワアウ流しだ」
須久奈様が訂正してくれた。
「クワアウ…それって、禍殃のことかい?」
年神様の顔から、いつの間にか笑みが消えている。笑みを消し、怪訝に目を眇めた表情は、やっぱり神様だ。
ぞくり、と薄ら寒い畏れに肌が粟立つ。
須久奈様は真っすぐに年神様を見据え、「おそらく」と酒を煽った。
「…ついでに、神体は木片だと…酒蔵の頭が言っていた」
「クワアウ流しに、木片の神体」
神直日神はちびちびと酒を飲み、じっと私を見据え、「ぷ」と笑った。
「これは荒魂どころの騒ぎじゃねぇかもな!」
ふはは、と神直日神が腹を抱えて笑う。
「しかし、高御産巣日神様が人間である一花ちゃんに無理難題を押し付けるとは思えないけどね…。もしかすると、須久奈を表舞台に引っ張り出すことが目的なのかもしれないね」
「よ…よし。川守村より…あいつを殺すことを最優先にしよう…」
「須久奈。私たちを巻き込むのは止めてくれないか。高御産巣日神様の怒りを買いたくはないよ」
「俺も無理だわ~。造化三神は別格」
須久奈様は憤懣遣るかたないと言った表情だけど、ヘッドロックで手も足も出なかったのに、まだ立ち向かおうとしているのが不思議でならない。こういうのを不屈の精神というのだろうか?
というか、年神様の言葉が当たっているなら、私はとばっちりを食らったということだ。胸の奥にもやもやを抱えながら神直日神に向け、「あの」と手を上げる。
「神直日神様は荒魂どころじゃないって言いますけど、忌み物の検討がついてるんですか?」
「その木片だろ?」
「木片って御神体…ですよ?御神体って神様じゃないですよね?」
言葉は悪いけど、神様が見える私たちに言わせれば御神体はシンボルみたいな感じだ。
そこにあるだけの、神様の代理。
「ああ。神体は神が宿っているとされる礼拝対象にすぎねぇ」
「やはり問題が違ってたってことだろうね。完全に田の神信仰の線は消えたからね」
「どうしてですか?」
「一花ちゃんが笹舟流しの話をした時、悪いものを乗せてと言ったよね?」
私は無言で頷く。
「私を含めた田の神と言われる神は、クワアウ流しなんて許容しないんだよ。クワアウが禍殃であれば猶更ね。禍殃とは災禍。それを川に流す神事を是とはしない」
「表向き、田の神だったのかもな~」
神直日神は愉快そうに笑う。
「まれびと信仰だろ…」
ぼそり、と須久奈様が言う。
「頭が言うには…黒いゑびすが釣り竿や鯛の代わりに木片を抱えてたそうだ」
その言葉に、2柱が固まった。
「ゑびすか~」
「それは厄介だね…」
3柱が渋面を作る理由が分からない。
「えびす様は七福神で、商売繁盛の良い神様ですよね?それが厄介なんですか?」
「い…一花…。神には…別名があると言ったのを覚えてるか?」
「はい。須久奈様にもクスノカミという別の呼び方があるってやつですよね?」
須久奈様は「そう…」と頷く。
「な、中でも、ゑびすは突出している…。お、お俺も、ゑびすの1つだ」
「…ん?」
よく分からなくて首を傾げる。
須久奈様とえびす様は、外見が全く違う。確かに、久瀬酒造にとって須久奈様は商売繁盛の神様ではあるけど、根本的に違うように思う。
「一花ちゃん。別に須久奈が”ゑびす”と呼ばれているわけではないんだ。ゑびすはゑびすでしかないからね。ただ、ゑびすの起源が多岐に渡るんだよ。須久奈が基になったとも、事代主神が基になったとも言われている。その他にも、色んな神が基になったと人間は都合の良いことを説いて、都合の良い神を作り出したんだよ」
「作り出した…?」
「つ、つ、つまり、ゑびすという神は存在しない。か、代わりに、基となった神がいるということだ…」
「その1つが、まれびとだ。そして、ゑびすとまれびとを同一とする神がいる。蛭子命だ」
そう言って、神直日神は苦々しく目を眇める。
3柱の空気が変わった。
息苦しいくらいに重く、張り詰めた空気に肌がざわざわする。
「あの……マレビトとヒルコノミコトって…神様ですか?」
「ま、まれびとは外から流れて来たものを指す。外…というのは…海。流れついた奇妙な物を、に…人間は神として崇めた。例えば…流木」
木片だ…。
「…波に削られ…奇妙な形となった流木は…まれびととして迎えられる。それとは別に、じ、じ…実際に神が宿る物…つ、つまり、忌み物のこともあった」
須久奈様は頬を染め、じっと私の顔を覗き込んで「へへへ」と笑う。
「…が、ガラクタでも…長い年月、何かしらの信仰を向ければ…神が宿る。ヤサカみたいに」
「八百万の神様!」
「そ、そう。だが…普通、人間には神を見ることは出来ない。だから…し、信仰対象は…あ、あくまで漂流物だ」
「信仰対象が神様じゃなくて漂流物なんですか?」
「そう…」と、須久奈様は頷く。
「故に…”まれびと”なんだ。まれびととは…客人…と書くこともある。海から流れて来た…モノだ。それは次第に…漂流物と神が同一化した。な、流れ着いたのは海からではなく…常世から来た神という解釈になったんだ…」
外から来た神様か。
ロマンチックなような、ホラーなような、微妙な神様だ。
「だから年神様は、良くてマレビトと言ったんですね」
得体の知れない神様より、八百万の神様の方が相手をするにも楽なのだろう。須久奈様も以前、八百万の神様を有象無象と表現していた。
「それじゃあ、ヒルコノミコトも似たような神様ですか?八百万の神様?」
「…ひ、蛭子は……伊耶那岐命と伊耶那美命の…子だ」
須久奈様が顔を歪めた。
「それも第一子な~」と、神直日神が頭を掻く。
「蛭子は不具の子なんだよ。要は奇形児で、形を成していなかった。蛭と譬えたのは、蛭のように体が弛緩していたからだ。死産であれば良かったけど、蛭子は異形ながらに生きて産まれ、2柱は”我が子は良くない”…失敗作だと称した。愛することを放棄しても、殺すことは出来ない。それは穢れを生んでしまうからね。2柱は蛭子にひと欠片の愛情も抱くことなく、葦舟に乗せて淤能碁呂島より棄てたんだよ」
空気が重い。
母も百花も口を噤み、俯き、ぎゅっと拳を握っている。
「産まれたての子を舟に乗せて棄てるということは、殺したも等しい行為だけど、蛭子は死ななかった。いや…死んではいないとされているんだ」
「蛭子は俺たちの兄弟にカウントされていない。つまり、いない存在とされている」
「蛭子が哀れだと、保護しようとした神もいたのだけどね。蛭子を乗せた葦舟は見つからなかったんだ。やがて、人間たちはゑびすと蛭子を同一視するようになった。蛭子は葦舟に乗せて流された。まれびとは他所から流れ着いた。その一致から同一の神とされたんだよ」
それを聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。
「だったら、ヒルコノミコト様は良い神様ってことですよね。えびす様は七福神なんだし」
期待を込めて須久奈様を見上げれば、須久奈様はふるふると頭を振った。
「…い、一花なら……生まれ…棄てられ……善になれるか?恨まず、妬まず、己より恵まれた者たちを守る?」
「蛭子=ゑびすと都合よく解釈したのは、所詮、俺たちを見ることもできない人間だ。ゑびすという漢字表記は多岐に渡るが、その中の一つが蛭の子と書いて蛭子と読むものもあるんだよな~」
「良くてまれびと。最悪は蛭子だね」
「わ…忘れるな。神は祟る…」
須久奈様の言葉は、重石のように胸に沈んだ。
昨夜、高木神様とのあらましを聞き終えての反応である。
「須久奈。人間というのは、とても脆弱なんだよ。風邪を拗らせれば死ぬし、打ち所が悪ければ転んでも死ぬ。小さな棘が刺さって死ぬこともあるし、極度の恐怖で心臓が止まってしまうこともあるんだよ」
そこまで人は弱くないとは思うけど、実際に亡くなる人もいるので反論は出来ない。
ちらりと須久奈様を見れば、猫背になって腕を組み、むすりと不貞腐れた顔をしている。
「年神様は人に詳しいんですね」
「年神は人間の生活に寄り添っている神だからな~」と、神直日神。
「須久奈のように現世に駐在しているわけではないけど、少なくとも須久奈よりは人間のことを理解しているつもりだよ」
須久奈様はひと月と少し前までは引きこもりだったのだ。出歩くのは、私たちが寝静まった夜間だけ。人の気配がすれば押し入れに飛び込み、窮屈そうに体を丸めて閉じこもっていた。
今は押し入れに引きこもることはなくなったし、こうして外に出るようになったけど、人との隔たりは大きい。常識も違えば、価値観も違うのだ。
たぶん、昨夜、なぜ私が卒倒したのかもよく分かっていない。
「とにかく、須久奈は力加減を学ばなくてはいけない。人間には圧死、窒息死というのもあるのだから」
「わ、分かってる!あの時は…ちょっと間違えたんだ…」
「間違えたからと言って、人間はリセットしないんだよ」
リセットの意味が分からないのか、須久奈様が首を傾げた。
「前の状態に戻すってことです。つまり、私が須久奈様の手で死んじゃっても、生き返らすことができないってことですよ」
「そ…そ、そういうことか」
かくかくと頷き、組んでいた腕を解きながら私の顔を覗き込んで来る。
「い…一花…その…もう大丈夫なのか?痛くない?あ…あれくらいで…気絶するとは思わなかったんだ…」
「大丈夫ですよ。昨夜のは酸欠で倒れただけです。もう力任せは止めて下さいね」
「知ってるか?抱きしめるってのはハグって言うが、卒倒させるのはベアハッグって言うプロレスの締め技だぜ?」
にたにたと神直日神が言う。
この神様の知識欲は素直に凄いと思う。普通に知らなくても問題ないことまで知っている。
そして、私は須久奈様にプロレスの締め技をキメられていたらしい。
「須久奈様は馬鹿力すぎるんです」
「須久奈の力は抜きん出てるよな~」
神直日神の言葉に、年神様も大きく頷いている。
神様も認める怪力に締め技をキメられてたなんて…。遅ればせながら、ぞぞぞっと背筋に冷たいものが走る。
よく生きてた…。
「ところで、高御産巣日神様は確かに”忌み物”と言ったんだね?」
「ああ。回収しろと」
「んで、物はなんだって?」
神直日神の問いに、須久奈様は「聞いてない」とそっぽを向く。
「高木神様も分かんないって言ってましたよ。ただ、最上級の忌み物だって」
緊張と恐怖で記憶が飛び飛びだけど、そんなことを言っていた気がする。
須久奈様も訂正しないので、合っているらしい。
重苦しい沈黙が落ちた中、「失礼します」と母と百花がやって来た。廊下で膝をつき、須久奈様たちに頭を下げる。傍らには盆に乗せたお酒と肴だ。
本来なら私も母たちを手伝わなきゃいけないけど、母曰く、私の役目は須久奈様の傍にいることだという。要はご機嫌伺いだ。
私は配膳を手伝うべく、くるりと母たちに向き直ると肴の乗った盆を手にする。「これはよろしくね」と百花は言って、急いで台所へと戻って行った。
他にも料理があるのだろう。
私がお手拭きとお箸の配膳を終えると、母がお酒の用意を始める。興味津々にデキャンタを見据えるのは神直日神だ。
「なんの酒だ?」
「夏酒になります」
母の答えに、神直日神は上機嫌に口角を上げる。
私は未成年だしお酒の味は分からないけど、須久奈様曰く、夏酒は低温貯蔵していた日本酒で、ほどよい甘さと酸味を持っているらしい。氷を入れてもバランスの良さが崩れないから、夏に相応しい酒なんだとか。
ちなみに、秋には熟成された”ひやおろし”と”秋あがり”がある。
母が青い切り子グラスにお酒を注ぎ、神様の前に配膳する。私が小鉢のキュウリと茄子の浅漬け、カツオの酒盗を並べている間に、百花も盆を手に戻って来た。
追加の料理はカマンベールチーズ、鶏レバーの甘辛煮、アサリの酒蒸しだ。
全てが揃うと、須久奈様はお酒を嗜み、年神様は浅漬けから箸をつけ、神直日神はアサリとお酒を交互に味わい始めた。
「…弟はどうした?」
須久奈様が母を一瞥し、母は怖ず怖ずと須久奈様に向き直る。
「誓志は町内会の手伝いに行っています。盆が終われば夏祭りが始まりますので、その会場の設営準備に駆り出されているのです」
「誓志がどうかしたんですか?」
私が訊けば、須久奈様は首を傾げるようにして私を見下ろす。
「い、一花じゃなくて…弟に回収させればいいだろ…」
「誓志に…その忌み物?というのを取って来いって言うんですか?」
驚きと呆れが入り混じり、思わず口がへの字に曲がる。
「誓志に行かせるくらいなら、私が行きます」
須久奈様の加護を受けているのだから、私が行った方が安全だ。
「じゃ…じゃあ、直日。お前が取って来い」
まるで犬だ。
なのに、神直日神は怒るわけでもなく、「ん~」と考え込んでいる。
「あの。申し訳ありません。その忌み物といういうのは何でしょうか?」
母が訊く。
そういえば、忌み物の説明は聞いていない。まぁ、神様が忌避する物らしいのでお察しだ。
「い…忌み物は…常世の物だ」
短い説明を補足するように、年神様が口を開いた。
「常世から現世に間違って流れた物だよ。神や妖怪の手が加えられた物で、忌みという字の如く、穢れを受けた禁忌の代物だ。分かりやすく例えるなら、鬼の金棒のようなものかな」
「でも、神様が手を加えた物も忌み物なんですよね?」
私が首を傾げれば、年神様は困ったように眉尻を下げた。
「全ての神が穢れとは無縁ではないんだよ。穢れを好む神もいる。一花ちゃんも知っているだろ?」
邪悪な黒い子供だ…。
「西洋には明確に悪魔と言う言葉があるが、こちらにはないからね。紙一重なんだよ」
「…あれ?邪神っていうのは…西洋ですか?」
「いや。災いを為す神のことだけど、西洋の悪魔と邪神は少し違うんだよ。人間にとっては災いを為すから悪魔と同義かもしれないけどね。邪神とは、従わない神のことを揶揄して言っているに過ぎないんだ。人間にもいるだろ?反抗ばかりして服従しない者が」
「不良みたいな感じですか?」
そう言えば、年神様が朗らかに笑う。
「一花ちゃんが分かりやすければ、そう表現しよう。邪神だね。そして、禍津日神でさえ、絶対悪の”悪魔”とは言われないんだよ」
善も悪も関係なく、”神”と名につくものには畏敬の念を込める必要があるのだろう。
私は「分かりました」と頭を下げる。
分かったと言っても、神様と人との価値観には大きな隔たりがある。頭で理解できても、心で納得することはできない。
何しろ、梅雨の悪夢はエクソシストも真っ青なホラーで狂気だった。
あれですら悪魔とは言わないのか…と思うと、胸の奥がもやもやするのも事実だ。
「んなことより。お前は車の運転ができるのか?」
カマンベールチーズを噛み千切りながら、神直日神が「お前」と私を指さす。
「できませんよ?免許すら持ってません。自転車なら乗れます」
そう答えれば、神直日神が特大のため息を落とした。
「お前は、チャリの荷台に須久奈を乗せて行くっていうのか?」
「え?無理です。須久奈様みたいな大きな人…というか神様ですけど、2人乗りは出来ません。たぶん、漕ぎだす前に転倒します」
誓志を乗せることすら無理なのに、須久奈様はハードルが高い。
試すまでもなく、ひと漕ぎもできずにコケる。
「というか…どういうことですか?」
首を傾げれば、年神様が「ああ」と頷く。
「川守村に行く足の話だね」
「そういうこと~」
「川守村は遠いんですか?」
私が訊けば、「知らん」と3柱が口を揃えた。
「…早百合は知らないのか?」
須久奈様が母に目を向ければ、母は身を強張らせながらも微かに首を傾げた。
「申し訳ございません。聞き覚えがない村名です」
「あ!兼継さんなら知ってるんじゃない?」
「誰だ?」
と、神直日神。
「田邊醸造所の先代になります。今は長男が跡を継ぎ、兼継さんは隠居なさっています。とは言っても、町内会や老人会などに精力的に活動をされていますが…」
母が説明し、困惑気味な視線を私に飛ばす。
「どうして兼継さんなの?」
「薬袋さんに聞いた。昭和20年の台風でここに避難して来た村人の1人と、兼継さんが友達になったんだって」
「そのお友達を訪ねればいいんじゃない?」
「その人は亡くなってるって聞いた。それにね…」
自然と眉間に皺が寄る。
「ここに避難して来た人たちは差別されて、すぐに引っ越して行っちゃったんだって。だから近くに川守村出身者はいないと思う」
「なぜ差別されたの?」と百花。
「得体の知れない神様を連れて来るなって…。村八分状態だったんじゃない?他所の土地に越したくらいだから…」
「得体の知れない神様?川守村の人たちは神様が見えたの?」
百花が首を傾げ、私は「違う」と頭を振る。
「川守村の謎の風習…笹舟流しを、こっちでもやってたのがダメだったらしいよ。えっと…クワ、クワ…なんとか流し」
「クワアウ流しだ」
須久奈様が訂正してくれた。
「クワアウ…それって、禍殃のことかい?」
年神様の顔から、いつの間にか笑みが消えている。笑みを消し、怪訝に目を眇めた表情は、やっぱり神様だ。
ぞくり、と薄ら寒い畏れに肌が粟立つ。
須久奈様は真っすぐに年神様を見据え、「おそらく」と酒を煽った。
「…ついでに、神体は木片だと…酒蔵の頭が言っていた」
「クワアウ流しに、木片の神体」
神直日神はちびちびと酒を飲み、じっと私を見据え、「ぷ」と笑った。
「これは荒魂どころの騒ぎじゃねぇかもな!」
ふはは、と神直日神が腹を抱えて笑う。
「しかし、高御産巣日神様が人間である一花ちゃんに無理難題を押し付けるとは思えないけどね…。もしかすると、須久奈を表舞台に引っ張り出すことが目的なのかもしれないね」
「よ…よし。川守村より…あいつを殺すことを最優先にしよう…」
「須久奈。私たちを巻き込むのは止めてくれないか。高御産巣日神様の怒りを買いたくはないよ」
「俺も無理だわ~。造化三神は別格」
須久奈様は憤懣遣るかたないと言った表情だけど、ヘッドロックで手も足も出なかったのに、まだ立ち向かおうとしているのが不思議でならない。こういうのを不屈の精神というのだろうか?
というか、年神様の言葉が当たっているなら、私はとばっちりを食らったということだ。胸の奥にもやもやを抱えながら神直日神に向け、「あの」と手を上げる。
「神直日神様は荒魂どころじゃないって言いますけど、忌み物の検討がついてるんですか?」
「その木片だろ?」
「木片って御神体…ですよ?御神体って神様じゃないですよね?」
言葉は悪いけど、神様が見える私たちに言わせれば御神体はシンボルみたいな感じだ。
そこにあるだけの、神様の代理。
「ああ。神体は神が宿っているとされる礼拝対象にすぎねぇ」
「やはり問題が違ってたってことだろうね。完全に田の神信仰の線は消えたからね」
「どうしてですか?」
「一花ちゃんが笹舟流しの話をした時、悪いものを乗せてと言ったよね?」
私は無言で頷く。
「私を含めた田の神と言われる神は、クワアウ流しなんて許容しないんだよ。クワアウが禍殃であれば猶更ね。禍殃とは災禍。それを川に流す神事を是とはしない」
「表向き、田の神だったのかもな~」
神直日神は愉快そうに笑う。
「まれびと信仰だろ…」
ぼそり、と須久奈様が言う。
「頭が言うには…黒いゑびすが釣り竿や鯛の代わりに木片を抱えてたそうだ」
その言葉に、2柱が固まった。
「ゑびすか~」
「それは厄介だね…」
3柱が渋面を作る理由が分からない。
「えびす様は七福神で、商売繁盛の良い神様ですよね?それが厄介なんですか?」
「い…一花…。神には…別名があると言ったのを覚えてるか?」
「はい。須久奈様にもクスノカミという別の呼び方があるってやつですよね?」
須久奈様は「そう…」と頷く。
「な、中でも、ゑびすは突出している…。お、お俺も、ゑびすの1つだ」
「…ん?」
よく分からなくて首を傾げる。
須久奈様とえびす様は、外見が全く違う。確かに、久瀬酒造にとって須久奈様は商売繁盛の神様ではあるけど、根本的に違うように思う。
「一花ちゃん。別に須久奈が”ゑびす”と呼ばれているわけではないんだ。ゑびすはゑびすでしかないからね。ただ、ゑびすの起源が多岐に渡るんだよ。須久奈が基になったとも、事代主神が基になったとも言われている。その他にも、色んな神が基になったと人間は都合の良いことを説いて、都合の良い神を作り出したんだよ」
「作り出した…?」
「つ、つ、つまり、ゑびすという神は存在しない。か、代わりに、基となった神がいるということだ…」
「その1つが、まれびとだ。そして、ゑびすとまれびとを同一とする神がいる。蛭子命だ」
そう言って、神直日神は苦々しく目を眇める。
3柱の空気が変わった。
息苦しいくらいに重く、張り詰めた空気に肌がざわざわする。
「あの……マレビトとヒルコノミコトって…神様ですか?」
「ま、まれびとは外から流れて来たものを指す。外…というのは…海。流れついた奇妙な物を、に…人間は神として崇めた。例えば…流木」
木片だ…。
「…波に削られ…奇妙な形となった流木は…まれびととして迎えられる。それとは別に、じ、じ…実際に神が宿る物…つ、つまり、忌み物のこともあった」
須久奈様は頬を染め、じっと私の顔を覗き込んで「へへへ」と笑う。
「…が、ガラクタでも…長い年月、何かしらの信仰を向ければ…神が宿る。ヤサカみたいに」
「八百万の神様!」
「そ、そう。だが…普通、人間には神を見ることは出来ない。だから…し、信仰対象は…あ、あくまで漂流物だ」
「信仰対象が神様じゃなくて漂流物なんですか?」
「そう…」と、須久奈様は頷く。
「故に…”まれびと”なんだ。まれびととは…客人…と書くこともある。海から流れて来た…モノだ。それは次第に…漂流物と神が同一化した。な、流れ着いたのは海からではなく…常世から来た神という解釈になったんだ…」
外から来た神様か。
ロマンチックなような、ホラーなような、微妙な神様だ。
「だから年神様は、良くてマレビトと言ったんですね」
得体の知れない神様より、八百万の神様の方が相手をするにも楽なのだろう。須久奈様も以前、八百万の神様を有象無象と表現していた。
「それじゃあ、ヒルコノミコトも似たような神様ですか?八百万の神様?」
「…ひ、蛭子は……伊耶那岐命と伊耶那美命の…子だ」
須久奈様が顔を歪めた。
「それも第一子な~」と、神直日神が頭を掻く。
「蛭子は不具の子なんだよ。要は奇形児で、形を成していなかった。蛭と譬えたのは、蛭のように体が弛緩していたからだ。死産であれば良かったけど、蛭子は異形ながらに生きて産まれ、2柱は”我が子は良くない”…失敗作だと称した。愛することを放棄しても、殺すことは出来ない。それは穢れを生んでしまうからね。2柱は蛭子にひと欠片の愛情も抱くことなく、葦舟に乗せて淤能碁呂島より棄てたんだよ」
空気が重い。
母も百花も口を噤み、俯き、ぎゅっと拳を握っている。
「産まれたての子を舟に乗せて棄てるということは、殺したも等しい行為だけど、蛭子は死ななかった。いや…死んではいないとされているんだ」
「蛭子は俺たちの兄弟にカウントされていない。つまり、いない存在とされている」
「蛭子が哀れだと、保護しようとした神もいたのだけどね。蛭子を乗せた葦舟は見つからなかったんだ。やがて、人間たちはゑびすと蛭子を同一視するようになった。蛭子は葦舟に乗せて流された。まれびとは他所から流れ着いた。その一致から同一の神とされたんだよ」
それを聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。
「だったら、ヒルコノミコト様は良い神様ってことですよね。えびす様は七福神なんだし」
期待を込めて須久奈様を見上げれば、須久奈様はふるふると頭を振った。
「…い、一花なら……生まれ…棄てられ……善になれるか?恨まず、妬まず、己より恵まれた者たちを守る?」
「蛭子=ゑびすと都合よく解釈したのは、所詮、俺たちを見ることもできない人間だ。ゑびすという漢字表記は多岐に渡るが、その中の一つが蛭の子と書いて蛭子と読むものもあるんだよな~」
「良くてまれびと。最悪は蛭子だね」
「わ…忘れるな。神は祟る…」
須久奈様の言葉は、重石のように胸に沈んだ。
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