神様の許嫁

衣更月

文字の大きさ
上 下
4 / 43

3

しおりを挟む
 別にアンテナを張り巡らせているわけではないけど、学校の休み時間というのは、意識せずともあらゆる情報が耳に入って来る。
 誰と誰が付き合っているとか、誰がフラれたとか、そんな恋愛事情以外にも、他愛ない噂話やゲームの話題と多岐にわたる。中でも自然と耳が拾ってしまうのは、夏に向けて増えてくる”のろい”とか”心霊スポット”というワードだ。
 主に耳に入る怪談は、SNSで話題という廃屋や廃神社が多い。
 人が祀ることのなくなった忘れ去られた神社を廃神社というらしい。俄かに信じ難いことだけど、私が知らないだけで打ち捨てられた神社は珍しくないのかもしれない。須久奈様の「信仰心を失ったら消える」という神様が死ぬ話が、それに現実味を与える。
 しかも廃神社の名前に高確率で稲荷というワードが入るからドキリとする。聞こえる地名は他県ばかりだし、ここの稲荷神社は大切に祀られていると分かっているのに、あの浅黒い手を思い出して気分が悪くなる。
「めっちゃ体調悪そうだけど大丈夫?」
 昼休みの眠気に欠伸を噛みながら、前席の田邊知里が手にしたスマホから頭を上げた。
 知里は創業100余年の老舗味噌醤油問屋、タナベ醸造の長女で、私の幼馴染だ。4つ上に、現在は隣県の大学で経営学を学ぶ兄の賢斗けんとさんがいる。長女ではあるけど家を継ぐ必要のない知里は、私と同じく進路に頭を悩ませる一人だ。
「顔色悪いよ」
「ひどく見える?」
「まぁ…今すぐ保健室に行って来いってほどじゃないけど、そこそこ顔が死んでる」
 明け透けに言う。
「朝、進路のことで担任と話してる見たんだよね」
 見られてたのかと、思わず苦笑が漏れた。
「進路で悩んでるの?」
「まぁ…違うとは言い切れないけど、それも含めて…かな」
「うちも古いけどさ、うちとは比べ物になんないくらい一花んとこは歴史があるし、色々と大変な感じだもんね。あたしも色々言われてて頭痛い」
 知里は言って、大袈裟な仕草で頭を抱えた。
「大学にしろ、専門学校にしろ、うちのプラスになるような専門性を身に付けろって言うんだよね。マーケティングを学ぶとか、シェフとかパティシエを目指すとか…。て、味噌とか使ったスイーツって何って感じ。そもそも田舎から出たいっていうの」
「8月に賢斗さんの大学でオープンキャンパスだっけ?」
「そうそう。それが終わったら遊びに連れて行ってくれるから、正直、それがメインかな。で、あんたは?」
 私もなんとなく進路希望調査票に大学進学と書いたけど、今朝、それを白紙にすると担任に相談した。
「大学行っとくかぁ…って感じだったんだけど、家の事情でねぇ…。色々考え直さなきゃならなくなって」
「そうだと思った。まぁ、思い悩まない程度にね。ほんと、顔色悪いから」
 知里は肩を竦めて、けほっ、と空咳をする子たちを指さす。
「風邪も流行ってるみたいだしさ」
「そういえば少し前から咳している子、ちらほら見かけるね」
 私は言って、喉を軽く撫でる。
「私は喉に異常ないよ」
 額に手を当てて、「熱もない」と笑う。
「この風邪なんだけど」と、知里が声を潜めた。
「一花んとこは何か変な話聞いてる?」
「風邪の話?知らない」
 私は首を傾げた。
「そっか…まぁ、発信源は兼じいだからねぇ」
 兼じいとは、知里の祖父の兼継かねつぐさんだ。
 町内会長と敬老会長を長年務める世話焼きであり、誰よりも信仰心が篤い。
「ここんところ、兼じいがまた変なこと言ってんの。一花んとこで話題にもなってないなら、単なる妄言だね」
「兼継さんの話、面白いから私は好きだけどな」
 兼継さんが口にする変なこととは、基本的に神様仏様の類だ。たまに妖怪だの祟りだのを織り交ぜてくるから、お伽話として聞く分には面白い。
 田邊家は年神様を祀っていて、家に行けば兼継さんが年神様の話を嬉々として話し、神棚へのお参りの仕方を事細かに指導してくる。
 田邊家で神様に会ったことはないのだけど、兼継さんの話は嫌いなじゃない。
 年神様の他に、川には河童、山には天狗がいて、どんな悪戯や怖いことをしてくるのかを教えてくれた。その為、小学生の間では、妖怪じじいと言われている。
 思わず口元が緩む。
「もしかして、妖怪が風邪を流行らせてるとか?」
 神様がいるなら、妖怪だっていてもおかしくはないけど、見たことがないので信じてはいない。
 兼継さんの話は、アクマでファンタジーとして受け入れているのだ。
 でも、身内としてはファンタジーでも抵抗があるようだ。知里はとんとん、と米神を叩きながら、盛大なため息を吐いている。
「本当に兼じいには困るよ」
 中らずと雖も遠からずらしい。
「もう朝から町内会の人たちに電話かけまくり」
 だったらうちにも電話がかかってきているのかと苦笑する。
「真剣な顔で、悪いものが町に入り込んだって言ってるよ」
 悪いものとは何だろうか。
「河童とか天狗とかじゃなくて?」
 兼継さんの会話で登場回数の多い妖怪を上げてみる。
「違う違う」と、知里は手を振った。
「なんでも北のサイカミ様が穢れたとかなんとか…。あたしも初めて聞く名前」
「北のサイカミ様?」
 私が首を傾げると、知里も首を傾げた。
 神籟町の北と言えば、稲荷神社がある方角だ。
「とにかく、うちの客とか従業員とかも咳症状の人がちらほらいるんだけど、そのサイカミ様が穢れたせいだって兼じいが言うんだよね。お陰で、学校が終わったら寄り道するなって五月蠅くって。寄り道するような場所もないのに」
 深々とため息を吐いて、知里はポニーテールに結んだシュシュを軽く撫でた。
「まぁ…そういうわけだから、これ以上風邪が流行るようなら、一花は気合い入れといた方がいいよ」
 気合いとは、いつ大掛かりな神事に駆り出されるか分からないという意味だ。
 巫女として駆り出されるかもよ、という幼馴染からの労りでもある。
「最悪…」
 思わず天井を仰ぐ。
 神楽の奉納があるなら、その稽古が始まる。
 百花と違って、私は繊細な所作を求めてくる舞が嫌いだ。なにより、今は稲荷神社に近づきたくはない。
「兼継さんの空振りを祈っとく」
 そう言うと、知里はスマホに指を滑らせながら笑った。
 たぶん、今回ばかりは珍しく兼継さん会心のホームランの予感がする。


 弟が一つ下で、同じ学校に通っているというのは、時として実に便利なことだと思う。
 放課後に何処へ行けば誓志を捕まえることができるかなんて簡単だ。誓志が補習を受けていなければ、部活に励んでいる。
 クラブ棟の辺りで顔見知りを捕まえてれば楽勝だ。
 そんな考えなしで赴いたのが悪かったのか、私の方が見知らぬ3年男子に捕まってしまった。
 名前は岩木と言うらしく、170cmの誓志を参考にすれば175cm前後くらいの身長。短い髪に、日に焼けた小麦色の肌をした細面。長い手足と有名メーカーのランニングシューズから、岩木先輩が陸上部所属だと推測できる。
 連れ出されたのはクラブ棟の横並びに建つ簡易倉庫の前だ。
 横並びと言っても、クラブ棟とは10メートルほど離れているし、境界線とばかりに金木犀や鼠糯ねずみもちが植えられているので、それなりに死角になる。簡易倉庫はCMで有名な鋼板仕様の物置で、空いたスペースに適当に置いたという感じだ。
 告白スポットにするため、態と人払いしているという噂も聞く。
 そんなことろにのこのこ連れ出された私も悪いとは思うけど、岩木先輩から5、6メートル後方の木の陰で、ジャージ姿の誓志が私を見ているから大丈夫だろう。誓志といえば、告白スポットの噂を知っているらしい。驚愕に強張った顔から、徐々に顔を真っ赤にしたかと思うと、パントマイムかと笑いそうになるくらいおろおろし始めた。
 姉の告白現場を目撃して狼狽えているというよりは、久瀬家の男子としての思考がパニックを起こしているように見える。
 あんなに人柱だ、偶像崇拝だと騒ぎ立てていても、根っこの部分では神様の重要性が骨身に沁みているのだ。もしくは、これが両親に知られれば当たり散らされると危惧しているのかもしれない。
 後者が本音かな。
 誓志から岩木先輩へと視線を戻す。
 改めて見ると、普通にモテそうな顔立ちだ。なのに、爽やかさが足りないせいで、どこか近寄り難い雰囲気がある。かといって、根暗にも見えない。
 一言でいうと、覇気がないのだ。
 心なし疲弊した顔に、虚ろな瞳。風邪が流行っているとは聞いたけど、熱があるようには見えないし、咳もしていない。
 少なくとも、今から好意のある女子に告白するぞ、というテンションには見えない。
 たまたま告白スポットに連れ込まれただけで、実は別の案件だったりするのだろうか。
 思わず首を捻る。
「あの…話ってなんですか?」
「実は…久瀬さんを見かけて気になって」
 とても好意を伝えているとは思えない気怠げな口調で、岩木先輩は緩慢に瞬く。
 薄い唇が微かに弧を描いたけど、それは笑みには程遠い作り物めいた形に見える。上手い表現が見つからないけど、狂言面に似た不気味さだ。
 普段の岩木先輩を知らないので断言はできないけど、ちょっと普通ではない異様さがある。
 誓志がいることを確認し、そっと手振りで待機させる。
 誓志が無言で小刻みに頷いた。
「それで」と、私は警戒心を巡らせつつ、岩木先輩を見上げる。
「私の何が気になったんですか?先輩とは初対面だと思うんですけど」
 そう言えば、岩木先輩の目が弓なりに撓った。
 陰湿な笑い方に、ぞくりと身震いしてしまう。
「昨日、神社に行っただろ?」
「え?あ…はい」
 もごもごと口籠る。
 私が稲荷神社へ行くのを見たのだろうけど、何処から見ていたのかが謎だ。放課後は部活だろうし、学校を出たところを見かけても行き先までは分からない。確実に稲荷神社へ行っていると断言するには、例の林道を上っているところを見なければならない。
 運動部が学校の外でランニングしているのは珍しくはないけど、昨日は見かけていない。
 悪寒が止まらない。
「神社へ行くの見てたんですね」
 あはは、と笑ってみても、自分を鼓舞するには限界があるらしい。 
 逃げ場を探すように視線を走らせたのに気づいたのか、不意に伸びて来た手が私の肩を掴んだ。
 緊張に体が強張る。
「その時、久瀬の目が気に入った」
「えっと…目、ですか?」
 理解が追い付かない。
 じっとりと汗が滲む私に、岩木先輩は「あと」と顔を近づけて来た。
 すん、とニオイを嗅がれ、「ヒュ」と喉が鳴る。
「ニオイ……このニオイを嗅ぐと、ぞわぞわするんだ」
 ニチャ、と音を立てて岩木先輩が白い歯を見せて笑った。
 全身に鳥肌が立ち、胃の腑から不快感が込み上げてきた。岩木先輩の肩を押し返そうと足掻くけど、岩木先輩はびくともしない。男女間の力の差じゃない。まるで壁を相手にしているみたいに、ほんの僅かも動かすことができない。
「目…イイな。よく見えてる…」
 うっとりと高揚した声が、実に気持ち悪い。
「ちょ…離れて下さい!」
「拒絶するなよ。神社で出会うべくして出会ったんだ」
 昨日、私は神社では誰とも会っていないし、神社に入る前に逃げ帰った。
 頭の中に、鳥居に纏わりついていた手が過る。
 途端に、辺りの空気が変わったのに気が付いた。風が滞り、空気は重く澱む。鼻孔に掠めたのは、腐った卵のような臭いだ。
 頭から滝のように汗が滴り、震えが止まらなくなった。まるでバケツ一杯の冷水をぶっかけられたみたいだ。
「その目、美味うまそうだ」
 岩木先輩の顔がゆっくりと近づいて来る。
「やっ!」
 顔を仰け反らせて、岩木先輩の手を振り払おうとするのに、岩木先輩の手はびくともしない。
「ああ、本当に美味そうだ」
 岩木先輩が舌を出した。
 視界いっぱいに舌が映る。
「誓志!」
 恐怖で目を瞑ったと同時に、叫び声とともに岩木先輩の横っ面が殴り飛ばされた。
「イ、イチ姉に何すんだ!」
 恐怖に怯え、周囲の異様な気配に声を上擦らせながらも、誓志は渾身の力で岩木先輩の体を押し退けた。
 岩木先輩が足を縺れさせて転倒した。
 誓志は「イチ姉!」と私の手を握ると、猛然と走り出した。気合いの叫び声をあげているけど、顔は泣き出しそうに歪んでいる。
 校舎に駆け込んでも、誓志の足は止まらなかった。誓志の同級生らしき子が「チカ!」と驚いたように声をかけてきたけど、愛想笑いの一つも返す余裕がない。
 無我夢中で廊下を走り、階段を駆け上がる。
 私たちが滑り込んだのは、第2校舎の視聴覚室だ。
 誓志は私の手を離すと、ぜぇぜぇと息を上げ、汗を拭い、大きく身震いして床に座り込む。
「な…なん…なんだアレ…」
 嘔吐えずきそうになる口を押え、気を抜けば涙が零れそうになる目で私を見上げた。
「イチ姉…」
 縋るような声を出されても、私は頭を振ることしかできない。
「誓志がいなかったら危なかった。ありがと…」
 強張った表情筋を両手で解しつつ言えば、誓志は「ホントだよ…」と頭を掻き毟った。
「俺、あの先輩のことは知らないけど……でも、あれは…なんていうか…違うんだよ。なんか…人の皮を被った化け物みたいな…そんな感じ!」
 言いたいことは分かるし、それが的確な表現とも思える。
 誓志は震える両手を見下ろし、「くそっ!」と涙声で顔を擦り上げた。
「イチ姉…」
「ん?」
「……人柱になったのが原因?」
 誓志が泣き顔で私を見上げる。
「それは違うよ。神様はね、人柱なんて望んでないんだから。人柱って言ってるのも私たちだけだし、花嫁だってお母さんたちが勝手に言い出したことだよ。そんなのが原因で、こんなことにはならない」
 ほら、と手を差し出すと、誓志が手を掴んで立ち上がった。
 ズボンを軽く叩き、気まずそうに顔を顰める。
「それじゃあ、アレはなんだったんだ?」
「ああ…たぶん…あれかな?というくらいは心当たりはある」
「は?」
 誓志が目を瞠る。
「昨日ね。変なのを見たんだよね。急いで逃げたけど、もしかして…目を付けられたのかも」
 冷静ではいられないけど、誓志の前で取り乱すわけにはいかない。
 それでも目が泳いでしまうし、膝や指先が小刻みに震えるのを止めることができない。
「それが理由って訳じゃないけど、誓志に訊きたいことがあって捜しに行ったんだ。まさかあんなことになるとはね…」
「とりあえず!」と誓志が声を張り上げる。
「俺に訊きたいことっていうのは、帰ったら聞くよ。まずは学校から出た方が良い。荷物を持って駐輪場で落ち合おう。俺は部活を休むから。イチ姉はカバンを回収して来ること。あの先輩に見つからないようにしろよ。もし見つかっても、人気のないところに行くなよ」
 誓志は言って、「行こう」と緊張した足取りで視聴覚室から顔を出し、誰にも見咎められないように抜け出した。
 あとは無心としか言いようがない。
 忍者か黒子か。それくらいに気配を消して、教室までカバンを取りに戻り、居残って噂話に花を咲かせるクラスメイトの誘いを下手な芝居で煙に巻き、神経をすり減らして駐輪場まで急いだのだ。駐輪場に着けば、既に誓志はいた。自転車のカゴにカバンと制服を乱暴に押し込み、いつでも帰れるようにペダルに足を乗せてスタンバイしている。
「誓志。帰ったら家に入らないで。お母さんと百花ちゃんに見つからないように、離れに来て」
「え!?いや、あそこはダメだろ」
「大丈夫。私が合図するまで、離れの裏側に隠れてて。私もあんたも障りをもらってる可能性があるから。清めるなら離れが最善なんだと思う」
 誓志が無言で頷く。
 それからは無言だった。
 ひたすら自転車を漕ぎ、途中の商店で塩を二袋買って、なんとなく互いに遠回りを意識しながら帰路についた。
 誓志は時間をずらして帰って来る予定だ。
 自転車を従業員用の駐輪場に停め、裏口から離れに向かう。人目を忍ぶように小走りに向かう理由は、塩二袋を抱えた姿を見咎められたくなかたからだ。何に使うのかと指摘されるのも面倒だし、詮索されるもの望むものではない。
 心の余裕はゼロだ。
 急いで玄関引き戸を開いて、真っ先に視界に飛び込んで来た黒い影に悲鳴が出そうになった。実際には出てたのかもしれないけど、悲鳴が家中に轟く前に、大きな手が口を塞いだのだ。
 心臓がばくばく跳ねるほどの恐怖を与えてくれたのは、誰でもない。須久奈様だ。
 少し焦ったようにわたわたして、私に代わって慌てて玄関引き戸を閉める。
「お…おお驚いた…。悲鳴をあげるなんて…ひどい」
 寂しげに眉を八の字にして、そろりと私から手を離す。
 いやいや…。
 玄関を開けたら、おどろおどろしく佇んでいるんだから普通に悲鳴を上げる。
 それでなくても、今の私の心臓はガラスよりも繊細なのだ。
 なにより、須久奈様の定位置は押し入れの下段の2分の1スペースだ。そこから少し襖を開けて、誰が入って来るのかを確認してから這い出てくるスタイルのはずなのに、いつからお出迎えスタイルになったのだろうか…。
「あ…ま、また塩買ってる…。し、しかも2袋…。また行水する気か?風邪ひくし…人間は風邪でも死ぬって言うのに…。いやでも…い、一花が料理するっていう線も………」
 須久奈様はちらっと私を見て、「…ないか」と呟いた。
 失礼すぎる。
「須久奈様。今日はどうしたんですか?」
 少しつっけんどんに言えば、須久奈様は指をもじもじさせる。
「あ…えっと…お、おかえり…」
「……………ただいま帰りました」
 もう少しハキハキ喋ってくれればと思うけど、長い目で見守らないとダメかもしれない。
 靴を脱いで、脱衣所に塩を置く。
「あ、やっぱり…行水するつもりか」と、須久奈様が唇を尖らせた。
「こ…こ、今度は何?…地蔵でも自転車で轢いた?あ…か、神棚の掃除で…やらかしたのか?…大丈夫。それくらいで祟るようなのはいない…」
 須久奈様の中で私は、一体どう映っているんだろうか。
「違います」
「じゃ…じゃあ…また何かに会ったのか?で、でも…なんで2袋なんだ?」
「あ、そのことなんですけど。弟の誓志も一緒にお清めしたいんです!お願いします」
 ぱん、と両手を合わせて頭を下げる。
「なっ!」と須久奈様が肩を跳ね上げ、弟もいるのかと右往左往して周囲を見渡している。
 周囲といっても廊下だ。
 誓志がいないのは分かりそうなのに、逃げ腰できょろきょろしている姿は滑稽でしかない。
「いませんよ?」と言えば、須久奈様は「ほっ」と胸を撫でおろす。
「離れには久瀬家の女子だけしか立ち入ってはダメっていうことはないんですよね?リフォーム会社の人とか入ってますし。須久奈様が許可してくれれば大丈夫ですよね?お願いします!」
 神様仏様、と手をすり合わせて拝む。
「できれば、誓志に会ってやってほしいんです!」
「むっ、無理無理無理!そそそんなの恥ずかしいからっ…な、なんで急に…そそ、そんな無理難題を言うんだ…」
 須久奈様にはハードルが高いかもしれないけど、折れるわけにはいかない。
 私は深く息を吐いて、須久奈様を見上げる。
「須久奈様は俺に頼れって言いました。なので頼ってるんです」
 少し強気に言えば、須久奈様は背中を丸めるように首を窄めた。
「それに、私が須久奈様に嫁いだら、誓志は須久奈様の義弟になるんです。禁忌でなければ、姉として、須久奈様に弟を紹介したいと考えています。それが早まっただけです」
「義弟…」
 須久奈様は頬を染め、もじもじと指を絡める。
「で、でも……こ、ここ婚儀の日程が決まったわけじゃないし……ま、まだ仮…だし……きゅ、急すぎる。き、き…清めだって…こ、ここじゃなくて…向こうの風呂場でやればいいだろ…?なんで…ここ?」
 そこまで言って、須久奈様がはたと気づいたのか、怪訝そうに首を傾げた。
「というか、なんで弟が清め?」
 さすがは神様。
 鋭い。
「…………も、もしかして!…………あっ…あああああ…あ、愛を試されてるのか?し、試練というやつなのか?で、できれば…もう少し……簡単な試練なら嬉しいんだけど……こ、こう…見知らぬ人間とは会わないような…。あ!お…俺…俺が妖怪でも捕まえて来ようか?…な、何を捕まえてほしい?」
 もじもじしながら、ちらちら見てくる。
 全然鋭くないし。
「……………………ち、違うのか?」
「まぁ、違いますね。あと、妖怪がいるのに少しビックリしました」
 兼継さん、疑っててごめんなさい。
「こ、ここら辺では少なくなったけど……妖怪はいる。な、何が欲しい?に、人魚の肉?河童の手?」
 この神様、ちょいちょい言葉のチョイスが怖い。
「いらないです」
 私が頭を振ると、須久奈様はいじけたように唇を尖らせた。
「試練とかじゃありませんし、妖怪にも興味ないです。実は目を付けられたかもしれなくて…」
「目を付けられた?」
 須久奈様は首を傾げ、私の肩に触れると徐に顔を近づける。
 今度は間違えないけど、恥ずかしさに目が回りそうだ。岩木先輩の時とは違う緊張に、心臓が痛いくらいに跳ね上がる。
 恥ずかしがり屋の引きこもりはどこにいった!
 距離感がおかしい!
 ぎゅっと目を瞑る私を他所に、須久奈様はすんすんと鼻を鳴らす。
 昨日からニオイを嗅がれてばかりで嫌になる。
「…ん?」と首筋に息がかかって、悲鳴が喉元まで込み上げる。
「…お、男の臭い?…な、なに?も…もう好きな男でもできたの?本当に?え?どういうことだ?」
 すり、と須久奈様の鼻が首筋に触れて、私の我慢メーターが振り切れた。
「近い!!」
 気が付けば、力いっぱい須久奈様の胸を突き飛ばしてしまった。
 須久奈様が廊下の壁にぶつかって初めて、母と姉が危惧していた粗相をしたのだと悟った。
 やってしまった…。
 ほんの数秒前までは真っ赤だった顔から、見る間に血の気が引いていくのが分かる。
 須久奈様を見れば無反応だ。壁に凭れたまま、力なく俯いて動かない。
 怒ったら静かになるタイプだったら、一番怖いパターンだ。
「す、須久奈様…?その…ごめんなさい。態とじゃないんです。ちょっとびっくりして…」
「に…人間は短命だというけれど……そ、そんなに生き急ぐものなのか?好きな男はいないと言ってから日を置かずに…もう男がいる…。…お、俺…俺の気持ちを知ってて……よ、翌日には…もう俺を捨てるのか……。や、やっぱり俺みたいな根暗なのは嫌いなんだろ……。ひ、人柱だって思ってるんだろ……ど、どうせ俺なんてぇ!」
 えぐっ、と声を震わせて、須久奈様は泣き出した。
 情緒が不安定すぎて怖くなる。
「須久奈様?どうしたんですか?」
 そっと須久奈様の腕に触れ、須久奈様の顔を覗き込む。
 ぐずぐずと鼻を鳴らし、ぼろぼろと涙を零してる顔に、きゅんと胸が鳴る。
 いやいやいや……と頭を振って、変な嗜好スイッチを押しそうになった自分に喝を入れる。
「大の男が何を泣いてるんですか」
「だ……だって…い、一花に…す、好きな男が…できたんだろ?」
「その結論、どこから導き出されたんですか?」
「し、知らない男の臭いがするからっ…」
 ぐっと唇を噛んだ須久奈様に、私は脱力した。
 嗅覚が鋭すぎて、引いてしまう。
「まぁ、そうでしょうね。帰りに先輩に捕まって……告白とかではないんですけど」
「こ、こ、告白……あの…男女が好意を告げ合うというやつか?」
「はぁ…まぁ、そうです」
 適当に頷けば、須久奈様は丸々と目を見開いた。
「う、受けたのか?」
「いえ、だから告白とかではないんですけどって言いましたよね?」
「そ…それじゃあ、なんでこんなにニオイが残ってるんだ?はぐらかすな。み、み、み、み、密着!し、しないと…こんなに臭わないからな………」
 えぐえぐとしゃくりを上げ、震える声で「俺…」と呟いた。
「…俺は真実を受け止めることくらいできる…」
 面倒臭いことこの上ない。
「告白なんて受けません。普通じゃなかったんです。先輩の意思がどれだけあったのかも疑わしい感じです。憑かれたようにおかしくって、異常でした。誓志が助けてくれたんですけど……誓志がいなかったら少し…かなり危なかったです」
 間違いなく、目を舐めようとしていたのだ。
 思い出すだけで身震いしてしまう。
 早く忘れなければと頭を振ると、須久奈様がぎゅっと抱きしめてきた。
「よ、よ、良かった!ほ、ほん、本当に?本当にう、受けてない?」
 重要なのはそっちじゃない。 
「受けてないです」
 えぐえぐ、と泣く須久奈様は、やっぱり神様には見えない。見えないけど、「ほ、本当に受けないんだな?」と私の目を覗き込む顔が可愛すぎて、無下にもできない。
「神様に嘘つくほど馬鹿じゃありません」
 私が頷くと、須久奈様が洟を啜り上げながら微笑んだ。
 涙と鼻水に濡れてるのに、顔が良い!
「い、いや、そんなことよりも聞いてました?先輩が憑かれてたみたいに異様だったんです」
 ポケットからハンカチを取り出し、須久奈様の目元を拭う。
 須久奈様が目を閉じ、体を屈める。
 自分で涙を拭うという選択肢はないのか、甘えたように「うへへ」と気持ち悪く笑った。
「須久奈様。ちゃんと聞いて下さい。誓志がいなかったら危なかったんです」
 乱暴に洟を拭って、ハンカチをポケットに突っ込むと、須久奈様は「聞いてる」と頷いた。
「お、弟は良くやった。で…で、でも、お、弟ってそういうもんだろ?命を賭して盾になるような…。姉の玩具だって、昔、聞いた」
 どんな女王様がご先祖にいたんだと叫びたくなる思いを呑み込んで、「違いますよ」と引き攣った笑みを浮かべる。
「須久奈様。弟は玩具じゃありません。誓志をここに招きたいです。お清めをお願いします」
 須久奈様は眉根を寄せ、唇を尖らせ、不承不承に私を解放してくれた。
「わ…分かった。た…ただし、弟は目隠し…必須だから」
「見えないのに?」
「ぐ、偶然でも目が合ったらどうするんだ。そ…それでなくても久…久瀬の人間なんだ。勘が鋭いだろ」
「了解です」と頷く。
「あとは…下着一枚で立たせてくれればいい」
「私は水着?」
「いっ、一花は…大丈夫。お…おおおお俺が…傍にいるから…」
 須久奈様は頬を染め、もじもじと指を絡める。
 とりあえず、私は頷いた。
 誓志は裏に待機しているはずだ。
 床に置いたカバンを居間に持って行くと、すぐにお風呂場にUターンする。誓志を玄関から入れては、誰かの目に触れる可能性がある。いくら業者の人は離れを出入りしていたとは言え、久瀬家の関係者は離れを神聖なものと紐づけている。須久奈様のことを理解しているはずの母と百花さえ、須久奈様とは目を合わせないのだ。凝り固まった信仰心ほど厄介なものはない。
 なので、誓志を招くのは窓のある浴室だ。
 浴室の窓は、広々とした出窓になっている。面倒なことに、離れの設計は須久奈様基準なことだ。須久奈様なら易々とできる窓の開閉も、152cmのチビな私では、浴槽の縁を足掛かりにしてやっと手が届くという有様なのだ。
「誓志」
 声を潜めて名前を呼べば、笹藪を揺らし、誓志の不安顔が覗いた。
「イチ姉、大丈夫なの?」
「大丈夫。許可はとった。入れる?」
 訊けば、誓志が頷いた。
 網戸を開けて、軽々と出窓によじ登る。
「いい?うちの神様は作り物じゃなくて、しっかり存在してるっていうのを理解して」
「あ…うん」
 胡散臭そうな表情ながらに誓志が頷く。
「須久奈様はめちゃくちゃ…本当にめちゃくちゃシャイなの。分かる?」
「そういえば、神様の名前って須久奈様って聞いてた気がする」
 忘れてた、と誓志が暢気に笑う。
 シャイなことには言及しないらしい。
「誓志には見えないかもしれないけど、私の目から見たら普通の男性ね」
「……怖い感じ?」と、誓志が僅かに怯む。
「全然。とにかく、須久奈様は顔を見られるのが恥ずかしいらしいから、誓志はパンイチになって、タオルで目隠ししてスタンバイして」
「分かった。でも俺には見えないんだろ?」
「まぁ、そうなんだけど。見られてる気がして落ち着かないんだって」
「了解」
 誓志は気合いを入れるように頬を叩き、表情を引き締めた。
 私が退室して2分ほどで、「用意できたよ」と声が聞こえた。
「私も見てていいですか?」
 須久奈様が頷くのを確認して、須久奈様の後ろに待機する。
 浴室にはパンツ一枚の誓志が立っている。タオルでは上手く結べなかったのか、ハンカチを器用に折って目隠しにしている。
「えっと…これから何をするのか訊いてもいい?」
 不安なのか、腕を摩りながらきょろきょろとしている。
「誓志。これからお清めするから。簡易的な滝行みたいな感じ」
「滝…」
 誓志が口籠る。
 須久奈様を見れば、恐ろしく面倒臭そうな顔だ。さっきまでの情けない泣き顔は見る影もなく、人見知りの恥ずかしがり屋の片鱗すらない。
 どことなく近寄り難い雰囲気さえある。
 須久奈様は床の塩を拾い上げ、力任せに封を切った。そして、無言のまま袋に手を突っ込む。
 私が見守る中、須久奈様は塩を握り、誓志に力いっぱい投げつけた。
「痛っ!」と身じろぎする誓志を無視して、黙々と塩を投げつける姿は神様とは思えない雑さが目立つ上に怖い。
 胸、腹、足、背中だけじゃなく、顔面にまで塩を投げつけている。
 誓志は歯を食いしばっているけど、赤らんだ肌から痛みが伝わってくる。
 須久奈様は途中で面倒になったのか、最後は誓志の頭上で塩の袋を逆さにした。
「えぇ!」と誓志が驚愕の声を上げたけど、仕方ないことだと思う。
「イチ姉が適当にやってる?」
「ちゃんと須久奈様がやってるわよ」
「本当にスク…」
 全てを言い終わる前に、須久奈様が誓志の顔面目掛けて冷水シャワーを浴びせた。
「冷たっ!」
 悲鳴を上げても無視だ。
 須久奈様は無表情で、誓志に冷水を浴びせている。ひたすら冷水を浴びせながら、今度は誓志の胸や背中、腕を平手打ちする。
 誓志の「ぎゃ!」という悲鳴と、浴室に響く平手打ちの音。
 もう誓志の肌は余すことなく真っ赤だ。
「須久奈様。もう少し優しくできませんか?私の時と全然違いますよ?」
「男なら我慢出来て当たり前だろ」
 恐ろしく素っ気ない口調だ。
 態度が違いすぎる!
 誓志には須久奈様の声が聞こえないのか、寒さと痛さでそれどころじゃないのか、ひたすら忍耐に唇を噛んで悶えている。そんな誓志の顎を、須久奈様は容赦なく掴んだ。
 突然、男性の大きな手に捕まれたのだ。
 誓志は「ひっ」と悲鳴を上げた。
「それは須久奈様の手だから大丈夫よ」
 とは言ってみたものの、何が大丈夫なのか私でも分からない。
 須久奈様の手に力が籠ると、誓志は怯えながらも痛みから逃れるように口を開けた。そこに容赦なく、シャワーが向けられる。
 ごぼごぼと、誓志は溺れたみたいに手をばたつかせて、須久奈様の着物を掴んだ。
 誓志でも神様が掴めるのかと、妙なとこで感心してしまう。
 見てるこちらが不安になるけど、ちゃんと呼吸の間を開けての水責めだ。
 お清めを水責めって言っちゃダメなのか。でも、見た目は水責め以外の比喩が思いつかない。
 そんな水責めが2分近く続いて、ようやく須久奈様はシャワーを止めた。
 誓志は須久奈様の着物を握りしめたまま、咳き込み続けている。寒さと恐怖からか膝が可哀想なくらいに震えている。
「終わりですか?」
 訊けば、須久奈様は頷いた。
「誓志、終わったよ」
 そっと誓志の手を掴んで、須久奈様の着物から指を外す。
「とりあえず、お湯で体を温めてから上がって来て。お茶くらいは出すから」
 誓志がかくかくと頷く。
「タオルは脱衣所に置いとくから。須久奈様も着物を着替えましょう。かなり濡れてますよ」
「……ああ」と頷いて、手にしているシャワーヘッドの誓志に押し付けた。
 誓志が緊張しながらシャワーヘッドを受け取り、ぺこり、と頭を下げる。
「す、す、す須久奈様。ありがとうございました」
 奥歯をガチガチ震わせた礼に、須久奈様は少し照れたように外方を向いて、お風呂場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...