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諦めない(皇弟視点)
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フェルスター皇国の南方に位置するブラウニンガー領は、古くからある皇族が治める領地だ。
過去、幾人もの臣下に領主としてブラウニンガー領を治めるように指示したこともあったようだ。記録には”預けた”とはあるが、”与えた”とはない。臣下の力量を量るために使用されてきた土地と思われる。
結果として、誰一人として上手く治めることはできなかった。
豊かな農地が広がり、ここ数十年の記録を見ても天候による災害や飢饉に見舞われた形跡がない。農民の推移も横ばいで、他所の地を求めて逃げ出す領民は見られない。
これほど恵まれた地であるにも関わらず、臣下たちは次々にブラウンニガー領から撤退した。
理由は、隣国との境にある”災厄の森”だ。
何が原因か、其処彼処で魔素溜まりが起き、次々と魔物を生み出すのだ。一説には、森の何処かに魔素を吐き出す風穴があるのだという。
フランシス王国に度々聖女を派遣してもらっているが、浄化の聖女が少なすぎて手が回らない。
治癒の聖女であれば、年単位の常駐が可能だったのだが、浄化の聖女の常駐は難しい。しかも聖女の多くは馬に乗れず、馬車移動のために無駄に時間がかかった。
来てくれるのは有難いのだがな…。
結局は、それを補うのが武力だ。
当然、指揮官は領主の務めとなる。
故に領主となるには騎士としての腕があり、騎士団を束ねる度量と信頼が要求される。頭脳は参謀を据えれば良い、と今までの領主は考えていたようだが、そうではない。
代々の皇帝も、武闘派の者を領主として送り込んだ節がある。
だが、腕が立つだけでは領主の仕事に躓いてしまうのだ。
かといって、現場を知らない頭脳派では指揮官は務まらない。
大多数が脳筋の騎士は、相手の能力値を見極めて立ち回る節がある。まるで獣のようだが、騎士には騎士の言い分がある。「安全地帯で能書きを垂れるだけの者に命は預けられない」と。
尤もだ。
皇帝である兄上は…いや、代々の皇帝は、ブラウンニガー領の扱いに頭を悩ませた。
推測の域を出ないが、上手く治める有能な臣下がいたのなら、ブラウンニガー領を下賜したのかもしれない。
なにしろ、魔物さえ出なければ良い土地なのだ。手放すことはもちろん、放置することも出来ない。それらは豊かな土地とともに領民をも見捨てることになるからだ。
そんな状況下で、俺が手を挙げるのは必然だったのだろう。
人払いを済ませた私室で、兄上が何度も頭を下げていたのが忘れられない。
25才の春、臣下に下った俺はブラウニンガー公爵の名を賜った。
ブラウニンガー領は度々スタンピードが起き、幾人かの領主が亡くなっていることで有名だ。そのような地が皇弟に割譲されたのだ。ブラウニンガー公爵まで拝命されて…。
多くの貴族が動揺し、哀れみ、心無い噂話を広めた。
”逃げ道を絶たれた哀れな皇子”。または、”死刑宣告された不遇の皇子”と口さがない者は噂した。
臣籍降下を果たすと、不心得な野心を抱く者からの釣書が大量に届くようになった。
皇弟を火種に、謀反を働こうとする者は多い。冷遇された皇弟ならば、簡単にクーデターを起こすとでも思ったのだろう。
愚かな。
ブラウニンガー領に謀反人。
それらの対応に追われ、婚姻どころではなかった。
気づけば29だ。
そんな折り、5年ほど前になるが、浄化の聖女から1等級が誕生した。
名前はアナスタシア・イェーツ。子爵令嬢であるらしい。
今より2年前、初めてイェーツ1等級聖女に浄化を依頼した。どのような力か直に見てやろうと思ったが、運悪く皇帝陛下の呼び出しにあって立ち会えなかった。
報告を聞けば、赤髪の美しい聖女だったそうだが、彼女も馬に乗れず。馬車移動を余儀なくされた。
さらに、例え1等級聖女でも1人では限界がある。幾人かの聖女が随行したそうだが、魔素溜まりを浄化できたのはイェーツ1等級聖女のみだったという。
結果として、数か所の魔素溜まりを浄化して帰って行った。
その魔素溜まりも、2年後には復活だ。
金の問題ではないとは分かってはいても効率が悪い。
何か手を打たなければ、と日々を過ごす中で事件が起きた。
クリーピィの発生だ。
数多いる魔物の中で、虫型ほど危険なものはいない。甲殻は剣を弾く盾となるからだ。
中でも20個体前後の群れを成すクリーピィは毒針を持ち、強力な顎と鋭い鉤爪、満たされることのない貪欲な食欲が村や町を潰していくことで有名だ。
今回発生したクリーピィは13体。
4名の死者を出すに止めた討伐は成功と言える。
だが、本来であれば、死者は5名のはずだった。
その中に名前を刻むのは、俺のはずだったというのに、俺は助かった。
聖女に助けられた。
あの呪文は少々精神的に痛いが、明け透けない物言いと笑顔が愛らしい少女だった。
調べれば1等級聖女だ。
秘匿扱いの3人目の聖女、シルヴィア・ランビエール1等級聖女。
幾つだろうか。僅かに幼さを残す面立ちに、大きな藤色の瞳が愛らしい少女だった。
クリーピィの死骸を見ただろうに怖気づくことも、血だらけの俺に怯むわけでもなく冷静に、そして快活に命を繋いでくれた。
天使かっ!
「パトリック様。溜息ばかり吐くと幸せが逃げますよ」
肩を竦めて書類を整理しているのは、学生の時分から側にいるアクセル・ランデムだ。
剣の腕はからきしだが、優秀な水魔法の使い手だ。アクセルと出会わなければ、水の恐ろしさなど毛ほども考えなかっただろう。
さらに、皇弟の俺に明け透けに物を言い放つ度胸は、嫌みがなく清々しい。
実にストレスがない従者ではあるが、天然なのかワザとなのか失言が多い。
「そもそも1等級聖女に婚姻を申し込むなど…。フランシス王国は1等級聖女を手放しませんよ?国宝なみの扱いなのですから」
「だが、1等級聖女を他国に嫁がせてはならぬという法もない」
そこは確認済だ。
急遽、1等級聖女の他国流出を禁ずるなどという法を作られても面倒なので、逃げ道を塞ぐように、その旨を確認済なことを明記した文をフランシス国王に認めている。
アクセルが器用に片方の眉を跳ね上げた。
「そもそも相手は17才。まだ未成年ではありませんか。12も下のこ……ですよ?」
小娘とでも言いそうになったのだろう。
アクセルが言い淀んだ。
「言っておくが、俺にそのような趣味はない。彼女だからこそだ」
こいつも彼女に会えば納得するだろう。
会わせたくはないが…。
彼女は華美な令嬢と違う、小さな花が咲き誇るような愛らしい笑顔を浮かべるのだ。
彼女が欲しい…。
「はぁ~」とため息を吐いて、書類に目を落とす。
今年も小麦の実りが良いが、魔物による負傷者も多い。負傷者の多くは、領内を見回る騎士たちだ。領民を守るべく、常に目を光らせ、魔物と戦うのだ。
魔物が出る場所は満遍なくだ。
1つ所に偏っていれば、守りやすいというのに。
「パトリック様」
「ん?」
ゆるりと頭を上げれば、アクセルが1通の手紙を差し出した。
「さきほど執事が」
「どこからだ?」
「フランシス国王ですね。王家の封蝋をしてありますので」
聞いた瞬間に、アクセルの手から手紙を引っ手繰った。
かなり待たされたが、待ちに待った返答だ。
「………………」
「なんと書いてあるのですか?」
「シルヴィア1等級聖女がクラレンス・エスクード侯爵子息と婚約したと……」
生まれて初めて、頭の中が真っ白という状況を味わった。
ぼんやりと文字の羅列を眺める俺に、アクセルが「ふむふむ」と頷く。
「エスクード侯爵家といえば、イザベラ1等級聖女の姉の嫁ぎ先ですね」
「アクセル?」
「ちなみに、イザベラ1等級聖女はアンドレアス国王陛下の従妹になります」
「何が言いたい?」
「これは私の勘なのですが、アンドレアス国王陛下からイザベラ1等級聖女に情報が渡り、さらにシルヴィア1等級聖女に筒抜けになったのではないですか?好都合なことに、イザベラ1等級聖女の甥御がシルヴィア1等級聖女と年齢が釣り合う。他国の王族を退けるには、急遽、婚約者を仕立てる必要があったので甥御を宛がった。という筋書きはいかがでしょうか?」
思わず顔が強張ってしまう。
「回りくどいですが、要はフラれたということです」
「フラれたわけでは……」
ない、と断言できないのが辛い…。
頭を抱えてしまった俺に、アクセルは「フラれたのは事実として、それ以外は腑に落ちません」と怒っていいのか、喜んでいいのか、とにかく不敬なことを口にする。
「どういう意味だ?」
ぎろり、と睨み上げれば、アクセルは肩を竦める。
「タイミングが良すぎだと思いませんか?なにより、返答に時間がかかりすぎです。婚約者候補がいたのであれば、こちらが婚約を申し込んだ時に告げてくるはずです。向こうも1等級聖女は手放したくはないでしょうしね」
「つまり、お前が言った”急遽、甥御を宛がった単語”ということか」
「私の勘ですけどね」
「いや、お前の勘ほど信頼あるものはない」
アクセルの勘はハズレ知らずだ。
学生の時分、悪友たちと変装して護衛をまき、カジノに行ったことがある。そこでアクセルの勘は百発百中だった。あっという間に築いた金貨の山に、未成年だった俺たちは恐れをなして逃げ帰ってしまった。
もう笑い話だが、あれ以来、アクセルの勘には全幅の信頼を寄せている。
「だが、言われてみればタイミングが絶妙だな。イザベラ1等級聖女の甥御というのも絶妙だ」
「いや~、よほど”皇弟の嫁”が嫌だったんですね。近場で見繕った感が満載ですよ」
朗らかなアクセルの言葉のナイフが、ぐさり、と胸に刺さる。
「いかがなさいますか?」
「そんなの決まっているだろ。諦めん!ブレコに探らせろ!」
絶対に諦めるものか!
過去、幾人もの臣下に領主としてブラウニンガー領を治めるように指示したこともあったようだ。記録には”預けた”とはあるが、”与えた”とはない。臣下の力量を量るために使用されてきた土地と思われる。
結果として、誰一人として上手く治めることはできなかった。
豊かな農地が広がり、ここ数十年の記録を見ても天候による災害や飢饉に見舞われた形跡がない。農民の推移も横ばいで、他所の地を求めて逃げ出す領民は見られない。
これほど恵まれた地であるにも関わらず、臣下たちは次々にブラウンニガー領から撤退した。
理由は、隣国との境にある”災厄の森”だ。
何が原因か、其処彼処で魔素溜まりが起き、次々と魔物を生み出すのだ。一説には、森の何処かに魔素を吐き出す風穴があるのだという。
フランシス王国に度々聖女を派遣してもらっているが、浄化の聖女が少なすぎて手が回らない。
治癒の聖女であれば、年単位の常駐が可能だったのだが、浄化の聖女の常駐は難しい。しかも聖女の多くは馬に乗れず、馬車移動のために無駄に時間がかかった。
来てくれるのは有難いのだがな…。
結局は、それを補うのが武力だ。
当然、指揮官は領主の務めとなる。
故に領主となるには騎士としての腕があり、騎士団を束ねる度量と信頼が要求される。頭脳は参謀を据えれば良い、と今までの領主は考えていたようだが、そうではない。
代々の皇帝も、武闘派の者を領主として送り込んだ節がある。
だが、腕が立つだけでは領主の仕事に躓いてしまうのだ。
かといって、現場を知らない頭脳派では指揮官は務まらない。
大多数が脳筋の騎士は、相手の能力値を見極めて立ち回る節がある。まるで獣のようだが、騎士には騎士の言い分がある。「安全地帯で能書きを垂れるだけの者に命は預けられない」と。
尤もだ。
皇帝である兄上は…いや、代々の皇帝は、ブラウンニガー領の扱いに頭を悩ませた。
推測の域を出ないが、上手く治める有能な臣下がいたのなら、ブラウンニガー領を下賜したのかもしれない。
なにしろ、魔物さえ出なければ良い土地なのだ。手放すことはもちろん、放置することも出来ない。それらは豊かな土地とともに領民をも見捨てることになるからだ。
そんな状況下で、俺が手を挙げるのは必然だったのだろう。
人払いを済ませた私室で、兄上が何度も頭を下げていたのが忘れられない。
25才の春、臣下に下った俺はブラウニンガー公爵の名を賜った。
ブラウニンガー領は度々スタンピードが起き、幾人かの領主が亡くなっていることで有名だ。そのような地が皇弟に割譲されたのだ。ブラウニンガー公爵まで拝命されて…。
多くの貴族が動揺し、哀れみ、心無い噂話を広めた。
”逃げ道を絶たれた哀れな皇子”。または、”死刑宣告された不遇の皇子”と口さがない者は噂した。
臣籍降下を果たすと、不心得な野心を抱く者からの釣書が大量に届くようになった。
皇弟を火種に、謀反を働こうとする者は多い。冷遇された皇弟ならば、簡単にクーデターを起こすとでも思ったのだろう。
愚かな。
ブラウニンガー領に謀反人。
それらの対応に追われ、婚姻どころではなかった。
気づけば29だ。
そんな折り、5年ほど前になるが、浄化の聖女から1等級が誕生した。
名前はアナスタシア・イェーツ。子爵令嬢であるらしい。
今より2年前、初めてイェーツ1等級聖女に浄化を依頼した。どのような力か直に見てやろうと思ったが、運悪く皇帝陛下の呼び出しにあって立ち会えなかった。
報告を聞けば、赤髪の美しい聖女だったそうだが、彼女も馬に乗れず。馬車移動を余儀なくされた。
さらに、例え1等級聖女でも1人では限界がある。幾人かの聖女が随行したそうだが、魔素溜まりを浄化できたのはイェーツ1等級聖女のみだったという。
結果として、数か所の魔素溜まりを浄化して帰って行った。
その魔素溜まりも、2年後には復活だ。
金の問題ではないとは分かってはいても効率が悪い。
何か手を打たなければ、と日々を過ごす中で事件が起きた。
クリーピィの発生だ。
数多いる魔物の中で、虫型ほど危険なものはいない。甲殻は剣を弾く盾となるからだ。
中でも20個体前後の群れを成すクリーピィは毒針を持ち、強力な顎と鋭い鉤爪、満たされることのない貪欲な食欲が村や町を潰していくことで有名だ。
今回発生したクリーピィは13体。
4名の死者を出すに止めた討伐は成功と言える。
だが、本来であれば、死者は5名のはずだった。
その中に名前を刻むのは、俺のはずだったというのに、俺は助かった。
聖女に助けられた。
あの呪文は少々精神的に痛いが、明け透けない物言いと笑顔が愛らしい少女だった。
調べれば1等級聖女だ。
秘匿扱いの3人目の聖女、シルヴィア・ランビエール1等級聖女。
幾つだろうか。僅かに幼さを残す面立ちに、大きな藤色の瞳が愛らしい少女だった。
クリーピィの死骸を見ただろうに怖気づくことも、血だらけの俺に怯むわけでもなく冷静に、そして快活に命を繋いでくれた。
天使かっ!
「パトリック様。溜息ばかり吐くと幸せが逃げますよ」
肩を竦めて書類を整理しているのは、学生の時分から側にいるアクセル・ランデムだ。
剣の腕はからきしだが、優秀な水魔法の使い手だ。アクセルと出会わなければ、水の恐ろしさなど毛ほども考えなかっただろう。
さらに、皇弟の俺に明け透けに物を言い放つ度胸は、嫌みがなく清々しい。
実にストレスがない従者ではあるが、天然なのかワザとなのか失言が多い。
「そもそも1等級聖女に婚姻を申し込むなど…。フランシス王国は1等級聖女を手放しませんよ?国宝なみの扱いなのですから」
「だが、1等級聖女を他国に嫁がせてはならぬという法もない」
そこは確認済だ。
急遽、1等級聖女の他国流出を禁ずるなどという法を作られても面倒なので、逃げ道を塞ぐように、その旨を確認済なことを明記した文をフランシス国王に認めている。
アクセルが器用に片方の眉を跳ね上げた。
「そもそも相手は17才。まだ未成年ではありませんか。12も下のこ……ですよ?」
小娘とでも言いそうになったのだろう。
アクセルが言い淀んだ。
「言っておくが、俺にそのような趣味はない。彼女だからこそだ」
こいつも彼女に会えば納得するだろう。
会わせたくはないが…。
彼女は華美な令嬢と違う、小さな花が咲き誇るような愛らしい笑顔を浮かべるのだ。
彼女が欲しい…。
「はぁ~」とため息を吐いて、書類に目を落とす。
今年も小麦の実りが良いが、魔物による負傷者も多い。負傷者の多くは、領内を見回る騎士たちだ。領民を守るべく、常に目を光らせ、魔物と戦うのだ。
魔物が出る場所は満遍なくだ。
1つ所に偏っていれば、守りやすいというのに。
「パトリック様」
「ん?」
ゆるりと頭を上げれば、アクセルが1通の手紙を差し出した。
「さきほど執事が」
「どこからだ?」
「フランシス国王ですね。王家の封蝋をしてありますので」
聞いた瞬間に、アクセルの手から手紙を引っ手繰った。
かなり待たされたが、待ちに待った返答だ。
「………………」
「なんと書いてあるのですか?」
「シルヴィア1等級聖女がクラレンス・エスクード侯爵子息と婚約したと……」
生まれて初めて、頭の中が真っ白という状況を味わった。
ぼんやりと文字の羅列を眺める俺に、アクセルが「ふむふむ」と頷く。
「エスクード侯爵家といえば、イザベラ1等級聖女の姉の嫁ぎ先ですね」
「アクセル?」
「ちなみに、イザベラ1等級聖女はアンドレアス国王陛下の従妹になります」
「何が言いたい?」
「これは私の勘なのですが、アンドレアス国王陛下からイザベラ1等級聖女に情報が渡り、さらにシルヴィア1等級聖女に筒抜けになったのではないですか?好都合なことに、イザベラ1等級聖女の甥御がシルヴィア1等級聖女と年齢が釣り合う。他国の王族を退けるには、急遽、婚約者を仕立てる必要があったので甥御を宛がった。という筋書きはいかがでしょうか?」
思わず顔が強張ってしまう。
「回りくどいですが、要はフラれたということです」
「フラれたわけでは……」
ない、と断言できないのが辛い…。
頭を抱えてしまった俺に、アクセルは「フラれたのは事実として、それ以外は腑に落ちません」と怒っていいのか、喜んでいいのか、とにかく不敬なことを口にする。
「どういう意味だ?」
ぎろり、と睨み上げれば、アクセルは肩を竦める。
「タイミングが良すぎだと思いませんか?なにより、返答に時間がかかりすぎです。婚約者候補がいたのであれば、こちらが婚約を申し込んだ時に告げてくるはずです。向こうも1等級聖女は手放したくはないでしょうしね」
「つまり、お前が言った”急遽、甥御を宛がった単語”ということか」
「私の勘ですけどね」
「いや、お前の勘ほど信頼あるものはない」
アクセルの勘はハズレ知らずだ。
学生の時分、悪友たちと変装して護衛をまき、カジノに行ったことがある。そこでアクセルの勘は百発百中だった。あっという間に築いた金貨の山に、未成年だった俺たちは恐れをなして逃げ帰ってしまった。
もう笑い話だが、あれ以来、アクセルの勘には全幅の信頼を寄せている。
「だが、言われてみればタイミングが絶妙だな。イザベラ1等級聖女の甥御というのも絶妙だ」
「いや~、よほど”皇弟の嫁”が嫌だったんですね。近場で見繕った感が満載ですよ」
朗らかなアクセルの言葉のナイフが、ぐさり、と胸に刺さる。
「いかがなさいますか?」
「そんなの決まっているだろ。諦めん!ブレコに探らせろ!」
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