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21.新国王 フィリップ
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翌、十月二十日の早朝、開戦の合図となる砲声が、アルカンスィエルに鳴り響き、決戦の火蓋が切られた。
アルカンスィエルを死守しようとするグラディウス軍と、何としても王都奪還を果たそうとするユースティティア軍の市街戦は、当初から凄まじいものとなった。
敵味方の砲弾が次々と、建物を破壊し、轟音が上がる。
フィリップら、ユースティティア軍は、王都を孤立させるべく、主力を真正面には配置せず、左右両翼に分け、外側から包囲するように、攻撃を開始した。
フィリップは、左翼側からの攻撃に加わった。
街中に、火薬の匂いが充満し、空は黒煙で、真っ黒に染まった。
最前線の兵士たちは、敵の砲弾の直撃を受けて、あるいは崩れ落ちる瓦礫の下敷きになって、次々と倒れた。
それでも、銃と短剣を武器に、フィリップたち、最前線の歩兵は、怯むことなく、進んで行った。
突然、敵の歩兵の放った銃弾が、飛んで来た。
慌てて、瓦礫の陰に身を隠す。
セザールら数名が、フィリップに目くばせすると、速やかに、密かに、敵の後ろに回る。
銃弾は、執拗に続く。
辛抱だ。
もう少し、あと・・・少し。
今だ!
後ろを取られた敵が、フィリップたちの方へ下がって来る。
そこへ、一斉射撃を開始した。
挟み撃ちにされた、グラディウスの兵士たちは、ひとたまりもなかった。
一人残らず、屍となるのに、時間はかからなかった。
ユースティティア軍は、じわじわと、王都に攻め入っていた。
けれども、グラディウスの抵抗も凄まじかった。
特に、砲弾の命中率が、ユースティティア軍を優り、多大なる犠牲者を出していた。
一進一退の攻防が続き、夕刻を過ぎても、勝敗はつかなかった。
夜の闇が、辺りを包み始め、砲弾は止み、夜が明けるまで休戦となった。
皆、疲れきっていた。
砲弾を免れた建物の中で、フィリップたちは、身体を休めた。
口をきくものは、一人もなかった。
フィリップはセザールと、眼があった。
セザールは、口の端を少し上げて笑った。
俺は大丈夫だと、フィリップに知らせたのかもしれなかった。
戦いは、翌日も、翌々日も、決着がつかなかった。
膠着状態のまま、三日が過ぎ、消耗戦になりつつあった。
王都を制圧するには、左右両翼からの突破が鍵で、不可欠だった。
昼を過ぎ、サヴァティエ総司令官は、中央と、左右両翼の主力に、一斉総攻撃を指示した。
この総攻撃で、夕刻までに、アルカンスィエルを制圧できなければ・・・、戦況は一気に不利に傾く。
サヴァティエ総司令官は、賭けに出たのだった。
これまで以上に、両軍の砲弾が、頭上を飛び交い、最前線の歩兵たちは、次々と、命を落とした。
他の者のことを、かまっている余裕などなかった。
降り注ぐ砲弾の中、敵と遭遇すれば、銃撃戦になった。
銃弾は、容赦なく、歩兵を、襲った。
敵も必死だった。
グラディウスにとって、アルカンスィエルを失うことは、この侵略の失敗を意味することに、他ならなかった。
夕刻が、迫っていた。
ユースティティア軍にも、焦りが、見え始めていた。
銃撃戦の最中、建物の陰から応戦するフィリップは、きらりと何かが光ったような気がして、そちらを見上げた。
フィリップの視線の先には、未だ砲弾を免れた建物の上階から、グラディウスの兵士が三人、ユースティティアの兵士に向かって、狙いを付けていた。
「気をつけろ、上だ!」
フィリップは叫んだが、砲弾の音にかき消された。
グラディウスの兵士の放った銃弾が、ユースティティアの歩兵に降り注いだ。
フィリップは、グラディウスの兵士がいる建物に走ると、急いで階段をかけ上った。
無茶なことは、承知だった。
もし、他に敵兵がいたなら、万事休すだ。
フィリップは、蜂の巣にされるに違いなかった。
けれども、眼下のユースティティア兵士に銃を向けるグラディウスの兵士は、そちらに気を取られていて、階段を駆け上がって来たフィリップには、気付いていなかった。
フィリップは、階段を駆け上がるや否や、ひとりを射殺、体当たりして、もうひとりを建物から突き落とすと、突然の事態に、動揺する最後の兵士の腹を、短剣で貫いた。
息を切らして、フィリップが、味方の元へ戻って来ると、あれほど激しかった銃声が止んでいた。
「グラディウスの奴らが、逃げ帰ったぞ!追え!」
ユースティティアの兵士たちが、気勢を上げていた。
その興奮が、手に取るようだった。
兵士たちは、アルカンスィエルの街を、指揮官の下、グラディウスの兵士を追って、突き進んだ。
ふと、フィリップは、視線を感じて、振り返った。
幾つもの・・・、幾つもの、兵士たちの亡骸が、横たわる中、じっと、フィリップに眼をやる者があった。
セザールだった。
「セザール・・・、セザール!なんだって、こんな・・・。ああ・・・、さっきの、グラディウスの兵士に狙われたのか!」
フィリップは、セザールの身体を抱き上げた。
胸に、銃弾を浴び、軍服が血に染まっていた。
セザールは、息をついた。
もう口は、きけなかった。
セザールの手が、血にまみれた軍服の胸のあたりを、探っていた。
フィリップには、何を探しているのか、直ぐに分かった。
軍服の内側から、紙片を取り出して、開いてやった。
セザールは、描かれた婚約者の顔を、愛しげに、指でさすった。
そして、静かに、眼を閉じた。
「セザール・・・」
フィリップの眼から、涙が溢れた。
涙は、止まらなかった。
永久に続くのではないかと思われた砲声が、いつのまにか止んでいた。
「グラディウスの奴らが、逃げたぞ!アルカンスィエルが、我々の手に、戻ったぞ!」
兵士たちが口々に叫びながら、駆けていた。
雪が・・・、初雪が、フィリップの肩にそっと、舞い落ちた。
アルカンスィエルを死守しようとするグラディウス軍と、何としても王都奪還を果たそうとするユースティティア軍の市街戦は、当初から凄まじいものとなった。
敵味方の砲弾が次々と、建物を破壊し、轟音が上がる。
フィリップら、ユースティティア軍は、王都を孤立させるべく、主力を真正面には配置せず、左右両翼に分け、外側から包囲するように、攻撃を開始した。
フィリップは、左翼側からの攻撃に加わった。
街中に、火薬の匂いが充満し、空は黒煙で、真っ黒に染まった。
最前線の兵士たちは、敵の砲弾の直撃を受けて、あるいは崩れ落ちる瓦礫の下敷きになって、次々と倒れた。
それでも、銃と短剣を武器に、フィリップたち、最前線の歩兵は、怯むことなく、進んで行った。
突然、敵の歩兵の放った銃弾が、飛んで来た。
慌てて、瓦礫の陰に身を隠す。
セザールら数名が、フィリップに目くばせすると、速やかに、密かに、敵の後ろに回る。
銃弾は、執拗に続く。
辛抱だ。
もう少し、あと・・・少し。
今だ!
後ろを取られた敵が、フィリップたちの方へ下がって来る。
そこへ、一斉射撃を開始した。
挟み撃ちにされた、グラディウスの兵士たちは、ひとたまりもなかった。
一人残らず、屍となるのに、時間はかからなかった。
ユースティティア軍は、じわじわと、王都に攻め入っていた。
けれども、グラディウスの抵抗も凄まじかった。
特に、砲弾の命中率が、ユースティティア軍を優り、多大なる犠牲者を出していた。
一進一退の攻防が続き、夕刻を過ぎても、勝敗はつかなかった。
夜の闇が、辺りを包み始め、砲弾は止み、夜が明けるまで休戦となった。
皆、疲れきっていた。
砲弾を免れた建物の中で、フィリップたちは、身体を休めた。
口をきくものは、一人もなかった。
フィリップはセザールと、眼があった。
セザールは、口の端を少し上げて笑った。
俺は大丈夫だと、フィリップに知らせたのかもしれなかった。
戦いは、翌日も、翌々日も、決着がつかなかった。
膠着状態のまま、三日が過ぎ、消耗戦になりつつあった。
王都を制圧するには、左右両翼からの突破が鍵で、不可欠だった。
昼を過ぎ、サヴァティエ総司令官は、中央と、左右両翼の主力に、一斉総攻撃を指示した。
この総攻撃で、夕刻までに、アルカンスィエルを制圧できなければ・・・、戦況は一気に不利に傾く。
サヴァティエ総司令官は、賭けに出たのだった。
これまで以上に、両軍の砲弾が、頭上を飛び交い、最前線の歩兵たちは、次々と、命を落とした。
他の者のことを、かまっている余裕などなかった。
降り注ぐ砲弾の中、敵と遭遇すれば、銃撃戦になった。
銃弾は、容赦なく、歩兵を、襲った。
敵も必死だった。
グラディウスにとって、アルカンスィエルを失うことは、この侵略の失敗を意味することに、他ならなかった。
夕刻が、迫っていた。
ユースティティア軍にも、焦りが、見え始めていた。
銃撃戦の最中、建物の陰から応戦するフィリップは、きらりと何かが光ったような気がして、そちらを見上げた。
フィリップの視線の先には、未だ砲弾を免れた建物の上階から、グラディウスの兵士が三人、ユースティティアの兵士に向かって、狙いを付けていた。
「気をつけろ、上だ!」
フィリップは叫んだが、砲弾の音にかき消された。
グラディウスの兵士の放った銃弾が、ユースティティアの歩兵に降り注いだ。
フィリップは、グラディウスの兵士がいる建物に走ると、急いで階段をかけ上った。
無茶なことは、承知だった。
もし、他に敵兵がいたなら、万事休すだ。
フィリップは、蜂の巣にされるに違いなかった。
けれども、眼下のユースティティア兵士に銃を向けるグラディウスの兵士は、そちらに気を取られていて、階段を駆け上がって来たフィリップには、気付いていなかった。
フィリップは、階段を駆け上がるや否や、ひとりを射殺、体当たりして、もうひとりを建物から突き落とすと、突然の事態に、動揺する最後の兵士の腹を、短剣で貫いた。
息を切らして、フィリップが、味方の元へ戻って来ると、あれほど激しかった銃声が止んでいた。
「グラディウスの奴らが、逃げ帰ったぞ!追え!」
ユースティティアの兵士たちが、気勢を上げていた。
その興奮が、手に取るようだった。
兵士たちは、アルカンスィエルの街を、指揮官の下、グラディウスの兵士を追って、突き進んだ。
ふと、フィリップは、視線を感じて、振り返った。
幾つもの・・・、幾つもの、兵士たちの亡骸が、横たわる中、じっと、フィリップに眼をやる者があった。
セザールだった。
「セザール・・・、セザール!なんだって、こんな・・・。ああ・・・、さっきの、グラディウスの兵士に狙われたのか!」
フィリップは、セザールの身体を抱き上げた。
胸に、銃弾を浴び、軍服が血に染まっていた。
セザールは、息をついた。
もう口は、きけなかった。
セザールの手が、血にまみれた軍服の胸のあたりを、探っていた。
フィリップには、何を探しているのか、直ぐに分かった。
軍服の内側から、紙片を取り出して、開いてやった。
セザールは、描かれた婚約者の顔を、愛しげに、指でさすった。
そして、静かに、眼を閉じた。
「セザール・・・」
フィリップの眼から、涙が溢れた。
涙は、止まらなかった。
永久に続くのではないかと思われた砲声が、いつのまにか止んでいた。
「グラディウスの奴らが、逃げたぞ!アルカンスィエルが、我々の手に、戻ったぞ!」
兵士たちが口々に叫びながら、駆けていた。
雪が・・・、初雪が、フィリップの肩にそっと、舞い落ちた。
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