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20.初雪
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「お父様」
ブロンディーヌを捕えたという報告を待ちながら、せわしなく歩き回るラングラン公爵の背に、呼びかける声があった。
「アンヌ・・・」
「お待たせして、申し訳ございませんでした」
アンヌは、外套を取ると、侍女に渡して、下がっていなさいと命じた。
「アンヌ、ブロンディーヌは・・・」
「お父様のお傍から、逃げ出したようですわね。先ほど、護衛に聞きました。でも、この屋敷から、ひとりで逃げられるはずはありません。どこかの物陰にでも潜んでいるのでしょう。見つかるのは、時間の問題ですわ。ご安心ください」
ラングラン公爵が、アンヌの言葉に、ほっとしたような表情を浮かべたのは、それだけ、アンヌを信頼しているということに、他ならなかった。
「ブロンディーヌは、お父様のお手元に、帰ってきました。わたくしの申し上げた通り、ダニエルからの連絡は、途絶えたままでしょう?」
「あの男が、ブロンディーヌに殺されるとは・・・。にわかには信じられなかったが、お前からの手紙に、書いてあったとおりだ。ふつりと、音信が途絶えた。何故、わかった?」
「わたくしの・・・、第六感とでも、申し上げておきましょう。いただいて、よろしい?」
アンヌは、コニャックの瓶を取って、自らグラスに注ぐと、喉に運んだ。
「いつの間に飲めるようになった?お前には、驚かされることばかりだ。だが、頼もしい。ミラージュを、安心して任せられる。私は、まだまだ引退する気はないがね。いずれ、ミラージュは、お前のものだ」
ラングラン公爵は、嬉しそうに、娘の顔を見つめた。
「後は・・・、アレクセイ国王に、力を尽くしていただかなくては。少々、グラディウスに旗色が悪いようですわね」
「クリスティーヌを、自らセヴェロリンスクまで連れてきたりするからだ。兵士の士気が落ちた。全く、忌々しい」
「それは、致し方ないでしょう。奪ったユースティティアの土地を、そのままお父様に譲る代わりに、お姉さまを差し上げるという約束だったのですから。手に入れた宝石は、自ら宝石箱へ仕舞わないと、心配だったのでしょう。それにしても・・・、大胆な賭けでしたわね」
ラングラン公爵は、声を上げて笑いだした。
「アンヌ、それは四年前、クリスティーヌと顔を合わせた時の、あの醜男の顔を見ていれば、わかることだ。もちろん、セヴェロリンスクの王宮にも、ミラージュの者を潜ませている。それとなく、クリスティーヌの話を持ち出す度、顔色が変わるらしい。脈ありだ。少なくとも、ジャン王と、クリスティーヌの間に子どもが誕生するのを待つより、可能性が高い」
「ジャン王には、早々に消えていただいて、未来の国王陛下、もしくは女王陛下の祖父として、ブロンピュール宮殿の覇権を握り、ユースティティアを意のままにあやつるおつもりでしたのに・・・」
「どのような女をあてがったところで、ジャン王では、子どもなど望むべくもない。アレクセイ国王に鞍替えした方が得策だ」
「ユースティティアから、お父様が支配するべき土地を、奪えなければ、お姉さまをユースティティアに連れて帰ると、申し上げましょうか。きっと、アレクセイ国王は、血眼になってお父様の望みを果たすことでしょう」
アンヌは、ソファから立ち上がると、炎が上がるマントルピースへと静かに近づいた。
そして、その火をじっと、見つめていた。
「それはそうとアンヌ、お前にひとつ尋ねたいことがある」
「何でしょう」
「一度、アレクセイ国王から苦情が来た。フォレストバーグで、後ひと息で、フィリップを亡き者に出来たのに、邪魔が入ったと。それが、お前だと言うのだ。一体、どういう思惑が?」
「思惑・・・。それは、そう・・・、こういう思惑ですわ」
振り返ったアンヌの手には、ピストルがあった。
銃口は、ラングラン公爵を向いていた。
「アンヌ・・・」
ラングラン公爵は、自分に向けられた銃口に、眼を見開いた。
そして、眉が釣り上った。
「一体、何の真似だ」
「ミラージュに、理由はいりません」
「ミラージュは、私だ」
「いいえ、ミラージュは、既にわたくしのものです」
ラングラン公爵は、ぎりぎりと歯ぎしりをした。
「お前に、なにがわかるっ!」
「わたくしは、全て理解しております」
「これまでの恩を忘れたか!」
「御恩は、既にお返ししております。あとは、どうぞ、大人しく、わたくしの手にかかってくださいませ」
アンヌは、両手でピストルを持ち、ラングラン公爵に狙いを付けた。
ラングラン公爵は、ぎらぎらした眼で、アンヌを睨みつけていたが、ふふっ、と、皮肉に笑った。
「面白い。私を撃つというのなら、撃つがいい」
ラングラン公爵は、笑っていた。
けれども、その額には、脂汗がじっとりと滲んでいた。
じりじり、ラングラン公爵は、アンヌに歩みよって来る。
アンヌは、引き金に指をかけていた。
あとは、その引き金を引くだけだった。
「さあ、撃つがいい!さあ!」
緊迫の時間が、流れる。
それは、ほんのわずかな時間だったが、数時間のように長く思えた。
公爵は、アンヌの眼の前に立った。
アンヌは・・・、撃たなかった。
ラングラン公爵が、アンヌの手から、ピストルを獲った。
今度は、銃口が、アンヌへ向けられた。
アンヌの表情は、変わらなかった。
死に対する怯えはなかった。
その緑色の瞳に浮かぶのは、一切の罪を受け入れる覚悟だった。
「覚悟は・・・、いいな」
ラングラン公爵が、アンヌの心臓に狙いを付けた。
アンヌは、静かに眼を閉じた。
けれどもその時、ラングラン公爵の唇が、わなわなと震えだした。
瞳には、涙が盛り上がり、顔が大きく歪んだ。
「お前まで・・・、お前まで、私を裏切るのか・・・!」
銃声が、響いた。
倒れたのは・・・、ラングラン公爵だった。
アンヌは、静かに振り返った。
フランセットが、立っていた。
フランセットの手には、ピストルが握られていた。
銃口からは、硝煙が上がっていた。
「どうしても、あなたの誤解を解きたくて・・・」
フランセットは、アンヌを見て、優しく微笑んだ。
「クリスティーヌも、あなたも・・・、誤解しているのよ。わたくしのことを」
「お母様・・・」
「わたくしは、最初から、公爵の・・・、夫の言いなりだったわけではないの。逆らって、酷い目に会ったこともあった。でも、クリスティーヌとあなたが生まれて、公爵は、わたくしへの仕返しを、あなたたちにするようになった」
それは、初めてアンヌが知る事実だった。
「あなたたちの記憶には、残っていないと思うけれど、わたくしは、今でも鮮明に覚えているの。幼いあなたたちが、わたくしのせいでひどい折檻を受けて、泣き叫ぶ姿を。わたくしは、その時に決めたの。わたくしはどうなってもいい。わたくしはどうなってもいいから、娘たちだけは、どんなことをしても守らなければならないって・・・」
フランセットは、ピストルを床に落とした。
そして、アンヌを抱きしめた。
「それが・・・、そのことが、こんなにもあなたを傷つけることになってしまって、本当にごめんなさい・・・。わたくしは、母親なのに、あなたを幸せにしてあげることができなかった」
「お母様・・・」
長く愛情から遠ざかったアンヌの瞳に、涙は浮かばなかった。
けれども、フランセットのその思いは、確かに、アンヌの胸を突くものがあった。
フランセットはアンヌの顔を、ひと時じっと見つめて、
「さあ・・、アンヌ、早くお行きなさい」
と、その身体をそっと押しやった。
アンヌは、一瞬、ためらいを見せた。
「アンヌ、行くのです。あなたは、行かなくてはいけません。そして、後ろを振り返ってはいけません。決して、後ろを振り返らずにお行きなさい。いいですね。わたくしとの、約束ですよ」
フランセットはそう言って、アンヌをもう一度強く抱きしめると、促した。
アンヌは、眼を閉じて、母のその温もりを確かめると、フランセットの言葉通り、一度も振り返ることなく、去った。
フランセットは、アンヌが立ち去っても尚、立ち去った扉をしばらく見つめていた。
そして、床にうつぶせに倒れ、既にこと切れた夫に、視線を移した。
「公爵、おひとりではありませんわ。わたくしが、一緒です・・・」
フランセットは、そっと、微笑んだ。
「火だっ!火が出たぞ!」
セヴェロリンスク郊外の古城から出た火は、すぐに凄まじい勢いで燃え広がった。
あまりにも激しい火炎に、使用人たちも、護衛も、ただ逃げまどうばかりだった。
火は、夜空に高く、赤く舞い上がった。
炎は全てを包み、全てを呑みこみ、全てを焼き尽くした。
ブロンディーヌを捕えたという報告を待ちながら、せわしなく歩き回るラングラン公爵の背に、呼びかける声があった。
「アンヌ・・・」
「お待たせして、申し訳ございませんでした」
アンヌは、外套を取ると、侍女に渡して、下がっていなさいと命じた。
「アンヌ、ブロンディーヌは・・・」
「お父様のお傍から、逃げ出したようですわね。先ほど、護衛に聞きました。でも、この屋敷から、ひとりで逃げられるはずはありません。どこかの物陰にでも潜んでいるのでしょう。見つかるのは、時間の問題ですわ。ご安心ください」
ラングラン公爵が、アンヌの言葉に、ほっとしたような表情を浮かべたのは、それだけ、アンヌを信頼しているということに、他ならなかった。
「ブロンディーヌは、お父様のお手元に、帰ってきました。わたくしの申し上げた通り、ダニエルからの連絡は、途絶えたままでしょう?」
「あの男が、ブロンディーヌに殺されるとは・・・。にわかには信じられなかったが、お前からの手紙に、書いてあったとおりだ。ふつりと、音信が途絶えた。何故、わかった?」
「わたくしの・・・、第六感とでも、申し上げておきましょう。いただいて、よろしい?」
アンヌは、コニャックの瓶を取って、自らグラスに注ぐと、喉に運んだ。
「いつの間に飲めるようになった?お前には、驚かされることばかりだ。だが、頼もしい。ミラージュを、安心して任せられる。私は、まだまだ引退する気はないがね。いずれ、ミラージュは、お前のものだ」
ラングラン公爵は、嬉しそうに、娘の顔を見つめた。
「後は・・・、アレクセイ国王に、力を尽くしていただかなくては。少々、グラディウスに旗色が悪いようですわね」
「クリスティーヌを、自らセヴェロリンスクまで連れてきたりするからだ。兵士の士気が落ちた。全く、忌々しい」
「それは、致し方ないでしょう。奪ったユースティティアの土地を、そのままお父様に譲る代わりに、お姉さまを差し上げるという約束だったのですから。手に入れた宝石は、自ら宝石箱へ仕舞わないと、心配だったのでしょう。それにしても・・・、大胆な賭けでしたわね」
ラングラン公爵は、声を上げて笑いだした。
「アンヌ、それは四年前、クリスティーヌと顔を合わせた時の、あの醜男の顔を見ていれば、わかることだ。もちろん、セヴェロリンスクの王宮にも、ミラージュの者を潜ませている。それとなく、クリスティーヌの話を持ち出す度、顔色が変わるらしい。脈ありだ。少なくとも、ジャン王と、クリスティーヌの間に子どもが誕生するのを待つより、可能性が高い」
「ジャン王には、早々に消えていただいて、未来の国王陛下、もしくは女王陛下の祖父として、ブロンピュール宮殿の覇権を握り、ユースティティアを意のままにあやつるおつもりでしたのに・・・」
「どのような女をあてがったところで、ジャン王では、子どもなど望むべくもない。アレクセイ国王に鞍替えした方が得策だ」
「ユースティティアから、お父様が支配するべき土地を、奪えなければ、お姉さまをユースティティアに連れて帰ると、申し上げましょうか。きっと、アレクセイ国王は、血眼になってお父様の望みを果たすことでしょう」
アンヌは、ソファから立ち上がると、炎が上がるマントルピースへと静かに近づいた。
そして、その火をじっと、見つめていた。
「それはそうとアンヌ、お前にひとつ尋ねたいことがある」
「何でしょう」
「一度、アレクセイ国王から苦情が来た。フォレストバーグで、後ひと息で、フィリップを亡き者に出来たのに、邪魔が入ったと。それが、お前だと言うのだ。一体、どういう思惑が?」
「思惑・・・。それは、そう・・・、こういう思惑ですわ」
振り返ったアンヌの手には、ピストルがあった。
銃口は、ラングラン公爵を向いていた。
「アンヌ・・・」
ラングラン公爵は、自分に向けられた銃口に、眼を見開いた。
そして、眉が釣り上った。
「一体、何の真似だ」
「ミラージュに、理由はいりません」
「ミラージュは、私だ」
「いいえ、ミラージュは、既にわたくしのものです」
ラングラン公爵は、ぎりぎりと歯ぎしりをした。
「お前に、なにがわかるっ!」
「わたくしは、全て理解しております」
「これまでの恩を忘れたか!」
「御恩は、既にお返ししております。あとは、どうぞ、大人しく、わたくしの手にかかってくださいませ」
アンヌは、両手でピストルを持ち、ラングラン公爵に狙いを付けた。
ラングラン公爵は、ぎらぎらした眼で、アンヌを睨みつけていたが、ふふっ、と、皮肉に笑った。
「面白い。私を撃つというのなら、撃つがいい」
ラングラン公爵は、笑っていた。
けれども、その額には、脂汗がじっとりと滲んでいた。
じりじり、ラングラン公爵は、アンヌに歩みよって来る。
アンヌは、引き金に指をかけていた。
あとは、その引き金を引くだけだった。
「さあ、撃つがいい!さあ!」
緊迫の時間が、流れる。
それは、ほんのわずかな時間だったが、数時間のように長く思えた。
公爵は、アンヌの眼の前に立った。
アンヌは・・・、撃たなかった。
ラングラン公爵が、アンヌの手から、ピストルを獲った。
今度は、銃口が、アンヌへ向けられた。
アンヌの表情は、変わらなかった。
死に対する怯えはなかった。
その緑色の瞳に浮かぶのは、一切の罪を受け入れる覚悟だった。
「覚悟は・・・、いいな」
ラングラン公爵が、アンヌの心臓に狙いを付けた。
アンヌは、静かに眼を閉じた。
けれどもその時、ラングラン公爵の唇が、わなわなと震えだした。
瞳には、涙が盛り上がり、顔が大きく歪んだ。
「お前まで・・・、お前まで、私を裏切るのか・・・!」
銃声が、響いた。
倒れたのは・・・、ラングラン公爵だった。
アンヌは、静かに振り返った。
フランセットが、立っていた。
フランセットの手には、ピストルが握られていた。
銃口からは、硝煙が上がっていた。
「どうしても、あなたの誤解を解きたくて・・・」
フランセットは、アンヌを見て、優しく微笑んだ。
「クリスティーヌも、あなたも・・・、誤解しているのよ。わたくしのことを」
「お母様・・・」
「わたくしは、最初から、公爵の・・・、夫の言いなりだったわけではないの。逆らって、酷い目に会ったこともあった。でも、クリスティーヌとあなたが生まれて、公爵は、わたくしへの仕返しを、あなたたちにするようになった」
それは、初めてアンヌが知る事実だった。
「あなたたちの記憶には、残っていないと思うけれど、わたくしは、今でも鮮明に覚えているの。幼いあなたたちが、わたくしのせいでひどい折檻を受けて、泣き叫ぶ姿を。わたくしは、その時に決めたの。わたくしはどうなってもいい。わたくしはどうなってもいいから、娘たちだけは、どんなことをしても守らなければならないって・・・」
フランセットは、ピストルを床に落とした。
そして、アンヌを抱きしめた。
「それが・・・、そのことが、こんなにもあなたを傷つけることになってしまって、本当にごめんなさい・・・。わたくしは、母親なのに、あなたを幸せにしてあげることができなかった」
「お母様・・・」
長く愛情から遠ざかったアンヌの瞳に、涙は浮かばなかった。
けれども、フランセットのその思いは、確かに、アンヌの胸を突くものがあった。
フランセットはアンヌの顔を、ひと時じっと見つめて、
「さあ・・、アンヌ、早くお行きなさい」
と、その身体をそっと押しやった。
アンヌは、一瞬、ためらいを見せた。
「アンヌ、行くのです。あなたは、行かなくてはいけません。そして、後ろを振り返ってはいけません。決して、後ろを振り返らずにお行きなさい。いいですね。わたくしとの、約束ですよ」
フランセットはそう言って、アンヌをもう一度強く抱きしめると、促した。
アンヌは、眼を閉じて、母のその温もりを確かめると、フランセットの言葉通り、一度も振り返ることなく、去った。
フランセットは、アンヌが立ち去っても尚、立ち去った扉をしばらく見つめていた。
そして、床にうつぶせに倒れ、既にこと切れた夫に、視線を移した。
「公爵、おひとりではありませんわ。わたくしが、一緒です・・・」
フランセットは、そっと、微笑んだ。
「火だっ!火が出たぞ!」
セヴェロリンスク郊外の古城から出た火は、すぐに凄まじい勢いで燃え広がった。
あまりにも激しい火炎に、使用人たちも、護衛も、ただ逃げまどうばかりだった。
火は、夜空に高く、赤く舞い上がった。
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