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10.I always love you
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翌日は、朝から時折小雨の降る、すっきりしない天気だった。
ケイティは、朝食のベーコン・エッグと、ギルとウォルトのために、オーツ麦を牛乳で煮込んだ、優しい味のポリッジの用意をしながら、珍しく寝坊かしら、と、階段の上を見上げた。
もうすぐ七時になるというのに、レティシアが、まだキッチンに降りてきそうな気配がなかった。
いつもならば五時には起きて、とうに、朝食の準備を整えている時刻だというのに。
けれども、ケイティは、起こしに行く気持ちにはならなかった。
昨日、昼前、いつものようにホイットマン製造会社へ、昼食を届けに行ったレティシアだったが、中々帰っては来なかった。
いつもなら、十二時半には帰って来るのに、昨日は二時を過ぎて、ようやく戻って来たと思ったら、どこかで、ずっと泣いていたようで、赤い眼をしたまま、遅くなってごめんなさいと、ケイティに謝った。
何かあったの、と尋ねても、何もないと首を振るばかりで、話そうとはしなかった。
あの分だと、夜も眠れているようには、思えなかった。
夜眠れずに過ごして、明け方にまどろんで、朝寝坊しているのなら、もう少しそのまま、眠らせてあげたかった。
毎日、朝早くから遅くまで、ほとんど休みなく働くレティシアに、たまにはこういう日があってもいいだろうと、ケイティは思った。
「これを、向こうに持っていけばいいのかな?」
と、いつの間にか、外出着に着替えたフランクがキッチンへ来て、トーストの皿を運ぼうとしていた。
ベーコン・エッグを焼きながら、考え事をしていたので、後ろにフランクが立ったことに、ケイティは気づかなかった。
「まあ、フランク。私がするから、ダイニングで待っていて。お茶をいれるわ。今朝は、遅くなってしまってごめんなさい」
「少しは、私にも手伝わせてほしい、ケイティ。君は、何でもてきぱきとこなすから、つい任せてしまうけど、大変な時は、大変だと言って。私にできることは、するよ」
「あなた・・・」
「レティシアは、珍しく寝坊かな。昨日、様子がおかしかったと、君が言っていたね」
「ええ、そうなの。お昼に、リックに昼食を届けるために、ホイットマン製造会社へ行ったのだけど、帰って来なくて。二時をすぎてようやく帰って来たと思ったら、どこかで泣いていたようで、赤い眼をして・・・。何があったのか聞いても、大丈夫だからって、何も答えないし。・・・降りて来たみたい」
慌ただしく、階段を降りる音が、聞こえて来た。
「ごめんなさい、私、寝坊!おはよう、ケイティ、おはようございます、フランクさん」
レティシアは、申し訳なさそうにしていたが、昨日に比べて、随分、すっきりとした顔をしていた。
ケイティと、フランクは、顔を見合わせた。
昨日のレティシアとは、すっかり様子が違っていた。
「おはよう、レティシア。昨日は、落ち込んでいたようだったけど、もう大丈夫なの?」
「昨日は、ごめんなさい。それに、今朝も。昨夜遅くまで準備をしていたら、寝坊して、本当にごめんなさい」
「準備?何の準備?」
「ケイティ、フランクさんも。今、少しだけ、話、いい?」
「ええ、いいわよ」
「もちろんだ」
「私、明日、聖ラファエラ女子修道院へ、帰る」
「何ですって?」
ケイティは、全く予期しない話に驚いて、思わず、フランクの顔を見た。
フランクも、驚きを隠せなかった。
「一体どうして?」
「最初から、ここにいるのは、半年の約束。色々あって、少し、伸びた。本当に、もう帰らないと」
「リックは、知っているの?」
「彼には・・・、黙っていてほしい。私が明日、出発するまで。子供たちにも。きっとみんな、驚くと思うから」
そういうレティシアの声は、明るかった。
何かが、吹っ切れたような表情をしていた。
「レティシア、リックに黙って行くのは良くない。一度、ちゃんと、話した方がいい」
デリケートなふたりの関係に、極力、口出しはしないフランクだったが、この件に関しては、そう言わずにはいられなかった。
「フランクさん、もう決めたこと。これは、私の問題。リックには、話す必要ない」
「でも、あまりにも、急な話だわ。修道院へは、連絡を取っているの?ひとりで、帰るつもり?どう考えても、少し無理があるように思うのだけれど」
「帰る方法は、ずっと前に調べてあるし、お金もある。修道院へは、ここを発ったら、すぐに手紙、書く。心配しないで」
「レティシア、昨日、一体何があったの?」
しつこいと思われても、ケイティは、もう一度、そう尋ねずには、いられなかった。
「ケイティには、関係ないこと。ごめんなさい」
「レティシア・・・」
取りつく島が、なかった。
「突然で、本当にごめんなさい。早く、次の家政婦、雇わないとならないのに」
「そんなことは、いいのだけど・・・」
ケイティとフランクは、当惑気味に、顔を見合わせた。
「子供たち、起こしてくる」
レティシアは、明るくそう言うと、二階の子供部屋へ、子供たちを起こしに行った。
一体、昨日、何があったのだろう。
リックは、このことを知らないままで、大丈夫なのだろうか。
マクファーレン夫妻の胸に去来する思いは、同じだった。
いつもよりも、少し遅れて始まった朝食は、いつもと何も変わることはなかった。
ギルとウォルトは、口の周りや手を、めいいっぱい汚しながら、スプーンでポリッジをすくっては、懸命に口に運び、レティシアは、ふたりの様子を見守り、手伝いながら、その傍らで、あまり食欲がないからと、自分も、ポリッジを少しだけ、口にしていた。
アンディとデイヴは、帰宅が遅いため、普段、朝食の時しか話す機会のない父に、身の回りに起こった出来事を競う様に話し、フランクは、どんな兄弟の話にでも、じっくりと耳を傾けていた。
そして、ケイティは、夫と子供たちの会話を、穏やかに見守っていた。
いつもと何も変わることのない、穏やかな朝食の風景だったが、デイヴが、思い出したように、
「レティシア、昨日の約束、どうなったの?」
むくれて、そう言った。
「昨日の約束?」
「夕方、一緒に買い物へ行くって言ってたのに。いいことあるかもしれないって言うから、僕、楽しみにしていたのに」
昨日、ホイットマン製造会社から戻って、到底、買い物へ行く気にはなれなかった。
だから、デイヴは、ケイティと買い物へ行ったのだった。
「約束、守らなくて、ごめんなさい。また、今度」
「今度って、いつ?」
「いつ、って・・・」
レティシアも、ケイティも、フランクも、無邪気な問いに当惑して、答えることが出来なかった。
「じゃあ、週末。週末は、ミルフェアストリートに、露店がたくさんだから、楽しいんだ」
「デイヴ、私、ダメでも、ケイティと行けばいい」
「ダメだよ。レティシアと行くって、僕、もう決めた。約束だからね」
「デイヴ・・・」
「デイヴ、お喋りしていないで、早く食べてしまいなさい」
そう言うケイティの表情は、硬かった。
はあーい、と返事をして、デイヴは、パンを千切って、勢いよく頬張った。
約束だからね。
デイヴとの守れない約束が、針のように鋭く、レティシアの胸に刺さった。
レティシアの、ブリストン最後の日は、いつもと変わらない日だった。
子供たちの笑い声と泣き声と、喧嘩の声が、絶え間なく響き、時折、ケイティの子供たちを叱る声が加わって、騒々しく、賑やかだった。
レティシアは、その一瞬一瞬を、噛みしめるように過ごした。
大好きよ、みんな。
絶対に、忘れないわ。
アンディ、デイヴ、ギル、ウォルト・・・、四人のやんちゃな子供たち。
愛しい子供たち。
本当に、素敵な時間を、ありがとう。
レティシアは、昼間の間にタヴァンへ出向き、翌日の駅馬車の席を予約した。
聖ラファエラ女子修道院まで帰るには、いくつか駅馬車を、乗り継ぐ必要があったが、 ともかく、そちら方面へ向かう、明日朝一番の、駅馬車の席の予約が出来たので、ほっと安心した。
バッカスからの駅馬車を利用してもよかったのだが、万一、リックと遭遇してはいけないため、わざと、バッカスからは離れたところにある、別のタヴァンから出発する駅馬車を、利用することにした。
さほど多くない荷物は、昨夜の間にまとめておいてしまったので、出発を明日に控えても、別段、するべきこともなかった。
クリスマスイブに、リックから贈られた真珠のブローチは、手に取ってしばらく見つめた後、そのままチェストの引き出しにしまった。
リックが、妻を迎えるのに、自分だけが、想いを残すわけにはいかなかった。
夜、子供たちの夕食を済ませてから、ケイティとレティシアも夕食を済ませ、キッチンで、レティシアが洗い物をしていると、
「レティシア」
ケイティが、そう声をかけた。
レティシアが手を止めて振り返ると、ケイティが、真剣な表情で、レティシアを見つめて、立っていた。
「この本を、リックに届けて来て。前に、リックに渡してほしいって、フランクに頼まれていたの。この時間だったらきっとまだ、会社にいるはずよ」
と、一冊の本を差し出した。
時刻は、七時半になっていたが、七月末のブリストンは、午後九時近くまで、日は沈まず、まだ明るかった。
「ケイティ、私・・・」
エプロンで、濡れた手を拭きながら、レティシアは、口籠った。
「昨日、何があったのかは、もう聞かないわ。でも、リックに何も言わずに行くのは、間違ってる。前にも言ったでしょう。本当に、愛しているのなら、どんなことも話し合うの。どんな言いにくいことでも、話し合って、お互いに理解し合うことが必要よ」
「私、いない方が・・・、リック、幸せになれる」
「それは、あなたの考えよ。彼は、もっと違うように、考えているかもしれない。それは、聞いてみなければわからないでしょう。本当に、彼を愛しているのなら、ふたりで結論を出すの」
「ケイティ・・・」
「逃げ出してはだめよ、レティシア。リックは、いつも、どんな時でも、あなたに寄り添ってきたでしょう。だったら、あなたも、彼を信じて、話すの。あなたの本当の気持ちを」
ケイティは、ためらうレティシアの手に、本を置いた。
ケイティは、朝食のベーコン・エッグと、ギルとウォルトのために、オーツ麦を牛乳で煮込んだ、優しい味のポリッジの用意をしながら、珍しく寝坊かしら、と、階段の上を見上げた。
もうすぐ七時になるというのに、レティシアが、まだキッチンに降りてきそうな気配がなかった。
いつもならば五時には起きて、とうに、朝食の準備を整えている時刻だというのに。
けれども、ケイティは、起こしに行く気持ちにはならなかった。
昨日、昼前、いつものようにホイットマン製造会社へ、昼食を届けに行ったレティシアだったが、中々帰っては来なかった。
いつもなら、十二時半には帰って来るのに、昨日は二時を過ぎて、ようやく戻って来たと思ったら、どこかで、ずっと泣いていたようで、赤い眼をしたまま、遅くなってごめんなさいと、ケイティに謝った。
何かあったの、と尋ねても、何もないと首を振るばかりで、話そうとはしなかった。
あの分だと、夜も眠れているようには、思えなかった。
夜眠れずに過ごして、明け方にまどろんで、朝寝坊しているのなら、もう少しそのまま、眠らせてあげたかった。
毎日、朝早くから遅くまで、ほとんど休みなく働くレティシアに、たまにはこういう日があってもいいだろうと、ケイティは思った。
「これを、向こうに持っていけばいいのかな?」
と、いつの間にか、外出着に着替えたフランクがキッチンへ来て、トーストの皿を運ぼうとしていた。
ベーコン・エッグを焼きながら、考え事をしていたので、後ろにフランクが立ったことに、ケイティは気づかなかった。
「まあ、フランク。私がするから、ダイニングで待っていて。お茶をいれるわ。今朝は、遅くなってしまってごめんなさい」
「少しは、私にも手伝わせてほしい、ケイティ。君は、何でもてきぱきとこなすから、つい任せてしまうけど、大変な時は、大変だと言って。私にできることは、するよ」
「あなた・・・」
「レティシアは、珍しく寝坊かな。昨日、様子がおかしかったと、君が言っていたね」
「ええ、そうなの。お昼に、リックに昼食を届けるために、ホイットマン製造会社へ行ったのだけど、帰って来なくて。二時をすぎてようやく帰って来たと思ったら、どこかで泣いていたようで、赤い眼をして・・・。何があったのか聞いても、大丈夫だからって、何も答えないし。・・・降りて来たみたい」
慌ただしく、階段を降りる音が、聞こえて来た。
「ごめんなさい、私、寝坊!おはよう、ケイティ、おはようございます、フランクさん」
レティシアは、申し訳なさそうにしていたが、昨日に比べて、随分、すっきりとした顔をしていた。
ケイティと、フランクは、顔を見合わせた。
昨日のレティシアとは、すっかり様子が違っていた。
「おはよう、レティシア。昨日は、落ち込んでいたようだったけど、もう大丈夫なの?」
「昨日は、ごめんなさい。それに、今朝も。昨夜遅くまで準備をしていたら、寝坊して、本当にごめんなさい」
「準備?何の準備?」
「ケイティ、フランクさんも。今、少しだけ、話、いい?」
「ええ、いいわよ」
「もちろんだ」
「私、明日、聖ラファエラ女子修道院へ、帰る」
「何ですって?」
ケイティは、全く予期しない話に驚いて、思わず、フランクの顔を見た。
フランクも、驚きを隠せなかった。
「一体どうして?」
「最初から、ここにいるのは、半年の約束。色々あって、少し、伸びた。本当に、もう帰らないと」
「リックは、知っているの?」
「彼には・・・、黙っていてほしい。私が明日、出発するまで。子供たちにも。きっとみんな、驚くと思うから」
そういうレティシアの声は、明るかった。
何かが、吹っ切れたような表情をしていた。
「レティシア、リックに黙って行くのは良くない。一度、ちゃんと、話した方がいい」
デリケートなふたりの関係に、極力、口出しはしないフランクだったが、この件に関しては、そう言わずにはいられなかった。
「フランクさん、もう決めたこと。これは、私の問題。リックには、話す必要ない」
「でも、あまりにも、急な話だわ。修道院へは、連絡を取っているの?ひとりで、帰るつもり?どう考えても、少し無理があるように思うのだけれど」
「帰る方法は、ずっと前に調べてあるし、お金もある。修道院へは、ここを発ったら、すぐに手紙、書く。心配しないで」
「レティシア、昨日、一体何があったの?」
しつこいと思われても、ケイティは、もう一度、そう尋ねずには、いられなかった。
「ケイティには、関係ないこと。ごめんなさい」
「レティシア・・・」
取りつく島が、なかった。
「突然で、本当にごめんなさい。早く、次の家政婦、雇わないとならないのに」
「そんなことは、いいのだけど・・・」
ケイティとフランクは、当惑気味に、顔を見合わせた。
「子供たち、起こしてくる」
レティシアは、明るくそう言うと、二階の子供部屋へ、子供たちを起こしに行った。
一体、昨日、何があったのだろう。
リックは、このことを知らないままで、大丈夫なのだろうか。
マクファーレン夫妻の胸に去来する思いは、同じだった。
いつもよりも、少し遅れて始まった朝食は、いつもと何も変わることはなかった。
ギルとウォルトは、口の周りや手を、めいいっぱい汚しながら、スプーンでポリッジをすくっては、懸命に口に運び、レティシアは、ふたりの様子を見守り、手伝いながら、その傍らで、あまり食欲がないからと、自分も、ポリッジを少しだけ、口にしていた。
アンディとデイヴは、帰宅が遅いため、普段、朝食の時しか話す機会のない父に、身の回りに起こった出来事を競う様に話し、フランクは、どんな兄弟の話にでも、じっくりと耳を傾けていた。
そして、ケイティは、夫と子供たちの会話を、穏やかに見守っていた。
いつもと何も変わることのない、穏やかな朝食の風景だったが、デイヴが、思い出したように、
「レティシア、昨日の約束、どうなったの?」
むくれて、そう言った。
「昨日の約束?」
「夕方、一緒に買い物へ行くって言ってたのに。いいことあるかもしれないって言うから、僕、楽しみにしていたのに」
昨日、ホイットマン製造会社から戻って、到底、買い物へ行く気にはなれなかった。
だから、デイヴは、ケイティと買い物へ行ったのだった。
「約束、守らなくて、ごめんなさい。また、今度」
「今度って、いつ?」
「いつ、って・・・」
レティシアも、ケイティも、フランクも、無邪気な問いに当惑して、答えることが出来なかった。
「じゃあ、週末。週末は、ミルフェアストリートに、露店がたくさんだから、楽しいんだ」
「デイヴ、私、ダメでも、ケイティと行けばいい」
「ダメだよ。レティシアと行くって、僕、もう決めた。約束だからね」
「デイヴ・・・」
「デイヴ、お喋りしていないで、早く食べてしまいなさい」
そう言うケイティの表情は、硬かった。
はあーい、と返事をして、デイヴは、パンを千切って、勢いよく頬張った。
約束だからね。
デイヴとの守れない約束が、針のように鋭く、レティシアの胸に刺さった。
レティシアの、ブリストン最後の日は、いつもと変わらない日だった。
子供たちの笑い声と泣き声と、喧嘩の声が、絶え間なく響き、時折、ケイティの子供たちを叱る声が加わって、騒々しく、賑やかだった。
レティシアは、その一瞬一瞬を、噛みしめるように過ごした。
大好きよ、みんな。
絶対に、忘れないわ。
アンディ、デイヴ、ギル、ウォルト・・・、四人のやんちゃな子供たち。
愛しい子供たち。
本当に、素敵な時間を、ありがとう。
レティシアは、昼間の間にタヴァンへ出向き、翌日の駅馬車の席を予約した。
聖ラファエラ女子修道院まで帰るには、いくつか駅馬車を、乗り継ぐ必要があったが、 ともかく、そちら方面へ向かう、明日朝一番の、駅馬車の席の予約が出来たので、ほっと安心した。
バッカスからの駅馬車を利用してもよかったのだが、万一、リックと遭遇してはいけないため、わざと、バッカスからは離れたところにある、別のタヴァンから出発する駅馬車を、利用することにした。
さほど多くない荷物は、昨夜の間にまとめておいてしまったので、出発を明日に控えても、別段、するべきこともなかった。
クリスマスイブに、リックから贈られた真珠のブローチは、手に取ってしばらく見つめた後、そのままチェストの引き出しにしまった。
リックが、妻を迎えるのに、自分だけが、想いを残すわけにはいかなかった。
夜、子供たちの夕食を済ませてから、ケイティとレティシアも夕食を済ませ、キッチンで、レティシアが洗い物をしていると、
「レティシア」
ケイティが、そう声をかけた。
レティシアが手を止めて振り返ると、ケイティが、真剣な表情で、レティシアを見つめて、立っていた。
「この本を、リックに届けて来て。前に、リックに渡してほしいって、フランクに頼まれていたの。この時間だったらきっとまだ、会社にいるはずよ」
と、一冊の本を差し出した。
時刻は、七時半になっていたが、七月末のブリストンは、午後九時近くまで、日は沈まず、まだ明るかった。
「ケイティ、私・・・」
エプロンで、濡れた手を拭きながら、レティシアは、口籠った。
「昨日、何があったのかは、もう聞かないわ。でも、リックに何も言わずに行くのは、間違ってる。前にも言ったでしょう。本当に、愛しているのなら、どんなことも話し合うの。どんな言いにくいことでも、話し合って、お互いに理解し合うことが必要よ」
「私、いない方が・・・、リック、幸せになれる」
「それは、あなたの考えよ。彼は、もっと違うように、考えているかもしれない。それは、聞いてみなければわからないでしょう。本当に、彼を愛しているのなら、ふたりで結論を出すの」
「ケイティ・・・」
「逃げ出してはだめよ、レティシア。リックは、いつも、どんな時でも、あなたに寄り添ってきたでしょう。だったら、あなたも、彼を信じて、話すの。あなたの本当の気持ちを」
ケイティは、ためらうレティシアの手に、本を置いた。
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