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5.happy and happy!
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陽当たりの良いゲストルームで、とある作業をしていたキースは、屋敷の外が、随分と賑やかなことを不思議に思って、表へと姿を見せた。
「あれ、コーディリア、一体どうしたの?」
乗馬したオーランドに先導されて、先程、ウォルトンへ向けて出発したばかりの馬車が戻って来たかと思うと、コーディリア一行が姿を見せて、キースは目を丸くした。
一足遅れて、表へ出て来たサディアスは、コーディリアの姿を認めて、ほっとしたような表情を浮かべた。
一方、コーディリアは、フォーシーズンズ・ハウスへと舞い戻り、オーランド、サディアス、キースを目の前にして、気が緩んだせいか、この数日間のやりきれない思いが一気に噴き出し、大粒の涙をぽろぽろと零した。
「みんな・・・、みんな、どうして、わたくしを追い出そうとするの?」
「追い出してなんかいないさ」
「仕方なかったんだ」
「帰って来てくれて、本当に嬉しいよ」
三兄弟が、それぞれに慰めの言葉を口にするものの、コーディリアの涙は、収まらなかった。
とにかく中へと、サディアスが、キャロラインとコーディリアをゲストルームへ誘う。
オーランドに寄り添われるようにして、コーディリアはソファに座った。
「わたくしが、嫌いになったの?」
「そんなわけない」
「もう飽きてしまった?」
「そんなことあるはずない。君は最高にチャーミングで、素晴らしい女性だ。俺にはもったいない」
オーランドは、コーディリアの髪を愛しげに撫でた。
「だったら・・・、だったら、どうしてわたくしをウォルトンへ?みんな・・・、みんな、どうしてわたくしに冷たくするの?あんなに仲良くしていたのに、わたくし、とても・・・、とても寂しいわ」
そう言って号泣するコーディリアを抱きしめ、オーランドは、悪かった、ごめんと、何度も繰り返した。
その光景を、キャロラインは、不思議な思いで、見守っていた。
それは、キャロラインの知るコーディリアはなかった。
キャロラインの知るコーディリアは、こんな風に、感情をあからさまにぶつけることなど、一度もなかった。
けれども、今、オーランドに自分の想いを率直に訴えるコーディリアの姿を見て、コーディリアは、周りを気遣って、いつも自分の感情を、抑え込んでいただけなのだと、気づかされた。
そして、娘は、良い人にめぐりあったのだ、と。
自分の想いを受け止めてくれる、心許せる伴侶に巡り合ったのだと知った。
「もう二度と、俺は君を手放さない」
「本当に?」
「本当だ」
まだコーディリアの頬に伝う涙を、オーランドは指で拭うと、ポケットから、リングケースを取り出し、開いた。
その中央に輝く眩い光の意味するところを理解して、コーディリアは息を呑み、両手で口元を抑えた。
「俺と、結婚してほしい、コーディリア」
「イエス・・・、もちろん、イエスだわ、オーランド」
即答したコーディリアの薬指に、オーランドはそっと指環を差し込み、ふたりは抱擁を交わした。
「おめでとう、ふたりとも」
「もう姉上って、呼んでもいいんだよね」
その様子を少々離れた場所から見守っていたサディアスとキースは、笑顔で、口々に喜びの言葉を述べた。
それまで、自分の想いに囚われて、周囲が眼に入っていなかったコーディリアだったが、その時になって、ようやく、サディアス、キース、そして、キャロラインの姿が視界に入って来た。
「お母様・・・」
父のことが解決しないまま、一存でプロポーズを受け入れたことに対して、母は、どう思っているのだろうか・・・。
そんな想いが過ぎった、コーディリアだった。
けれども、
「おめでとう、コーディリア。本当におめでとう」
キャロラインの口から零れたのは、温かな祝福の言葉だった。
「ありがとう・・・、ありがとう、お母さま。ありがとう、みんな」
コーディリアが、潤んだ瞳のまま、弾けるような笑顔を見せた、その時だった。
キャロラインが、突然、その幸福な時間を引き裂くような悲鳴を上げた。
「あれ・・・、あれは・・・」
キャロラインの視線の先には、見慣れたゲージがあった。
取り込んだ事態に、キャロラインが悲鳴を上げるまで、その場にいる誰もが、ゲージに気づいていなかった。
「何故、こんなところにアイリスがいるんだ!」
サディアスが、青くなって叫ぶ。
「コーディリアの母上が来てから、ずっとオーランドの部屋に閉じ込められていただろ。ウォルトンへ帰ったと思ったから、久しぶりに部屋の外へ連れ出して、遊んでやろうと思ったんだよ」
すっかりアイリスのことを忘れていたキースだった。
ゲージの中のアイリスは、くりっとした眼をキャロラインに向け、はじめまして、とでもいうように、首をかしげた。
「ああ・・・」
小さな叫び声を上げ、気を失うキャロラインを、間一髪、サディアスとキースで抱き支えた。
オーランドとコーディリアは、上手くまとまったものの、ジョンの問題は、残されたままだった。
この問題に、さらりと解決策を持ち出したのは、キースだった。
「フォーシーズンズ・ハウスへ来てもらったらいいんじゃない?結婚式にも参加してもらえるし、一石二鳥だよ」
これまで、何故そのことに誰も気づかなかったのだろう。
キースの提案を受けて、みんなそう思った。
かくして、キースは、グラハム伯爵をフォーシーズンズ・ハウスまで連れて来るという大任を担うことになり、ウォルトンへ向けて、出発することになったのだった。
「あれ、コーディリア、一体どうしたの?」
乗馬したオーランドに先導されて、先程、ウォルトンへ向けて出発したばかりの馬車が戻って来たかと思うと、コーディリア一行が姿を見せて、キースは目を丸くした。
一足遅れて、表へ出て来たサディアスは、コーディリアの姿を認めて、ほっとしたような表情を浮かべた。
一方、コーディリアは、フォーシーズンズ・ハウスへと舞い戻り、オーランド、サディアス、キースを目の前にして、気が緩んだせいか、この数日間のやりきれない思いが一気に噴き出し、大粒の涙をぽろぽろと零した。
「みんな・・・、みんな、どうして、わたくしを追い出そうとするの?」
「追い出してなんかいないさ」
「仕方なかったんだ」
「帰って来てくれて、本当に嬉しいよ」
三兄弟が、それぞれに慰めの言葉を口にするものの、コーディリアの涙は、収まらなかった。
とにかく中へと、サディアスが、キャロラインとコーディリアをゲストルームへ誘う。
オーランドに寄り添われるようにして、コーディリアはソファに座った。
「わたくしが、嫌いになったの?」
「そんなわけない」
「もう飽きてしまった?」
「そんなことあるはずない。君は最高にチャーミングで、素晴らしい女性だ。俺にはもったいない」
オーランドは、コーディリアの髪を愛しげに撫でた。
「だったら・・・、だったら、どうしてわたくしをウォルトンへ?みんな・・・、みんな、どうしてわたくしに冷たくするの?あんなに仲良くしていたのに、わたくし、とても・・・、とても寂しいわ」
そう言って号泣するコーディリアを抱きしめ、オーランドは、悪かった、ごめんと、何度も繰り返した。
その光景を、キャロラインは、不思議な思いで、見守っていた。
それは、キャロラインの知るコーディリアはなかった。
キャロラインの知るコーディリアは、こんな風に、感情をあからさまにぶつけることなど、一度もなかった。
けれども、今、オーランドに自分の想いを率直に訴えるコーディリアの姿を見て、コーディリアは、周りを気遣って、いつも自分の感情を、抑え込んでいただけなのだと、気づかされた。
そして、娘は、良い人にめぐりあったのだ、と。
自分の想いを受け止めてくれる、心許せる伴侶に巡り合ったのだと知った。
「もう二度と、俺は君を手放さない」
「本当に?」
「本当だ」
まだコーディリアの頬に伝う涙を、オーランドは指で拭うと、ポケットから、リングケースを取り出し、開いた。
その中央に輝く眩い光の意味するところを理解して、コーディリアは息を呑み、両手で口元を抑えた。
「俺と、結婚してほしい、コーディリア」
「イエス・・・、もちろん、イエスだわ、オーランド」
即答したコーディリアの薬指に、オーランドはそっと指環を差し込み、ふたりは抱擁を交わした。
「おめでとう、ふたりとも」
「もう姉上って、呼んでもいいんだよね」
その様子を少々離れた場所から見守っていたサディアスとキースは、笑顔で、口々に喜びの言葉を述べた。
それまで、自分の想いに囚われて、周囲が眼に入っていなかったコーディリアだったが、その時になって、ようやく、サディアス、キース、そして、キャロラインの姿が視界に入って来た。
「お母様・・・」
父のことが解決しないまま、一存でプロポーズを受け入れたことに対して、母は、どう思っているのだろうか・・・。
そんな想いが過ぎった、コーディリアだった。
けれども、
「おめでとう、コーディリア。本当におめでとう」
キャロラインの口から零れたのは、温かな祝福の言葉だった。
「ありがとう・・・、ありがとう、お母さま。ありがとう、みんな」
コーディリアが、潤んだ瞳のまま、弾けるような笑顔を見せた、その時だった。
キャロラインが、突然、その幸福な時間を引き裂くような悲鳴を上げた。
「あれ・・・、あれは・・・」
キャロラインの視線の先には、見慣れたゲージがあった。
取り込んだ事態に、キャロラインが悲鳴を上げるまで、その場にいる誰もが、ゲージに気づいていなかった。
「何故、こんなところにアイリスがいるんだ!」
サディアスが、青くなって叫ぶ。
「コーディリアの母上が来てから、ずっとオーランドの部屋に閉じ込められていただろ。ウォルトンへ帰ったと思ったから、久しぶりに部屋の外へ連れ出して、遊んでやろうと思ったんだよ」
すっかりアイリスのことを忘れていたキースだった。
ゲージの中のアイリスは、くりっとした眼をキャロラインに向け、はじめまして、とでもいうように、首をかしげた。
「ああ・・・」
小さな叫び声を上げ、気を失うキャロラインを、間一髪、サディアスとキースで抱き支えた。
オーランドとコーディリアは、上手くまとまったものの、ジョンの問題は、残されたままだった。
この問題に、さらりと解決策を持ち出したのは、キースだった。
「フォーシーズンズ・ハウスへ来てもらったらいいんじゃない?結婚式にも参加してもらえるし、一石二鳥だよ」
これまで、何故そのことに誰も気づかなかったのだろう。
キースの提案を受けて、みんなそう思った。
かくして、キースは、グラハム伯爵をフォーシーズンズ・ハウスまで連れて来るという大任を担うことになり、ウォルトンへ向けて、出発することになったのだった。
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