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1.three guys and a lady
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ことの発端は、チェストルの現当主、オーランド・ウィリアム・フィンドレーが、ポーカーで、いわゆる、ぼろ勝ちをしたことに始まる。
三月、オーランドは、隣の領地アールーズの春の訪れを祝う、フラワー・フィーストに招かれた。
アールーズの領主、ハットン家での華やかな祝賀行事の後には、豪華な晩餐が供された。
そして、晩餐の後には、アールーズの領主、その親戚、宴に招かれた近隣の領主たち数名が集まって、男だけで、ポーカーの大会が催されたのだったが、オーランドは、そこで一人勝ちをしたのだった。
しかもその勝ち方というのが、極めて一方的で、参加者たちのプライドを、著しく傷つける結果となってしまった。
こう記せば、オーランドは、お調子者の、身勝手、協調性に欠ける人物と評されてしまいそうだが、決してそうではないことを、明記しておきたい。
何故なら、ポーカーの大会の最中、桁外れのツキがあることを悟ったオーランドは、他の者の懐を気遣い、夜も更けたので今夜はこの辺でと、何度も、お開きを申し出たのだ。
しかし、負けが込んだ者は、何としても負けを取り返そうと考えるらしく、オーランドの配慮を退け、ゲームを続けた結果、明け方近くには、各々の奥方が耳にしたなら、金切り声を上げそうな額を、オーランドに支払う羽目になってしまったのだった。
オーランドとしては、他国の祝宴の後のポーカーごときで、恨みを買うことは本意ではなく、支払額を差し引くことに異議はなかった。
だが、正当なポーカーでの負けを、差し引いてもらったり、帳消しにしてもらうなどということは、地位、身分のある男たちの面子が、立たなかった。
故に、表面上、友好的に、何の支障もなく、オーランドは多額の紙幣を手にしたのだが、オーランドの心配通り、感情的なわだかまりは拭えなかった。
そもそも、敗者たちは、チェストルの領主オーランドに負けたということが、気に入らなかった。
その理由というのは、オーランドの治めるチェストルという土地にあった。
遡ること百年、この地方は、アールーズ、ダナムという、大きな二つの領地だった。
そして、領地を接するアールーズ、ダナムの両国は、仲が悪く、長い間、支配地域を巡ってのいざこざが絶えなかった。
これに手を焼いていた国王と議会は、アールーズとダナムの領地の間・・・、正確に言えば、間というより隙間に、チェストルという領地を置くことを決定した。
そして、王と議会の名によって、チェストルは、不可侵と定めた。
長く続く諍いに疲れ果てていた、というのが、アールーズとダナムの領民たちの、本音だった。
相手の挑発に、背を向けられるものではなかったが、止められるものなら止めたい、というのが、両領主の偽らざる本心だった。
そういう訳で、アールーズ、ダナムの双方とも、チェストルという新たな領地を、受け入れた。
以来百年、チェストルを挟んで、アールーズ、ダナムの領地に、かつてのような目立った争いはなく、平和は維持され続けていた。
ただ、この地帯の平和維持を目的として作られた、林檎やプラム、ラズベリーといった果樹園の広がる長閑なチェストルという領地は、アールーズ、ダナムの両国はもちろん、他の領地に比べて、面積、資源、収入でも遥かに劣り、チェストルの領主は、周辺の領主たちから、軽んじられる傾向にあった。
しかし、チェストルの代々の領主たちは、自分たちに課せられた役割、つまり、周辺地域の平和維持という役割を重々に理解し、また、チェストルを治めるフィンドレー家は、長閑な土地に暮らすせいか、果樹園を愛する鷹揚な領主が続き、争いの火種を生むことはなかった。
そういった事情があったせいで、ポーカーとはいえ、勝者が、内心では見下げている、チェストルの領主であるということに、参加者たちは、少なからず誇りを傷つけられていたのだった。
フラワー・フィーストの三日後、つまりは、ポーカーの大会から三日後の午後、アールーズの領主ジャスパーの書斎のドアをノックしたのは、義理の弟エリオットだった。
入って来たエリオットの腫れた頬を見て、ジャスパーは何とも気の毒な気分になった。
ジャスパーの義弟エリオットは、ポーカーの大会での、最も悲惨な餌食だった。
それは、育ち盛りの子供を三人抱えるエリオット一家の、数カ月の支出にも匹敵する額で、ジャスパーはかける言葉が見つからなかった。
更に、エリオットにとって不幸だったのは、その葬ってしまいたい悪夢が、ジャスパーの気が強い妹であり、エリオットの妻であるダフネに、知られてしまったことだった。
フラワー・フィースト以来、どうにも様子のおかしい夫に不審を抱いたダフネは、事情を知ると思われるエリオットの秘書に、詰め寄った。
秘書は、忠誠心の強い男だった。
けれども、体格の良いダフネの、執拗な、脅迫にも等しい追及に、一日で白旗を上げた。
フラワー・フィーストの夜、ポーカーの大会で、エリオットの身に起こった惨劇を耳にしたダフネは、すぐさま夫を呼びつけた。
そして込み上げて来る、抑えきれない怒りのまま、肉付きの良い手で、エリオットに張り手を数回食らわせたのだった。
「多少、私が援助しよう」
それが、アールーズの領主として、そして、まだ頬の腫れが引かないエリオットの義兄としての、ジャスパーの配慮だった。
そうエリオットを気遣うジャスパーに、エリオットが持ちかけたのは、思いもがけない話だった。
三月、オーランドは、隣の領地アールーズの春の訪れを祝う、フラワー・フィーストに招かれた。
アールーズの領主、ハットン家での華やかな祝賀行事の後には、豪華な晩餐が供された。
そして、晩餐の後には、アールーズの領主、その親戚、宴に招かれた近隣の領主たち数名が集まって、男だけで、ポーカーの大会が催されたのだったが、オーランドは、そこで一人勝ちをしたのだった。
しかもその勝ち方というのが、極めて一方的で、参加者たちのプライドを、著しく傷つける結果となってしまった。
こう記せば、オーランドは、お調子者の、身勝手、協調性に欠ける人物と評されてしまいそうだが、決してそうではないことを、明記しておきたい。
何故なら、ポーカーの大会の最中、桁外れのツキがあることを悟ったオーランドは、他の者の懐を気遣い、夜も更けたので今夜はこの辺でと、何度も、お開きを申し出たのだ。
しかし、負けが込んだ者は、何としても負けを取り返そうと考えるらしく、オーランドの配慮を退け、ゲームを続けた結果、明け方近くには、各々の奥方が耳にしたなら、金切り声を上げそうな額を、オーランドに支払う羽目になってしまったのだった。
オーランドとしては、他国の祝宴の後のポーカーごときで、恨みを買うことは本意ではなく、支払額を差し引くことに異議はなかった。
だが、正当なポーカーでの負けを、差し引いてもらったり、帳消しにしてもらうなどということは、地位、身分のある男たちの面子が、立たなかった。
故に、表面上、友好的に、何の支障もなく、オーランドは多額の紙幣を手にしたのだが、オーランドの心配通り、感情的なわだかまりは拭えなかった。
そもそも、敗者たちは、チェストルの領主オーランドに負けたということが、気に入らなかった。
その理由というのは、オーランドの治めるチェストルという土地にあった。
遡ること百年、この地方は、アールーズ、ダナムという、大きな二つの領地だった。
そして、領地を接するアールーズ、ダナムの両国は、仲が悪く、長い間、支配地域を巡ってのいざこざが絶えなかった。
これに手を焼いていた国王と議会は、アールーズとダナムの領地の間・・・、正確に言えば、間というより隙間に、チェストルという領地を置くことを決定した。
そして、王と議会の名によって、チェストルは、不可侵と定めた。
長く続く諍いに疲れ果てていた、というのが、アールーズとダナムの領民たちの、本音だった。
相手の挑発に、背を向けられるものではなかったが、止められるものなら止めたい、というのが、両領主の偽らざる本心だった。
そういう訳で、アールーズ、ダナムの双方とも、チェストルという新たな領地を、受け入れた。
以来百年、チェストルを挟んで、アールーズ、ダナムの領地に、かつてのような目立った争いはなく、平和は維持され続けていた。
ただ、この地帯の平和維持を目的として作られた、林檎やプラム、ラズベリーといった果樹園の広がる長閑なチェストルという領地は、アールーズ、ダナムの両国はもちろん、他の領地に比べて、面積、資源、収入でも遥かに劣り、チェストルの領主は、周辺の領主たちから、軽んじられる傾向にあった。
しかし、チェストルの代々の領主たちは、自分たちに課せられた役割、つまり、周辺地域の平和維持という役割を重々に理解し、また、チェストルを治めるフィンドレー家は、長閑な土地に暮らすせいか、果樹園を愛する鷹揚な領主が続き、争いの火種を生むことはなかった。
そういった事情があったせいで、ポーカーとはいえ、勝者が、内心では見下げている、チェストルの領主であるということに、参加者たちは、少なからず誇りを傷つけられていたのだった。
フラワー・フィーストの三日後、つまりは、ポーカーの大会から三日後の午後、アールーズの領主ジャスパーの書斎のドアをノックしたのは、義理の弟エリオットだった。
入って来たエリオットの腫れた頬を見て、ジャスパーは何とも気の毒な気分になった。
ジャスパーの義弟エリオットは、ポーカーの大会での、最も悲惨な餌食だった。
それは、育ち盛りの子供を三人抱えるエリオット一家の、数カ月の支出にも匹敵する額で、ジャスパーはかける言葉が見つからなかった。
更に、エリオットにとって不幸だったのは、その葬ってしまいたい悪夢が、ジャスパーの気が強い妹であり、エリオットの妻であるダフネに、知られてしまったことだった。
フラワー・フィースト以来、どうにも様子のおかしい夫に不審を抱いたダフネは、事情を知ると思われるエリオットの秘書に、詰め寄った。
秘書は、忠誠心の強い男だった。
けれども、体格の良いダフネの、執拗な、脅迫にも等しい追及に、一日で白旗を上げた。
フラワー・フィーストの夜、ポーカーの大会で、エリオットの身に起こった惨劇を耳にしたダフネは、すぐさま夫を呼びつけた。
そして込み上げて来る、抑えきれない怒りのまま、肉付きの良い手で、エリオットに張り手を数回食らわせたのだった。
「多少、私が援助しよう」
それが、アールーズの領主として、そして、まだ頬の腫れが引かないエリオットの義兄としての、ジャスパーの配慮だった。
そうエリオットを気遣うジャスパーに、エリオットが持ちかけたのは、思いもがけない話だった。
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