コットンブーケ

海子

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 「午前中に、申し訳なかったね。・・・久しぶり、一カ月、いや、もう一カ月半になるのかな」 
アンヌの姿を認めて、ランドルフは柔らかな微笑みを浮かべた。 
ランドルフの後方には、これからどこかへ出かける用でもあるのか、いつものように馬ではなく、御者台に御者が座る、車室付きの馬車があった。 
表に出て、ランドルフのその姿を眼にした時、アンヌは、痺れるような想いが沸き上がった。
ランドルフの優しい眼差しに、一瞬、縋り付きたいような気持が込み上げた。 
けれどは、決して、そうはできないのだと、ぐっと、奥歯をかみしめた。 
「ご用件は?」
敢えて冷淡に、アンヌはそう尋ねた。
「少し、痩せた?顔色もあまり良くないようだ」 
ランドルフは、鳶色の瞳を曇らせて、アンヌの顔色を探った。
「用件を聞いています」 
表情を崩さずに、重ねてアンヌは尋ねた。 
「用件は・・・、少し言いにくいんだけどね、あれから色々考えてみたんだが、やはり、母の勧めで、今度、シャーロットと正式に婚約をすることにした。ああ・・・、シャーロットというのが、僕の交際相手の名前だ」 
屈託なく、ランドルフは言った。
「それで?」
「僕たちは、上手くいっている。とても、上手くいっていた。だけど・・・、先日、彼女が僕と君のことを、どこかで耳にしてきたようなんだ。僕が、このひと夏、君の農園を手伝っていたことをね。それで、彼女は、僕たちの関係を疑いだしたんだ。君と僕が、その・・・、交際をしていたんじゃないか、まだ、交際が続いているんじゃないかって」 
「否定しなかったのですか?」 
「もちろん、否定したよ。本当のことを、言う訳にはいかないからね。君と僕は、何の関係もないって。君の農園の農園監督者が、怪我をして困っていたから、隣人として見かねて、手伝っただけだって。だけど、僕の言葉を、信用してくれない。彼女の不信は強くなるばかりで、このままだと、せっかく決まった婚約を断られるかもしれない。母も、随分、気を揉んでいる」
「それで、わたくしにどうしろと?」 
「・・・シャーロットに、話してくれないかな?」
「つまり?」
「シャーロットが、僕の言葉だけじゃ、信用が出来ないから、君の言葉で聞きたいって言うんだ。僕と君の間には、一切、何もなかったって。・・・頼めるかな?」 
申し訳なさそうに、ランドルフは言った。
アンヌは黙ったまま、目の前に広がる、土ばかりになった、十二月の綿花畑を見つめていた。
「こんなことになって、君には、申し訳ないと思っている。でも、君の方からシャーロットに僕との関係を否定してくれれば、彼女も納得すると思う。機嫌を直して、無事に婚約を済ませられると思うんだ。僕も母も、助かる」 
「・・・わかりました。では、住所をお知らせください。その方に、お手紙を差し上げます」
「いや、手紙じゃ駄目なんだ。シャーロットが言うには、君に会って、直接君の口から聞きたいそうなんだ。その方が、確かだからって。僕としては、シャーロットの言い分を尊重したい。シャーロットは、僕の妻になる人だからね」 
ランドルフは、穏やかに微笑んだ。 
アンヌは、再び、黙ったが、 
「では、改めて、日時をお知らせください」
そう、答えた。 
「今日、これからじゃ駄目かな?」 
「これから?」 
「実は、昼に、シャーロットが屋敷に来るんだ。ちょうど、いい機会だろう?」
「わたくしは、マーガレット様にモーガン邸への出入りを、禁止されています」 
「君が僕の屋敷に来るのは、僕とシャーロットの婚約が、滞りなく取り行われるためだよ。君の来訪を、拒むはずない」 
そんなことを、気にしていたのかい、とでもいう様に、ランドルフは笑った。
それで、アンヌは何故、ランドルフが、今日に限って、馬ではなく馬車でやってきたのかが、わかった。
ランドルフはアンヌを、モーガン邸へ連れて行くつもりだったのだ。
「・・・いいでしょう。支度をしてきます」
「助かる。恩に着るよ、アンヌ。君が支度をしている間、少し寒いけど、散歩をしてくるよ。中へ入れては、もらえなさそうだからね」 
ランドルフは上機嫌で、そう告げると、畑の方へとひとりで歩いて行った。
アンヌは、扉を開け、屋敷の中へ戻ると、締まった扉に寄りかかって、しばらく時間を過ごした。 
産むわけには、いかない。 
早く、早く・・・、始末してしまわなくては。
「アンヌ様・・・」 
心配そうに、エマが奥から出て来た。
「これから、モーガン邸へ行きます」
「モーガン邸へ?」 
アンヌの思いがけない言葉に、驚いたエマだった。 
「詳細は、支度をしながら話します。あなたも、付いてきなさい」 
「アンヌ様、お身体は・・・」
「大丈夫です。今日一日、何とか・・・、乗りきってみせます」 
重い身体に鞭打って、アンヌは、一段、一段、踏みしめるように、階段を上がった。



 広大な邸宅のリビングのソファに、どっかりと腰を下ろし、はああっ、と、深いため息をつくのは、誰あろう、マーガレット・モーガンその人だった。 
クリスマスを間近に控え、やらなくてはならないことは、山ほどあった。
クリスマスツリーに、屋敷内の飾り付け、親戚や知人たちへのクリスマスカードに、クリスマスメニューの確認、家族や大人数の使用人たちへの、クリスマスプレゼント・・・。 
例年ならば、自らが先頭に立って仕切るそれらの準備を、マーガレットは義妹レイチェルに全て任せて、時間をただ無意味に過ごしていた。



 秋の夜会を成功裏に収めて以降、モーガン家は社交界で、一際の名声を博していた。 
社交界のいかなる集いに参加しても、社交界の重鎮として、これまで以上に、丁重にもてなされ、その権力は強まり、地位は高まるばかりだった。 
けれども、マーガレットの心が晴れやかになることは、なかった。
その原因は・・・、ランドルフとシャーロットの縁談が、破談になったからだった。
秋の夜会で、ランドルフが仕出かした失態を、直接謝罪しようと、マーガレットは、ブラウン家に何度も面会を申し入れた。 
が、謝罪の必要はありません、と。
そちらは、社交界で随分と高い地位をお持ちのせいか、若い娘の純粋な真心など、取るに足らないものとお考えなのでしょう、と。
強烈な厭味が認められた返信が届き、ブラウン家はモーガン家と、今後一切の、お付き合いをお断りします、と締めくくられていた。 
つまり、マーガレットが、半年以上かけて、手を尽くしたランドルフとシャーロットの縁談は、あっけなく終わった。 
マーガレットは、空しさを覚えた。
自分のやって来たことは、一体何だったのだろうと。
こうまで手を尽くして、どうして上手く行かないのだろう、と。
時間が経てば経つほど、マーガレットの味わう空虚感は、大きくなるばかりだった。
こんなことになるのなら・・・、最初から、あの高慢な娘でもよかったのかもしれない、と、そんな思いすらよぎった。 



 ベアトリス・アンダーソンの屋敷で、マーガレットは、穏やかな表情を浮かべるアンヌの姿を見た。 
自分に自信が持てない、目の見えない娘を、励まし、勇気づける姿を、目にした。
そうして、ランドルフが、アンヌに惹かれる理由が、ようやくわかった。
もう一度、ランドルフがアンヌとの交際を持ち出してきたなら、考えてみてもいいとさえ 思い始めていた。 
ところが、ランドルフは、そんな話を切り出してくるどころか、淡々と仕事をこなす日々で、相変わらず、従兄弟のイーサンと、何やら話し込んでいる姿を、度々、目撃するマーガレットだった。 
ランドルフが秋の夜会を抜け出した夜、アンヌと一夜を過ごしたに違いないという勘が働く一方で、アンヌがモーガン家に何かを迫ってくることもなく、ランドルフもアンヌの存在などすっかり忘れ去ったかのように、仕事に励む日々だったので、ふたりが一夜を過ごしたと思うのは、自分の思い過ごしかもしれないと、思う様にもなってきた。 
秋の夜会に向けて気合十分だったマーガレットは、それが大成功を収めて、燃え尽き、そして、一方ではランドルフの縁談が水の泡となって、さりとて、アンヌとの間にも、なにかある気配はなく、生きる張り合い、というものをすっかり失ってしまっていた。 
はああっ、と、自分以外に誰もいないリビングで、深いため息を、何度も繰り返していると、一層、空しさは深まっていくばかりだった。 



 「何だ、そんなに深いため息をついて」
物思いにふけっていたせいで、自分しかいないと思っていたリビングに、ヘンリーが姿を見せたことに、マーガレットは気づいていなかった。
「あら、あなた、何か、御用ですか?」 
気の抜けた声で、マーガレットは応じた。
「随分、張り合いのない声だ。君らしくないね」
「私のことを言えませんよ。あなただって、つい先日まで、心ここにあらずだったじゃないですか」 
ランドルフとアンヌが別れたことに、自分でも思わぬほど落胆していたヘンリーだったが、近頃ようやく、そのショックから立ち直ったようだった。 
「それは、認めよう。ランディが、例のお嬢さんを好いていたのは、間違いなかったし、あのお嬢さんは、気の強いところはあったが、本当は優しい娘だったから、うまくいくようにと願っていたからね」
「・・・ランディとあの娘との間を割いたのは、私ですよ」
「もちろん、知っている」
ヘンリーは、マーガレットの座るソファに、並んで腰を下ろした。
「余計なことをしたと、私を叱らないんですか?」
「君を叱る?まさか。君なりに一生懸命だったことを、私は良く知っているよ」 
「何とかしたいと思ったんですよ・・・、私」 
ヘンリーの優しい言葉に、マーガレットの瞳から、ぽろりと涙が零れた。
「マギー・・・」 
ヘンリーは、マーガレットの肩を抱いた。 
マーガレットの瞳から、次々と涙が零れ落ちた。
それで、自分がこれまで、夜会のことでも、ランドルフのことでも、どれほど張り詰めていたのかということに、ようやく気付いた。 
「マギー、君は、本当によくやっている。夜会の成功も、君のお蔭だ。君無くして、夜会の成功は、あり得なかった。君には、いつも本当に、感謝している。ランディのことだって、君は本当に一生懸命だった。ランディを何とか幸せにしてやりたいと、一生懸命すぎるほど、一生懸命だった。君は、世界一の妻で母親だ。さあ、涙を拭いて」 
と、ヘンリーは、年相応に皺の刻まれたマーガレットの頬を伝う涙を、指で拭った。
「私と結婚したことを、後悔していない、ヘンリー?」 
とんでもない、とヘンリーは笑い、 
「後悔なんかするはずがない。もし、仮に今、三十九年前に戻ったとしても、私はもう一度、君にプロポーズするよ、マギー。あの時のように、もう一度、君に跪いて、結婚を申し入れるよ」
プロポーズからの、三十九年分の信頼と尊敬と愛情をこめて、ヘンリーはマーガレットの手の甲に唇を落とした。
「ヘンリー・・・」 
くすん、とマーガレットは鼻をすすった。 
ヘンリーは、マントルピースの上の時計を見ながら、 
「本当なら、昼食前に、君と一緒に、庭を歩きたいんだがね。ランディにここで待つように言われている。そろそろかな」 
そう言った。
それを聞いて、マーガレットも、えっ、と驚きの表情を浮かべ、 
「まあ、あなたも?私も、昼食前に話があるから、ここで待つように、ランディに言われているんですよ」
「君も?」 
と、ふたりが顔を見合わせたその時、ランドルフに伴われたアンヌが、リビングに姿を現した。 



 「・・・あなた!」 
リビングに入って来たアンヌの姿を見るや否や、マーガレットは、驚きで声を上げた。 
ランドルフに伴われて、リビングに足を踏み入れたアンヌだった。 
そこに、シャーロットの姿があると信じて。
疑うこともなく。 
けれども、アンヌが足を踏み入れたリビングにいたのは、シャーロットではなく、ヘンリーとマーガレットだった。 
はっ、と、アンヌが傍らのランドルフを見上げると、ランドルフは、パタンとリビングの扉を閉め、
「お父さんと、お母さんに、話があります」
改まった様子で、そう切り出した。 
ランドルフの瞳に、いつもの穏やかな微笑みはなかった。
その眼差しは、真剣で、決意を秘めていた。 
どくん、とアンヌの鼓動が打つ。
ここにいては、いけない。 
・・・これは罠。 
ランドルフ様の仕掛けた罠!
「わたくしは・・・、帰ります」 
アンヌは、鋭く踵を返したが、ランドルフの腕が身体に回り、強く引き寄せられた。
「話はまだ、始まってもいないよ」 
「いいえ・・・、いいえ、聞く必要はありません。わたくしは、帰ります!」 
人払いをしていなかったせいで、お茶の支度を尋ねに来たモーガン家のメイドに、アンヌは、すぐに帰るので、エマを呼ぶように命じた。
けれども、ランドルフは、アンヌに構わず、話を始める。
「お父さん、お母さん、僕は、先夜、アンヌと、夫婦の契りを結びました」 
一瞬、その場が、静まり返った。 
「いいえ・・・、いいえ!そのような事実はありません!作り話でわたくしを辱めるのは、お止めなさい!」 
アンヌは、耳を塞いでしまいたかった。
「君は言った。・・・あの夜、わたくしのランディ、と」 
「そのような覚えはありません!あなたの、聞き間違いです!」
「聞き間違い?じゃあ、一緒に夜を過ごしたことは認めるね?」 
ああ・・・、用意周到な罠。 
最初から、仕組まれた罠。
わたくしは、自分から、罠に入りこんでしまった・・・。 
「僕は、軽々しい気持ちで、アンヌと契ったのではありません。僕たちは、もう夫婦です。正式に、教会で神の祝福を受けてはいませんが、僕は彼女以外の女性を、妻にするつもりはありません」 
アンヌは、この場を離れようと、ランドルフの腕を引き離そうと試みたが、全く敵うことはできなかった。 
ヘンリーも、マーガレットも、突然始まった、全く予想していなかった事態に、言葉を失っていた。
「僕は、アンヌと結婚します。アンヌを、この屋敷に迎えます。もし、それがどうしても認められないと言うのなら、僕は、今すぐにアンヌと一緒に、この屋敷を出て行きます。僕がいなくなっても困ることがないよう、必要なことは、全て、イーサンに引き継いであります」 
「なんですって!」 
思わず、マーガレットが声を上げた。
ランドルフのその言葉で、何故近頃、ランドルフとイーサンが必要以上に行動を共にしていたのかが、わかった。
農園の業務を、イーサンに引き継ぐためだったのだ。 
けれども、マーガレットが何よりも驚いたのは、ランドルフが屋敷を出て行くと宣言したことではなかった。 
三十九年前、マーガレットは、同じ言葉を聞いた。 
ヘンリーの口から、同じ言葉を・・・。 
「お父さん、僕たちの結婚を認めてもらえなければ、僕はマギーと共に、出て行きます。モーガン家の全てを放棄します」 
自分の父親に向かって、ヘンリーは、いささかの迷いもなく、そう告げた。 
三十九年前の、その光景が、今、マーガレットの脳裏に、まざまざと甦った。
「・・・我々は、時間をかけて話し合う必要があるようだ」 
ランドルフに、そう告げるヘンリーの顔にも、いつもの柔和さはなかった。
「もちろん、そのつもりです」 
「いいえ・・・、その必要はありません!わたくしは、誰とも結婚しません!理由は、以前にもお話ししました」 
「そのことも、一度、ふたりでゆっくり話合おう、アンヌ」 
「わたくしは、生涯、結婚はしません!」 
「何故、そう決めつける必要がある?」 
「これ以上、あなたと話す必要はありません!・・・手を放しなさい」 
呼吸が、乱れる。 
ああ・・・、こんな時に、発作が・・・。 
息が、苦しい。 
息が、出来ない!
「アンヌ、少し落ち着くんだ。・・・いや、アンヌ、アンヌ・・・、大丈夫か?」 
ランドルフは、アンヌの只ならぬ様子に、気づいた。 
真っ青な表情で、喘ぎ、身体が前のめりになる。 
ヘンリーもマーガレットも、アンヌの異変に、顔を見合わせた。 
「ランディ、とにかく、アンヌをソファへ」 
「あなた、大丈夫?誰か・・・、誰か、いないの!誰か、冷たい飲み物を持ってきなさい!」 
自分を気遣うその声が、アンヌには煩わしかった。 
「エマを・・・、エマを・・・!」 
アンヌは、そう小さな声を上げるのが、精一杯だった。 
早く、ここを出て、帰らなくては。 
自分の屋敷に、帰らなくては!
そう思えば思うほど、息苦しさは、一層激しくなるばかりだった。
ランドルフに抱えられて、ソファに下された瞬間、身体を支えきれずに、そのまま前のめりに倒れこむ。
「アンヌ、しっかりするんだ」 
ランドルフが、アンヌの手を握り、優しく背中を擦った。
止めて・・・。
もう、止めて! 
もうこれ以上、誰も、わたくしに、優しくしないで!
「エマ・・・、エマ!」 
エマが、来てくれれば・・・。 
エマさえ来てくれれば、ここを出て、屋敷に帰れる・・・。
わたくしの・・・、わたくしの農園に。
「アンヌ様!」 
リビングに姿を見せたエマは、アンヌに駆け寄ると、異変に素早く対応した。
「落ち着いて、息を吐きます。ゆっくり、少しずつ、長く息を吐きます。少し吸って、長く吐きます・・・」 
それを繰り返すうちに、アンヌの呼吸の乱れは、次第に落ち着いていった。
「エマ、帰ります・・・、支度を・・・」 
まだ、肩で呼吸する、疲れた表情のアンヌは、かすれた声で、エマにそう命じた。
「アンヌ様・・・」 
エマの瞳から、涙が溢れた。
これ以上、アンヌに全てを背負わせるのは、あまりに酷だと、エマは覚悟を決めた。
「アンヌ様・・・、もうしばらく、こちらで休まれる方が、お身体にも、お腹の赤ちゃんにも・・・、差し障りがないと思います」 
「エマ・・・」 
アンヌは、眼を見開いて、エマの泣き顔を見つめた。 
エマは、顔を覆った。
「赤ちゃん?アンヌ、君は、お腹に子供がいるのか?」
ランドルフは、すぐには事態がよく呑み込めなかった。
それは、ヘンリーとマーガレットも、同様だった。 
「いいえ・・・」 
「はい、アンヌ様のお腹には、赤ちゃんがいます。ランドルフ様のお子に、間違いありません」 
アンヌの言葉を遮って、エマは、はっきりとそう告げた。 
アンヌの身体は、ぐったりと、ソファに崩れ落ちた。 
もうこれで、アウラにはいられなくなるのだと、農園を失う時が来たと、アンヌは、希望を失って、眼を閉じた。 

 
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