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4.恋風
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マーガレット・モーガンは、舞い上がっていた。
思わず、歌を口ずさむほどに。
マーガレットが舞い上がる理由、それは、昨夕届いた、ブラウン家のお茶会への招待状のせいだった。
もちろん、それは単なるお茶会などではなく、ブラウン家の三女、シャーロット・ブラウンと、モーガン家の嫡男、ランドルフ・モーガンの見合いとなる場だった。
ああ、うまくいってほしい、うまくいくはず、いいえ、何としてもうまくいかせるの。
そうすれば、来年には、結婚式、またその先には・・・、と、想像が膨らんで、うっとりと、赤子を抱く手つきにまでなってしまったマーガレットだったが、慌てて、気持ちを引き締めた。
まだまだ、始まったばかり。
気を緩めてはだめよ、マーガレット。
結婚、にたどり着くまでは。
マーガレットは、ブラウン家からの招待状を手に、大理石の廊下を進んだ。
ブラウン家の三女と縁談が持ち上がっているということと、今度、ブラウン家で見合いをするという件を、ランドルフに、どう説明するか一晩ゆっくり考え、考えがまとまったところで、今朝、自ら、ランドルフの部屋へと向かっていたのだった。
勢いよく廊下を行き過ぎる、その気合の籠ったマーガレットの横顔が、部屋のドアを開けたままで、絵筆を握っていたヘンリーの眼に入り、
「空回りしないといいんだが・・・」
小さくそっと呟いた。
勢いづいて、ランドルフの部屋を訪れたマーガレットだったが、ランドルフはそこにはいなかった。
マーガレットは広い邸宅内を、使用人に尋ねながら探し歩き、ようやく玄関ホールに、ランドルフの姿を認めた。
時刻は、まだ八時前だったが、ランドルフは、既に朝食を済ませて、身支度を整え、ちょうど出かけようとしているところだった。
「ランディ、どこかへ行くの?」
玄関ホールへと続く、オープン階段の上から、マーガレットは、そう呼びかけた。
「ああ・・・、ちょっと友達のところへね」
「まあ、こんな朝方から?ずいぶんと健康的なお友達ね」
「僕に、何か用事?」
「あなたに、話があるの。本当に、大切なお話。出かける前に、時間をちょうだい」
大切、の部分を殊更強調したマーガレットだった。
「話なら、また今度聞くよ。今日は、忙しいんだ。ああ・・・、今日だけじゃなくて、これから少し忙しくなる。ちょっと、手間暇のかかる仕事があるんだ」
「一体、何の仕事?」
訝し気な顔つきになる、マーガレットだった。
まさか、アンヌの農園の手伝いに行くとは、口にできなかった。
ひとりしかいない農園監督者が、昨日、怪我をして、働けなくなって、困っているだろうから、手助けに行くのだなどといえば、騒ぎになるに違いなかった。
「それは、言えない。つまり・・・、男同士の約束だから、喋っちゃいけないことになっている」
そう言いながらも、ランドルフは、ドアの取っ手に手をかけた。
「待ちなさい、ランディ。あなた、自分の農園は、どうするの?来週の、綿花協会の会合には、参加するんでしょうね?」
「ああ、綿花協会の方は、イーサンに、頼んである。・・・農園も」
イーサンというのは、同じ農園内に住む、従兄弟だった。
ランドルフの従兄弟イーサンは、事情をよく理解してくれた。
ランドルフは従兄弟でもあり、親友でもあるイーサンには、アンヌのことも話した。
もちろん、イーサンは、それらが全て、伯母マーガレットには内緒だと言うことも、ちゃんと理解していた。
「頼んであるって・・・、この農園の責任者は、あなたなのよ!自分の農園を放っておいてまでする仕事って、一体何なの!言いなさい、ランディ、勝手は許しません!」
と、マーガレットは、ランディの立つ玄関ホールへと、オープン階段を降りて来る。
「ああ、もうこんな時間だ、僕、もう行かないと。お母さん、それじゃあ、また」
と、ランドルフは急いで、玄関のドアを開ける。
「待ちなさい、ランディ!」
マーガレットが、まだ階段を降り切らないうちに、ランドルフの姿は、マーガレットの視界から消えていた。
素っ気なくあしらっておけば、そのうち、自分の農園には足を向けなくなるだろうというアンヌの予想は、大きく外れることになった。
オーウェンが怪我をした翌朝、アンヌの屋敷を訪れたランドルフは、いつもの応接間へ案内されると、オーウェンが動くことが出来るようになるまで、僕が君の農園の監督をするよ、と、提案をした。
「朝から、くだらない冗談は聞きたくありません。どうぞ、お引き取りください」
アンヌは、そのランドルフの提案を一蹴した。
「冗談を言っているわけじゃない。農園を管理する者がいなくて、君はどうやって、農園をやっていくつもり?奴隷に任せきりにすることは、できないだろう。君だって、農園を離れて、ペンナの街へ行かなくてはいけないこともある」
そう言われると、ランドルフの言う通りで、返す言葉がないアンヌだった。
昨夜、アンヌの指示で、医者を連れてくるため、奴隷のひとりが、ペンナの街へと向かった。
その使いの者が、馬車を走らせて、ペンナの街についた頃には、宵の口で、もうとっくに診療を終えていた医者は、自宅で既にほろ酔いだった。
けれども、事情を聞いた医者は、支払いの良さもあったには違いないが、酔いを覚ますために、水をたらふく飲んだ後、使いの者が手綱を握る馬車に乗って、アンヌの農園まで来てくれた。
その中年の、でっぷりと腹の出た、いかにも酒を好みそうな赤ら顔の医者は、オーウェンのひどく腫れた腰の患部を診た後、随分酷く打ったようだから、痛みが治まるまで、二カ月程度はかかると思うが、痛みが治まるまでは、無理は禁物、絶対安静だと言った。
同じような症例をいくつか知っているが、こういった場合、痛みがある間に無理をすると、この先ずっと、腰に不調を抱えたままになるかもしれないと、忠告した。
そして、どうやら医療器具の考案者でもあるらしい医者は、近頃、自分が生み出した、腰を固定する石膏の医療器具があるから、明日にでも届けさせようと、言った。
そして、もうすっかり夜は更けていたが、再び、奴隷が手綱を握る馬車に乗り、二時間をかけてペンナの街へと帰って行った。
オーウェンが、これから二カ月、絶対安静という事実は、アンヌにとって、大きな痛手だった。
医者は、二カ月の絶対安静を命じたが、では、二カ月を過ぎれば、すぐもとのように働けるかといえば、そうではなく、腰の様子を見ながら、少しずつということになるはずだった。
ということは、今季、オーウェンは農園で働くことが、出来ないかもしれないという判断をする必要があり、つまり今年は、農園に、農園監督者が不在、ということになった。
奴隷に農園を任せきりにすることなどできるはずはなく、結局、アンヌが、農園に出て、奴隷たちを働かせ、農園の管理をする必要があった。
農園主がひとりというアンヌの農園では、通常の業務だけでも、アンヌは手いっぱいだった。
救いは、アンソニーがいてくれることで、いくらか経営の方は、任せられることができたが、それでも、アンヌの負担は、限りなく増えた。
新しい農園監督者を探すと言っても、どこの農園でも、綿花栽培の真っ最中で、この時期に、アンヌの農園へ来てくれる者がいるとも思えなかった。
アンヌは、綿花の収穫まで、無休を覚悟した。
無休であっても、どうあっても、乗り越えるしかない。
試練を、乗り越えるしかない。
失敗はできない。
全ては、わたくしの肩にかかっているのだから。
農園の、みなの暮らしがかかっているのだから。
眠りの浅い夜を過ごした、アンヌだった。
そうして一夜明け、おはよう、と昨日と変わらない爽やかな表情で、アンヌの農園へとやってきたランドルフは、今日から、君の農園で働くよと、切り出したのだった。
「自分で言うのも照れ臭いけど、僕は、中々優秀だと思うよ。何せ、生まれてから三十年間、綿花の農園で暮らしている。綿花の農園主とはいえ、経営の知識ばかりで、綿花栽培に、全く知識がないというのは、よく聞く話だけど、その点、僕は、綿花栽培を知り尽くしている。今はもう半分引退したようなものだけれど、ああ見えて父は、家業には厳しい人だったんだ。父の方針で、跡継ぎには、跡を継ぐまで、徹底的に畑で仕事をさせる。朝早くから、土にまみれて畑仕事をしていたその当時は、昼近くに起きて、趣味や交遊に時間を割く友人たちが羨ましくて、随分父を恨めしく思ったものだけど、今となっては、心から感謝しているよ」
「あなたの自己紹介は、もうたくさんです。第一、こんなことを、あなたのお母様が、許すはずはないでしょう。もし、マーガレット様の耳に入ったら、どうするのですか?」
「その時は、その時だよ。事情を話せばいい」
「それで、あなたのお母様が、納得するとは思いません」
「母が納得してもしなくても、関係ない。僕の判断で、決めたことだ。モーガン家の農園には、頼りになる従兄弟たちがいる。僕がいなくなることで、負担はかかることになるけれど、特別何か大きな問題起こらない限り、大丈夫だ。僕たちは、必要な時に協力し合える良き隣人なんだろう、アンヌ?だったら、今がその時だ。さあ、話している時間がもったいない。とにかく、今から、オーウェンに話を聞きに行こう。まずは、君の農園の状況を、把握しないと。ところで、オーウェンの腰の具合はどう?昨夜、ペンナから医者が来たんだろう・・・」
と、ランドルフはオーウェンの住む建物へと、アンヌを誘いつつ、歩き出した。
オーウェンが治るまでの間、ランドルフがいてくれるということは、アンヌとアンヌの農園にとって、随分、心強いことに違いなかった。
けれども、マーガレットや、上流階級の人々の耳に入れば、また、非難を浴びると思えば、素直に喜ぶことは出来なかった。
アンヌ自身が、陰口を叩かれることにはもう慣れていたが、それが、ランドルフにも及ぶのかと思えば、心穏やかではいられなかった。
「ほら、アンヌ、行くよ」
ランドルフは、躊躇うアンヌを、急かせた。
その態度には、アンヌの返答がどうであれ、譲らないランドルフの決心が見て取れた。
不承不承、アンヌは、ランドルフの後に続いた。
思わず、歌を口ずさむほどに。
マーガレットが舞い上がる理由、それは、昨夕届いた、ブラウン家のお茶会への招待状のせいだった。
もちろん、それは単なるお茶会などではなく、ブラウン家の三女、シャーロット・ブラウンと、モーガン家の嫡男、ランドルフ・モーガンの見合いとなる場だった。
ああ、うまくいってほしい、うまくいくはず、いいえ、何としてもうまくいかせるの。
そうすれば、来年には、結婚式、またその先には・・・、と、想像が膨らんで、うっとりと、赤子を抱く手つきにまでなってしまったマーガレットだったが、慌てて、気持ちを引き締めた。
まだまだ、始まったばかり。
気を緩めてはだめよ、マーガレット。
結婚、にたどり着くまでは。
マーガレットは、ブラウン家からの招待状を手に、大理石の廊下を進んだ。
ブラウン家の三女と縁談が持ち上がっているということと、今度、ブラウン家で見合いをするという件を、ランドルフに、どう説明するか一晩ゆっくり考え、考えがまとまったところで、今朝、自ら、ランドルフの部屋へと向かっていたのだった。
勢いよく廊下を行き過ぎる、その気合の籠ったマーガレットの横顔が、部屋のドアを開けたままで、絵筆を握っていたヘンリーの眼に入り、
「空回りしないといいんだが・・・」
小さくそっと呟いた。
勢いづいて、ランドルフの部屋を訪れたマーガレットだったが、ランドルフはそこにはいなかった。
マーガレットは広い邸宅内を、使用人に尋ねながら探し歩き、ようやく玄関ホールに、ランドルフの姿を認めた。
時刻は、まだ八時前だったが、ランドルフは、既に朝食を済ませて、身支度を整え、ちょうど出かけようとしているところだった。
「ランディ、どこかへ行くの?」
玄関ホールへと続く、オープン階段の上から、マーガレットは、そう呼びかけた。
「ああ・・・、ちょっと友達のところへね」
「まあ、こんな朝方から?ずいぶんと健康的なお友達ね」
「僕に、何か用事?」
「あなたに、話があるの。本当に、大切なお話。出かける前に、時間をちょうだい」
大切、の部分を殊更強調したマーガレットだった。
「話なら、また今度聞くよ。今日は、忙しいんだ。ああ・・・、今日だけじゃなくて、これから少し忙しくなる。ちょっと、手間暇のかかる仕事があるんだ」
「一体、何の仕事?」
訝し気な顔つきになる、マーガレットだった。
まさか、アンヌの農園の手伝いに行くとは、口にできなかった。
ひとりしかいない農園監督者が、昨日、怪我をして、働けなくなって、困っているだろうから、手助けに行くのだなどといえば、騒ぎになるに違いなかった。
「それは、言えない。つまり・・・、男同士の約束だから、喋っちゃいけないことになっている」
そう言いながらも、ランドルフは、ドアの取っ手に手をかけた。
「待ちなさい、ランディ。あなた、自分の農園は、どうするの?来週の、綿花協会の会合には、参加するんでしょうね?」
「ああ、綿花協会の方は、イーサンに、頼んである。・・・農園も」
イーサンというのは、同じ農園内に住む、従兄弟だった。
ランドルフの従兄弟イーサンは、事情をよく理解してくれた。
ランドルフは従兄弟でもあり、親友でもあるイーサンには、アンヌのことも話した。
もちろん、イーサンは、それらが全て、伯母マーガレットには内緒だと言うことも、ちゃんと理解していた。
「頼んであるって・・・、この農園の責任者は、あなたなのよ!自分の農園を放っておいてまでする仕事って、一体何なの!言いなさい、ランディ、勝手は許しません!」
と、マーガレットは、ランディの立つ玄関ホールへと、オープン階段を降りて来る。
「ああ、もうこんな時間だ、僕、もう行かないと。お母さん、それじゃあ、また」
と、ランドルフは急いで、玄関のドアを開ける。
「待ちなさい、ランディ!」
マーガレットが、まだ階段を降り切らないうちに、ランドルフの姿は、マーガレットの視界から消えていた。
素っ気なくあしらっておけば、そのうち、自分の農園には足を向けなくなるだろうというアンヌの予想は、大きく外れることになった。
オーウェンが怪我をした翌朝、アンヌの屋敷を訪れたランドルフは、いつもの応接間へ案内されると、オーウェンが動くことが出来るようになるまで、僕が君の農園の監督をするよ、と、提案をした。
「朝から、くだらない冗談は聞きたくありません。どうぞ、お引き取りください」
アンヌは、そのランドルフの提案を一蹴した。
「冗談を言っているわけじゃない。農園を管理する者がいなくて、君はどうやって、農園をやっていくつもり?奴隷に任せきりにすることは、できないだろう。君だって、農園を離れて、ペンナの街へ行かなくてはいけないこともある」
そう言われると、ランドルフの言う通りで、返す言葉がないアンヌだった。
昨夜、アンヌの指示で、医者を連れてくるため、奴隷のひとりが、ペンナの街へと向かった。
その使いの者が、馬車を走らせて、ペンナの街についた頃には、宵の口で、もうとっくに診療を終えていた医者は、自宅で既にほろ酔いだった。
けれども、事情を聞いた医者は、支払いの良さもあったには違いないが、酔いを覚ますために、水をたらふく飲んだ後、使いの者が手綱を握る馬車に乗って、アンヌの農園まで来てくれた。
その中年の、でっぷりと腹の出た、いかにも酒を好みそうな赤ら顔の医者は、オーウェンのひどく腫れた腰の患部を診た後、随分酷く打ったようだから、痛みが治まるまで、二カ月程度はかかると思うが、痛みが治まるまでは、無理は禁物、絶対安静だと言った。
同じような症例をいくつか知っているが、こういった場合、痛みがある間に無理をすると、この先ずっと、腰に不調を抱えたままになるかもしれないと、忠告した。
そして、どうやら医療器具の考案者でもあるらしい医者は、近頃、自分が生み出した、腰を固定する石膏の医療器具があるから、明日にでも届けさせようと、言った。
そして、もうすっかり夜は更けていたが、再び、奴隷が手綱を握る馬車に乗り、二時間をかけてペンナの街へと帰って行った。
オーウェンが、これから二カ月、絶対安静という事実は、アンヌにとって、大きな痛手だった。
医者は、二カ月の絶対安静を命じたが、では、二カ月を過ぎれば、すぐもとのように働けるかといえば、そうではなく、腰の様子を見ながら、少しずつということになるはずだった。
ということは、今季、オーウェンは農園で働くことが、出来ないかもしれないという判断をする必要があり、つまり今年は、農園に、農園監督者が不在、ということになった。
奴隷に農園を任せきりにすることなどできるはずはなく、結局、アンヌが、農園に出て、奴隷たちを働かせ、農園の管理をする必要があった。
農園主がひとりというアンヌの農園では、通常の業務だけでも、アンヌは手いっぱいだった。
救いは、アンソニーがいてくれることで、いくらか経営の方は、任せられることができたが、それでも、アンヌの負担は、限りなく増えた。
新しい農園監督者を探すと言っても、どこの農園でも、綿花栽培の真っ最中で、この時期に、アンヌの農園へ来てくれる者がいるとも思えなかった。
アンヌは、綿花の収穫まで、無休を覚悟した。
無休であっても、どうあっても、乗り越えるしかない。
試練を、乗り越えるしかない。
失敗はできない。
全ては、わたくしの肩にかかっているのだから。
農園の、みなの暮らしがかかっているのだから。
眠りの浅い夜を過ごした、アンヌだった。
そうして一夜明け、おはよう、と昨日と変わらない爽やかな表情で、アンヌの農園へとやってきたランドルフは、今日から、君の農園で働くよと、切り出したのだった。
「自分で言うのも照れ臭いけど、僕は、中々優秀だと思うよ。何せ、生まれてから三十年間、綿花の農園で暮らしている。綿花の農園主とはいえ、経営の知識ばかりで、綿花栽培に、全く知識がないというのは、よく聞く話だけど、その点、僕は、綿花栽培を知り尽くしている。今はもう半分引退したようなものだけれど、ああ見えて父は、家業には厳しい人だったんだ。父の方針で、跡継ぎには、跡を継ぐまで、徹底的に畑で仕事をさせる。朝早くから、土にまみれて畑仕事をしていたその当時は、昼近くに起きて、趣味や交遊に時間を割く友人たちが羨ましくて、随分父を恨めしく思ったものだけど、今となっては、心から感謝しているよ」
「あなたの自己紹介は、もうたくさんです。第一、こんなことを、あなたのお母様が、許すはずはないでしょう。もし、マーガレット様の耳に入ったら、どうするのですか?」
「その時は、その時だよ。事情を話せばいい」
「それで、あなたのお母様が、納得するとは思いません」
「母が納得してもしなくても、関係ない。僕の判断で、決めたことだ。モーガン家の農園には、頼りになる従兄弟たちがいる。僕がいなくなることで、負担はかかることになるけれど、特別何か大きな問題起こらない限り、大丈夫だ。僕たちは、必要な時に協力し合える良き隣人なんだろう、アンヌ?だったら、今がその時だ。さあ、話している時間がもったいない。とにかく、今から、オーウェンに話を聞きに行こう。まずは、君の農園の状況を、把握しないと。ところで、オーウェンの腰の具合はどう?昨夜、ペンナから医者が来たんだろう・・・」
と、ランドルフはオーウェンの住む建物へと、アンヌを誘いつつ、歩き出した。
オーウェンが治るまでの間、ランドルフがいてくれるということは、アンヌとアンヌの農園にとって、随分、心強いことに違いなかった。
けれども、マーガレットや、上流階級の人々の耳に入れば、また、非難を浴びると思えば、素直に喜ぶことは出来なかった。
アンヌ自身が、陰口を叩かれることにはもう慣れていたが、それが、ランドルフにも及ぶのかと思えば、心穏やかではいられなかった。
「ほら、アンヌ、行くよ」
ランドルフは、躊躇うアンヌを、急かせた。
その態度には、アンヌの返答がどうであれ、譲らないランドルフの決心が見て取れた。
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