旦那様は私ではなく妹が好きなのですね。

藍川みいな

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ギルの夢

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 「あなたと一緒に?」

 確かに、お金もないし…これから先どうしたらいいかわからないけど…
 
 「あんたほっといたら、悪い奴に騙されて売られそうだし。さすがにそれは夢見が悪くなる…つーのは建前で、あんたがいいやつだからってのが理由だ。」

 建前が失礼過ぎるんですけど?!
 …そうなりそうな気もするけど。

 「まあ、話を聞いてから決めてくれ。俺はギル、この国の出身だ。この国の身勝手なお偉い奴らに嫌気がさし、冒険者になった。あんたが騙されたあの子は施設にも入れてもらえず、食っていく為にああやって人を騙してる。そんな子供を保護する事もなく、放置してるのがこの国だ。」

 食べるのをやめ、ギルの話をアイリスは真剣に聞いていた。

 「俺はそんな子供達や、無実で追放された人、領主に搾取され行き場をなくした人達を受け入れ、助け合いながら幸せに暮らせるような町を作りたい。その為に冒険者になって金を貯めている。」

 いくら世間知らずの私でも、そんな夢物語のようなことが本当に出来るなんて思えない。
 だけど、ギルの本気さは伝わっできた。
 こんなバカな私をほっとけないのは、ギルがそういう人だからだと納得がいった。
 少しの間、この人の夢物語に付き合うのも悪くないかもしれない。

 「私はアイリス。隣の国までよろしくお願いします!」

 アイリスは立ち上がり、ギルに頭を下げた。

 「あんた…笑わないんだな。」

 「どうして?すごく素敵な事だと思います。誰もが自分の事しか考えていない世の中で、あなたは子供達の為に頑張ってる。そんな人を笑う権利なんて誰にもない。」

 ギルはアイリスの真っ直ぐな言葉に面食らった。
 そんな風に言ってくれた人など、今までいなかった。
 その話をすると、みんなバカにして笑い、共に冒険していた仲間さえ離れていった。

 「アイリス…か。だけど、少しは人を疑う事を覚えた方がいいぞ。もし俺が悪いやつだったらどうするんだ?」

 首を傾げるアイリス。

 「あなたは悪い人間ではありません!あなたの話…本気な事くらい、私にだって分かります!」

 コイツは天然の人たらし…
 そんな真っ直ぐな目で力説されたら、仮に悪いやつでも改心しそうだ。
 ギルはそう心の中で思った。

 「とりあえず、その格好をどうにかしなくちゃな。」

 食事を終え、アイリスとギルは武器屋へとやってきた。

 「オヤジ、コイツに初心者向けの防具と武器を見繕ってくれ。」

 ギルは武器屋のおじさんに、アイリスの装備を頼んだ。

 「あの…私お金が…」

 アイリスはギルの耳元でこっそり話す。

 「ぷっ!そんな事わかってる。隣国に行くまで、歩いてどれくらいかかると思ってるんだ?それまで依頼をこなしながら、金を貯める。その為にはあんたにも戦ってもらわなくちゃ困るから、先行投資だ。」

 戦う!?私が魔物と戦うの!?

 「こんなもんでどうだ?」

 武器屋のおじさんは、皮のベストと皮のパンツ、銅の短剣を用意してくれた。

 「…これを履くのですか?」

 アイリスは皮のパンツを手に持ち困惑する。

 「そんなヒラヒラした格好じゃ戦えないだろ?」

 ギルの言う通りだ。甘えは捨てよう!

 「あの、ハサミを貸してもらえますか?」

 アイリスはスカートの中に、皮のパンツを履き、

 ビリリリリリリリッ!

 おじさんにハサミを借り、履いていたスカートを膝上まで切った!

 「お嬢ちゃん、思い切りがいいねぇ。」

 ギルに出会ったアイリスは、逞しく生きることを知った。
 
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