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サシャの苦難(サシャ視点)
しおりを挟む釈放されたサシャは、街の真ん中にある噴水の縁に座り、ぼーっとしていた。
幼い頃から姉と比べられてきたサシャは、アイリスが嫌いだった。
でもそれは、アイリスが悪いわけではないことを、サシャが一番よく分かっていた。
どんなにいじわるをしても、アイリスはいつだって優しかった…
そんなのおかしい!
だってお姉様は完璧過ぎる!
容姿も性格も頭も良く、誰からも愛されるお姉様…
容姿は普通、性格はわがままで自分勝手、頭も悪い私…
同じ姉妹だとは思えない…
私だってお姉様のようになりたいと思った事はある。
だけどどんなに頑張っても…
「アイリス様は本当に素晴らしいお方だ。それに比べてサシャ様はどうしようもないな…」
「サシャ様は本当に、サザーランド男爵の娘なのだろうか…」
使用人達の陰口を聞かない日はなかった。
お姉様には私の苦しみなんて分からない。
いつも笑顔のお姉様…いつも優しいお姉様…
それは皆に愛されて育ったからだ!
お父様とお母様は、分け隔てなく愛してくれた。
お母様の記憶はそんなにないが、いつも優しかったのは覚えている。
お父様はお姉様が嫁いだ後、私にもお相手をと一生懸命探してくれていた。
だけど、姉と違いなんの取り柄もなく、わがままで自分勝手な私には、誰も興味を示してくれず、大商人のお父様の財産は、ケーユ伯爵家に半分以上援助してしまい、お金で釣ることさえ出来ず、相手が決まらないまま…お父様は亡くなってしまった。
ひとりぼっちになってしまった。
だけど今は、お姉様を羨ましいとは思わない!
だってお姉様の結婚は、お金目当てだった事を知っているから!
世間知らずなお姉様は、全く気づいてないようだけど。
お父様が亡くなり、資金援助は不可能になったから、そろそろ追い出されるはず!
だが、一ヶ月経っても二ヶ月経っても半年経っても、アイリスが追い出される事はなかった。
それはお兄様がお姉様を、愛しているからだと知った。
やっぱりお姉様なんて嫌い!
お金目当てで貰われたくせに、なんで愛されてんのよ!?
私を愛してくれる人はもう誰もいない…
私がその幸せ、壊してあげる!!
その日から使用人達を誘惑する日々が始まった。
お兄様を誘惑する為には、テクニックを磨かなければ!
最後の一線は超えてはいないが、際どい事は、何人もの男として来た。
お兄様が初めてのお姉様とは違い、喜ばせる自信は付いた!
そしてあの日、お姉様に見られる時を見計らって、お兄様に口付けをした。
最初は拒否されたが、『お願い』そう言ってお兄様の口の中に舌を入れると、お兄様は興奮して求めてくれた。
その時、お姉様は私達を見て悲しい顔をしていた。
私は初めて見るその表情に嬉しくなり、思わず笑ってしまった。
お姉様が逃げるように走り去った後、お兄様は私をベッドへと誘った。
なだれ込むようにしてベッドに倒れ込み、唇を貪られながら胸を触られる。
このままだとお兄様のペースだと思った私は、お兄様と場所を入れ替わり、いやらしく首筋や耳を舐める。
「はぁはぁ…おまえは興奮させるのが上手いな。アイリスはされるがままで、つまらなかった。」
お兄様のその言葉が、嬉しかった…
初めてお姉様に勝てた気がした…
お兄様に喜んでもらえるよう、今までしてきた事を全部した。
お兄様はお姉様を捨て、私を選んでくれると思ってた…
だけど違った…
どんなに体の相性が良くても、お兄様が選んだのはお姉様だった。
そしてお姉様は、私の前から去っていった。
優しいお姉様なら、許してくれると思ってた…
あんな怒ったお姉様は、初めてだった。
取り返しがつかないことをしてしまった…
お姉様…ごめんなさい…
行かないで…私を置いて行かないで…
サシャは噴水の縁から立ち上がり、アイリスが向かった方へと走って行った。
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