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番外編 戸ヶ崎琉哉(ウィルソン)視点

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 僕の名前は、戸ヶ崎琉哉とがさきりゅうや。僕には、双子の兄が居る。一卵性双生児の僕達は、見た目はそっくりだけど、中身は全く違っていた。兄の智哉は頭が良くてスポーツ万能。性格は少しひねくれてるけど、いつも兄の周りには人が集まっていた。何をやってもダメな僕はそんな兄の背中を、ずっと追いかけていた。だけど、両親の離婚がキッカケで、僕は母に、兄は父に引き取られた。

そんな僕達は、5年後、同じ会社に就職したことで再会した。

 兄は営業部で、僕は総務課。
 同じ顔のはずなのに、僕が眼鏡をかけているからか、苗字が違うからか、会社が大きいからか、誰も僕達が兄弟だとは気付かなかった。兄は、僕が弟だとは知られたくないのか、会社で話すことも、目を合わせることもなかった。

 入社して二年が過ぎた頃、僕はある女性に恋をした。
 ある日、会社の廊下で誰かにぶつかり、眼鏡を割ってしまった。急いで代わりの眼鏡を取りに戻ろうとしていた時、彼女も誰かにぶつかったのか、床に落ちた書類を拾っていた。あまり見えないけど、僕も一緒に書類を拾おうとしゃがみ込むと、彼女は眩しい笑顔で『ありがとうございます』と言った。視界がぼやけているのに、彼女の笑顔だけはハッキリ見えた。あまりにも眩しくて、僕も自然と笑顔になっていた。こんな風に笑えたのは、何時ぶりだろうか……そんなことを考えるほど、僕はずっと笑えていなかった。
 その日以来、彼女から目が離せなくなっていた。
 
 だけど、彼女は兄に恋をしていた。

 ずっと見ていたから、彼女の恋心に気付いてしまった。知らなければよかったと、何度思ったことか……
 兄を見て、顔を赤く染める彼女を見ていると、胸が苦しくなった。それでも、彼女が幸せになるなら、応援しようと心に決めた。

 彼女の気持ちに気付いてから、3ヶ月が経ったある日、会社帰りに彼女を見かけた。彼女は、兄の好きな菓子を買い、会社の方に戻って行く。 
 勇気を出して、告白をするのかもしれない……そう思った僕は、気付いたら彼女を追って会社に引き返していた。だけど、彼女が兄に告白するところを見る勇気がなくて、会社に入れずに、前の道を行ったり来たり……
 彼女の恋を応援すると決めたはずなのに、二人が上手く行くところを見たくない。そう思っていたところに、足早に会社から出て来る彼女が見えた。何だか、様子がおかしい。
 僕は急いで彼女を追いかけた。彼女はそのまま、赤信号に気付かずに交差点に入って行く……

 「危ないっ!!」
 
 彼女に迫るトラック。僕は必死で走り、彼女を守ろうと思い切り抱き締めた……

 その瞬間、僕達の体は宙に浮いていた。

 分かっていたんだ。彼女を守るには、突き飛ばすことが一番だってことは。でも、僕には出来なかった。今にも泣きそうな顔をしていた彼女を、抱き締めることしか出来なかったんだ。

 そしてそのまま、僕は意識を失った。

 
 ***


 僕は、あの時死んだようだ。彼女がどうなったのか、今の僕には分からない。無事で居てくれたら、僕はそれだけで幸せだ。
 どうやら、僕は死んで生まれ変わったらしい。もう二度と、彼女に会うことはないのだと思うと、 想いを伝えなかったことを後悔した。

 生まれ変わったのだと知ったのは、5歳の時だった。突然、前世の記憶が蘇った。身体はまだ5歳でも、中身は25歳の戸ヶ崎琉哉。この世界で生きて来た記憶さえなく、5歳児を演じるのは骨が折れた。半年かけて、この世界で生まれ育って来た記憶を思い出した。           

 僕は、この国スリードルの第一王子ウィルソン。王子なんて柄じゃないし、王城の生活は窮屈で逃げ出したかった。言われるがまま勉強をし、言われるがまま剣術を習い、すでに婚約者が居る。僕の中身は25歳だ……5歳の女の子が婚約者だなんてどうしたらいいのか分からず、会いに行こうともしなかった。
 
 ある日、国王である父が、バークリー公爵と僕の婚約者であるバークリー公爵令嬢のミシェルを王城に呼んだ。僕が一度も会いに行かないから、無理やり会わせようとしたようだ。

 「ウィルソン殿下、初めまして。ミシェル・バークリーと申します」

 そう言って、彼女は笑顔を見せた。ミシェルの笑顔は眩しくて、笑顔を見た瞬間彼女だと確信した。ただ一人の愛しい人……佐倉莉音。

 彼女はあの時、僕と一緒に死んでしまったのだろうか。それとも、幸せに生きてくれたのだろうか。ずっと考えていたことだけど、答えが出ることはなかった。
 彼女に会えた嬉しさで舞い上がり、毎日のように会いに行くようになった。彼女には、前世の記憶はないようだ。記憶があったところで、僕のことなんか覚えていないだろうけど、兄のことを覚えていないのは良かった。彼女はまるで別人なのに、僕の顔は前世と同じ……兄と勘違いされることはなさそうで、ホッとした。
 もう二度と、彼女を危険な目にあわせたりしない。僕が彼女を守ると、心に誓った。

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