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10、終わりです
しおりを挟む扉が開けられ、ジョセフ殿下とシンシアがこちらに視線を向ける。扉が開かれるまでは、二人は幸せそうに抱き合っていたようだ。その幸せは、私達が入って来た事で儚く散った。
「な……ぜだ? なぜお前が……!?」
クラウェル公爵や陛下がこの場に居る事よりも、私の元気な姿を見て驚いている。
「私が死ぬと思っていたのに、こうして生きていて驚きましたか?」
「どうして? 私の目の前で、毒を飲んだじゃない! 回復するなんて、絶対にありえないわ!」
「シンシア黙れ!」
ジョセフ殿下に怒鳴られ、真っ青な顔で口を噤むシンシア。今更、黙った所で遅い。私に毒を飲ませた時は、クラウェル公爵と彼の部下達が目撃しているし、手紙にも何度も私に毒を飲ませたと書かれていた。ジョセフ殿下の方は手紙でも慎重で証拠にはならないけど、さっきの言葉を私達だけでなく陛下自身が聞いた。
「殿下は愛する女性を、そのように扱うのですね」
「レオナ嬢、これは誤解だ。シンシアに付きまとわれて、困っていたんだ! シンシアが君に毒を盛った事は、ついさっき聞かされた! 私はずっと、君だけを想って来たんだ! 信じてくれ!」
「ジョセフ……様……?」
瞳に涙を浮かべながら、シンシアはジョセフ殿下を見つめる。彼女は、殿下を裏切るつもりはないようだ。でも殿下の方は、愛する人も切り捨てた。自分の事しか考えていないこの男を、一度は愛してしまった自分に腹が立つ。
「殿下の何を信じれば良いのですか? 殿下の口から出る言葉は、偽りばかり。ですが、先程は真実を話してくれましたね。全て、聞かせていただきました……陛下と一緒に」
陛下は深いため息をつき、ジョセフ殿下を見る事なく背を向けた。
「アンディ……あとは頼む」
クラウェル公爵にあとを頼み、そのまま去って行った。
「ジョセフ、終わりだ」
クラウェル公爵の言葉と共に、兵がジョセフ殿下とシンシアを取り押さえる。
「終わり……!? 冗談じゃない!? シンシア! お前のせいだ! 余計な真似をして、私の邪魔をしやがって! お前のような女を、本気で愛していたとでも思っているのか!? 」
シンシアは大人しく捕らえられたけど、ジョセフ殿下は必死で抵抗している。これが、ジョセフ殿下の本性だった。
「黙れ。お前には、文句を言う資格などない。それ以上抵抗するなら、ここで斬り捨てる」
『斬り捨てる』の一言で、ジョセフ殿下は大人しくなった。クラウェル公爵の気迫は、それほど凄まじかった。
いくら陛下にあとは頼むと言われたからって、ここで斬り捨てるのはやり過ぎのような……
二人は地下牢へと入れられ、ようやく平和が訪れた気がした。
「クラウェル公爵には、本当に感謝しています。私一人だったら、また死に戻っていたでしょう」
「まだ安心は出来ない。ジョセフが処刑されるまでは、私の側を離れるな」
そう、ジョセフ殿下は処刑される事が決まった。しかも、たった数日で刑が決定した。王子が処刑されるなんて、前代未聞だ。それほど、ジョセフ殿下は危険人物だと判断されたのだろう。
二人は、それぞれ別々に薬殺刑に処させる事になった。薬殺刑になった理由は王子の処刑という理由もあるけど、何より精霊の加護を持つ私の命を王子が狙っていたという事を知られるわけにはいかなかったからだ。そんな事を知られたら、反乱が起きてもおかしくない。
二人は反逆罪で処刑と発表され、詳しい内容は明かされなかった。
地下牢に閉じ込められているシンシアから、会いたいという伝言をもらった。悩んだ末に、会いに行く事にした。でも待っていたのは、謝罪の言葉ではなかった。
「レオナ、お願い! 私達、親友でしょう? 一度だけ……一度だけでいいから、ジョセフ様に会わせて? 彼に会いたいの!」
シンシアは捕まってからずっと、ジョセフ殿下に会いたいと言っていたようだ。会わせてもらう事が出来ず、私に頼んでいる。
「会っても、酷い事を言われるだけだと思う。悪いけど、会わない方がいいわ」
断ると、シンシアは豹変した。
「レオナは私とジョセフ様が愛し合っていた事が、気に入らないだけでしょう!? あなたはいつだって、私を見下していた! ジョセフ様だけが、私を分かってくれて、愛してくれたの!」
シンシア……私は最初に殺されたあの時まで、あなたを大切に思っていた。すごく、大好きだったのに。でも、伝えるつもりはない。
「そんなに会いたいなら、最後に会わせてあげる」
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