〖完結〗何度も死に戻った侯爵令嬢は、冷酷な英雄に愛される。

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
10 / 11

10、終わりです

しおりを挟む


 扉が開けられ、ジョセフ殿下とシンシアがこちらに視線を向ける。扉が開かれるまでは、二人は幸せそうに抱き合っていたようだ。その幸せは、私達が入って来た事で儚く散った。
 
 「な……ぜだ? なぜお前が……!?」

 クラウェル公爵や陛下がこの場に居る事よりも、私の元気な姿を見て驚いている。

 「私が死ぬと思っていたのに、こうして生きていて驚きましたか?」
 
 「どうして? 私の目の前で、毒を飲んだじゃない! 回復するなんて、絶対にありえないわ!」

 「シンシア黙れ!」

 ジョセフ殿下に怒鳴られ、真っ青な顔で口を噤むシンシア。今更、黙った所で遅い。私に毒を飲ませた時は、クラウェル公爵と彼の部下達が目撃しているし、手紙にも何度も私に毒を飲ませたと書かれていた。ジョセフ殿下の方は手紙でも慎重で証拠にはならないけど、さっきの言葉を私達だけでなく陛下自身が聞いた。

 「殿下は愛する女性を、そのように扱うのですね」

 「レオナ嬢、これは誤解だ。シンシアに付きまとわれて、困っていたんだ! シンシアが君に毒を盛った事は、ついさっき聞かされた! 私はずっと、君だけを想って来たんだ! 信じてくれ!」

 「ジョセフ……様……?」

 瞳に涙を浮かべながら、シンシアはジョセフ殿下を見つめる。彼女は、殿下を裏切るつもりはないようだ。でも殿下の方は、愛する人も切り捨てた。自分の事しか考えていないこの男を、一度は愛してしまった自分に腹が立つ。

 「殿下の何を信じれば良いのですか? 殿下の口から出る言葉は、偽りばかり。ですが、先程は真実を話してくれましたね。全て、聞かせていただきました……陛下と一緒に」

 陛下は深いため息をつき、ジョセフ殿下を見る事なく背を向けた。

 「アンディ……あとは頼む」 

 クラウェル公爵にあとを頼み、そのまま去って行った。

 「ジョセフ、終わりだ」

 クラウェル公爵の言葉と共に、兵がジョセフ殿下とシンシアを取り押さえる。
 
 「終わり……!? 冗談じゃない!? シンシア! お前のせいだ! 余計な真似をして、私の邪魔をしやがって! お前のような女を、本気で愛していたとでも思っているのか!? 」

 シンシアは大人しく捕らえられたけど、ジョセフ殿下は必死で抵抗している。これが、ジョセフ殿下の本性だった。
 
 「黙れ。お前には、文句を言う資格などない。それ以上抵抗するなら、ここで斬り捨てる」

 『斬り捨てる』の一言で、ジョセフ殿下は大人しくなった。クラウェル公爵の気迫は、それほど凄まじかった。
 いくら陛下にあとは頼むと言われたからって、ここで斬り捨てるのはやり過ぎのような……

 二人は地下牢へと入れられ、ようやく平和が訪れた気がした。

 
 「クラウェル公爵には、本当に感謝しています。私一人だったら、また死に戻っていたでしょう」
 
 「まだ安心は出来ない。ジョセフが処刑されるまでは、私の側を離れるな」

 そう、ジョセフ殿下は処刑される事が決まった。しかも、たった数日で刑が決定した。王子が処刑されるなんて、前代未聞だ。それほど、ジョセフ殿下は危険人物だと判断されたのだろう。
 二人は、それぞれ別々に薬殺刑に処させる事になった。薬殺刑になった理由は王子の処刑という理由もあるけど、何より精霊の加護を持つ私の命を王子が狙っていたという事を知られるわけにはいかなかったからだ。そんな事を知られたら、反乱が起きてもおかしくない。
 二人は反逆罪で処刑と発表され、詳しい内容は明かされなかった。

 地下牢に閉じ込められているシンシアから、会いたいという伝言をもらった。悩んだ末に、会いに行く事にした。でも待っていたのは、謝罪の言葉ではなかった。

 「レオナ、お願い! 私達、親友でしょう? 一度だけ……一度だけでいいから、ジョセフ様に会わせて? 彼に会いたいの!」

 シンシアは捕まってからずっと、ジョセフ殿下に会いたいと言っていたようだ。会わせてもらう事が出来ず、私に頼んでいる。

 「会っても、酷い事を言われるだけだと思う。悪いけど、会わない方がいいわ」

 断ると、シンシアは豹変した。

 「レオナは私とジョセフ様が愛し合っていた事が、気に入らないだけでしょう!? あなたはいつだって、私を見下していた! ジョセフ様だけが、私を分かってくれて、愛してくれたの!」

 シンシア……私は最初に殺されたあの時まで、あなたを大切に思っていた。すごく、大好きだったのに。でも、伝えるつもりはない。

 「そんなに会いたいなら、最後に会わせてあげる」

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...