9 / 9
9、王太子妃エリアーナ
しおりを挟む「私の役目は終えました。実家に、戻ろうと思います」
セリムが王太子となり、マキエドの体調もだいぶ回復し、この国の為に軍を出してくれたトリスアの国王夫妻に感謝を込めて、王宮でパーティーが開かれていた。
マキエドと王妃、トリスア国王、そしてセリムの前でエリアーナはそう言った。
優秀だといっても、エリアーナはあくまでもラクセルの妻だ。夫が国外追放された今、王宮にエリアーナの居場所はない。
「実家に戻るのなら、我が国に来ませんか? 我が国トリスア王国と、カシュオーラ王国は同盟国となりました。エリアーナ様が息子の妻になっていただけたら、こんなに幸せなことはありません。セリム殿下が居なくなり、寂しくなってしまうことですし……」
セリムは人質としてトリスアに行ったが、懸命に努力し、トリスア国王に気に入られた。
セリムが気に入られていたからこそ、エリアーナとの書状のやり取りが始まった。やり取りをしているうちに、聡明なエリアーナをすっかり気に入っていた。
エリアーナが助けを求めた時、トリスアの国王は条件を出した。その条件とは、セリムを王太子にすること。マキエドの意識がタイミングよく戻り意見を聞くことが出来たが、たとえ意識不明のままでも、エリアーナはラクセルを王太子の座から下ろすつもりだった。
「それは困ります! エリアーナは、我が国の王太子妃です! 王太子が代わっても、王太子妃はエリアーナです!」
かなり無理がある。だが、間違ってはいない。
エリアーナとラクセルが白い結婚だということは、誰もが知っている。それだけでなく、国を救ったのもエリアーナだと国民までもが知っている。
セリム王太子殿下の妃が、エリアーナだとしても、誰一人反対はしない。それどころか、大賛成だろう。
「エリアーナ様、もし嫌じゃなかったら、僕の妻になって欲しい」
差し出されたセリムの手を見ながら、エリアーナは少し考える。
幼い頃から、王太子妃そして王妃になる為に学んで来た。婚約者だったラクセルとは、結婚まで一度しか会ったことはなかったが、セリムとは何度も顔を合わせていた。
兄ラクセルの尻拭いばかりさせられていたのだが、セリムは弱音一つ吐くことはなかった。そんなセリムを見ていたからこそ、王太子の交代を微塵も迷うことはなかった。
それは結局、セリムを信頼していたということ。
「お願いします」
これが恋なのかは、エリアーナには分からなかった。だが、ラクセルへの気持ちとは違うことは分かっていた。
手が触れた途端、セリムの顔は赤くなる。セリムは、エリアーナに恋していたようだ。
そんなセリムを見て、トリスアの国王は諦めたように微笑んだ。
「これは、邪魔するわけにはいきませんね」
こうして、エリアーナはセリムと結婚式を挙げた。
優秀なエリアーナも、恋愛に関しては初心者。だが、セリムと居ると幸せな気持ちになれた。
「セリム様、本当に私で良かったのですか?」
「僕は、君が良かったんだ。僕を王太子にしたのは君だよ。責任を取ってもらわなくちゃね」
二人の恋は、まだ始まったばかりだ。
END
134
お気に入りに追加
1,229
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(10件)
あなたにおすすめの小説
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。
雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」
妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。
今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。
私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
【完結】本当に私と結婚したいの?
横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。
王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。
困ったセシリアは王妃に相談することにした。
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
どうやったらこんなバカ王子ができるのかってくらいひどいですね。
セリムがまともだったから余計に。
バカ王子とそれを傀儡にしようとする祖父以外はまともだったから王太子妃も報われてよかった。
感想ありがとうございます。
バカ王子の母方の家系が、ダメダメだったようです(´;ω;`)
王太子、平民になったけど生きていけるかな? 無理な気がするよ。( ´~` )
最後まで読んでくださりありがとうございます(⸝⸝>ᴗ<⸝⸝)
送って行ったドナルドが、逃げられなくなりそう笑
完結㊗お疲れ様でした🎊
あまりにも身勝手な王太子は
鞭打の末に追放されたけれど
きっと生きて行く事は出来ない
だろうな…😅
王太子妃は王太子妃のまんまでも
今度こそは幸せになれそう💕
最後まで読んでくださりありがとうございます(៸៸>⩊<៸៸)
贅沢な暮らしをしていたのに、いきなり無一文で放り出されたアホですからね💦
セリムは優秀ですから、今度は王太子妃としての仕事だけで済みそうですね笑