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6、国の危機
しおりを挟む「エリアーナ様がこのような目にあわれるなんて、納得が出来ません!」
侍女のライラが、目を吊り上げて激怒している。
「仕方がないわ。大丈夫よ、殿下にはこれ以上何も出来ないから」
ライラとは対照的に、落ち着いた様子でお茶を飲むエリアーナ。
王命を騙ったと軟禁はされたが、騙った証拠などない。マキエドが意識を取り戻せば、全てが明らかになる。その時自分がどうなるかなど、ラクセルは考えていないだろう。
「エリアーナ様は、凄いですね。私なら、我慢出来ません。国の為に、どれほどエリアーナ様が尽くされて来たか、殿下はまるで分かっていません!」
「私の為に、怒ってくれてありがとう。ライラの気持ちが嬉しいから、怒る気持ちもなくなってしまったのかもしれないわ」
自分が甘かったのだと、エリアーナは反省していた。誰かに腹を立てることより、自分の甘さに腹を立てていた。
「ライラ、書類は見つからなかった?」
「はい、大丈夫でした。ドリクセン公爵も、私の部屋までは調べませんでした」
「良かった。そのまま、陛下の意識がお戻りになるまで預かっていて。それと、この手紙を父に届けてくれる?」
エリアーナの父であるブラント公爵は、ドリクセン公爵と同じ三大貴族だ。ブラント公爵に宛てた手紙には、自分のことよりも他国に攻めいられないように手を打って欲しいと書いてある。
エリアーナが軟禁されたことを知られれば、他国はここぞとばかりに攻めてくるだろう。不作で軍事物資もほとんどなく、資金もないこの国が侵略されるのは時間の問題だ。
エリアーナからの手紙を受け取ったブラント公爵は、すぐに行動した。娘をすぐにでも自由にしたい気持ちを抑え、国の為に。
◇ ◇ ◇
エリアーナが軟禁されてから、数ヶ月の月日が流れた。まだマキエドの意識は、戻っていない。
「殿下、この嘆願書をよくお読みになったのですか!?」
宰相は、全力でラクセルの補助をして欲しいとエリアーナに頼まれていた。エリアーナが居ない今、ラクセルに公務を任せることは難しい。全てを確認しなければならない宰相の気苦労は、計り知れない。
「こんな物、全部印を押せばいいんだろ? こんなに簡単な仕事なのに、エリアーナは偉そうにしやがって」
「何を仰っているのですか!? こんなことを許可してしまったら、国の法が意味をなさなくなってしまいます! 国を潰すおつもりですか!?」
宰相が何を言っても、ラクセルは意味を理解していないのだから無駄なことだ。何度同じやり取りをしても、理解する努力さえしない。
「もうやめだやめだ! おまえがやればいい! こんなめんどくさいこと、やってられるか!」
ラクセルはとうとう音を上げた。
机の上に両足を乗せ、イスに寄りかかると両手を上に伸ばして欠伸をした。すぐに飽き、仕事をしなくなるのはいつものことだ。
「私には決定を下すことが出来ません。それほどやりたくないのでしたら、エリアーナ様を解放されてはいかがですか?」
「ふざけるな! あの女は、いつも私をバカにしたような目で見て来る。こんな仕事、私にも出来るのだということを見せてやる!!」
エリアーナの名を出せば、なぜかやる気を取り戻すラクセル。だが、やる気があっても書類の意味を理解出来ないのだから意味がない。
宰相はラクセルに気付かれないよう、大きなため息をついた。
◇ ◇ ◇
「なぜ見つからんのだ!?」
ドリクセン公爵邸では、公爵の怒鳴り声が響き渡っていた。
「申し訳ございません……全ての書類をくまなく調べましたが、見つかりませんでした」
ドリクセン公爵が探している書類は、エリアーナが隠したのだから見つかるはずがない。ラクセルを使い、エリアーナを軟禁させてまで手に入れたかったものが見つからないのだから、苛立つのも無理はない。
「絶対に見つけ出せ!!」
◇ ◇ ◇
その頃、カシュオーラ王国の東の国境付近に、他国の軍勢の姿があった。
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