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4、厄介な客
しおりを挟む「エリアーナ様!? お休みにならなかったのですか!?」
エリアーナが休んでいると思っていた宰相が執務室を訪れると、大量に残っていたはずの書類仕事が半分以上片付けられている所を見て驚いている。
「目が冴えてしまったので、時間を有効活用しました」
ラクセルのせいだとは、言わなかった。
エリアーナは宰相に心配をかけまいと、懸命に笑顔を作る。
「お休みになることも大切なことです。今からでも、お休みになられたらいかがですか?」
「そうしたいところですが、今日は厄介なお客様がお見えになるので、しっかりと準備をしなければなりません」
「そう……ですね……」
厄介な客とは、ドリクセン公爵。
前王妃の父であり、ラクセルの祖父だ。
ドリクセン公爵は、エリアーナがラクセルの代わりに公務を行っていることをよく思っていない。
もちろん、ラクセルが無能なことは分かっている。何を学ばせても、何一つ覚えなかったラクセルに期待などしていない。だが、王太子妃が全ての公務を行うことも許せないのだ。矛盾しているのは、ドリクセン公爵も分かっている。あくまでも、王太子であり、次期国王はラクセルだということを、念を押す為に定期的に訪ねてくる。
午後一番に、ドリクセン公爵は王宮へとやって来た。
「会議室ではなく、執務室に案内してもらいたい。この場所で公務を行っているわけではないのでしょう?」
本当に厄介な客だった。
執務室には、大事な書類もある。いくらドリクセン公爵が国の三大貴族だとはいっても、公務に携わっていない公爵に書類を見る資格はない。
「申し訳ありませんが、公爵にはお見せできない書類も多数あります。執務室への入室はご遠慮ください」
臆することなく、エリアーナはそう告げる。
「……小娘がっ……」
ドリクセン公爵はそう小声で呟いた後、話を続ける。
「殿下は、どちらにおいでなのですか? 姿が見えないようですが?」
どうしても、執務室に行きたいようだ。
その様子に、エリアーナは違和感を感じていた。
公爵に圧力をかけられ、仕方なくラクセルを会議室へと呼ぶ。ラクセルに会いたい理由は、執務室への入室許可を得る為だろう。
「殿下! お久しぶりです!」
ラクセルが会議室に入って来た瞬間、笑顔でそう声をかける公爵。内心は、笑顔など見せたくないほどラクセルを嫌っている。わざわざ嫌いなラクセルを呼び、なんとか執務室の入室許可を得ようとしている。
「どうされたのですか? 私に会いたいなどと、珍しいですね」
バカなラクセルでも、祖父に嫌われていることくらいは分かっていたようだ。
「忙しくて、なかなかお会いすることが出来ず、申し訳ありませんでした。そちらの方は?」
ラクセルは、なぜかカナリアをこの場に連れて来た。側妃が来るような場ではない。
「私の愛する人です!」
エリアーナの反応をチラチラと確認しながら、ラクセルはそう言った。まるで、好きな子の気を引きたくて意地悪をする子供のようだ。
だが、エリアーナは眉一つ動かそうとはしなかった。
「初めまして、カナリアと申します。ラクセル様のおじい様ですよね? ラクセル様に出会った瞬間、お互いに惹かれあったんです! 私達、幸せです!」
カナリアは、ラクセル以上に頭が悪いようだ。
聞いてもいないのにペラペラと話し出すカナリアに、ラクセル以外のその場にいる全員が呆れている。
「ラクセル様ったら、毎日私の顔を見ないとダメで……」
まだ話し続けているカナリアを完全に無視し、公爵はラクセルに近付く。
「陛下の意識が未だ戻らず、ご心配ですね。陛下には、一刻も早く意識を取り戻していただきたい。ですが今は、殿下が頑張らねばなりません! 私も微力ながら、お手伝いいたします!」
「は……はい……」
公爵の気迫に、ラクセルはたじろぐ。
「つきましては、全ての書類に目を通し、これからのことを考えましょう!」
「そう……ですね。力を貸していただけるなら、ありがたいです」
言われるがまま、流されてしまったラクセル。
「では、執務室へ行きましょう!」
「それは、なりません」
ラクセルと共に、執務室へと向かおうとした公爵を、エリアーナが引き止める。
「どういうことですか? 殿下にお仕えしている王太子妃が、殿下の意思を無視するおつもりか?」
鋭い視線を向ける公爵を、真っ直ぐ見つめ返しながらエリアーナは口を開く。
「残念ながら、殿下には部外者に書類をお見せする権限はありません」
「エリアーナ、おまえ何を言っているのだ!?」
プライドの高いラクセルが、聞き捨てならないと怒りをあらわにした。
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