〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
20 / 21

20、悲惨な結末

しおりを挟む


 取り調べは、順調だった。
 デリード公爵は黙秘を続けていたが、カーターと他の貴族は罪を認め、全てを自供した。

 「おい、シルビア……妻と娘は、どうなったんだ?」
 
 取り調べが終わり、牢に戻されたカーターは、見張りの兵にシルビア達のことを聞いた。

 「自ら捨てた妻子のことが、今更心配なのか? まあ、口止めされているわけではないから教えてやる。今回、お前達の罪を証明したことで、二人の罪は問わないとホルス殿下が約束された。だが……」

 言い淀む兵士に、不安が過ぎった。

 「だが、何なんだ!?」

 「お前がデリード公爵に娘を渡したのだろう? 娘は余程酷い目にあったのか、助け出された時には正気を失っていた。何度も何度も死にたいと口にしていたようだ。母親は、娘のそんな姿を見ていられなかったのだろうな。娘に毒を飲ませ、母親も毒を飲んで亡くなっていたそうだ」

 「そ……んな……」

 顔が真っ青になるカーター。
 あの日シルビアに再会し、何が大切だったのかやっと気付いたのに、その大切なものが二人共この世を去っていた。カーターは、絶望した。


 「妻子のことを聞かれたら話すようにと言われましたが、あれで良かったのですか? ハリー様」

 カーターにシルビアとメリルの話をした兵士は、ホルス王子の護衛であるハリーに報告していた。

 「良い。それと、皆が寝静まったら、カーター・コールの牢の鍵を開けておけ」

 ハリーはそう言うと、地下牢から去って行った。

 その日の深夜、小さな物音がしてカーターは目を覚ました。違和感を感じ鉄格子に近付くと、鍵が空いていることに気付いた。
 何もかも失い、脱獄する気力はない。だが、デリード公爵への恨みは増していた。
 牢から出ると、見張りの兵はなぜか全員眠っていた。どう考えても怪しい状況だが、そんなことはどうでもよかった。

 眠っている兵士の腰にある鍵を奪うと、腰にさしてある短剣も奪った。
 そして、真っ直ぐデリード公爵が入れられている牢に向かった。

 「……お前のせいで、妻と娘が死んだ」

 デリード公爵が入れられている牢の前で、カーターはそう呟く。

 「……なぜ、あなたがそこに?」

 目を覚ましたデリード公爵は上半身を起こし、カーターを見た。
 無表情のまま、カーターは鍵を開けて中に入る。

 「メリルに何をした?」

 「メリル? ああ、あなたの娘ですか。あんなゴミのことなど知りません。そんなことよりも、鍵を持っているならここから出ましょう!」

 デリード公爵は、カーターが助けに来たと思ったようだ。もちろん、カーターにそんな気はない。自分の娘をゴミ扱いされ、さらに怒りが込み上げてきた。

 「お前がここから出ることはない! ここで死ねっ!!」

 カーターは短剣を振り上げ、デリード公爵めがけて振り下ろした!

 「やめ……っ!!! !! 助け……て……」

 短剣を胸に刺され、唇の両端から血が流れる。何度も何度も何度も、カーターは刺し続けた。

 「……ゴホッ……たす……け……」

 地面に倒れ込み、助けを求めるデリード公爵を、カーターは滅多刺しにした。血しぶきが飛び散り、床は血溜まりになり、それでも手を休めることはない。
 自業自得……それは、分かっている。全ては、自分が選択したことだ。メリルが死んだのも、シルビアが死んだのも、自分のせいだ。
 だからといって、デリード公爵を許すことは出来なかった。この男に出会わなければ、貧しくとも平民のまま幸せに暮らせていた。

何度も何度も刺し続け、デリード公爵は息絶えた。

 「何をしている!? やめろ!!」

 息絶えてもなお刺し続けていたカーターを、兵士は見つけた。兵士の声に反応することなく、カーターはやめようとはしない。

 兵士はカーターの背中に、槍を突き刺した!

 槍を突き刺されたまま、それでもバラバラに飛び散っているデリード公爵の肉片を刺し続ける。
 騒ぎを聞き付けた他の兵士も到着し、カーターを取り抑えようとするが、短剣を振り回され、捕まえることが出来ない。
 兵士達はカーターを取りおさえることを断念し、次々に槍を突き刺し……カーターは力尽きた。

 「シルビア……メリル……本当に……すまなかった……」それが、カーターの最後の言葉だった。



 カーターがデリード公爵を殺害したことを、ハリーはホルス王子に報告した。

 「……鍵をかけ忘れ、兵士は皆眠っていた……だと? それを、信じろというのか? お前……何をした?」

 話を聞いたホルス王子は、全てがハリーの計画だと気付いた。

 「申し訳ありません。私一人の責任です」

 ホルス王子は、ハリーの気持ちが分かっていた。クレアを苦しめたデリード公爵とカーターに、自分の手で復讐したいと思っていたからだ。だがそれをしたら、心優しいクレアが苦しむ。そんなホルス王子の為に、処刑よりも悲惨な最後を迎えるように手を打ったというわけだ。

 「……私のせいだ」

 「おやめ下さい! 私は主である殿下の信頼を裏切りました。職を辞したいと思います」

 ハリーは深々と頭を下げると、部屋から出て行く……

 「待て。勝手に辞職するなど許さん。お前への罰は、僕に一生仕えることとする!」

 ハリーは涙を流し、ホルス王子に一生尽くすことを心に決めた。


 他の貴族の処分は、デリード公爵に脅されていたことを考慮し、爵位を剥奪されることに決まった。
 デリード公爵の娘達は解放されたが、爵位を剥奪された貴族達に一生命を狙われ続けることになるだろう。
 セシルは、カーターの死後、子を身篭っていることが分かった。父親は誰なのか分からず、関係を持った平民の男達は皆否定し、セシルは一人で育てることになったようだ。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

処理中です...