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20、悲惨な結末
しおりを挟む取り調べは、順調だった。
デリード公爵は黙秘を続けていたが、カーターと他の貴族は罪を認め、全てを自供した。
「おい、シルビア……妻と娘は、どうなったんだ?」
取り調べが終わり、牢に戻されたカーターは、見張りの兵にシルビア達のことを聞いた。
「自ら捨てた妻子のことが、今更心配なのか? まあ、口止めされているわけではないから教えてやる。今回、お前達の罪を証明したことで、二人の罪は問わないとホルス殿下が約束された。だが……」
言い淀む兵士に、不安が過ぎった。
「だが、何なんだ!?」
「お前がデリード公爵に娘を渡したのだろう? 娘は余程酷い目にあったのか、助け出された時には正気を失っていた。何度も何度も死にたいと口にしていたようだ。母親は、娘のそんな姿を見ていられなかったのだろうな。娘に毒を飲ませ、母親も毒を飲んで亡くなっていたそうだ」
「そ……んな……」
顔が真っ青になるカーター。
あの日シルビアに再会し、何が大切だったのかやっと気付いたのに、その大切なものが二人共この世を去っていた。カーターは、絶望した。
「妻子のことを聞かれたら話すようにと言われましたが、あれで良かったのですか? ハリー様」
カーターにシルビアとメリルの話をした兵士は、ホルス王子の護衛であるハリーに報告していた。
「良い。それと、皆が寝静まったら、カーター・コールの牢の鍵を開けておけ」
ハリーはそう言うと、地下牢から去って行った。
その日の深夜、小さな物音がしてカーターは目を覚ました。違和感を感じ鉄格子に近付くと、鍵が空いていることに気付いた。
何もかも失い、脱獄する気力はない。だが、デリード公爵への恨みは増していた。
牢から出ると、見張りの兵はなぜか全員眠っていた。どう考えても怪しい状況だが、そんなことはどうでもよかった。
眠っている兵士の腰にある鍵を奪うと、腰にさしてある短剣も奪った。
そして、真っ直ぐデリード公爵が入れられている牢に向かった。
「……お前のせいで、妻と娘が死んだ」
デリード公爵が入れられている牢の前で、カーターはそう呟く。
「……なぜ、あなたがそこに?」
目を覚ましたデリード公爵は上半身を起こし、カーターを見た。
無表情のまま、カーターは鍵を開けて中に入る。
「メリルに何をした?」
「メリル? ああ、あなたの娘ですか。あんなゴミのことなど知りません。そんなことよりも、鍵を持っているならここから出ましょう!」
デリード公爵は、カーターが助けに来たと思ったようだ。もちろん、カーターにそんな気はない。自分の娘をゴミ扱いされ、さらに怒りが込み上げてきた。
「お前がここから出ることはない! ここで死ねっ!!」
カーターは短剣を振り上げ、デリード公爵めがけて振り下ろした!
「やめ……っ!!! !! 助け……て……」
短剣を胸に刺され、唇の両端から血が流れる。何度も何度も何度も、カーターは刺し続けた。
「……ゴホッ……たす……け……」
地面に倒れ込み、助けを求めるデリード公爵を、カーターは滅多刺しにした。血しぶきが飛び散り、床は血溜まりになり、それでも手を休めることはない。
自業自得……それは、分かっている。全ては、自分が選択したことだ。メリルが死んだのも、シルビアが死んだのも、自分のせいだ。
だからといって、デリード公爵を許すことは出来なかった。この男に出会わなければ、貧しくとも平民のまま幸せに暮らせていた。
何度も何度も刺し続け、デリード公爵は息絶えた。
「何をしている!? やめろ!!」
息絶えてもなお刺し続けていたカーターを、兵士は見つけた。兵士の声に反応することなく、カーターはやめようとはしない。
兵士はカーターの背中に、槍を突き刺した!
槍を突き刺されたまま、それでもバラバラに飛び散っているデリード公爵の肉片を刺し続ける。
騒ぎを聞き付けた他の兵士も到着し、カーターを取り抑えようとするが、短剣を振り回され、捕まえることが出来ない。
兵士達はカーターを取りおさえることを断念し、次々に槍を突き刺し……カーターは力尽きた。
「シルビア……メリル……本当に……すまなかった……」それが、カーターの最後の言葉だった。
カーターがデリード公爵を殺害したことを、ハリーはホルス王子に報告した。
「……鍵をかけ忘れ、兵士は皆眠っていた……だと? それを、信じろというのか? お前……何をした?」
話を聞いたホルス王子は、全てがハリーの計画だと気付いた。
「申し訳ありません。私一人の責任です」
ホルス王子は、ハリーの気持ちが分かっていた。クレアを苦しめたデリード公爵とカーターに、自分の手で復讐したいと思っていたからだ。だがそれをしたら、心優しいクレアが苦しむ。そんなホルス王子の為に、処刑よりも悲惨な最後を迎えるように手を打ったというわけだ。
「……私のせいだ」
「おやめ下さい! 私は主である殿下の信頼を裏切りました。職を辞したいと思います」
ハリーは深々と頭を下げると、部屋から出て行く……
「待て。勝手に辞職するなど許さん。お前への罰は、僕に一生仕えることとする!」
ハリーは涙を流し、ホルス王子に一生尽くすことを心に決めた。
他の貴族の処分は、デリード公爵に脅されていたことを考慮し、爵位を剥奪されることに決まった。
デリード公爵の娘達は解放されたが、爵位を剥奪された貴族達に一生命を狙われ続けることになるだろう。
セシルは、カーターの死後、子を身篭っていることが分かった。父親は誰なのか分からず、関係を持った平民の男達は皆否定し、セシルは一人で育てることになったようだ。
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