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16、許せない
しおりを挟む「クレア様! 大変です!!」
ノックもなしに部屋のドアが開かれ、スージーが慌てて入って来た。
「どうしたの?」
噂されていると言いに来た時とは、明らかに様子が違うスージー。
「デリード公爵が、お見えになっています! 王妃様の、お見舞いにいらっしゃったそうです!」
デリード公爵が、王妃の心配などするはずもない。本当は何をしに来たのかはクレアには分からないが、今この部屋に来られては全てが台無しになってしまう。だが、デリード公爵を止めることも出来はしない。
「スージー、急いで包帯を持って来て!!」
ホルス王子が帰国していることも、知られるわけにはいかない。ということは、彼を頼るわけにはいかない。
自分でこのピンチを切り抜けなければならないと、クレアは考えた。
スージーは何も聞かずに、急いで包帯を取りに行って戻って来た。
「今から言うことを、よく聞いて」
***
ノックの音がして、部屋のドアが開かれる。
部屋に入って来たのはデリード公爵と、彼を案内して来たスージー。デリード公爵に顔を知られていないスージーは、王妃の侍女として彼を案内して来た。
「王妃様は喉が腫れている為、お声を出すことが出来ません。病が伝染る可能性があります。あまり、近くには行かれませんようお願いいたします」
ベッドに横たわっているのは、顔に包帯を巻いたクレアだ。王妃本人と入れ替わることも考えたが、この部屋から出ることは危険だと判断し、顔を隠して、誤魔化すことにした。
スージーはホルス王子にそのことを話し、決して部屋には来ないようにと伝えていた。
「あの包帯は?」
デリード公爵は、包帯を顔中に巻いてベッドに横たわるクレアを見て怪訝そうな顔をした。近付くことも出来ず、顔も見えないのだから当然の反応だ。
「病のせいで、お顔に発疹が出来ているのです。痒みを帯びている為、薬を塗り込んだ包帯で覆っています」
スージーの説明に納得したのか、デリード公爵は静かに頷いた。
「王妃様が病に倒れられてから、ずいぶん経ちますね。そろそろ、消えて欲しいものです。その様子では、中身はさぞ醜いのでしょうね。自ら去っていただけるなら、病を治療する費用は出して差し上げます。そうでないなら、分かりますよね? 」
デリード公爵が王妃を見舞いに来た目的は、王妃を退くように言いに来る為だった。次の王妃候補は、親族から選ぶつもりのようだ。
「夜会の日まで猶予を差し上げます。では、失礼します」
クレアもスージーも怒りを必死でおさえていた。言いたいことだけ言うと、デリード公爵は部屋から出て行った。
上手く誤魔化すことは出来たようだ。
「……許せない」
クレアはベッドから起き上がると、怒りをあらわにした。顔から包帯を取りながら、王妃を侮辱したデリード公爵のことを考えていた。
夜会当日。
夜会が行われる会場に、続々と貴族達が集まっていた。
王城で夜会が開かれるのは珍しいことではないが、決まった日に開かれることが多かった。急に夜会の招待状が送られ、理由を知らない貴族達は戸惑っていた。
ほとんどの者は、ハンス王子を正式に王太子として紹介するつもりなのではと噂している。怪しまれない為、そして必ず出席してもらう為に、デリード公爵には国王からそう伝えられていた。
デリード公爵は、ハンス王子が王太子になることを喜んでいた。ホルス王子が王太子に選ばれでもしたら、ガダルガから呼び戻すことになる。
王妃を排除して親族を王妃にし、ハンス王子と自分の娘を結婚させる。優しいだけのハンス王子など、思い通りに操るのは簡単だ。これで全てが手に入れられると思っていた。
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