〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな

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14、平穏な日々

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 夜会まで、あと一ヶ月。
 クレアが目を覚ましてからは、ホルス王子は護衛の兵士に成りすまし、兵士が住む宿舎で寝泊まりしている。極力、城の者と顔を合わせないようにし、夜会の日までは細心の注意をはらって過ごしていた。

 「外にも出られず、辛くはないか?」

 ソファーに座るクレアの隣に、ホルス王子は腰を下ろした。
 クレアは王妃の部屋から一歩も外に出ることが出来ない。窓を開けることさえ危険な為、外の空気を吸うことも出来ずにいた。

 「辛くなんてありません。ホルス様がこうして会いに来てくださり、スージーがずっとついていてくれて、こんなに穏やかに過ごせるのは久しぶりです。ホルス様や、この国の為に何も出来ないのが、少し残念ですが……」
 
 “何も出来ない”それが、クレアには辛かった。自分の無実もホルス王子が証明しようとしてくれ、国の為に戦おうとしている彼の力になることも出来ない。

 (今は何もしてはいけないと分かっている。余計なことをして、私が生きていることが知られたら迷惑がかかる)

 「そんなことを言わないでくれ。目を覚ましてくれたことが、僕にとっても父上や母上にとっても、兄上にとっても救いだった。君の存在が、僕を強くしてくれる。君が居るから、僕は頑張れるんだ」

 (彼と一緒なら、私は強くなれる。もう二度と、叔父様にもデリード公爵にも大切な人を奪わせない!!)

 ホルス王子の手を握り、クレアは彼の頬にキスをした。

 「!!!」

 急にされたキスに、ホルス王子は驚いた顔をしたまま固まった。そんな彼の目を真っ直ぐ見つめ、天使のように優しく微笑んで見せた。
 自分に今出来ることは、何も心配はいらないと笑顔で応援することだと考えた。何があっても、ホルス王子を信じると決めていた。

 「……不意打ちなんて、ズルイぞ」

 キスをされた実感がようやく湧いてきたのか、顔を真っ赤に染めるホルス王子。

 「嫌でしたか?」

 顔をのぞき込まれ、さらに顔が赤くなる。

 「嫌なはずがないだろう……どれほど君に触れたいと思っていたか……」

 クレアの頬に手を伸ばし、ゆっくり顔を近付ける……と、その時またノックの音が聞こえた。

 「やっぱりか。はぁ……」

 また邪魔をされたことに、大きなため息をつく。そんなホルス王子を見て、クレアはくすくすと笑っている。こんな日々が、幸せなのだと心から思っていた。



 ーコール侯爵邸ー 

 「不味い料理ね。こんなものを私に食べろというの?」

 数日ぶりに邸で夕食をとることになったセシルは、用意された食事を一口食べてナイフとフォークを置いた。

 「……すまない。なかなか腕がいい料理人が見つからないんだ」

 腕がいい料理人どころか、未だに使用人の数は増えていない。今いる使用人も、ほとんど働こうとはしない。叱りつけたら辞められてしまうと思い、何も言わずに雇い続けている。
 毎日毎日掃除をし、食事を作っているのはカーターだ。
 
 「まあ、いいわ。これからは、他で食事をすることにするから。それより、噂は聞いた?」

 邸のことなど、セシルにとってはどうでもいいようだ。せっかく作った料理にほとんど手を付けず、お茶を飲みながら話を変えた。

 「噂……?」

 「使えないわね。クレアの噂よ。クレアは無実だと、噂になっているわ」

 「なっ!? それは、どういうことだ!?」

 カーターは噂のことなど、全く知らなかった。
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