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 「ずいぶんお元気になられましたね。愛の力でしょうか」

 紅茶をカップに注ぎながら、優しい眼差しでクレアを見つめるスージー。まだベッドから降りて一人で歩けるほど回復してはいないが、スージーの手を借りてソファーまで移動することは出来るようになっていた。リハビリのつもりで、毎日数回はベッドから移動している。

 「からかうのはやめて。ホルス様には感謝しているけど、スージーにも感謝しているわ。あなたはずっと、私の家族で居てくれた。私が目を覚ますことが出来たのは、あなたがずっとそばに居てくれたからよ。意識がなくても、ホルス様の声とスージーの声が聞こえていたの。だから、早く目を覚まさなきゃって……。スージー、ありがとう。すごく感謝しているわ」

 スージーは、クレアの言葉を聞いて涙ぐむ。使用人である自分を家族だと言ってくれるクレアの力に、少しでもなれたことがどんなに幸せなことか。

 「感謝をしているのは、私の方です。クレア様にお仕えすることが出来て、私は幸せ者です」

 二人は顔を見合わせ、笑い合った。



 数日後、ドーランド公爵からの手紙が届いた。
 内容は、ほとんどの貴族が国王側につくというものだった。
 ホルス王子は国王に、夜会を開いて欲しいと伝えた。その場で、全ての決着をつけようと考えていた。国王は、すぐに招待状を国中の貴族に送った。

 決戦の日は、二ヶ月後。その日、この国は変わる。


 「クレアの無実を早く証明したいが、もう少し待っていてくれ。カーター・コール侯爵とデリード公爵、そしてデリード公爵側の貴族達をいっせいに捕まえなければならない」

 「分かっています。私の心配はいりませんから、ガツンとやっちゃってください!」

 ベッドの上で身体を起こしファイティングポーズをとるクレアの姿を見て、ホルス王子は元気をもらっていた。何年も辛い目にあい、身体に無数の傷を負い、自ら毒を飲み死にかけたというのに、彼女の笑顔は純粋であたたかかった。

 「分かった。全てが終わったら、君を僕の妻にするから、覚悟しておけ」

 妻という言葉に照れくさそうに笑うクレアを、愛おしそうに抱きしめる。何年も離れていたというのに、二人の気持ちは全く変わっていない。それどころか、前よりも想いあっている。
 触れているところが熱を帯び、次第に蕩けてしまいそうな感覚。幼い頃は、よく手を繋いでいた。だが今は、手を触れただけでも心臓が高鳴る。
 いつまでもこうして居たい……そう、二人は思っていた。

 (こんな日が来るなんて、夢みたい。ホルス様の腕に包まれていると、辛かった日々にモヤがかかって忘れていく)

 「……ホルス様こそ、覚悟してください。私は、ホルス様から離れるつもりはありませんから」

 抱きしめていた腕を緩め、クレアの顔を見つめる。そしてゆっくり顔を近付ける……と、その時ノックの音が聞こえて慌てて離れる。

 「……またか」

 また邪魔をされて、不機嫌な顔をするホルス王子。入って来たのはハリーだった。

 「ふふっ」

 あまりにも不機嫌な顔でハリーを見たホルス王子の顔がおかしかったのか、クレアは笑いを堪えきれなかった。

 「どうかされたのですか?」

 ハリーには、ホルス王子が不機嫌な理由が分からなかった。不思議そうに首を傾げていたが、答えを知ることはなかった。

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