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11、目覚め

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 「ようやく、君の無実を証明することが出来る」

 全ての準備を整えたホルス王子は、クレアに会いに城へ戻って来た。ベッドに横たわり、目を閉じたままのクレアを見つめながら、彼女のやせ細ってしまった小さな手を握る。

 ガダルガ王国の人質となった時、ホルス王子の生きる希望はクレアだった。必ず生きて国に戻り、クレアに会いたいという想いがあったからこそ、どんなに辛い目にあっても耐えることが出来た。
 離れていても、クレアとホルス王子は心が通じあっていた。
 やっと、愛するクレアに会えたというのに、彼女は眠ったまま目を覚まさない。

 「ホルス……本当に、帰って来たのだな。少し、話したいんだがいいか?」
 
 ホルス王子が戻ったことを国王から聞いた、第一王子のハンスが、神妙な面持ちで話しかけてきた。

 「兄上、ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。お話とは、どのようなことでしょう?」

 ハンス王子は、特に何かに優れているわけではないが、心優しい王子だった。クレアのことで、とても心を痛めていた。

 「今回のことで、よく分かった。王に相応しいのはお前だ。私は、クレアを助けることが出来なかった……」

 ホルス王子が帰国していたことを聞いたのも、クレアが生きていることを知ったのも、数時間前のことだった。もしも計画が失敗した時の為に、ハンス王子を巻き込まないようにとの判断からだった。
 今になって話したのは、ハンス王子を王太子として国民に認めてもらうためだ。

 「何を仰っているのですか!? 兄上は、この国の王になられるお方です! バカなことを仰るのは、おやめ下さい!」

 ホルス王子は、自分が国王になるつもりなど全くない。

 「だが……」

 心優しい王子……ハンス王子は、ずっとそう言われて来た。他に褒めるところがなかったからだ。弟は幼い頃から切れ者で、何に対しても臆することもない。あのデリード公爵でさえ、ホルス王子を恐れていた。ハンス王子はそんな弟に対して、ずっと劣等感を抱いていた。

 ホルス王子は立ち上がりハンス王子に近付くと、彼をゆっくり抱きしめた。自分のせいで、兄が劣等感を抱いていたことは知っていた。それでもいつか、兄は素晴らしい国王になると信じて疑わなかった。

 「兄上は、僕の自慢です。自信を持ってください」

 ハンス王子から離れ、笑顔でそう言うホルス王子。弟の真っ直ぐな目を見て、ハンス王子は心を決めた。

 「お前に尊敬される兄に、なろうと思う」

 出来る出来ないではなく、やると決めた瞬間だった。
 ハンス王子はホルス王子の肩をポンポンと叩くと、そのまま部屋から出て行った。それを見届けたホルス王子は、安堵していた。

 「クレア、兄上がやる気になってくれたよ。あとは、君が目を覚ますだけだ。目を覚ましたら、覚悟してくれ。二度と離れたりしない。君が嫌だと言っても、絶対に離れてやらないからな」

 クレアの頬に触れながら、愛おしそうに見つめる。
 その時、クレアの目から涙が頬をこぼれ落ちた。

 「クレ……ア……!? クレア!!」

 ホルス王子の部屋の外まで聞こえるような大きな声に、部屋の外で待っていたスージーが慌てて入って来た。

 「クレアが、反応したんだ!」

 スージーはクレアの元に駆け寄り、

 「クレア様! クレア様!!」

 名前を呼び続けた。
 ホルス王子もクレアの手を握り、名前を呼び続ける。

 「クレア!! クレア!!」

 二人の呼ぶ声に反応するように、クレアの指先がピクリと動いた。
 
 そして、ゆっくり目を開けた……

 「クレア……」

 ホルス王子の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

 「ホ………ル…ス……さ……ま……?」

 涙を流しているホルス王子の頬に、クレアは手を伸ばした。その手を、ホルス王子は握りしめる。

 「目を覚ましてくれて、ありがとう」

 ホルス王子はクレアの手の甲に、そっとキスをした。幸せそうに微笑むクレア。
 スージーは二人の様子を見ながら、口元を抑えて涙を流した。

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