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10、シルビアの裏切り
しおりを挟む邸を追い出されたシルビアを、 スージーの時と同じように、ハリーが話しかけていた。
行くあてもお金もないシルビアを、王都の外れにある一軒家へと案内し、面倒を見ていた。
「どうしてここから出てはいけないの!? メリルが、私の助けを待っているのよ!」
ハリーがいない間は、五人の兵士が見張りをしていた。ハリーが兵士にした命令は、決してシルビアを家の外に出さない事。そして、命を守る事だった。
カーターが、シルビアの命を狙うとは考えていない。デリード公爵が、シルビアを殺そうとするのではと考えたのだ。
「外に出るのは危険です! デリード公爵邸に行って、あなたに何が出来るというのですか!?」
止めに入る兵士を睨みつけるシルビア。
「だったら、貴方たちも来なさいよ! 兵士が五人もいるのだから、娘の一人くらい救いなさいよ!!」
兵士達が出て行こうとするシルビアを止めていると、
「そこまでにしてください」
怒りがこもった声が、玄関の方から聞こえて来た。足音が少しずつ近づいて来て、シルビアの前まで来て止まった。
「誰よあなた!?」
シルビアは目の前に立っている男性の顔を、ジロジロと見ている。
「僕は、あなたを許すことが出来ない。それでも、クレアの為にあなたの力を借りなくてはならない。カーター・コールのした事を、全て話して欲しい」
シルビアの前に現れたのは、ホルス王子だった。ホルス王子は怒りに拳を震わせながらも、クレアの無実を証明する為にシルビアに頭を下げた。
「あなた……まさか、ホルス王子!?」
シルビアは、瞳を輝かせながらホルス王子を見つめる。これで、娘が救えるかもしれないと思ったからだ。そして、カーターにも復讐が出来る。
シルビアは知っている事を全て、ホルス王子に話した。
「証拠を、手に入れられるか?」
「多分、大丈夫です。証拠は、邸の庭に植えてあります。使用人が少ないから、見つからずに取って来られると思います」
「そうか。それなら、ハリーが一緒に行って来てくれ」
「一つ、条件があります。私の娘、メリルを助けてください」
全ては、メリルの為。メリルを救うことが出来るなら、シルビアは何でもする。
「あなたと娘の罪は問わないと、約束しよう」
「それが聞けたら十分です」
シルビアはハリーと共に、コール侯爵邸に向かった。
コール侯爵邸には、門番さえ居なかった。使用人は一人も増えておらず、邸の掃除はほとんどカーターがやっていた。邸が散らかっているとセシルが激怒する為、サボることは許されない。
セシルは毎日他の男に会いに出かけ、夜に邸に戻って来る。妻とは名ばかりで、二人の関係は主人と使用人。もちろん、カーターが使用人だ。
「こんなに簡単に侵入出来てしまうとは……」
ハリーはシルビアの案内で、証拠が埋められている中庭に来ていた。たとえこの状況で使用人に見つかったとしても、カーターに報告が行くこともなさそうなくらい、使用人達もやる気がなかった。つまり、警戒するのはカーターだけでよさそうだ。
「この辺りに埋めたわ」
シルビアは両手で地面を掘り出した。一刻も早く証拠を見つけて、メリルを助けたいと思っているのだろう。
「こんなところに、証拠を埋めたのか?」
シルビアが掘っているのは、中庭のど真ん中。普通、何かを埋めるなら庭の端の方だろう。まさか、こんなに目立つところに埋まっているとは、誰も思わない。
「私は平民だから、いつかはあの男に捨てられるかもしれないと覚悟していた。その時は、あの男の全てを奪おうと、邸の一番目立つ場所に埋めた………………あったわ!」
シルビアは、掘った穴から証拠の書類を取り出してハリーに渡した。
目立つ場所で穴掘りまでしていたのに、誰にも見つかることなく証拠を手に入れ、邸を出ることが出来た。
二人は無事に証拠を持ち帰り、ホルス王子に渡した。その証拠とは、カーターが横領したことが記されている本物の帳簿と、ダンカン・コール侯爵夫妻が乗った馬車の車輪から外された部品だった。
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