上 下
9 / 21

9、ドーランド公爵

しおりを挟む


 ダンカン・コール侯爵が亡くなってから、怖気付いてデリード公爵側についたハイド・ドーランド公爵の邸を、ホルス王子は訪れていた。
 ドーランド公爵はデリード公爵と並ぶ大貴族なのだが、コール侯爵の二の舞になる事を恐れ、デリード公爵側についた。
 だが、同じ大貴族のドーランド公爵を、デリード公爵は快く思ってはいなかった。国王でさえ、自分より下だと思っているのだから、ドーランド公爵を見下すのは必然。その事に不満を抱いているはずだと考えたのだ。


 「ホルス王子!? 戻られていたのですか!?」
 
 門番に取り次ぎを頼むと、ドーランド公爵が自ら出迎えに来た。門番からホルス王子が来たと伝えられたのだが、信じられなかったのだ。

 「お久しぶりです、ドーランド公爵」

 帰国していることを、デリード公爵に知られるわけにはいかない。ホルス王子は、ドーランド公爵を必ず味方につけなければならなかった。

 応接室へと通され、ソファーに腰をかけると、すぐにメイドがお茶を運んで来た。歓迎をされてはいるようだ。
 
 「……申し訳ありませんでした」

 先に口を開いたのは、ドーランド公爵だ。

 「謝るということは、これからは私達の味方についてくれるということでしょうか?」

 そんなに簡単ではないことは、ホルス王子も分かっている。

 「………………」

 言い訳を考えているのか、それともこちらにつく考えがあるのかは分からないが、黙り込むドーランド公爵。

 「このまま、デリード公爵の独裁を許していたら、この国は終わりです。
 私がこうして帰国していることを、不思議に思いませんか?」

 不思議に思ったから、ドーランド公爵は自ら出迎えに出向いていた。
 ホルス王子は、ガダルガ王国へ人質として送られていた。この国コデリアとガダルガ王国は、長年争いが絶えなかった。ガダルガ王国はコデリアよりも大国で、本気で攻めてこられたら負けるのは目に見えていた。その為、誠意を見せる為にホルス王子が行くことになった。ホルス王子を人質としてガダルガ王国に送ることを決めたのは、デリード公爵だ。表向きは、信頼の証。だが両国の信頼も何もない状況で、ガダルガ王国へと行くということは、死にに行くようなものだった。
 デリード公爵だけでなく、ほとんどの貴族、そして国民までもが、ホルス王子は殺されるだろうと思っていた。それが無事に帰国したのだから、驚くのも無理はない。

 「ガダルガ王国と同盟を結びました」

 ホルス王子は、長年敵対して来たガダルガ王国との同盟を結んでいた。ガダルガの国王は、ホルス王子を信頼し、力になると明言したのだった。

 「!!? それは、本当なのですか!?」

 先程まで、オドオドしていたドーランド公爵の目に力がこもった。

 「私が無事に帰国したことが、その証明になるのではないですか?」

 全くその通りだった。人質として行ったのだから、ホルス王子を……この国を信頼しなければ、帰国することはありえない事だ。それが、同盟ということなのだろう。

 「……そうですね。という事は、ホルス王子はガダルガ王国を味方につけたのですね!」

 ガダルガ王国が味方になったということは、デリード公爵に勝ち目などない。ガダルガの国王に頼み、デリード公爵を捕らえることも可能だ。だがホルス王子は、自国のことは自分達で何とかしなければならないと考えていた。

 「はい。この国の現状を調べられていたので、少し苦戦はしましたが、この国を攻め落とす事よりも同盟を選んでくださいました」

 「それならば、他の貴族達は私が説得致しましょう!」

 ドーランド公爵の心は決まった。他の貴族達も、ホルス王子につくだろう。
 だが、クレアの件が解決した訳ではない。ホルス王子は、ドーランド公爵邸を後にすると、王都へと馬車を走らせた。


しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。

田太 優
恋愛
王子の誕生日パーティーは私を婚約者として正式に発表する場のはずだった。 しかし、事もあろうか王子は妹の嘘を信じて冤罪で私を断罪したのだ。 追い出された私は王家との関係を優先した親からも追い出される。 でも…面倒なことから解放され、私はやっと自分らしく生きられるようになった。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

処理中です...