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9、ドーランド公爵
しおりを挟むダンカン・コール侯爵が亡くなってから、怖気付いてデリード公爵側についたハイド・ドーランド公爵の邸を、ホルス王子は訪れていた。
ドーランド公爵はデリード公爵と並ぶ大貴族なのだが、コール侯爵の二の舞になる事を恐れ、デリード公爵側についた。
だが、同じ大貴族のドーランド公爵を、デリード公爵は快く思ってはいなかった。国王でさえ、自分より下だと思っているのだから、ドーランド公爵を見下すのは必然。その事に不満を抱いているはずだと考えたのだ。
「ホルス王子!? 戻られていたのですか!?」
門番に取り次ぎを頼むと、ドーランド公爵が自ら出迎えに来た。門番からホルス王子が来たと伝えられたのだが、信じられなかったのだ。
「お久しぶりです、ドーランド公爵」
帰国していることを、デリード公爵に知られるわけにはいかない。ホルス王子は、ドーランド公爵を必ず味方につけなければならなかった。
応接室へと通され、ソファーに腰をかけると、すぐにメイドがお茶を運んで来た。歓迎をされてはいるようだ。
「……申し訳ありませんでした」
先に口を開いたのは、ドーランド公爵だ。
「謝るということは、これからは私達の味方についてくれるということでしょうか?」
そんなに簡単ではないことは、ホルス王子も分かっている。
「………………」
言い訳を考えているのか、それともこちらにつく考えがあるのかは分からないが、黙り込むドーランド公爵。
「このまま、デリード公爵の独裁を許していたら、この国は終わりです。
私がこうして帰国していることを、不思議に思いませんか?」
不思議に思ったから、ドーランド公爵は自ら出迎えに出向いていた。
ホルス王子は、ガダルガ王国へ人質として送られていた。この国コデリアとガダルガ王国は、長年争いが絶えなかった。ガダルガ王国はコデリアよりも大国で、本気で攻めてこられたら負けるのは目に見えていた。その為、誠意を見せる為にホルス王子が行くことになった。ホルス王子を人質としてガダルガ王国に送ることを決めたのは、デリード公爵だ。表向きは、信頼の証。だが両国の信頼も何もない状況で、ガダルガ王国へと行くということは、死にに行くようなものだった。
デリード公爵だけでなく、ほとんどの貴族、そして国民までもが、ホルス王子は殺されるだろうと思っていた。それが無事に帰国したのだから、驚くのも無理はない。
「ガダルガ王国と同盟を結びました」
ホルス王子は、長年敵対して来たガダルガ王国との同盟を結んでいた。ガダルガの国王は、ホルス王子を信頼し、力になると明言したのだった。
「!!? それは、本当なのですか!?」
先程まで、オドオドしていたドーランド公爵の目に力がこもった。
「私が無事に帰国したことが、その証明になるのではないですか?」
全くその通りだった。人質として行ったのだから、ホルス王子を……この国を信頼しなければ、帰国することはありえない事だ。それが、同盟ということなのだろう。
「……そうですね。という事は、ホルス王子はガダルガ王国を味方につけたのですね!」
ガダルガ王国が味方になったということは、デリード公爵に勝ち目などない。ガダルガの国王に頼み、デリード公爵を捕らえることも可能だ。だがホルス王子は、自国のことは自分達で何とかしなければならないと考えていた。
「はい。この国の現状を調べられていたので、少し苦戦はしましたが、この国を攻め落とす事よりも同盟を選んでくださいました」
「それならば、他の貴族達は私が説得致しましょう!」
ドーランド公爵の心は決まった。他の貴族達も、ホルス王子につくだろう。
だが、クレアの件が解決した訳ではない。ホルス王子は、ドーランド公爵邸を後にすると、王都へと馬車を走らせた。
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