〖完結〗私が死ねばいいのですね。

8、カーターの新しい妻

 カーターが妻を追い出した翌日、デリード公爵の三女、セシルがコール侯爵邸にやって来た。

 「初めまして。セシル・デリードです。
 結婚式は必要ないわ。今日から、この邸に住むので、私の部屋を用意して」

 急にやって来て、奥様面をするセシル。

 「まさか、デリード公爵のお嬢様がいらっしゃるとは思っていませんでした。
 大変申し訳ないのですが、今は使用人不足でして、散らかっている部屋しかないのですが……」

 使用人を全員クビにした後、新たに使用人を募集したが、悪い噂ばかりのコール侯爵家に仕える使用人が見つからなかった。
 やっとの思いで見つけた使用人は三人。広い邸をたった三人では、掃除が行き届かなかった。自業自得だ。

 「はあ！？ 冗談でしょ！？
 この私に、散らかった部屋で寝ろって言うの！？
 あなたが掃除しなさいよ！！」

 セシルはかなりのワガママだった。カーターは、これからこの女と暮らさなければならないのかと思うと、深いため息が出た。

 「今のは何？ お父様のおかげで、侯爵になれただけの能無しが、私に向かってため息をついたの！？」

 父親のデリード公爵よりもたちが悪い妻を迎え、カーターは地獄を見る事になる。

 「そんなつもりは……
 すぐに部屋を片付けます！」

 侯爵になって、優雅に暮らすつもりだったのに、新しい妻に使用人のようにこき使われるなんて思ってもみなかった。
 これなら、平民として妻と娘と暮らしていた方が幸せだった。だが、その妻も娘も自分で手放してしまった。取り返しのつかない事をしてしまったのだと、カーターは思い知った。

 「さっさとしてよ。このグズ！」


 急いで部屋を片付けたカーターは、セシルを部屋へ案内し、ソファーでお茶を飲んでいた。

 「何をしてるの？ 邸中が汚いのに、呑気にお茶！？ 隅から隅まで掃除しなさいよ！
 この私に、こんな汚い所で暮らせというの！？」

 嫌なら出て行けと、カーターは心の中で思った。だが、そんな事を言える度胸などない。

 「……今すぐ掃除します」

 まさか自分よりもかなり年下の女に、使用人のようにこき使われる日々が来るとは思ってもみなかったカーター。コール侯爵の新しい妻はデリード公爵の娘だという話が広がり、高額な給料で募集しても、使用人になろうというものは全く現れなかった。


 「さっさと子供を作りましょう」

 子供を作る事が、セシルにとって最重要。二十歳も年上のカーターに抱かれたくはないが、一度でも抱かれないと他の男に抱かれる事が出来ないと思い、一度だけ我慢をする事にした。
 だが問題は、セシルではなくカーターの方だった。

 「あ……れ？ おかしいな……こんなはずでは……」

 寝室のベッドの上で、行為を始めようとした時、カーターは慌て始めた。

 「何してんのよグズ！！ さっさとしなさいよ！！」

 そんな事を言われた所で、無理なものは無理だった。
 
 「すまない。出来ないようだ……」
 
 「はあ！？ ふざけているの！？」

 「……立たないんだ……」

 カーターはセシルに欲情しなかった。

 「おまえ……死ねよ！ この私の裸を見て、何で立たないのよ！！ 
 もういいわ。役に立たないなら、おまえに用はない。この部屋から出て行って」

 大人しく寝室から出て行くカーター。
 あれだけ毎日罵倒され、こき使われていたら、セシルに欲情するはずもなかった。
 セシルは、他の男性の子を産むことにした。カーターに一度も抱かれていないのだから、コール侯爵家の跡取りには出来ない。それならば、子供が出来たらカーターを殺せばいいと考えた。