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6、ホルス王子
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スージー達使用人が、コール侯爵邸を追い出された直後……
「失礼します。コール侯爵家の使用人のスージー様ですか?」
ほかの使用人達と別れた後、スージーに男性が話しかけて来た。
「……どちら様ですか? どうして私の事を?」
スージーは不思議に思いながら、男性に問いかける。
「先程の会話を、聞かせていただきました。
私はホルス殿下の護衛をしております、ハリーと申します。ホルス殿下が、スージー様にお会いしたいそうなのですが、一緒に来ていただけませんか?」
男性は真剣な顔でスージーの返事を待っている。
「ホルス王子様が、お戻りになったのですか!?」
ホルス王子の帰りをずっと待ち望んでいたクレアはもういない。その事を考えると、スージーの胸がギュッと締め付けられた。
「先日、この国に戻られました。スージー様にお会いして、お話したいとの事です」
スージーは少し考え、
「分かりました。クレア様の事をお話しなければなりませんし、ホルス王子様の元へ連れて行ってください」
そう答えた。
「では、こちらにお乗り下さい」
そこにあったのは荷馬車だった。
「荷馬車……ですか?」
「どうか、ご理解ください。ホルス殿下が戻られたことは、城の一部の者しか知りません。ですので、スージー様を密かにお連れする必要があるのです」
普通なら怪しいと思うところだが、スージーにはハリーが嘘を言っているとは思えなかったので、素直に荷馬車に乗り込んだ。
数時間後、スージーを乗せた荷馬車は城の裏口で止まった。
「スージー様、着きました」
裏口は厨房に繋がっており、荷馬車は食材を積んでいた。荷馬車の奥からスージーが出て来て、荷馬車から降りる。
「ご案内いたします。
ここからはなるべく、言葉を発しないようにお願いします」
ハリーはスージーを降ろすと、厨房の中に入って行った。その後をスージーは無言で着いて行く。
厨房を抜け、少し歩くと部屋が見えて来た。扉の前でハリーは立ち止まり、コンコンとノックをした。
すると、中から「入りなさい」と聞こえた。
扉を開けて、中に入るハリーの後を着いて行くと……
「良く来てくれたね」
緋色の瞳に銀髪の、とても美しい男性が立っていた。
「ホルス王子様、お久しぶりです。
……クレア様をお守り出来ず、申し訳ありませんでした。ですが、クレア様は無実です!
ホルス王子様にだけは、クレア様を信じていただきたいのです」
“クレアは無実”それだけは、ホルス王子に信じて欲しかった。
「分かっている」
「…………っ…………」
ホルス王子のその一言で、スージーは今まで必死に堪えていた涙を止めることが出来なくなっていた。
「君に来てもらったのには、理由があるんだ。
会わせたい人がいる」
「会わせたい人……ですか?」
スージーには心当たりがないが、奥の部屋のベッドに誰かが横たわっているのが見えた。
ホルス王子はベッドの側に歩いて行き、横たわっている人物の手を握った。
スージーがゆっくりベッドに近づくと……
「っ!!! クレア様!? 」
ベッドに横たわっていたのは、クレアだった!
何がなんだか分からないまま、スージーはクレアに駆け寄り声をかけた。
「クレア様っ!! クレア様!!」
何度名前を呼んでも、クレアは目を覚まさないが、息はしているようだから、生きているのは間違いない。
「ホルス王子様、どうしてクレア様は目を覚まさないのですか!?」
ホルス王子に尋ねると、クレアの手を握りながら答えた。
「クレアは毒を飲んで、ずっと目を覚まさないんだ。僕が戻るのがもう少し早かったら、こんな事にはならなかった……」
ホルス王子は帰国してすぐに、クレアが地下牢に囚われている事を知り、クレアの元へと向かったが、到着した時は毒を飲んだ直後だった。急いで医師を呼び解毒はしたが、未だにクレアは目を覚まさない。
今はまだクレアが無実だと証明出来ないため、死罪にならないように死んだ事にしていた。
そして、死体の入っていない空の棺桶を罪人墓地に埋葬した。
カーターは毒をクレアに渡した事で、クレアが死んだと確信していた。デリード公爵もまた、カーターの様子から、カーターが毒を渡した事を確信していた事と、クレアを救うものなどいないと思っていた事で、“クレアは死んだ”という事を疑いもしなかった。
「でも……生きているのですね。クレア様は、生きている!」
死んだと思っていたクレアが生きていたのが、スージーには何より嬉しい事だった。
「君には、クレアの側についていて欲しい。僕は、クレアの無実を証明し、この国を本来の姿に戻すつもりだ」
本来の姿とは、デリード公爵を排除し、国王が実権を握ること。クレアの父、コール侯爵はデリード公爵を牽制してきた国王側の人間だった。
そんなコール侯爵が邪魔だったデリード公爵が、爵位を餌にカーターをそそのかし、コール侯爵を殺害させた。
コール侯爵が亡くなり、国王側にいた貴族達はデリード公爵に逆らえなくなった。そして、息子達や王妃の身を案じた国王もまた、デリード公爵に逆らえなくなった。デリード公爵は賢く聡明なホルス王子を恐れ、まだ子供だったホルス王子を他国へ人質として送った。
「クレア様は絶対に目を覚まします!
クレア様と、この国を救ってください!」
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