〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
6 / 21

6、ホルス王子

しおりを挟む


 時は少し戻る。
 スージー達使用人が、コール侯爵邸を追い出された直後……

 「失礼します。コール侯爵家の使用人のスージー様ですか?」

 ほかの使用人達と別れた後、スージーに男性が話しかけて来た。

 「……どちら様ですか? どうして私の事を?」

 スージーは不思議に思いながら、男性に問いかける。

 「先程の会話を、聞かせていただきました。
 私はホルス殿下の護衛をしております、ハリーと申します。ホルス殿下が、スージー様にお会いしたいそうなのですが、一緒に来ていただけませんか?」

 男性は真剣な顔でスージーの返事を待っている。

 「ホルス王子様が、お戻りになったのですか!?」
 
 ホルス王子の帰りをずっと待ち望んでいたクレアはもういない。その事を考えると、スージーの胸がギュッと締め付けられた。

 「先日、この国に戻られました。スージー様にお会いして、お話したいとの事です」

 スージーは少し考え、

 「分かりました。クレア様の事をお話しなければなりませんし、ホルス王子様の元へ連れて行ってください」

 そう答えた。
 
 「では、こちらにお乗り下さい」

 そこにあったのは荷馬車だった。

 「荷馬車……ですか?」

 「どうか、ご理解ください。ホルス殿下が戻られたことは、城の一部の者しか知りません。ですので、スージー様を密かにお連れする必要があるのです」

 普通なら怪しいと思うところだが、スージーにはハリーが嘘を言っているとは思えなかったので、素直に荷馬車に乗り込んだ。

 数時間後、スージーを乗せた荷馬車は城の裏口で止まった。

 「スージー様、着きました」

 裏口は厨房に繋がっており、荷馬車は食材を積んでいた。荷馬車の奥からスージーが出て来て、荷馬車から降りる。

 「ご案内いたします。
 ここからはなるべく、言葉を発しないようにお願いします」

 ハリーはスージーを降ろすと、厨房の中に入って行った。その後をスージーは無言で着いて行く。
 厨房を抜け、少し歩くと部屋が見えて来た。扉の前でハリーは立ち止まり、コンコンとノックをした。
 すると、中から「入りなさい」と聞こえた。
 扉を開けて、中に入るハリーの後を着いて行くと……

 「良く来てくれたね」

 緋色の瞳に銀髪の、とても美しい男性が立っていた。

 「ホルス王子様、お久しぶりです。
 ……クレア様をお守り出来ず、申し訳ありませんでした。ですが、クレア様は無実です!
 ホルス王子様にだけは、クレア様を信じていただきたいのです」

 “クレアは無実”それだけは、ホルス王子に信じて欲しかった。

 「分かっている」

 「…………っ…………」

 ホルス王子のその一言で、スージーは今まで必死に堪えていた涙を止めることが出来なくなっていた。

 「君に来てもらったのには、理由があるんだ。
 会わせたい人がいる」  

 「会わせたい人……ですか?」

 スージーには心当たりがないが、奥の部屋のベッドに誰かが横たわっているのが見えた。
 ホルス王子はベッドの側に歩いて行き、横たわっている人物の手を握った。
 スージーがゆっくりベッドに近づくと……

 「っ!!!  クレア様!? 」

 ベッドに横たわっていたのは、クレアだった!
 何がなんだか分からないまま、スージーはクレアに駆け寄り声をかけた。

 「クレア様っ!! クレア様!!」

 何度名前を呼んでも、クレアは目を覚まさないが、息はしているようだから、生きているのは間違いない。

 「ホルス王子様、どうしてクレア様は目を覚まさないのですか!?」

 ホルス王子に尋ねると、クレアの手を握りながら答えた。

 「クレアは毒を飲んで、ずっと目を覚まさないんだ。僕が戻るのがもう少し早かったら、こんな事にはならなかった……」

 ホルス王子は帰国してすぐに、クレアが地下牢に囚われている事を知り、クレアの元へと向かったが、到着した時は毒を飲んだ直後だった。急いで医師を呼び解毒はしたが、未だにクレアは目を覚まさない。
 今はまだクレアが無実だと証明出来ないため、死罪にならないように死んだ事にしていた。
 そして、死体の入っていない空の棺桶を罪人墓地に埋葬した。
 カーターは毒をクレアに渡した事で、クレアが死んだと確信していた。デリード公爵もまた、カーターの様子から、カーターが毒を渡した事を確信していた事と、クレアを救うものなどいないと思っていた事で、“クレアは死んだ”という事を疑いもしなかった。
 
 「でも……生きているのですね。クレア様は、生きている!」

 死んだと思っていたクレアが生きていたのが、スージーには何より嬉しい事だった。

 「君には、クレアの側についていて欲しい。僕は、クレアの無実を証明し、この国を本来の姿に戻すつもりだ」

 本来の姿とは、デリード公爵を排除し、国王が実権を握ること。クレアの父、コール侯爵はデリード公爵を牽制してきた国王側の人間だった。
 そんなコール侯爵が邪魔だったデリード公爵が、爵位を餌にカーターをそそのかし、コール侯爵を殺害させた。
 コール侯爵が亡くなり、国王側にいた貴族達はデリード公爵に逆らえなくなった。そして、息子達や王妃の身を案じた国王もまた、デリード公爵に逆らえなくなった。デリード公爵は賢く聡明なホルス王子を恐れ、まだ子供だったホルス王子を他国へ人質として送った。

 「クレア様は絶対に目を覚まします! 
 クレア様と、この国を救ってください!」

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

赤の他人から婚約破棄を迫られた話~恥ずかしがり屋の王子殿下は、溺愛していることを隠しておきたい~

キョウキョウ
恋愛
ある日突然、無関係な人から婚約を破棄しろと迫られた。 私は、冷静に対処しながら彼が助けに来てくれるのを待った。

なんでも欲しがる妹が、姉の婚約者を奪おうとした結果

柚木ゆず
恋愛
 あたしの姉さん・サーラは、昔から物分かりが悪くて意地悪な人。小さな頃はヌイグルミを欲しいってねだっても譲らないし、今は婚約者のフェリックス様が欲しいと頼んでも言うことを聞かないの。  だからあたしは魅了の魔法をかけて、サーラ姉さんから婚約者を奪うことにした。  ふふふっ。魅了は大成功で、今のフェリックス様はあたしに夢中。もうすぐ、姉さんはポイッと捨てられちゃう――あれ……?  フェリックス様の、様子がヘン……?

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処理中です...