〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。

藍川みいな

文字の大きさ
9 / 37

9、初級魔法

しおりを挟む


 冒険者ギルドがある建物に入ると、中は冒険者達で賑わっていた。自分の捜索依頼が出ている事もあり、少し緊張する。ジュードに変えてもらった髪色はそのままだけど、念の為、フードを被って顔を隠した。
 
 「リバイの冒険者ギルドへ、ようこそ! どのような用件でしょうか?」

 私より少し年上の受付のお姉さんが、元気よく話しかけて来た。そのままカウンターへと行き、受付のお姉さんに、ギルドに登録したいと告げた。

 「ギルドに加入するには、レベルの審査を受けて頂く必要があります。そのランクに応じて、受けられる依頼が決まります。よろしいでしょうか?」

 お姉さんは契約書を取り出し、渡して来た。
 
 「分かりました、お願いします」

 「では、契約書の右上にある印に、魔力を込めて頂けますか?」

 右上には、丸い赤色の印があった。そこに人差し指を置き、魔力を込めた。
 これで、魔力が強いと判断されたらどうしよう……
 聖女だって、バレたりしないかな……
 
 不安でいっぱいになっていると、

 「えっと、Fランクですね」

 ……Fランクは、1番下のランク。もしかしたら、四属性魔法しか判別出来ないのかもしれない。この紙は、使える魔法でレベルを判断するらしい。聖女自体が貴重な存在で、国に仕えるのが当たり前になっているから、まさか聖女が冒険者になるとは思っていないのかもしれない。何にしても、助かった。
 
 「気を落とす事はありませんよ! 例え、最下位ランクでも、依頼を沢山こなせばランクは上がりますので、最下位ランクから脱出出来ます! 最下位ランクより上の下位ランク目指して頑張って下さいね!」

 悪気はないんだろうけど、なんか腹が立つ。
 結局、四属性魔法を教えてもらってなかったから、初級魔法すら使えない。最下位なのも、当然だった。
 
 「では、ここにサインをお願いします」

 契約書に名前を書くと、すぐに受理された。ギルドカードを受け取り、依頼が張り出されている掲示板の前で止まった。
 掲示板の1番目立つ所に、私の捜索依頼が張られていた。依頼が出されたのは、私が邸を出る少し前の事だった。つまり、私が邸を出ると分かっていた事になる。依頼料は……金貨300枚!? (銅貨3枚で食事1回分。銀貨1枚で宿屋に3日宿泊出来る。金貨1枚で宿屋に1ヵ月宿泊出来る)
 かなりの高額報酬。お父様が私にそんな大金を使うはずはない。エヴァン様も、私が聖女だとは知らないのだから違う。
 それなら、いったい誰が依頼を出したのか……全く検討もつかないけど、私の行動を先読みされていたのは気味が悪い。
 
 考えるのはやめやめ!
 とりあえず、初級魔法位は使えるようになりたい!

 というわけで、ナージルダルの近くの平原へとやって来た。目的は、魔法を練習する為だ。

 「ティア、今度こそ初級魔法を教えてもらうわよ!」

 やる気満々な私を、レニーはポカンとした顔で見ている。

 「お姉ちゃんは凄く強いのに、初級魔法を教えてもらうの?」

 「お姉ちゃんの魔法はね、あまり人に知られるわけにはいかないの。だから、四属性魔法を使えるようにならなくちゃいけないんだ」

 「分かった! お姉ちゃんは、もっと強くならなくちゃいけないんだね! 」

 全然分かってない……
 レニーには、少し難しいか。

 「レニーは、魔法を使えるの?」

 「使えるよ! 見てて! 
 偉大なる火の精霊よ、我に力を与えたまえ!
ファイヤーボール!」

 レニーは両手を前に出し、詠唱をした。すると、両手の前に炎が出現した。その炎はゆっくりぷかぷかと真っ直ぐ飛んで行き、1メートル先で消えた。

 「レニー、凄い! レニーは、火属性なんだね」

 「えへへ」

 レニーは得意気な笑みを見せた。

 「レニーよ、よく頑張ったな。褒めてやろう!」

 ティアはシッポをブンブン振りながら、レニーを褒めた。言葉と態度が合ってない……

 「詠唱か。私も、唱えてみようかな」

 レニーのやったように、両手を前に出し、

 「偉大なる火の精霊よ、我に力を与えたまえ! ファイヤーボール!」

 そう唱えた瞬間、両手の前に巨大な炎が出現した! そしてその炎は、物凄い勢いで数百メートル先まで地面をえぐりながら飛んで行き、大きな爆音と共に草原に巨大な穴を開けた!!

 「え……これ、初級魔法……だよね? どうしよう……逃げる?」

 ティアもレニーも、口を開けたまま固まっている。

 「さすが、サンドラ様です! 初級魔法が、これほどの威力とは、我は感動しました!」
 「お姉ちゃん……すごい……」
 
 あまりの威力に、自分でも驚いている。光魔法は制御出来るのに、何でこうなったの?

 「やり過ぎだな……」

 声がした方を振り返ると、ジュードが立っていた。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

妹に婚約者を奪われた上に断罪されていたのですが、それが公爵様からの溺愛と逆転劇の始まりでした

水上
恋愛
濡れ衣を着せられ婚約破棄を宣言された裁縫好きの地味令嬢ソフィア。 絶望する彼女を救ったのは、偏屈で有名な公爵のアレックスだった。 「君の嘘は、安物のレースのように穴だらけだね」 彼は圧倒的な知識と論理で、ソフィアを陥れた悪役たちの嘘を次々と暴いていく。 これが、彼からの溺愛と逆転劇の始まりだった……。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。 しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。 ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。 色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。 だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。 彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。 そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。 しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

処理中です...