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18、夜会
しおりを挟むやっと、この日が訪れた。
あの初夜の日に、私の心は大きく抉られ、息をするのも苦しかったことを思い出す。
王妃様が用意してくださった、真っ白なドレスに身を包み、モニカにメイクをしてもらう。いつもは薄めのメイクが、今日は華やかだ。鏡に映る自分を見ながら、辛かった日々を思い出す。
ケイトが王宮に来てから、毎日が死ぬほど苦しかった。愛する人が親友とキスしているところを見せられ、どれほど傷付いたか……
全てはもう、過去のことだ。
私は今日、ルーファス殿下の妻ではなくなり、ジェンセン様の妻になる。
夜会がもうすぐ始まる。
ルーファス殿下は、今日の夜会はもう一度グラインへと留学するジェンセン様の、お別れパーティーだと思っている。
今日も機嫌が良かった殿下は、国王様と共に先に会場へと入っている。
「アシュリー様、ようやく自由になれるのですね」
メイクをしながら、鏡の中でモニカは私の目を見つめてそう言った。
「そうね。モニカが来てくれなかったら、今まで耐えられなかったかもしれない。感謝しているわ」
王妃様がモニカを呼んでくれなかったら、今こうしていられたかは分からない。
「今日は旦那様も奥様も、いらっしゃるのですよね? めいっぱい綺麗にしましょう!」
両親にも、ようやく本当のことを話すことが出来る。
今日から私は、新しい人生を歩むことになる。
会場へ行くと、すでに夜会は始まっていた。ドレス姿をルーファス殿下に見られないように、私はわざと遅れてきたのだ。
国王様が挨拶をした後、ルーファス殿下とジェンセン様がステージの上に呼ばれることになっている。それまで、私は入口で待っている。
中から明るい音楽が流れてきて、楽しそうに談笑する声が聞こえる。
少しだけ、足が震えた。ルーファス殿下との、結婚式を思い出してしまった。あの時は幸せいっぱいだったのに、その夜地獄へと突き落とされた。臆病な自分に戻りたくなんかないのに、どうしても思い出してしまう……
その時、右手が優しく包まれるように握られた。
隣を見上げると、ジェンセン様が優しい眼差しで私を見ていた。
「どうして……?」
ジェンセン様は、すでに会場に入っているのだと思っていた。
「あなたが不安な時は、いつでもそばに居ます。だから、安心してください」
いつの間にか、震えはおさまっていた。
ジェンセン様と一緒にいると、なんだか安心する。
「父上の挨拶が、終わったようですね。先に行きます」
私を安心させる為に、会場を抜け出して来てくれた。そんなジェンセン様の優しさが、すごく嬉しかった。
「ありがとうございます、もう大丈夫です」
握っていた手が離され、寂しいと思ってしまった。会場へ入って行くジェンセン様の後ろ姿を見送りながら、気合いを入れる。
「頑張れ、私!」
「頑張ってください、アシュリー様!」
「負けないでください!」
モニカもナンシーも、応援してくれた。
国王様が私の名を呼んだところで、
「行こう!」
会場の扉が開かれる。
眩しいくらいの光り輝くシャンデリアの光に照らされ、堂々と歩き出す。
私の姿を見たルーファス殿下は、自分が贈ったドレスではないことに気付き、顔をしかめている。そんな殿下よりも、私の瞳にはジェンセン様の笑顔が映っていた。
私がステージに上がると、国王様が話し始める。
「今日集まってもらったのは、重大な発表をする為だ。王太子であるルーファスと、王太子妃であるアシュリーは一度も夫婦としての行為が認められない。よって、二人の婚姻を無効とする!」
思いもよらなかった重大発表に、会場に居る貴族達は慌て始める。
ルーファス殿下も、何が起こっているのか分からずに国王様と私を交互に見ながら慌てふためいている。
「ルーファス、お前には失望した。この時をもってルーファスを廃太子とし、ジェンセンを王太子とする!」
私との婚姻が無効になったからか、ルーファス殿下が廃太子となったことには驚いてはいるものの、異を唱える者は誰一人いない。ルーファス殿下を除いては……
「父上! それは、どういうことなのですか!? アシュリーとは愛し合っています! 僕はアシュリーなしでは生きていけません!」
耳を疑った。ルーファス殿下は、廃太子となったことよりも、私との婚姻無効に対して抗議している。
「アシュリー、そうだよな? 僕を許してくれたではないか! これから僕達は、二人で幸せになるんだ!」
こんなに取り乱している殿下は、初めて見た。
近付いて来た殿下から、私を庇うように前に立つジェンセン様。
「ルーファス、悪いがアシュリーは私の妻となる。お前に、彼女は渡さない!」
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