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15、ジェンセンの想い
しおりを挟むあれから一週間が過ぎた。
私に護衛がついたことを、ルーファス殿下が不審がっていたこと以外は、拍子抜けするほど平穏な日々だった。
ジェンセン様を、毎日噴水の前でお見かけした。王妃様にそのことを聞いてみると、ルーファス殿下が噴水を見るのが好きだったそうだ。
ルーファス殿下を追いつめることになってしまい、心を痛めているのかもしれない。
「今日も、噴水の前にいるのですね」
噴水を見つめているジェンセン様の後ろ姿は、いつも寂しげだ。
「お話してくるわ」
いつも通りモニカには待っていてもらい、ジェンセン様に話しかける。
「今日は、良いお天気ですね」
噴水の前でお話するのが、日課になっていた。他愛のない話くらいしか出来ないけれど、少しでもジェンセン様を元気付けられたらと思っていた。
「そうですね。昨日は曇っていましたから、天気がいいと気持ちがいいです」
何気ない会話をしながら、噴水の流れる水を見つめる。ジェンセン様と居ると、心が穏やかになる。
「お聞きしても、よろしいでしょうか?」
夜会まであと一週間に迫り、怖くて聞けなかったことを聞いてみることにした。
「はい。何でも聞いてください」
「ジェンセン様は、これから私達がすることをどのように思っておいでですか?」
ジェンセン様は、ルーファス殿下を愛している。大切な弟だと思っていることが分かっているから、聞くのが怖かった。その大切な弟の妻である私を、ジェンセン様は妻にしなければならない。
「少し、昔話にお付き合いください。
十歳の時、兵士と共に戦場へ向かう一人の少女を見ました。まだ幼いその少女は、危険な戦場で兵士達の治療をする為に同行していたのです。私には、その少女が天使に見えました。その日から、その少女のことばかり考えるようになり、いつの間にか恋に落ちていました。ですが次に会えた時には、少女は弟の婚約者になっていました。
ルーファスは、あなたを傷付け、苦しめました。二人は幸せなのだと思っていたのに、父からの手紙でそれが違っていたのだと知った時、初めて弟に怒りを抱きました。この国の為、そして大切な人を守る為なら、私は何でもします」
ジェンセン様の話を聞きながら、ルーファス殿下の言ったことを思い出していた。『まだアシュリーが好きなのですか』あの言葉は、ジェンセン様の気持ちを知っていたから出た言葉だ。
私が聖女だから近付いたのだと思っていたけれど、本当は違ったのかもしれない。ジェンセン様を苦しめる為に、殿下は私に近付いた……
ジェンセン様の気持ちを知り、なんて答えたらいいのか分からなかった。私は知らないうちに、ジェンセン様を傷付けていた。それなのに彼は、ずっと私の幸せを願ってくれていた。
申し訳ないと思いながらも、私を想っていてくれた人がいたことに嬉しさが込み上げてきた。
「ジェンセン様……」
「何も言わないでください。困らせるつもりはありませんでした」
今にも泣きそうなくらい切ない顔をしているのに、私には何も言わせてくれない。そうは言っても、正直何を言ったらいいのか分からなかった。
部屋に戻ると、ナンシーが慌てて駆け寄って来た。
「アシュリー様、どちらに行かれていたのですか!? ご実家から、お手紙が届いています!」
「手紙?」
実家から手紙が来るのは、月に一度だった。つい先日来たばかりなのに、早すぎる。何かあったのかと、急いで手紙を読んでみる。
「大変……! ナンシー、外出の準備をしておいて! 王妃様に、外出の許可をいただいて来るわ!」
手紙には、弟のライトがケガをして意識が戻らないから、すぐに来て欲しいと書いてあった。ライトはまだ五歳。早く行ってあげないと……
王妃様に許可をいただき、馬車に乗り込む。同行するのは、モニカと護衛が五人。ナンシーには、王宮に残ってもらった。
実家までは、馬車で五時間ほど。馬車に揺られながら、ライトのことで頭がいっぱいになっていた。
王宮を出てから、三時間が経った。
「アシュリー様、困ったことになりました」
護衛の一人が乗っている馬を馬車に近付け、そう言った後すぐに馬車から離れた。そう言った意味は、すぐに分かった。
後ろからすごい勢いで馬に乗った兵が近付いてきて、私達が乗っている馬車を止めた。その兵は、ルーファス殿下の護衛だった。
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