11 / 15
11、異世界でキャバ嬢
しおりを挟む陛下はきっと死なない。そう信じるしかない。
会わせてもらえたら、あの力で治すことが出来るかもしれないのに、それも叶わない。
それなら、王妃様がしたことを調べるしかない。
王妃様は、勘違いしている。今も、使用人達が自分の思い通りになると思っている。
私はあのパーティーの日から、少しずつ使用人達の信用を得てきた。命令しかしない、傲慢な王妃様につくものなんて誰もいない。
使用人達の話によると、最近調理場に配属されたキャシーという使用人が怪しいらしい。その使用人は、マクギース公爵家で使用人をしていた。キャシーを、調理場に配属したのは王妃様だ。
調べれば簡単に分かるようなお粗末さ、自分の環境が恵まれていただけのお嬢様らしい。
キャシーを、陛下の護衛に捕らえてもらった。
今陛下の寝室の前に居るのは、王妃様がマクギース公爵に頼んで用意させた私兵だ。毒が混入されたのは王宮の中だからと、全ての使用人や兵は信用出来ないという理由で外部から私兵を呼んだ。
陛下の護衛では、私を陛下に会わせると思ったのだろう。
陛下が昏睡状態の今、王妃様が全権を握っている。つまり、王妃様のしたいように出来るということだ。
陛下の意識がないまま、調べたことを公表したとしても、もみ消されてしまうだろう。
こちらにはキャシーがいるけど、今報告なんてしたらキャシーが消される末路しか見えない。陛下が目を覚ますのを、待つしかない。
そう思っていたけど、一週間経っても陛下は意識を取り戻さなかった。
あまりやりたくはなかったけど、仕方がない。
「エリー、お酒を用意してくれない? とても強いお酒をお願い」
お酒を持って、エリーと一緒に陛下の寝室に向かう。見張りの兵は二人。二人とも酔わせて、その隙に部屋の中に入るのが目的だ。
まさか、この世界でもキャバ嬢をやることになるとは思わなかった。
「お疲れ様です。陛下のことを守ってくださり、いつもありがとうございます。お礼にと思い、お酒と軽い食事をご用意したので、いかがですか?」
食事は、料理長にサンドイッチを用意してもらった。
「申し訳ありませんが、仕事中ですので」
そう言われるのは、分かっていた。
兵に近付き、上目遣いで見ながらお酒を差し出す。
「お二人の為に用意したのですから、少しだけでもいかがですか? 実は、お二人と一緒に飲みたくて、私の分も用意して来ちゃいました。ダメ……ですか?」
目をうるうるさせながら、兵士の目を見つめる。大抵の男は、目を見つめながら話せば落ちる。
「そ……うですね、少しだけなら」
一人は落ちた。
「嬉しいです! どうぞ」
兵士にグラスに入ったお酒を渡すと、グイッと飲み干した。この兵士がお酒にかなり強くなければ、一杯で十分酔う。あともう一人……
「こちらの兵士さんも、お付き合いいただけますか?」
そう言いながら、肩に触れる。
さり気ないボディータッチは、かなり有効なはず。
「しかし……」
頬をそめながら、私をチラリと見たからもう少しだ。
「では、サンドイッチはいかがですか? アーン……」
サンドイッチをゆっくり兵士の口元に持って行き、目を見つめながら口を少し開くと、兵士も口を開けてパクッと一口食べた。
「美味し?」
「……美味しいです」
「喉につまってしまうから、これもどうぞ」
そう言ってお酒を渡した。兵士は素直に受け取り、グイッと飲み干した。
この世界の男性は、案外簡単だった。
そのままお酒を飲み続け、二人は酔いつぶれた。
その様子を、エリーは目を見開いて見ていた。
「……アイシャ様? 今のは、何だったのですか? あまりにも手際よく、兵達にお酒を飲ませていたので、びっくりし過ぎて動けませんでした」
それが前世の仕事だったから……なんて、言えない。
「そんなことはいいから、早く中に入りましょう」
説明出来ないなら、誤魔化すのが一番。
ドアを開けて中に入ると、ベッドの上に横たわっている陛下の姿が見えた。顔色は真っ青で、苦しそうに顔をしかめながら眠っている。
「陛下……」
陛下の手を握ってみる。
あの力がどうしたら使えるのか分からない……そう思っていたけど、握りしめた陛下の手が温かくなるのを感じた。
顔色も戻り、苦しそうだった表情も穏やかになった。
良かった、もう大丈夫。
「エリー、戻るよ」
急いで寝室から出て、自室へと戻る。
これで、陛下は目を覚ますはずだ。
王妃様、覚悟してくださいね。あんなに優しい陛下を苦しめた罪は、重いですから!
123
お気に入りに追加
3,288
あなたにおすすめの小説
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです
シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」
卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?
娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。
しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。
婚約破棄されている令嬢のお母様視点。
サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。
過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。
素直になるのが遅すぎた
gacchi
恋愛
王女はいらだっていた。幼馴染の公爵令息シャルルに。婚約者の子爵令嬢ローズマリーを侮辱し続けておきながら、実は大好きだとぬかす大馬鹿に。いい加減にしないと後悔するわよ、そう何度言っただろう。その忠告を聞かなかったことで、シャルルは後悔し続けることになる。
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる