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11、異世界でキャバ嬢

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 陛下はきっと死なない。そう信じるしかない。
 会わせてもらえたら、あの力で治すことが出来るかもしれないのに、それも叶わない。
 それなら、王妃様がしたことを調べるしかない。

 王妃様は、勘違いしている。今も、使用人達が自分の思い通りになると思っている。
 私はあのパーティーの日から、少しずつ使用人達の信用を得てきた。命令しかしない、傲慢な王妃様につくものなんて誰もいない。

 使用人達の話によると、最近調理場に配属されたキャシーという使用人が怪しいらしい。その使用人は、マクギース公爵家で使用人をしていた。キャシーを、調理場に配属したのは王妃様だ。
 調べれば簡単に分かるようなお粗末さ、自分の環境が恵まれていただけのお嬢様らしい。
 キャシーを、陛下の護衛に捕らえてもらった。
 今陛下の寝室の前に居るのは、王妃様がマクギース公爵に頼んで用意させた私兵だ。毒が混入されたのは王宮の中だからと、全ての使用人や兵は信用出来ないという理由で外部から私兵を呼んだ。
 陛下の護衛では、私を陛下に会わせると思ったのだろう。
 陛下が昏睡状態の今、王妃様が全権を握っている。つまり、王妃様のしたいように出来るということだ。

 陛下の意識がないまま、調べたことを公表したとしても、もみ消されてしまうだろう。
 こちらにはキャシーがいるけど、今報告なんてしたらキャシーが消される末路しか見えない。陛下が目を覚ますのを、待つしかない。

 そう思っていたけど、一週間経っても陛下は意識を取り戻さなかった。

 あまりやりたくはなかったけど、仕方がない。

 「エリー、お酒を用意してくれない? とても強いお酒をお願い」

 お酒を持って、エリーと一緒に陛下の寝室に向かう。見張りの兵は二人。二人とも酔わせて、その隙に部屋の中に入るのが目的だ。
 まさか、この世界でもキャバ嬢をやることになるとは思わなかった。

 「お疲れ様です。陛下のことを守ってくださり、いつもありがとうございます。お礼にと思い、お酒と軽い食事をご用意したので、いかがですか?」

 食事は、料理長にサンドイッチを用意してもらった。

 「申し訳ありませんが、仕事中ですので」

 そう言われるのは、分かっていた。
 兵に近付き、上目遣いで見ながらお酒を差し出す。

 「お二人の為に用意したのですから、少しだけでもいかがですか? 実は、お二人と一緒に飲みたくて、私の分も用意して来ちゃいました。ダメ……ですか?」

 目をうるうるさせながら、兵士の目を見つめる。大抵の男は、目を見つめながら話せば落ちる。

 「そ……うですね、少しだけなら」

 一人は落ちた。

 「嬉しいです! どうぞ」

 兵士にグラスに入ったお酒を渡すと、グイッと飲み干した。この兵士がお酒にかなり強くなければ、一杯で十分酔う。あともう一人……

 「こちらの兵士さんも、お付き合いいただけますか?」

 そう言いながら、肩に触れる。
 さり気ないボディータッチは、かなり有効なはず。

 「しかし……」

 頬をそめながら、私をチラリと見たからもう少しだ。

 「では、サンドイッチはいかがですか? アーン……」

 サンドイッチをゆっくり兵士の口元に持って行き、目を見つめながら口を少し開くと、兵士も口を開けてパクッと一口食べた。

 「美味し?」

 「……美味しいです」
 
 「喉につまってしまうから、これもどうぞ」

 そう言ってお酒を渡した。兵士は素直に受け取り、グイッと飲み干した。
 この世界の男性は、案外簡単だった。

 そのままお酒を飲み続け、二人は酔いつぶれた。
 その様子を、エリーは目を見開いて見ていた。

 「……アイシャ様? 今のは、何だったのですか? あまりにも手際よく、兵達にお酒を飲ませていたので、びっくりし過ぎて動けませんでした」
 
 それが前世の仕事だったから……なんて、言えない。

 「そんなことはいいから、早く中に入りましょう」

 説明出来ないなら、誤魔化すのが一番。

 ドアを開けて中に入ると、ベッドの上に横たわっている陛下の姿が見えた。顔色は真っ青で、苦しそうに顔をしかめながら眠っている。
 
 「陛下……」

 陛下の手を握ってみる。
 あの力がどうしたら使えるのか分からない……そう思っていたけど、握りしめた陛下の手が温かくなるのを感じた。
 顔色も戻り、苦しそうだった表情も穏やかになった。

 良かった、もう大丈夫。

 「エリー、戻るよ」

 急いで寝室から出て、自室へと戻る。
 これで、陛下は目を覚ますはずだ。
 王妃様、覚悟してくださいね。あんなに優しい陛下を苦しめた罪は、重いですから!

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